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第六部:救済か破滅か
その135 蒼希
しおりを挟むベルダー、フレーレ、セイラとバステトが転移した先はベルダーの故郷だという蒼希の国。周りを海に囲まれた島国である。
「一瞬で到着するのは便利ですねー」
「転移の魔法ってトランジションって言うんですけど、一度行った所ならだいたいどこでもいける便利な移動手段なんですよね。これを相互だけとはいえ転移陣にしたディクラインさんはすごいですよ」
転移陣が設置されている洞穴を出て、背伸びをするセイラ。天気が良く、ピクニックでもしたら最高だと推測される。フレーレが後から出てきたところでセイラに声をかけた。
「あ、セイラさん、敬語じゃなくていいですよ?」
「そう? ならフレーレって呼ぶね!」
「じゃあわたしもセイラでいいですか?」
「勿論! ふふ、お兄ちゃん達以外と行動するのは初めてだから新鮮ねー」
<のんきだにゃー。世界がどうにかなるかもしれないのに……>
フレーレとセイラが友達認定をしていると、バステトがてくてくと歩きながら出てくる。
「にゃーん♪」
「あら猫ちゃん」
フレーレが抱っこして胸元におさめると、嬉しそうに頬ずりをする。
「そういえば名前は無いの?」
「ええ、ビューリックからすぐに魔王城へ行ったから、その暇もなかったんですよ」
「決めちゃおうよ! フレーレに懐いているみたいだし」
「そうですねー。ルーナはレジナ達を連れているからわたしが飼ってもいいかも。うーん……」
そうな和気藹々としながら、前を歩く女性二人(と猫)を見ながらベルダーも転移陣の洞穴を隠す。
「(これでここは良し……最悪あの賢者が転移を使えると考えれば心配する必要ない……ただ気になるのは……)」
ベルダーもゆっくりと歩き出すと、前を歩く二人に手を振られていた。
「ベルダーさん、遅いですよ! 町がどこにあるかはベルダーさんしか知らないんですからね!」
「ルーナをビューリックに連れて行った罪は消えてませんからね? 早くしないと今日のご飯代はあなたの奢りですよ?」
セイラとフレーレが容赦ない言葉を投げかけ、ベルダーが頭を抱えていた。
「(何故俺がこの二人と行動を共にせねばならんのだ!?)」
<諦めるにゃ、男が少ないからこうなるのは結果でしかないにゃ>
いつの間にか足元にいたバステトに心を見透かされ、ドキっとするベルダー。
目を細めてバステトを見ながら、呟く。
「……まあ、城下町に行かなければ問題は無いか……封印の場所はお前が頼りだ」
<任せておくにゃ。すみやかに作戦を完了させるのにゃ>
胸をドンと叩くバステトに多少安堵して二人に追いつくのだった。
---------------------------------------------------
しばらく歩いていくと変わった建物をした町へと到着する一行。中を見ると着ている服もエクセレティコやビューリックとは違っている。
「ここがベッポウの町だ。ここで一旦情報収集するぞ」
ベルダーが町の入り口に居る門番へ通行料を払っていると、フレーレが町の中を見て声をあげる。
「珍しい服ですねー」
「嬢ちゃんたち、この国は始めてかい? この国は島国だから他の地域と違う文化があるんだぜ。 この『蒼希服』もその一つだ。他にはな……」
門番が得意げに鼻下をさすりながら言う。心なしかフレーレとセイラを見て鼻の下が伸びている感じもする。
他にも話そうとしていたが、ベルダーが先へ進むよう促してきた。
「……いくぞ、まずはギルドだ」
「あ、もうちょっとお話を……」
セイラが食いついていたが、どんどん進んでいくベルダーに追いつくため門を後にした。
<急ぎすぎじゃないかにゃ?>
「俺はなるべくこの国にはいたくないんだよ。だから早く用事を済ませて戻る必要がある」
「何があったんですか?」
「……」
フレーレの質問には答えず、真っ直ぐにギルドへと向かう。セイラと顔を見合わせて肩をすくめるフレーレがため息をついた。
「(何かやらかして逃げたのかしらね?)」
「(有り得ますよねーあの人ニンジャみたいですし、師匠の娘さんと付き合ったあげく、捨てて逃げてきたとか?)」
「(きゃー! だったら最悪! それは居られないわね)」
「聞こえてるぞ!?」
---------------------------------------------------
「ベッポウのギルドへようこそでござる!」
ギルドに入ると蒼希服の女性がいい笑顔で出迎えてくれた。ベルダーはバステトと何やら話した後、その女性へと話しかける。
「……最近、この辺りで遺跡のようなものやダンジョンが現れたりしなかったか?」
