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第六部:救済か破滅か

その126 記憶

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 カターン……


 「……ヴァイゼ……ルーナ……」

 剣が床に転がり、倒れた二人の前で膝をつくディクライン。顔は青ざめ震えていた。
 ここで過ごし、ヴァイゼは本当に信頼できる人物だと重い、友人のように接してきたディクラインにとって、あまりにも辛い現実だった。

 「うぐ……ルーナ……」

 足を引きずりながら親子の下へ向かうベルダー。そこにアイディールとカルエラートがフラフラと現場へ現れた。

 「何……? ドタバタしないでよ……うう、頭が痛い……」

 アイディールに肩を貸しながら、カルエラートも眉を歪めて歩いてきた。そして近くまで来たとき、アイディールが悲鳴を上げた。

 「え……? なに、これ……何でヴァイゼとルーナが……? 血……? ……いや……いやああああああ!? ルーナぁぁぁぁ!!!」

 頭痛も忘れて、アイディールがルーナを起こそうと体をゆする。

 「《リザレクション!》《リザレクション!!!!》」

 何度も回復魔法を使う。だが、すでに息を引き取っており目を覚ます事は無かった。
 そこへ嘲笑うかの如くゲルスがルーナと水晶を強奪した。


 「な、何!? ゲルスあんた一体……」

 「ほっほ……全員起きてきましたか。せっかく面白い実験ができると思ったのですが……。仕方ありません、今はこれを試してみましょうか」

 「何をするつもりだ……!」

 「いえ、ベルダーには少し施したのですが『融合』という実験ですよ。例えばこの水晶をルーナの体へ入れるとどうなるか……とかどうです?」

 「やめろ! 女神は倒すと決めたはずだ、それにもうルーナは……死んでいる。そんな事をして意味があるとは思えない」

 カルエラートが少しずつ近づきながらゲルスに水晶を引き渡せと詰め寄る。『何が起こるか分からない』。そんな事に水晶を使わせるわけにはいかないのだ。

 しかし、ゲルスはそれを実行した。

 「死んでいるからこそ気兼ねせず出来るというものですな。それでは……この傷口から……」

 ズブリ……水晶がルーナの胸の傷へ吸い込まれるように消える。その時、ディクラインとカルエラートが駆け出した!

 完全に見えなくなったところで、ゲルスが魔力を集中させる。後一歩というところで、ルーナから眩しい光が放たれ、二人は足を止める。

 ドクン……

 「おお!」

 ゲルスが喜びの声を上げ、ルーナの心臓へ耳を当てると、静かに鼓動が感じられた。ひとまず、実験は成功したと満足げな顔で頷く。

 アイディールが顔をあげ、目を見開いていた。

 「生き返ったの?」

 「そのようです。ま、ルーナは貰っていきますよ。女神の封印もいくつか思い当たるところがありますし、そこで実験と行きましょう……子を作るにはまだ早いので、しっかり育てなければいけませんが楽しみです」

 「逃すか!」

 ディクラインが踏み込んで殴りかかるが、ルーナを盾にされて手が止まってしまう。そこにゲルスの蹴りが入り、壁に叩きつけられた。

 「おのれ……」

 カルエラートが睨みつけるが、ゲルスはどこ吹く風だった。

 「ま、人間が滅ぼされるまでせいぜい楽しみましょうよ? 私は実験で忙しくなるのでこれで……」

 「ま、待て……!」

 「ルーナは置いていきなさいよ!!」
 
 ふわりとゲルスが浮き、マジックアローで外の窓を割る。そこから飛んで逃げるつもりのようだった。

 「ごきげんよう、愚鈍な勇者パーティ……何!?」

 突然ゲルスの腕に稲妻が走り、ゲルスは手がしびれてルーナを取り落としてしまう。
 ディクラインが滑り込みながらキャッチし、そのまま距離を取る。

 「誰です!?」

 「ふう……魔王さんに何かあったらわたしが目覚めるようになっていたとはいえ……ルーナちゃんもこんなことになってるなんて……」

 少しくすんだ金髪の女の子が、首をコキコキしながらゲルスへと向かい始めた。

 「……誰だ?」

 「ああ、わたしセイラって言います! 一応賢者やってます! とりあえず、まずはあの男を」

 そういってセイラが今度は氷の槍を空中に何本も作り出した!
 ゲルスの脳内に警鐘が鳴り響く、あれはマズイと。

 「いかん!」

 「行きなさい!」

 ヒュヒュン!!

