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第五部:終わりの始まり

その124 過去

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 「ようやく辿り着いたな……魔王、どんなヤツなんだか」

 
 エクセレティコ国王に頼まれ、魔王退治に赴き、長い旅の果てにようやく辿り着いた勇者ディクライン(25)

 最果てと呼ばれる北の台地。その一角にある湖の真ん中に浮かぶ島に魔王が住む城はあった。

 「これでやっと私達の結婚に一歩近づきましたね!!」
 
 「などと、意味不明なことを言っており……」

 「うるさいですねカルエラート。自分に魅力が無いからって妨害ですかぁ?」

 喧嘩するのはアイディール(17)にカルエラート(18)

 「おい、もう城の近くなんだ、ぎゃあぎゃあ騒ぐな、アイディールにカルエラート」

 ディクラインに言われて「う」と呻いたのは、ビショップのアイディールと重戦士のカルエラートだ。
 そのいつもの光景にため息をつきながら、異国の戦士ニンジャのベルダーが首を振る。

 「……まったく……ディクライン、さっさとどっちか選んでくれ。こいつらのじゃれ合いと見るのも飽きてきた」

 「ほっほっほ。まあ良いではありませんか、行き遅れが怖いお年頃ですからね……」

 「「枯れたおっさんに言われたくないわね!」」

 二人が声をそろえてゲルスの両頬をぶん殴った。

 「ほっほ……仲の良いことで……」

 軽口を叩く魔賢者のゲルス。

 この五人が魔王を倒すために集まった勇者のパーティだった。
 
 旅に出たのは3ヶ月前。その間、魔物討伐や、仲間内での訓練で実力を上げており、恐らくこれなら倒せるであろうというところまで来ていた。

 「やっぱり勇者の恩恵って凄いですね。私達の能力を殆ど使えるようになったんですよね?」
 
 アイディールが前を歩くディクラインに質問をする。

 「ああ、皆には感謝しているよ。おかげで攻撃・転移・回復・隠密とやりたい放題だ!」

 「それを覗きに使う勇者はディクラインくらいなもんだけど……」
 
 隣を歩くカルエラートが呆れながら呟いた。さらに言葉を続ける。

 「でも前に、別の勇者が挑んだらしいじゃないか? そいつでは倒せなかったのか?」

 「どうもダメだったらしい。俺より若いって話だけど、勇者だけ帰還して仲間は全滅。同情されたり石を投げられたり大変らしい」

 レイドが失敗した事は公にはなっていなかったが、人の口に戸は立てられない。どこからか噂が広まり、知らない人が少ない程に広まっていた。

 同情してくれる人が殆どだったが、心無い人たちによりレイドはこの頃から心を消耗していたのだった。

 「ま、私達なら余裕ですよ! 見事倒して報奨金……うへへ……」

 「……ビショップとは思えんな……」

 苦笑しながら、歩を進め魔王城へ侵入するディクライン達。中は薄暗いが、キレイだなと一向は思っていた。
 魔物も出現せず、部屋にも誰もいない……。

 「……ほっほ、罠ですかねえ?」

 「まあ、それでも行くしかないんだけどな」

 ゲルスが慎重に一つずつ部屋の中を調べ、何も無い事を確認してから次へ行く。後ろから襲われる事だけは避けたい。これが最後の戦いなので確実に進む事にしたのだ。

 そして最後に辿り着いたのは大きな扉。いわゆる謁見の間というやつである。

 「開けるぞ」

 盾役のカルエラートが剣と盾を構え、盾で押しながら重い扉を開く。

 ギギギ……

 重苦しい音を立てて両扉が完全に開くと、奥の玉座に頬杖をついて座る人物が見えた。
 
 ゴクリ……

 その迫力に誰かが喉を鳴らす。
 前衛にディクラインととカルエラート、中衛にベルダー。そして後衛にアイディールといういつもの布陣だった。

 「……お前が魔王か?」

 ディクラインが声をかけると、玉座の人物がピクリと反応し返事をした。

 「来たか……ようやく我が願いを叶える時が来たようだ……」

 「願い?」

 アイディールが何となく呟くと、魔王がそれに答えていた。

 「そう、願いだ。我の意識がどれだけ持つかわからん、手短に行くぞ。まず、我はお前達と戦う意思は無い。どちらかといえば協力して欲しいのだ」

 「……ほっほ、魔王が勇者に協力の申し出とは面白いですねぇ」

 「黙れゲルス。こいつは敵だ、倒すしかない」

 ベルダーがダガーを構えて油断しないよう魔王の動きを見ていた。
 それでも魔王は話すのを止めない。

 「我の名はヴァイゼ。魔王と呼ばれる存在だが、女神によってスケープゴートにされた男だ」

 「どういうことだ……?」

 



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 別室に案内され、ディクライン達は困惑しながらも席へ着く勇者一向。
 
 頭を抑えながらヴァイゼが語り始める。

 そもそも魔王とは、女神アルモニアの作った勇者の恩恵に対抗するためにエクソリアが作った恩恵だという事。魔王は強者を前にすると理性を失い、相手を倒すまで戦い続けるバーサーカーになる。

 そして、魔王を配置した理由はエクソリアが人間を滅ぼすための準備のため一時的に作った脅威だというのだ。5歳の時に授けてもらっている恩恵も、思考を重ねて人間を実験のようにしていると語るヴァイゼ。

 さらに、100年ほど前に姉妹が対立して姉は力をバラバラにされて封印。何とか勝った妹も長い眠りに就いたと言葉を続けた。

 「信じがたい話だ……どうやってそれを知ったんだ?」

 「魔王の恩恵は5歳でもらうものではなくてな。巡り巡って誰かに受け継がれる……そういう類の『呪い』らしい。我も元はただの村人Aだったのだが、ある日突然頭の中に魔王や女神についての知識が流れ込んできたのだ」

