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第五部:終わりの始まり

その119 総力

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 「おのれ! よくもやりおったな!」

 ケルベロスの上から国王が叫ぶ。ルーナとレジナで頭の一つが絶命したからだ。
 
 「待っていろ、すぐそこから引き摺り下ろしてやる」

 フレーレに回復されたエリックが国王を睨みつける。いつもの飄々とした喋り方はなりを潜めていた。

 「どう攻めますか?」

 「やっぱり目か口の中……喉だろうねー。すまないけど槍を貸してくれ」

 「はっ」

 騎士の一人に剣と槍を交換してもらい構える。
 一方ケルベロス……ジルバが先程までルーナ達を狙っていた左手がザッザッ、と威嚇していた。

 「我々が囮に……」

 「……お願いするよ、フレーレちゃんの打撃も有効だけど今は下がっていてくれ」

 「分かりました」

 グオォォォゥ!!

 フレーレが下がったのと同時に、足を止めていたケルベロス本体が動き出した。
 もう一つの頭である、コイルもエリックの方へと頭を向けたのだった!

 「巨体の割に早い!」

 「ぐあ!?」

 あっという間に二人弾け飛び、壁に叩きつけられて気絶した。
 
 「残りのものは下がってエレナを護衛しろ!」

 「し、しかし!?」

 「こっちに隊長達が来ているから大丈夫だ、急げ」

 残っていた数人の騎士がコクコクと頷き下がっていった。そこにレジナとシルバが到着し、フレーレを庇うように立つ。

 「まったく、ウチの騎士と同じかそれより頼もしいねー。僕が仕掛ける、できれば付いて来てくれ」

 「ガウ!」

 「わん!」

 「わたしも行きます!」

 少しだけ目をフレーレに向けたが何も言わず駆け出すエリック。
 コイルが一番小さいシルバを狙っていた。

 ギャウン!!

 「わおぉぉん!」

 噛み付きをひらりと回避して、鼻の頭を踏み台にして頭の上に乗りざくざくと爪で引っかき始めた。
 下ではレジナが前足に噛み付いて動きを止める!

 「すごいです! レジナ離れて!」

 フレーレに言われて飛びのくと、その足にメイスがスタンプされた!
 裏はルーナに肉球を刺され、今度は上から押しつぶされた形になる。

 グォォォォォ!?

 ギャワァァァァン!?

 痛覚は同時に二つの頭へ伝達し、同時に悲鳴を上げた。
 そこにエリックが槍を床につっかえてその反動でジャンプ。頭が下がったジルバの首に乗る事ができた。

 「ウェンディ!」

 「はあああああああ!」

 ギャウン!?

 アンジェリア達がノーマークになり、懐へ一気に飛び込む。ウェンディが怪力で前足を持ち上げようと力を込める。
 エリックは首の根元を狙い槍を突き刺すと、硬い毛に阻まれながらも傷をつけることができていた。
 
 「(背中に行きたい所だけど、ちょっと届かないかー……)ウェンディ! そのまま転ばせられるか!」

 「ぬぐぐ……一人だと流石に……」

 「私とイリスであっちの後ろ足を上げるぞ」

 「はいー!」

 「何をするつもりじゃ!?」

 目まぐるしく人が入れ替わる様子を見て国王が悲鳴を上げるが、お構いなしに三人で持ち場につき、一気に足を持ち上げる!

 「「「せぇええのっ!!」」」

 「わお~ん♪」

 グラリとその巨体が揺れ、バランスを崩す。落とされまいとシルバが頭から飛び降りてきた。

 頭のバランスも悪いため、あっさりと横倒しになるケルベロス。

 しかしコイルがタダではやられまいと、身をよじりながらウェンディを前足で攻撃したのだ。

 グォォォ!

 「きゃああああああ!」

 ズゥゥゥゥン……

 倒れながらもウェンディを吹き飛ばした。その時、ルーナがウェンディの近くまで走ってきており、吹き飛ばされたウェンディを受け止めた。
 
 だが、左腕が変な方向へ曲がっており脂汗をかいて呻いていた。

 「フレーレ! こっちへ! 私がそっちへ行くわ!」

 「はい!」

 その頃、バランスを崩して倒れたケルベロスの背から国王が落ちて慌ててゲルスの元へと走っていた。それをエリックが追う!


