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第五部:終わりの始まり

その105 探索と出発

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 「というわけでここが厨房ですよ~」

 エレナに案内されて、城中を全て見回り終えて最後は厨房に来ていた。
 一体何だと厨房のコック達がこちらを見ており、その内ひとりがこちらへ来ていた。

 「何だ、エレナちゃんか。今日はまだ仕込んでいる最中だからつまみ食いするものはないぞ?」

 「あわわ……コック長~それは言わないでくださいよ~」

 「ははは! いつもこっそり来ては食べているのに今更だろう? おや、そちらは?」

 コック長と呼ばれた30代くらいの男の人がこちらに気付き声をかけてくれた。
 私とアンジェリアさんがおじぎをすると、エレナが紹介を始める。

 「この方たちは~今日からこのお城で暮らすことになったルーナさんと、騎士団の隊長さんでオリビアさんですよ~!」

 わーパチパチと自分で口にしながらニコニコと笑う。

 「あ、今日のディナーを豪華にしろって言ったのはこのためか? 俺はディック、この城のコック長をしている。何か嫌いな物とかあれば先に言っておいてくれ」

 「ディックさんのお料理は美味しいので大丈夫ですよきっと~」

 「私はルーナよ、嫌いなものは全然ないから楽しみにしてますね!」

 「オリビアだ。私も城の人間だが、厨房には来ることないから初めましてだな」

 ディックさんに握手をしているとアンジェリアさんがちょっと口ごもりながらディックに言う。

 「……ピ」

 「「「ピ?」」」

 「ピーマンは苦手だ……」

 それを聞いてきょとんとする私達。するとディックさんが大声で笑いながらアンジェリアさんの肩を叩く。

 「ぶっははははは!! ピ、ピーマンって子供か!! 隊長、そんなんだから大きくなれないんだぞ!」
 
 アンジェリアさんは私やエレナよりも背が低い。それを指摘されて顔を真っ赤にして反論する。

 「い、いいじゃないか! 苦いから嫌いなんだ、好き嫌いがあったら言えと言ったのはそっちだぞ!」

 「まあまあ~それじゃあわたし達はこれで~。お夕飯は楽しみにしていますね~」

 エレナがアンジェリアさんを抑えて、厨房を後にする。にこやかにディックさんは見送ってくれた。

 「これで全部?」
 
 「はい~後は地下と東と西に塔がありますけど~面白くないですし警備さんがいますからこれだけですね~」

 なるほど、ならだいたい把握できたわね。
 私達に宛がわれた部屋の周囲は概ね客室で、人は皆無だった。

 中庭を挟んで反対側には元々エレナが居た建物があり、2階建てで1階は先ほどの厨房やメイドや使用人が居住として使っていて、2階に執務室や国王の部屋などがあるとのこと。

 何かの拍子に顔を合わせるのも嫌なので2階には行かなかった。

 そして中庭から建物を回り込んで裏に回ると、それぞれ東と西に塔が建っている。

 元々見張り塔だったそうだが、いつしか賢者とやらが住みつき、見張り台として機能しているのは東のみらしい。

 最近その賢者とやらの姿を見ていないそうなので、夜に一度西の塔に行ってみよう……。
 何か手がかりがあるかもしれないし。





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 ルーナ達が城の内部を案内されている数時間前。


 「チッ、思ったより痛手だったな……」

 ゲルスは毒づきながら無人の小屋で、斬られた腕をくっつけていた。
 回復魔法は使えるようで、傷口を抑えながら魔法を唱え何とか接合することに成功したようだ。

 「ほっほっほ、まあまあですね」

 手を握ったり開いたりしながら感触を確かめ、小屋から外に出る。

 「さて、一度体勢を立て直すためにビューリック城へ戻りましょうか。少し計画を改める必要がありますね……そういえばルーナはあの場には居ませんでしたね。どこへ行ったのやら……」

 ふわりと浮いて空へ飛ぶゲルス。

 「(元お仲間たちも私を探しているようですしね。魔王を倒したあの時、私のした行動がよほど腹に据えかねていると……ほっほっほ、愉快ですねぇ……)」

 ゲルスはほくそ笑みながらビューリック城を目指していた。
 エクセレティコはダメになったが、まだ研究することは出来ると……。


 「(問題は姿を見せない妹のエクソリアですね、力が衰えているとは言え計画を崩される可能性があるとすれば彼女でしょうね。しかし女神の封印はほぼ解かれていますし、時すでに遅しとなりそうですがね……」

