パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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第六部:救済か破滅か

その134 特訓

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 各地へ散ったみんなを見送った後、私とお父さん、レジナ達で庭へと向かう。私は行かないとしても黙って待つだけではないのだ。

 「よし、この辺でいいだろう」

 「広い庭ね、ここならレジナ達ものんびり遊べそうね」

 言ったそばから二匹が走り出していた。てくてくと歩いてレジナが追いかける。あの子達はのんびりさせておこう。

 「まずは何をするの?」

 「最初は魔力の底上げだな。この先、アルモニアと体の取り合いをする事になるかもしれないという事を考えると鍛えておいて損はないしな」

 「そういえばエクソリアさんにも聞かれたけど、びっくりするくらい出てこなくなったのよね……」

 『内側から話を聞いて力を蓄えているのかもしれないね。さて、それじゃあ早速試したい事を一つさせてもらおう。そこに座ってくれるかい』

 エクソリアさんに促されて私はその場に座る。そして頭に手を置かれた瞬間、何かがしゅるんと抜けたような感覚があった。

 「今のは?」

 『デッドエンドを返してもらったよ。君が使っても、姉のせいでボクに魔力は送られてこないからね。誰か他の人に与えるとしよう』

 そんなことが出来るんだ……でもあの力が無くなるのはちょっと残念かも……。

 「強力だが時限式の力は使いにくい。今から鍛えればデッドエンドを使ったくらいにはなれるから安心していい。そういえば弓は持っているか?」

 「弓ってレイジング・ムーン?」

 「ああ」

 「……しょっと、これね」

 「問題ないな。ディクラインに預けていたが、ちゃんと渡してくれたようで良かった」

 弓を見ながら頷くお父さん。

 「これはお父さんの?」

 「うん? そうだ……いや、正確にはお前のお母さんのだよ。俺が魔王になってから着いて来てくれた大事な人だったけど……」

 私を産んですぐに亡くなってしまったお母さん。元々両親の故郷はこんな辺境ではないけど、魔王になるとこの城へ来てしまうらしい。
 お母さんは戦う人ではなかったので一緒に暮らす事ができて、弓はお父さんと会う前に冒険者をしていた名残だそうな。

 「お母さんのお墓は……?」

 「……そうだな、後で案内しよう。まずは特訓が先だ、時間はありそうだがいつどうなるか分からないからな」

 そうして私は両足を胡座みたいに組み合わせるよう言われ、地面に座り直す。両手はだらりと下げ、リラックス状態を作って目を瞑る。

 「そうだ、そのまま深呼吸をしてくれ。少し手助けするから感覚を掴むんだ」

 肩に硬い手が置かれると、その部分が熱く感じられた。

 「熱い……これが魔力だったりする?」

 「うむ。流石は俺の娘。気づくのが早いな。この感覚、他にはどこにある?」

 「……掌と足の裏から膝くらい? ……それと肩、かな?」

 「なるほど、だいたい三割くらいか。これが全身に行き渡れば魔力を十全に使えるようになる。体の中で魔力を練るように意識してみるといい」

 ん……こう、かな?

 右の掌にあった魔力を動かすよう考えると、その熱さは左手の第二関節へと移動した。左腕までが熱くなったけど、代わりに右手からは魔力が抜けてしまった。なので総量は変わっていない事になる。

 「今日は一日これをやってもらうから頑張れよ? なあにルーナならすぐだ」

 簡単に言うわねえ。まあ、そこはお父さんの顔を立てて頑張りましょうか!
 さて、続きを……と思ったところで膝の上に何かが乗ってきた。

 「きゃ!? ……ってシロップじゃない」

 「きゅんきゅん♪」

 すると今度はシルバが背中に飛び乗ってきた。

 「わんわん!」

 「ああ、こら……邪魔をするんじゃない。ルーナは今特訓中なんだよ」

 膝に乗ったシロップを抱きかかえると、腕をはむはむされるお父さん。

 「あ、そうだ。ねえエクソリアさん、この子達と遊んでくれないかしら? 私の特訓が終わるまでエクソリアさんの用事は出来そうにないし……」

 『んあ!? 女神のボクに動物と遊べっていうのかい! ……君達は女神を何だと思ってるんだ……』

 「人間の敵」

 「割と迷惑な事をする人?」

 「わふ」

 『……』

 あ、すごい顔してる。

 『ふ、ふん……いつか覚えてるといいさ! ほらシルバこっちへおいで』

 「わんわん♪」

 エクソリアさんがシルバを呼ぶと、尻尾を振って近づく。そしてどこから取り出したのかボールがその手にあった。

 「わん! わん!」

 「きゅきゅーん!」

 お父さんの腕からすり抜けてシロップもエクソリアさんの足元へと駆け出した。二匹とも興奮状態でぐるぐる回っている。

 『そら取ってこい!』

 「わおーーーん!」

 「きゅんきゅーん!」

 結構遠くに飛ばし、二匹が走って行った。

 『君はいいのかい?』

 「わふ」

 レジナはお父さんの脛をしゃぶりながら返事をしていた。遊ぶのは子供達だけでいいらしい。

 「それじゃ、ルーナはさっきの続きといこう。俺もこの体で剣を振るってみるか……」

 どこからか取り出した真っ黒な剣を振り回し始めるお父さん。
 骨だけど、魔王っぽい鋭い動きは健在のようだ。

 「さ、私も頑張らないと……」

 
 遠くでボールにじゃれついて戻ってこない二匹をぼーっとみているエクソリアさんをよそに、私は魔力増加の特訓を続ける。

 こう……魔力を伸ばす感じで……いけないかしら?

 先は長そうだった……・








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 『あら、魔力が上がってきたわね? ちょっと眠っていただけなのにまた状況に変化があったかしら?』

 ルーナの中で眠っていたアルモニアが魔力の波動を感じて目を覚ましていた。

 『……ふうん、妹ちゃんは人間を好きにさせる事にしたのね?』

 ルーナの記憶を辿り、今までに起こった事を読み取ってルーナたちの目的を知るアルモニア。
 目を瞑り、腕組みをしてしばらく考えていると何やら思いついたように目を開けて呟く。

 『まずは復活させてくれるのを待つしかないわね。審判をするのはその後……魔王の娘から引き剥がされるのは恐らく妹ちゃんなら出来るだろうしね。この体は惜しいけど……うふふ、面白くなってきたじゃない……』

 酷く冷たい目で笑うアルモニア。

 ルーナ達の選択がどう転ぶのか、それが分かるのはもう少し先の事になる。

 だが、確実に決着へと向かっているのは間違い無かった。
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