 「で、でも知られてはいけない知識まで……」

 「人間を滅ぼす、といったあたりだな。原理は分からないが、エクソリアの考えていた事は全て把握できた。これをあえて教えて、絶望させるという目的もあったかもしれないな。人間を滅ぼすと聞いてどうする? 女神を倒すと考える人間が居るだろうか? 恐らくそこまで考えていたのだろう、自分に反旗を翻す者など居ないという事までな」

 「……確かに一致団結したところで、女神に勝てるとは思えない」

 カルエラートがボソッと呟き、それを見たヴァイゼが満足し頷く。

 「そのとおりだ。このまま知らずにいつの間にか世界が終わってしまうのを待つばかり……しかし我はそれが許せない。故に我は女神を倒す事にしたのだ。それが協力して欲しい事だ」

 「ほっほ、それはそれは……」

 冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべるゲルス。ベルダーも目を見開いて驚いていた。

 「勇者の力と魔王の力を合わせれば、とでも考えているのか?」

 「それも一つあるが……先程も話したように、現在の女神達はまったく動けない。エクソリアとアルモニアを倒す手が無いか今のうちに探した。そして……」

 懐から細長い水晶を取り出すヴァイゼ。

 「キレイ……それはなんですか?」

 アイディールが指差して聞き、それに回答があった。

 「……これこそ、女神アルモニアの封印されている水晶だ。本来の人格、意識はこれに集約されている……らしい。力は皆無、エクソリアの記憶ではそうなっている」

 「マジか」

 ディクラインが顔を引きつらせて水晶をまじまじと見ていた。ゲルスの目が怪しく光り、ベルダーは興味無さげにしながらもチラチラと見ていた。

 「ではそれを壊せばアルモニアは倒せる……?」

 「いや、そう簡単ではなくてな。エクソリアがアルモニアを倒し、力を七つに分けて封印した。そしてアルモニアを完全に倒すには、完全に力を取り戻した状態でトドメをささなければ消滅しないらしい」

 「面倒な……それを壊すとどうなるんだ?」

 「人に憑依して隠れる。そうなると見つけ出すのは困難だ」

 なるほど、とベルダーが納得し、ディクラインが顎に手を当てて考え始めた。

 「俺達も黙って消されるのはちょっとな……質問があるけど聞いていいか?」

 「構わんぞ」

 「一つ、その水晶はどこで手に入れた?」

 「エクソリアの部屋だ。この世界ではないどこかにあるのだが……行き方はもう分からん。ある時、空に歪がある事に気づいてな。空を飛べる我が近づいたところ、エクソリアが眠る部屋へと飛んだのだ。エクソリアは外部の干渉を拒む結界のようなものを張っていて残念ながら殺す事は出来なかった。だが、その時この水晶を発見し、持ち帰ったのだ」

 「……」

 ゲルスが口元を歪ませながらヴァイゼの話を黙って聞いていた。
 続けて質問をするディクライン。

 「二つ、さっき強者を前にすると狂うみたいな事を言っていたが、今はどうして正気でいられている? 俺達は強者ではないという事か?」

 水晶を懐へしまいながら、目を伏せる。しばらく考えた後、言葉を発していた。

 「……彼には悪い事をした。ここにお前達より先に勇者が来ていたことを知っているか?」

 「……ああ。あんたに負けて帰ったヤツだな」

 「うむ。パーティは四人。実力も申し分無かったが、理性の無い我は正直かなり強い。あっという間に勇者と賢者だけになった」

 そして、賢者は勇者を逃がすため転移を使い、賢者自身は”デッドエンド”という魔力と引き換えに全能力をあげるスキルを使ったのだという。

 「その時の彼女は強かった。我とほぼ互角、しかしあのスキルは5分しか持たなくてな……5分後、全魔力と体力を使い切った彼女が膝をついていた」

 「……殺したのか?」
 
 それには答えず話を続ける。

 「その時不思議な事が起きた。我の理性が徐々に戻り始めたのだ。魔力を使い切った彼女は”強者”ではないと判断したらしい。そこで我は彼女を介抱し、先程お前達に話した事をそのまま告げた」

 賢者である彼女は事の重要さを理解し、魔王に協力する事となった。
 まずは自分を強者と認識しないよう、魔力制御を。次に、理性を失わないように制御するすべを考えた。

 「おかげで我はお前たちとも話が出来たというわけだ」

 「ほっほ、その子は今どこに?」

 「今は……自らを封印して眠っている。魔力制御はかなり負担がかかるようでな、一応計画にめどができたから眠ったのだ。ああ、一緒に連れてきた仲間も何とか一命と取り留めてな、一緒に封印している。その内、兄が来るはずだからその時起こせと」

 ゲルスは是非お話を聞きたいですねぇとぼやいていたが、魔王はそこに連れて行ってくれることは無かった。
 
 そこに、寝ぼけ眼をした、白い髪をした女の子が入ってくる。

 「おきゃくさんー?」
 
 「あ、可愛い子ですねー! ……ま、まさか誘拐!?」

 「そんな訳ないだろ? あんたの娘か? そういやただの村人だって言ってたな……」

 「我の娘で間違いない。ただ、見ての通り髪が白いだろう? これは魔王になってから出来た子だから魔王の血を引いてしまったのだ……少し騒がしかったか……すまない。ほら、挨拶をするんだ」

 「うん! 初めまして! 私、ルーナって言うの! この前7歳になったのよ! お兄ちゃんたち外から来たの? 私この城から出た事ないから羨ましいなー。私、外のお話を何かお話聞きたいなー?」

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