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第五部:終わりの始まり

その108 計画の修正

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 <ビューリック城下町>



 
 エリックとライノスを見つけたフレーレ。
 フォルサがビーフシチューを食べているのをよそに、尋問を始めていた。

 「ルーナはどこですか! 脅迫して連れて行くなんて騎士のすることですか!」

 「う……むう……」

 珍しく凄い剣幕で怒るフレーレ。
 ライノスはフレーレと少しだけパーティを組んでいたことがあるためたじろいでいた。こんなに怒る子ではないと思っていたからだ。

 その勢いに飲まれないよう、エリックが遮る。

 「……その点については僕から謝ろうー。ライノスを誘ったのは僕だからねー。ここじゃ話せないから僕の屋敷に来てくれるかい?」

 「屋敷……? え、えっちな事をする気ですね!? それでルーナも……ふぎゃ!?」

 猛るフレーレをフォルサが脇をつついて止めていた。

 「落ち着きなさい。誘拐は許される事じゃないけど、事情はありそうね。急いだ方がいいかしら? シチューを食べきる暇はある?」

 「は? あ、ああ……ごゆっくり……?」

 「そんな悠長な事をしてちゃダメですよぅ!」

 「いいかい? 私等はルーナの居場所を知らない。ここで暴れても構わないし、何なら倒すのも難しくないけど、それじゃあ話は進まない。ここは一つ彼らの言い分を聞いてみてもいいんじゃないかしら?」

 「う……分かりました」

 渋々椅子へ座り直し、フレーレもシチューを食べ始める。

 確かにフォルサの言うとおりここで事を起こして手がかりが無くなるのは痛い。
 それより話を聞いておく方が今後の役に立つのは明白だとフレーレも感じたからだ。
 
 「(さて……やはり二人の使いどころは……)」

 目を細めて二人を見ながら先を見据えるエリックだった。
 



 ---------------------------------------------------





 <エリックの屋敷>


 「かけてくださいー。まさか10杯もおかわりするとは思いませんでしたけどねー……」

 「美味しいからね、久しぶりだったし! それよりいいお屋敷ね?」

 フォルサがソファに座りながらエリックに微笑むと、エリックも座りながら返す。

 「それはどうもー。あ、フレーレちゃんも座って座って。それで話なんだけど……ベルダー、君も出てきてくれないかな?」

 エリックが声をかけると隣の部屋からベルダーが入って来た。

 「……気付いていたのか。食えんヤツだ」

 「ベルダー……!」

 ルーナを連れて行った張本人を前にしてフレーレが呻く。それを見たベルダーは気にした様子も無く、エリックの後ろで待機していた。

 「まさか、こんなところまで追っかけてくるとはな……少し驚いているぞ? レイドはどうした?」

 「……分かりません。ですがきっとここに来ると思いますよ」

 「フッ、来ない方が良かったと思うがな」

 「そこまでー。話が進まないから手短に行くよー? ルーナちゃんの居場所は知っているし、無事だ。それは僕の命にかけて保証しよう。そして護衛にはこの国の騎士隊長をつけている」

 エリックはまずルーナの身柄について説明を始めた。フレーレの目的はルーナだ、まずは無事であることを伝えねば話を聞いてくれまいと思った。

 「居場所は?」

 「それはまだ言えない。けど話を聞けばすぐ分かると思うよ? それじゃわざわざここまで来たんだ、僕の目的を話そうか、ルーナちゃんを無意味に攫った訳ではないこともね」

 そしてエリックは、国王が女神の力を求めてライノスにルーナを攫うように命令した事、国王のクズっぷり、そして国の為にクーデターを起こすことを二人に話していた。親の仇であることはあえて伏せておいた。

 「クーデター……」

 「なるほどねぇ、あのクソガキはやっぱりそうなっちゃったのね。先代もそうだったし、気持ちは分かるわ」
 殆ど身内の戦争とも言うべきクーデターと聞いて青ざめるフレーレと、国王をクソガキと言い放ったフォルサ。
 
 「……ルーナが国王に狙われている。だからそれをクーデターに利用するためルーナを巻き込んだんですね?」

 「そうだねー。悪いとは思ったけど、僕達を信用してもらって油断させるためには必要だと思ったからねー。そしてここに居るベルダーは国王の協力者として傍にいるゲルスと言う男を追っていてね? それで協力してもらってるんだよ」

 「ゲルス……! あの男もここに居るんですか!」

 「まだ分からん。お前もあの男に?」

 ベルダーがゲルスの名を聞いて立ち上がったフレーレを見て珍しく質問をしていた。

 「い、いえ……直接ではないですが、回復魔法を使えなくさせるような男は許しておけないので……」

 「ほう? 興味深いな。後で聞かせてくれ。ヤツの話なら何でもいい」

 「え? ええ、構いませんけど……」

 ベルダーがフレーレを食い入るように見ていると、フォルサが口を挟んできた。
 
 「それで本題は?」

 「うん、クーデターに協力してくれないかと。いや、これだとルーナちゃんにバレたら怒られるな……ルーナちゃんとライノスの妹を助けるのに協力して欲しいー」

 「そうか、クーデターを成功させることはルーナを永続的に国王から助ける事に繋がるから、利害は一致しているということね。フレーレ、どうする? 私は君に着いて来ただけだから判断は任せるわ」