 「うひゃああ! ゲ、ゲルス!? 助けにこんかぁぁぁ!」

 「逃がすかよ!!」

 ズブシュ……

 槍を投げつけ、それが国王の足を貫いた。ゴロゴロと転がっていく。

 「いいいい痛いぃぃぃぃ!?」

 「僕達の恨み、思い知れゴナティソ……!!」

 エリックがトドメを刺すため国王へと迫る!


 
 一方、倒したケルベロスの頭へ一斉に攻撃を始めるルーナとレジナ。

 「ガウウウウウウウウウ!!」

 「起き上がる前に!」

 グォォォォォ!

 レジナと、フレーレと交代したルーナが、倒れたコイルの頭部へ攻撃をかけようとした。だが次の瞬間、その口から冷気が放たれた。
 レジナは避けたがルーナははそれを浴びてしまい動きが鈍る。 

 「その態勢からブレス!? レジナ、喉を噛みきれる?」

 「ガウ」「きゅきゅーん!」

 シロップも混ざり、ギリギリと力を込めているが効果は余り無いように見えた。

 「さ、寒っ!? この! 止めなさいよ!」
 
 グォ!? グオォォォォン!

 一瞬怯んだが止める気配は無い。ルーナの体が段々冷たくなって、鼻水が出はじめた時、目の前にファウダーが現れた!

 <ごめん、遅くなって! レイドの方はチェイシャに任せてオイラこっちにきたよ! コールドドラゴンに冷気ブレスは効かないからね! レジナ、シロップ気をつけて!>

 ビュォォォォォォォ……!

 小柄な体のどこにそんな力があるのかという位の冷気を口から吐き出した……!!

 グ、グオ……!?

 ピキピキ……

 ファウダーのブレスに押し負け、髭から凍り付いていくコイル。やがて完全に彫像のようになってしまった。

 「ガウガウ♪」

 「きゅきゅーん♪」

 少しブレスを浴びて尻尾が凍った二匹が飛んでいるファウダーの周りをぐるぐると回り喜んでいた。
 
 「ううう……す、すごいわね……初めて戦うところを見たけど……」

 <オイラ戦うのは好きじゃないからね。でもみんなが戦っているのに戦わないのはもっと嫌だから!>

 「え、偉いわ……シロップ……おいで」

 「きゅきゅん? ……きゅ!?」

 ルーナはシロップを抱きしめて暖を取りはじめる。冷たいともがくが、パワフルオブベヒモスの効果でびくともしなかった。

 そして残る頭はあと一つ! 

 アンジェリア達は倒した後、間髪いれずに即両目を潰していた。
 電撃ブレスでを所構わず撒き散らすが、口の方向さえ分かっていれば回避は容易だった

 「見切ったぁ!」

 「隊長、こっちの毛は刈りましたよー! 動かないでねっと!」
 
 イリスが耳を串刺しにして動きを封じる。アンジェリアは剣を構えたと思った矢先、凄まじいスピードで毛が刈り取られた眉間へ攻撃した。

 「たぁぁぁぁぁ!!!」

 ギュォォォォン!!!!

 ゴキ! グシャ! 骨を砕き、肉を裂いて、剣が脳へと達する。ビクンビクンとしばらく動いていたが、やがて動かなくなり地面に血の海を作る。

 「はあーや、やりましたね……隊長……」

 「ああ、これで後は……」

 イリスが地面へぺたんと座り、息を吐いた。アンジェリアは剣を抜き、血を払ってからエリックの向かったほうへと顔を向ける。


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 「クソジジイが! いいところだったのによ!」

 「ク、クソじゃと……! ぶ、無礼な!」

 エリックがゴナティソの足から槍を引き抜き、止めをさそうとしたが、ギリギリの所で神裂が間に合い、ゴナティソを回収した。

 だが、逃げ切れず壁際へ追い詰められていたのだ。しかしレイドとベルダーはかなり消耗していた。

 もちろん神裂も無傷ではないし、ゴナティソも自力で逃げる事はできない。

 「終わりだ……!」

 クーデター達成は手の届くところまで来ていた!
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