 ほっほっほと嫌な笑い声がビューリックの空に響いていた。




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 <北の森>


 
 デッドリーベアを討伐してしばらく、レジナはその傍で体力を回復するべく休んでいた。
 シロップはレジナのスカーフを探すのに必死である。

 「きゅん! きゅーん!」

 やがて発見することができ、シロップは歓喜の声をあげて地面を掘り起こしてレジナの元へと戻ってきた。
 レジナは割と深めの穴を見つけてそこを埋めたのだが、シロップは集中して探しきったのである。

 「きゅんきゅーん……」

 「わふ」

 尚も帰って来ない兄を心配するシロップ。レジナは大人しく待てと窘めていた。

 しかしその時、ガサガサと茂みが揺れた。


 「きゅん!? きゅーん!!」

 威嚇するシロップの目の前に現れたのは先刻まで心配していた兄のシルバであった!
 全身傷だらけでふらふらと二匹の前で倒れた。
 その口にはふろしきが咥えられており、中からキノコが飛び出してきた。数は三本、ちょうど親子の分だった。

 「きゅ……ん」

 息も絶え絶えでレジナへ鳴くと、レジナは立派にやり遂げた息子の傷を舐めて労っていた。
 
 「わん、わふわふ」

 「きゅん、きゅきゅーん」

 「……」

 まずレジナがキノコを食べ、続いてシロップが恐る恐る食べた。シルバも寝ころんだまま何とか食すことが出来た。

 ……このキノコ、北の森と近隣の森を挟んでいる崖にのみ生えている珍品である。
 主に魔物が好んで食べるが、人間や動物でも食べれなくはない。人間の間では『マジックマッシュルーム』と呼ばれ高級食材として取引されるのだ。

 もちろんレジナは美味しいからシルバに取りに行かせたわけではない。
 キノコに含まれている魔力を取り込むためであった。

 日の当たらない崖で空気中の魔力を取りこみ成長するこの食材は、魔物が食すとその力を上げる事が出来るのだ。
 一朝一夕で強くなることは不可能、それが分かっていたレジナはこのキノコに賭けたという訳だ。

 そして強力な魔物の肉を食べて力をつけようとしていた。

 デッドリーベアは想定外だったが、うまく倒せたのは僥倖とばかりにデッドリーベアを貪り始めた。
 その姿はルーナと一緒に居た頃とは違う、野生の狼そのものだ。

 シルバにはレジナが固い肉をちぎって食べさせ、周辺に生えている薬草を毛布代わりに被せてあげていた。
 その内満腹になり三匹は眠りについた……。




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 翌朝、その効果は思いの外早く現れた。




 「わっふ!」

 あれほど傷だらけだったシルバが一番早く起き、シロップを舐めて起こしていた。

 「きゅ!? きゅきゅん!?」

 驚いたのはシロップ。
 あれほど傷があったのに、もう塞がっていたり塞がりかけているからだ。
 そしてこれはシロップも同じだが、どちらかと言えば灰色に近かった銀毛が、本当に銀色になっていたのだった!

 心なしかシルバの体も少し大きくなっているような気がする。

 そしてレジナは……


 「アオォォォォン!!」

 黒目だった眼が金色に変わり、見事な銀毛がその身を包んでいた。さらに、戦いによってくたびれていた毛がふさふさになっていた。
 
 「ガウ」

 「わっふ!」「きゅんきゅん!」

 遠吠えが終わったレジナ達は酷くお腹が空いていることに気付いた。
 そして昨日食べ残していたデッドリーベアを三匹が食い尽くす。
 
 あれほど硬かった肉が見る見るうちに無くなり、あっという間に骨に……ならず骨まで食べられ跡形もなく姿を消した。

 「ガウ」

 近くにあった大木に爪を振り、力試しをするレジナ。
 
 「わふ」
 
 シルバは木と木の間を三角飛びの要領で登るなどを行っていた。
 
 「きゅんーきゅん」

 シロップも以前より動きが早くなり、牙が発達。嗅覚もさらに鋭くなったようで、早く行こうと急かしていた。

 これならきっと助ける事が出来る。そう思った三匹は早速ビューリックを目指し走り始めた。
 

 体が軽い!

 自分たちの身体の変化に驚きながらルーナの元へ駆けつけるため一心不乱に走る三匹だった。
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