パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
114 / 377
第六部:救済か破滅か

その135 蒼希

しおりを挟む


 ベルダー、フレーレ、セイラとバステトが転移した先はベルダーの故郷だという蒼希ソウキの国。周りを海に囲まれた島国である。

 「一瞬で到着するのは便利ですねー」

 「転移の魔法ってトランジションって言うんですけど、一度行った所ならだいたいどこでもいける便利な移動手段なんですよね。これを相互だけとはいえ転移陣にしたディクラインさんはすごいですよ」

 転移陣が設置されている洞穴を出て、背伸びをするセイラ。天気が良く、ピクニックでもしたら最高だと推測される。フレーレが後から出てきたところでセイラに声をかけた。

 「あ、セイラさん、敬語じゃなくていいですよ?」

 「そう? ならフレーレって呼ぶね!」

 「じゃあわたしもセイラでいいですか?」

 「勿論! ふふ、お兄ちゃん達以外と行動するのは初めてだから新鮮ねー」

 <のんきだにゃー。世界がどうにかなるかもしれないのに……>

 フレーレとセイラが友達認定をしていると、バステトがてくてくと歩きながら出てくる。
 
 「にゃーん♪」

 「あら猫ちゃん」

 フレーレが抱っこして胸元におさめると、嬉しそうに頬ずりをする。

 「そういえば名前は無いの?」

 「ええ、ビューリックからすぐに魔王城へ行ったから、その暇もなかったんですよ」

 「決めちゃおうよ! フレーレに懐いているみたいだし」

 「そうですねー。ルーナはレジナ達を連れているからわたしが飼ってもいいかも。うーん……」

 そうな和気藹々としながら、前を歩く女性二人(と猫)を見ながらベルダーも転移陣の洞穴を隠す。

 「(これでここは良し……最悪あの賢者が転移を使えると考えれば心配する必要ない……ただ気になるのは……)」

 ベルダーもゆっくりと歩き出すと、前を歩く二人に手を振られていた。

 「ベルダーさん、遅いですよ! 町がどこにあるかはベルダーさんしか知らないんですからね!」

 「ルーナをビューリックに連れて行った罪は消えてませんからね? 早くしないと今日のご飯代はあなたの奢りですよ?」

 セイラとフレーレが容赦ない言葉を投げかけ、ベルダーが頭を抱えていた。

 「(何故俺がこの二人と行動を共にせねばならんのだ!?)」

 <諦めるにゃ、男が少ないからこうなるのは結果でしかないにゃ>

 いつの間にか足元にいたバステトに心を見透かされ、ドキっとするベルダー。
 目を細めてバステトを見ながら、呟く。

 「……まあ、城下町に行かなければ問題は無いか……封印の場所はお前が頼りだ」

 <任せておくにゃ。すみやかに作戦を完了させるのにゃ>

 胸をドンと叩くバステトに多少安堵して二人に追いつくのだった。




 ---------------------------------------------------
 



 しばらく歩いていくと変わった建物をした町へと到着する一行。中を見ると着ている服もエクセレティコやビューリックとは違っている。
  
 「ここがベッポウの町だ。ここで一旦情報収集するぞ」

 ベルダーが町の入り口に居る門番へ通行料を払っていると、フレーレが町の中を見て声をあげる。

 「珍しい服ですねー」

 「嬢ちゃんたち、この国は始めてかい? この国は島国だから他の地域と違う文化があるんだぜ。 この『蒼希ソウキ服』もその一つだ。他にはな……」

 門番が得意げに鼻下をさすりながら言う。心なしかフレーレとセイラを見て鼻の下が伸びている感じもする。
 他にも話そうとしていたが、ベルダーが先へ進むよう促してきた。

 「……いくぞ、まずはギルドだ」

 「あ、もうちょっとお話を……」

 セイラが食いついていたが、どんどん進んでいくベルダーに追いつくため門を後にした。

 <急ぎすぎじゃないかにゃ?>

 「俺はなるべくこの国にはいたくないんだよ。だから早く用事を済ませて戻る必要がある」

 「何があったんですか?」

 「……」

 フレーレの質問には答えず、真っ直ぐにギルドへと向かう。セイラと顔を見合わせて肩をすくめるフレーレがため息をついた。

 「(何かやらかして逃げたのかしらね?)」

 「(有り得ますよねーあの人ニンジャみたいですし、師匠の娘さんと付き合ったあげく、捨てて逃げてきたとか?)」

 「(きゃー! だったら最悪! それは居られないわね)」

 「聞こえてるぞ!?」




 ---------------------------------------------------




 「ベッポウのギルドへようこそでござる!」

  ギルドに入ると蒼希服の女性がいい笑顔で出迎えてくれた。ベルダーはバステトと何やら話した後、その女性へと話しかける。

 「……最近、この辺りで遺跡のようなものやダンジョンが現れたりしなかったか?」

 女神の封印の事を聞くベルダー。
 
 エクソリアがいてわざわざ聞く必要があるのか? という疑問があるが、封印を施したのは100年も前の話なので地形などが変わっているらしく正確な位置は把握できていないらしい。チェイシャのいたダンジョンのように、隠れていたダンジョンが出現したり、誰かが手を加えた可能性も捨てきれない。
   
