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第六部:救済か破滅か
その130 晩餐
しおりを挟む「ふう……危なかった……」
最後にキュキュっと首に頭をつけて、感触を確かめるお父さん。生きて……いや、死んで……なんて言ったらいいんだろう……私が困っているとお父さんが話を続けていた。
「知っている人もいるかも知れないが……俺はヴァイゼ。命を落としてもはや魔王ではなくなったので、ただのヴァイゼだ」
「そうか、ルーナに魔王の恩恵は移動したから……」
パパが納得して頷くと、そのまま話を続けた。
「というかそりゃアンデッドか? 部屋にあった遺言書に埋葬せず玉座に遺体をおけって書いてあったのはそのためか? 後、スケルトンが喋るってのはどういう事だ?」
「落ち着け、一つずつ回答してやる……まず、玉座に遺体を置いてもらったのは、あの玉座は代々魔王の力を蓄えている魔力庫みたいなものでな、遺体でも魔力に中てられれば変異を起こす。そのおかげでこうしてリッチとなることができたわけだ。本来魂は……」
『死ねばどんな魂でも一度はボクたちの所へ来るはずだけど、その玉座が魂を死体に留めておく役割を果たしているんだね? まったく、冒涜行為もいいところだ』
エクソリアさんが腰に手を当ててため息をつく。
「そうだ。だが初の試みだったから、上手くいくかは賭けだった。何とか成功したが、もうちょっと早く返ってこられれば骨だけになる事もなかったんだがな……ちなみにアンデッドで正解だ」
「喋れるのはどういうことなの?」
「魔力を使って喋っている。『考えている事を声として認識』させる魔法だと思ってもらえれば早いか。魔王の恩恵はお前に託したが、魔力が減ったり、使えなくなるスキルがあるというわけではないからな」
流石はお父さん、元魔王だけのことはある。
「それでこのタイミングで戻ってきたってことは何かあるのね?」
ママが目を光らせてお父さんに聞く。しかし、予想に反しその答えは意外なものだった。
「このタイミングは……偶然だ。さっきも言ったが、もっと早く返れても良かったくらいだし、そのまま消えていたかもしれない。だから女神の抹殺をお前達に託したんだしな」
「それじゃあどうして?」
「……正直俺にも分からん。ルーナがここに来たから返ってこれたというのが一番予想として大きいところだな。謁見の間で成長したルーナを見た時、こうびびって……」
「親バカね」
「親バカだったか……」
「親バカですねー」
みんなに言われて私の顔が赤くなってしまう。お父さん……。
「親バカで間違いないわね、さあご飯が冷めちゃうから食べましょう」
ママがみんなを席に着かせて、食事を再開しようとしたところでお父さんが慌てて喋りだす。
「え!? それだけ! おかえりとか頑張ったねとか無いのか!? ああ、多分ルーナの魔力が俺に干渉して蘇ったんだ、きっとそうだ! それと、死んでいる間に歴代魔王の記憶を探って……」
ご飯が優先され、とってつけたような理由を述べるも、ママに「後でね」と一蹴されていた。
そして……。
「くぅ~ん♪」
「わん♪」「きゅんきゅん♪」
「あ!? こら、噛むんじゃない! 俺は犬のおやつじゃないぞ! ほら離れろ!」
レジナ達に足をしゃぶられていた。やっぱり、い……狼も骨は好きらしい。
何だか復活したのに可哀想な気がする。ここは娘の私がちゃんとしないと!