女神の封印の事を聞くベルダー。
エクソリアがいてわざわざ聞く必要があるのか? という疑問があるが、封印を施したのは100年も前の話なので地形などが変わっているらしく正確な位置は把握できていないらしい。チェイシャのいたダンジョンのように、隠れていたダンジョンが出現したり、誰かが手を加えた可能性も捨てきれない。
く近くまで行けば気配で分かるんだけどにゃー>
と、バステトが言うので何か変わった事がなかったか探りを入れているということだ。
「そうですねぇ……」
女性が帳簿のようなものをパラパラとめくりながら呟いていると、後ろから声がかかる。
「オデの町から少し東へ行ったところに、変なダンジョンが現れたって話があるぞ」
中年の様相をしている男がセイラに近づいてそんなことを言っていた。肩に手を回そうとするのを払いのけながら男と距離を取るセイラ。
「そうなんですね。ベルダーさん、オデの町だそうですよ」
「……う、うむ……」
<(どうしたのにゃ、遠いのかにゃ?)>
「そうじゃない……」
バステトとベルダーがこそこそと話していると、男がセイラとフレーレに下卑た笑い声をあげながら、迫っていた。
「貴重な情報を与えたんだ、一晩俺と過ごしてくれよ? な? そっちの男の彼女出ないほうはどっちなんだ? ん?」
「いえ、ベルダーさんはわたし達の彼氏ではありませんし、あなたとお付き合いする事もありません! 情報はもらいましたが、勝手に話しただけですよね? お礼も何も無いと思いますけど……?」
顎に指を当てて首を傾げるセイラ。そのしぐさは可愛いが、それを見た男が顔を真っ赤にして怒り始めた。
「大人しくしてりゃあ……」
男が腰の剣に手をかけ、ギルド内に緊張がはしる。それを見た女性がピー! と笛をふいて男に叫んでいた
「……! ダメでござるぞ、武器を抜いて手に持ったら犯罪者としてしょっぴいてもらうでござる!」
それでも男は剣を抜こうとしたとき、スッとベルダーが男の前に現れて抜こうとした剣を押さえていた。そして男の目を見ながら告げる。
「……その二人は友人から預かっていてな、何かあると俺が怒られるんだ。情報提供は感謝する……これでいいか?」
困惑する男の手に金貨を数枚握らせ、男がその手を見ると満足したのか裏返った声で叫んだ。
「わ、わかりゃあいいんだよ! へへ、お前ら行くぞ」
男がギルドを出ると、何人かゴロツキのような冒険者が後をついていった。去り際にセイラとフレーレをジロジロと見ながら。
「……あんなのが冒険者なのか?」
「そうですね。この国独自の戦士であるサムライは町の警護が主な仕事ですから、外の魔物退治なんかは冒険者頼りなんですよー。今みたいな外国人も腕は良くても素行が……というハズレ……おっと聞かなかった事にしてください……」
女性はそそくさと、裏に引っ込み別の人と交代し、ギルドもホッとした感じでいつもの様子に戻ったようだった。
「……直接向かうとしよう。野宿の準備をして出発だ」
「え!? オデの町の東なら一旦オデの町へ行った方がいいんじゃありませんか? 野宿するということは少なくともオデの町まではそれなりに時間がかかるってことですよね?」
フレーレがベルダーの提案を不思議に思い、突っ込むがベルダーは黙っていた。
「……城下町」
セイラが呟くと、ベルダーの眉がぴくっと動き、それをセイラは見逃さなかった。
「洞穴から出た時にバスちゃんに『城下町に行かなければ……』と言っていましたよね? オデの町が城下町じゃないんですか?」
「だったらどうだと言うんだ? 直接乗り込んだほうが短縮できていいだろう? ん? なんだ……?」
開き直るベルダーに何かを言おうとしたセイラだが、ベルダーが肩を叩かれた所でタイミングを失う。
フレーレとセイラがその肩を叩いた人物を見るが、知らない顔だった。が、二人にとても威圧をかけてくる。
そして、その人物が口を開いたところでベルダーの体からどっと大量の汗が出てきた。
「今、ベルダーって聞こえたけど。まさか、あたいを置いて出て行ったあのベルダーじゃないでしょうね……? 可愛い女の子を二人も連れて……」
ベルダーが肩に置かれた手をそっと外して振り返る。
そこには……
「お、お前、ユリか……なんでこんなところに……」
ベルダーにユリと呼ばれた女性はにこっと笑い、次の瞬間ベルダーの顎に拳がヒットしていた。
「それはあたいのセリフだぁぁぁ! 今までどこをほっつき歩いていたんだこの朴念仁!」
「ぶほお!?」
舞い上がったベルダーはあまり高くない天井に頭が突き刺さり、プラーンと、首から下だけがぶら下がっていた」
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