 く近くまで行けば気配で分かるんだけどにゃー>

 と、バステトが言うので何か変わった事がなかったか探りを入れているということだ。

 「そうですねぇ……」

 女性が帳簿のようなものをパラパラとめくりながら呟いていると、後ろから声がかかる。

 「オデの町から少し東へ行ったところに、変なダンジョンが現れたって話があるぞ」

  中年の様相をしている男がセイラに近づいてそんなことを言っていた。肩に手を回そうとするのを払いのけながら男と距離を取るセイラ。

 「そうなんですね。ベルダーさん、オデの町だそうですよ」

 「……う、うむ……」

 <(どうしたのにゃ、遠いのかにゃ?)>

 「そうじゃない……」

 バステトとベルダーがこそこそと話していると、男がセイラとフレーレに下卑た笑い声をあげながら、迫っていた。

 「貴重な情報を与えたんだ、一晩俺と過ごしてくれよ? な? そっちの男の彼女出ないほうはどっちなんだ? ん?」

 「いえ、ベルダーさんはわたし達の彼氏ではありませんし、あなたとお付き合いする事もありません! 情報はもらいましたが、勝手に話しただけですよね? お礼も何も無いと思いますけど……?」

 顎に指を当てて首を傾げるセイラ。そのしぐさは可愛いが、それを見た男が顔を真っ赤にして怒り始めた。

 「大人しくしてりゃあ……」

 男が腰の剣に手をかけ、ギルド内に緊張がはしる。それを見た女性がピー! と笛をふいて男に叫んでいた

 「……! ダメでござるぞ、武器を抜いて手に持ったら犯罪者としてしょっぴいてもらうでござる!」

 それでも男は剣を抜こうとしたとき、スッとベルダーが男の前に現れて抜こうとした剣を押さえていた。そして男の目を見ながら告げる。

 「……その二人は友人から預かっていてな、何かあると俺が怒られるんだ。情報提供は感謝する……これでいいか?」

 困惑する男の手に金貨を数枚握らせ、男がその手を見ると満足したのか裏返った声で叫んだ。

 「わ、わかりゃあいいんだよ! へへ、お前ら行くぞ」

 男がギルドを出ると、何人かゴロツキのような冒険者が後をついていった。去り際にセイラとフレーレをジロジロと見ながら。

 「……あんなのが冒険者なのか?」

 「そうですね。この国独自の戦士であるサムライは町の警護が主な仕事ですから、外の魔物退治なんかは冒険者頼りなんですよー。今みたいな外国人も腕は良くても素行が……というハズレ……おっと聞かなかった事にしてください……」

 女性はそそくさと、裏に引っ込み別の人と交代し、ギルドもホッとした感じでいつもの様子に戻ったようだった。

 「……直接向かうとしよう。野宿の準備をして出発だ」

 「え!? オデの町の東なら一旦オデの町へ行った方がいいんじゃありませんか? 野宿するということは少なくともオデの町まではそれなりに時間がかかるってことですよね?」

 フレーレがベルダーの提案を不思議に思い、突っ込むがベルダーは黙っていた。

 「……城下町」

 セイラが呟くと、ベルダーの眉がぴくっと動き、それをセイラは見逃さなかった。

 「洞穴から出た時にバスちゃんに『城下町に行かなければ……』と言っていましたよね? オデの町が城下町じゃないんですか?」

 「だったらどうだと言うんだ? 直接乗り込んだほうが短縮できていいだろう? ん? なんだ……?」

 開き直るベルダーに何かを言おうとしたセイラだが、ベルダーが肩を叩かれた所でタイミングを失う。
 フレーレとセイラがその肩を叩いた人物を見るが、知らない顔だった。が、二人にとても威圧をかけてくる。
 
 そして、その人物が口を開いたところでベルダーの体からどっと大量の汗が出てきた。

 「今、ベルダーって聞こえたけど。まさか、あたいを置いて出て行ったあのベルダーじゃないでしょうね……? 可愛い女の子を二人も連れて……」

 ベルダーが肩に置かれた手をそっと外して振り返る。

 そこには……

 「お、お前、ユリか……なんでこんなところに……」

 ベルダーにユリと呼ばれた女性はにこっと笑い、次の瞬間ベルダーの顎に拳がヒットしていた。

 「それはあたいのセリフだぁぁぁ! 今までどこをほっつき歩いていたんだこの朴念仁!」

 「ぶほお!?」

 舞い上がったベルダーはあまり高くない天井に頭が突き刺さり、プラーンと、首から下だけがぶら下がっていた」
  
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。