とりあえずレジナ達を引き剥がしてお父さんに話しかける。
「ほら、あんた達もご飯あるんだからそっちを食べなさい! ごめんねお父さん、多分いきなりだったからびっくりしてるのよ皆。私はこうして話が出来て嬉しいよ!」
「おお……ルーナ、優しい子に育ったな……」
腕で涙を拭く動作をするが、もちろん涙は出ていない。人間だった頃の記憶がそうさせるのかな? ……後、回想だとかっこいいイメージだったけど、どうも普通のおじさんみたいな感じだ。
「ご飯を食べながら話しましょう、ほらこっちこっち」
最初に座っていた席へお父さんを座らせ、ようやく落ち着く事ができた。偶然でも、アンデッドでもこうやって話すことができるのは私にとって僥倖だと思った。
『(この人間達は今までと少し違う感じがするな……もう少し様子見をしてもよさそうだね?)』
「それじゃ飲み物は手に取った? いろんな再会を祝してかんぱーい!」
「「雑!?」」
ママの音頭でわいわいと食事が始まる。ベルダーの寝起きはかなり悪いらしく、寝ぼけ眼でワインを……こぼしていた。それをカルエラートさんが頭を叩いて怒っていた。
そしてお父さんはフレーレとチェーリカ、フォルサさんの神聖組に話しかけられていた。アンデッドが喋る、というのはやっぱり不思議なんだそうだ。フレーレの手がうずうずしているように見えたのは気のせいだと思いたい。
レイドさんはセイラさん達と積もる話をしているようで、一人だけ歳を取ったのを冷やかされていた。ベタベタしているチェーリカは要注意ね……。
周りを観察していると、私にはエクソリアさんが話しかけてきた。女神様がこうやって晩餐に居るのも変な感じするなあ……。
『やあ、ゆっくり話をしたいところだけどとりあえず、君の意思と確認をしておきたいと思ってね』
「どういうことです?」
『和気藹々としているけど、もし作戦が何もなければ死ぬ……殺されるかもしれないって事は理解しているかい? このまま逃げてもいいんと思うんだけど? それと確認は姉の事。今は話しかけてきていない?』
単刀直入すぎる……!
「……みんなを信じてますから成功しないハズは無いと思っています。もしそれで死ぬ事になっても、一度死んでいますしね、その時は大人しくお父さんと眠りますよ? それとアルモニアさんはジャンナの所で体を使われましたけど、それ以降はそういえば出てきていないですね?」
『そうか……ありがとう「参考」にさせてもらうよ』
「?」
何を確かめたかったのか良く分からなかったけど、何となく満足気なエクソリアさんだった。
だが、ここで悲劇が起こる……
『おや、これは……豚肉かい? さっきまであったかな?』
ん? あの骨付き肉……見た事無いわね?
「ねえ、フレーレ。あの骨付き肉フレーレが作った?」
「ふえ? いえ、知りませんけど……カルエラートさんじゃないんですか?」
「どうした二人とも?」
フレーレと私がカルエラートさんに告げると、少し怪しい色をした骨付き肉を見てサっと顔が青ざめる。慌ててエクソリアさんに叫んでいた。
「ま、待て女神! それを食べてはいけない!」
『え?』
ガブリと勢いよくかぶりつき、ごくんと飲み込んだ。
「あ、ああ……」
『どうしたんだい? この肉が……うげぇ!?』
バターン! と勢いよく床に倒れ、泡を噴くエクソリアさん!
「何々? どうしたの? って、エクソリア!?」
そこに現れるママ。そしてカルエラートさんがママに怒鳴る。
「お・ま・え~! いつの間に料理をしてきた! この骨付き肉、お前が作ってきただろ!」
どうやらママが作ってきた料理だったらしい。そういえば、小さい頃はお父さんで、引き取られてからはパパがご飯を作っていたけどまさか……。
「あ、分かった? 今回のはよく出来たと思うのよ! ほら、こんなにキレイな紫色になったわ!」
ビンゴ! 料理が出来ないんだ!?
「ママ……どうやって作ったか分からないけど、豚肉の料理で紫になる料理は無いわ……」
「わんわん♪」
エクソリアさんが落とした骨付き肉をシルバが咥えて齧りはじめた。 毛布の柄に選ぶくらいだから骨付き肉はご馳走に見えたに違いない。
「あ!? ダメよシルバ! ぺーっしなさいぺーっ!」
「ぎょわうん!?」「きゅきゅん!?」
しかしすでに飲み込んでしまったようで、シルバがあまり聞いたことも無い鳴き声をあげて倒れた。
兄のあまりの様子に、横に居たシロップが驚いて私の足に隠れる。
「フレーレ! 回復魔法! 回復魔法!」
「女神様……これで死んだりしないでしょうか……」
なんだか物騒な事を言うフレーレ。もしかして酔ってる……?
そして、フォルサさんが骨付き肉を拾い上げていた。
「あ、フォルサさんでもいいですから早く回復魔法を!」
「骨付きの豚肉……これが本当の『スケル豚』……」
「あ、いいですねそれ」
「いいわけあるかー!? この酔っ払いたちーーー!」
『ニ、ニンゲン……やっぱり滅ぼそうか、な……』
エクソリアさんはそれだけ言って、気絶した。
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