 狭い通路では回避する事ができずダメージを負うゲルス。

 「ぐあああああああ!? くっ……貴女が眠っていたという前に勇者と来たという賢者……!?」

 「まだ! 《アイシクルソード》!」

 手足、それと腹に突き刺さった氷の槍を抜こうとしたゲルスに、セイラが手に作り出した氷の剣を肩から斜めに斬りつけた。

 「うぐお!? 傷口から凍りつく!? く……ルーナはお前達に預けておこう、どうせお前達では女神を完全に復活させたところでルーナを殺す事はできまい……」

 「待ちなさい!」

 「そう言われて待つ人に会った事がありますかね! ……覚えておけ……!」

 ゲルスは窓から外へ逃げ、そのまま飛び去っていった。
 
 「く……ゲルス……必ず殺してやる……ルーナとヴァイゼ……この体の礼は必ず……」

 ベルダーが窓の外を見ながらそんなことを言い、他のメンバーはルーナの所へ集まっていた。

 「……生きてる?」

 アイディールが不安げにルーナを抱っこしているディクラインへ尋ねると、黙ったまま頷いた。少し安堵し様子を見続けていると、やがてルーナが目を覚ました。

 「……! ルーナ、目が覚めたか! 良かった……」

 「あなただけでも助かって……」

 目をパチパチさせて辺りを見回すルーナ。全員が「?」を頭に浮かべた時、ルーナの口から言葉が放たれた。

 

 「お兄ちゃん達、だあれ?」


 「……っ」

 「記憶が……?」

 「お、俺は……お前のパパだよ」

 「ディクライン!」

 ベルダーが叫ぶのをアイディールが止め、そのままルーナを見て泣きながら言った。

 「わ、私がママ……よ、ルーナ……」

 「パパとママ? ……あふ……」

 「そう……今日から、な……ほら、眠いんだろ? アイディール、頼む」

 アイディールが頷き、寝室へと連れて行った。

 そんな中、セイラはヴァイゼの遺体を見ながら呟く。

 「魔王さん……貴方の願いは必ず……ゆっくり眠ってください……」

 ルーナが居なくなったのを確認して、ディクラインはセイラに話しかけていた。聞きたい事が山ほどあるからだ。

 「俺はディクライン。君はセイラと言ったか? 君の知っていることを聞かせてくれ」

 「そうですね。また眠りにつくまえに、お話しましょう……」
 
 

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 「お、思い出した……パパはパパじゃなくて、魔王が私の本当のお父さん……」

 「セイラが生きていた……本当に……」

 「その後、俺達は女神の封印を探すため各地に散る事になる。ルーナは俺とアイディールで育てる事に決めて、森のあったアラギの村へと移住したんだ。ただ、いつでもこの城に戻れるようにセイラと俺で転移陣の簡単なアイテムを作ってな」

 「私とベルダーが基本的にこの城に住んでいるような感じだな」

 カルエラートが腕組みをしてため息をもらす。そこでレイドがディクラインに話しかける。

 「セイラは……今どこに?」

 「……順を追って話そう」

 そこでディクラインが語った事それは……

 まず、ヴァイゼの希望であった女神の討伐を果たす必要があるとベルダーとカルエラートが女神の封印場所を探す役割を担った。
 
 ディクラインとアイディールは先程のとおり、村でルーナと暮らすようになるが、ルーナに水晶を埋め込まれているため、生き返ったがその目的を果たすため、ゲルスのいうとおり結果的にルーナを殺す事になると考え、一年ほど暮らしたあとアイディールは女神とルーナを切り離す方法が無いか旅に出たとの事だった。

 そしてセイラしばらく回復のため眠りに就いたらしい。仲間二人もレイドが来るまで起こさない事を告げて。
 

 「じゃ、じゃあママが浮気して出て行ったって私に言ったのは……」

 「それは嘘だ」

 「……酷い嘘をつきますね……アイディールさんはそれを知っているんですか?」

 ルーナとフレーレが関係ないところで食いつき、ディクラインが焦る。

 「え、いや、出て行った後にルーナに言ったからな……でも別にいいだろう理由なんてどうだって? 村には帰ってこないし、泣くルーナに説明するの大変だったんだぞ?」

 ディクラインがそう言うとの同時に、ルーナたちはディクラインの後ろを見て顔を青ざめる。どうしたんだとディクラインが振り向くと……。


 そこに鬼の形相をしたアイディールが、メイスを持って、立っていた。


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