 「そうですね……具体案を聞かせてもらっても?」

 「構わないよー。もう計画は進んでるからねー、決行まで後少しって所だよ? そんなに難しい事じゃない、その時が来たら僕らは国王の所へ行って倒す、それだけだよ。国王は頭が緩いからね、お付の騎士だけ何とかなればきっと倒せるはずだよ。で、フレーレちゃんとフォルサさんには城へ入って欲しいんだ。国王の夜のお相手を連れてきた、って事でね」

 「夜の……」

 フレーレは一瞬考えて顔を真っ赤にして俯く。
 意味は分かったようだと、満足して笑いながらエリックは続ける。

 「まあ、それだとフレーレちゃん辺りは本当に食われちゃいかねないから、女性騎士志望として入ってもらうよー。協力者は二人いるからその二人と行動を共にして、かく乱のために当日は火を城に放って欲しい。二人増えればかなり混乱させる事が出来るだろうし。で、最終的にはルーナちゃんやメイド達の脱出の手助けってところかな? こちらの我儘で君達が人殺しをするのは僕も見たくないから、対人にならないよう配慮するつもりだよ」

 「もう! 最初からそう言ってくださいよ! ……騎士かあ、それは面白……んん! いい案だと思います」

 「そうね、久しぶりに行ってみるのもいいわね」

 「(久しぶり……?) 男性騎士の半分以上は味方だから、失敗はしないと思っている。女性騎士は先ほど説明した二人だけしかこの計画を知らない。だから迂闊に話さないよう頼みたいんだ」

 ライノスがフォルサを警戒しつつ、内部に入り込んだ時の注意事項を話した。
 
 「分かりました。不本意ですが、ルーナを助けるために協力しましょう」

 「ちなみに俺も隠れながらエリック達に着いて行くつもりだ。ゲルスが居るなら恐らく迎撃してくるだろうしな……」

 ベルダーの役割は遊撃。

 しかし優先はゲルス。そういう条件で協力をするとの約束だからだ。

 「シーフなら国王の所まで気付かれずに行けるんじゃないですか?」

 するとフレーレが疑問を口にしていた。

 「それは勿論できる。が、国王を先に殺すとゲルスは姿を現わさず逃げるだろう。それでは意味が無い。それにこの国を救うのはこの国の人間であるべきだ」

 「それを言ったらわたし達も……」

 「あくまでも協力だろう? 国王を殺しに行くわけじゃない。さ、それじゃゲルスの事を話してもらうぞ?」

 「私も興味があるわね」

 フォルサとベルダーがフレーレに話を聞き始めたころ、屋敷に伝令がやってくる。
 それに応じたエリックが慌ててその場にいた全員に声をかけていた。

 「ルーナちゃんから相談の要求があった。僕達は城へ行く。ついでに君達も着いて来てくれ。明日騎士見習いとして紹介しようと思ったけど、恐らく重要な話だと思うからもう城に行って待機してほしいんだ」

 「そんなに急で大丈夫ですか?」

 「念のため変装はしておいた方がいいかな……さっきの話を聞く限り、ゲルスはフレーレちゃんを知っていると考えた方がいいだろうしねー」

 「私は賛成。流れが変わった時、それに乗るのはいいと思うわ」

 フォルサがお茶菓子を平らげながらキリッとした顔で言い放つ。

 「口の周りを拭いてくださいね?」

 ベルダーはフレーレの話を聞いて険しい顔をしながらエリックへと問う。

 「俺はここで待つか?」

 「そうだねー。ベルダーは見つかった時に言い訳ができないから頼むよ」


 話がまとまり、バタバタと準備を始める。

 フレーレは法衣を脱いで、町娘のような格好になり、髪は三つ編みで眼鏡を。フォルサはその姉という設定で同じような格好をしていた。

 「持ち物は全部持って行っても大丈夫ですか?」

 「うんー。僕が身元保証すると言えば問題ないよ」

 マジックバッグとトランクを手にしてフレーレ達は屋敷を後にした。

 







 
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 <ビューリックの城はどこじゃ……迷ったのではあるまいな?>

 チェイシャが疲れた声を出してレイドの肩へと登る。

 「大丈夫だ、方角は合ってる。けど、後二日はかかるな」

 <こう、何もない平野だと心配になるよね……>

 ビューリック側の山を下り終えたレイドは、麓の村で一泊し、そこでビューリック城への行き方を聞いていた。流石に馬車と言った乗り物は無く、徒歩の移動を余儀なくされた。

 ビューリックはエクセレティコと違い、城下町以外はそれほど栄えておらず、町より村が多い。領主も存在せず、各町村は国が管理しているため発展の手が回りにくくなっているのだった。

 「どこかで馬でも買えたらいいんだけど……急ごう」

 <あまり無理をするでないぞ、お主殆ど寝ておらんじゃろ>

 「何だか嫌な予感がするんだ、出来るだけ早く移動したい」

 レイドは汗をかきながら黙々と歩く。そろそろ夕方に差しかかる時間帯だった。
 
 <(大丈夫かなあ……オイラはレイドが心配だよ>
 <(……仕方あるまい、いざとなれば気絶させてでも休まるしか……)>

 そんな事を話しながら、二匹はレイドの後を着いて行くのだった。
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