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第五部:終わりの始まり
その99 ひとまずの決着
しおりを挟むゲルスが逃げ出した後も戦いは続いていた。
だが、変化してすぐだからなのか攻撃が単調であり、ブレスにさえ気をつければ攻撃を捌くことは難しくないとファロスは見極めていた。
「そろそろ仕掛けるぞ、クラウスいいな!」
「へいへい、大丈夫ですよっと!」
ファロスの槍が竜人の足を絡めてよろけさせ、クラウスの大剣が腕を切裂く。
「グヌウウウウ、コオリツケ!!」
「うぬ!?」
ファロスに向けてブレスが放たれ、右腕が凍った。
しかしその隙をついたアントンが竜人の胸元へ剣を突きたてる!
「ムウ!? ダガマダダ!」
胸元から血を流しながらもアントンを片腕でふっとばし、後ずさる竜人。
「グラオベン殿の意思はもうないのか?」
「あんなのは初めて見ましたし……もしかすると操られている?」
シルキーがファロスを回復しながら呟きに対し答える。
「ソロソロ、リダツサセテモラオウ……ゲルスサマニオイツカネバナランカラナ」
「てめぇ暴れるだけ暴れて逃げるってか! そうはいくか!」
背中から羽を生やした竜人に向かって駆け出したアントン! しかしブレスを吐きながら空へと浮いていく。
もはやこれまでかと思った時、背後に回りこんだクラウスがジャンプしながら大剣を振りかぶっていた!
「落ちろってんだよ!」
「ナニ!?」
頭を殴られ、ブレスを吐いていた口を塞がれて口の中で暴発。そのまま落下、そしてその先には……
「貰った!」
ズブリ……!
待ち構えていたアントンのドラゴンスレイヤーが胸を貫通していたのだった。
「ゲフ! グアアアア!? キエル、キエテシマウ!?」
「消える? 何のことだ……?」
ゴロゴロとのた打ち回る竜人を見ながら呟くアントン。
その内、おびただしい量の血を流して動かなくなった。
「やった、か?」
「みてぇだな……」
ファロスとクラウスが倒れた竜人を見ながら言う。
「父上……」
肩をフォルティスに支えられながらニコラス王子も近づいてきた。
アントンは剣を胸から抜いて血を飛ばす。
「う……俺は……どうなったのだ……」
なんとグラオベンの意識が戻っていた。虚ろな目で辺りを見回し、ニコラスを見つけて喋り出す。
「ニコラスか、俺はもうもつまい……後は……すまんがお前に託す……ゲルスに唆されたが、国を思っての事は……信じてくれ……女神の力などという未知なものに手を出そうとした……いやこれは女神の天罰かもしれんな……し、城の地下にゲルスの研究施設がある……そこを……ぐっ……俺は……」
「シルキー!」
「ええ<リザレクシ……>」
回復をしようとしたところでシルキーに砂をかけ魔法を遮った。
「か、回復はするな……どうも……この身体はすでにゲルスに操られてしまっているみたいだからな……また攻撃をしないとも限らんし、何よりヤツにいいように使われるのは……ごめんだ……」
「……」
「そんな……」
「お、俺のせいでこんなことになってすまないが……ゲルスは危険だ……ヤツは……この世界の毒に、な、なりうる……何としても、止め……恐らくヤツはビューリックにも……」
そこまで言ったところでグラオベンは息絶えた。
「くっ……」
「望んだことだ、仕方あるまい……」
会談は国王の死という何とも言えない結末によって幕を閉じた。
エクセレティコではゲルスに指名手配がかかり、国王は加担者ではあるが、騙されたあげくゲルスに殺されたという事に筋書きを変えた。葬式は後日とり行われるが、遺体は竜人となっているので先に焼き払うようにとニコラスが指示していた。
また、これによりゲルスに狙われる可能性があるアントンは再度鉱山送りにはならず、ニコラスの正式な書状により、アルファの町のギルドで奉仕するという目の届く範囲で刑期を迎える事になる。
そのニコラスはそのまま国王として即位。
フォルティス達も即位式に参加し、アントンの死亡から起こった一連の出来事は一応の終結を見た。
「後はルーナちゃんか……」
「レイドは山道で見失ったらしい、行方不明だ。フレーレにつけた監視員は学院で何者かに襲われて病院送りになったそうだ」
「なんだそりゃ……とりあえず、ビューリックには行くんだろ?」
「ああ。だがアントン、お前はダメだ。理由はわかるだろう」
ファロスがアントンの目を見ながらハッキリと言った。
「……」
「お前が倒したい事は分かっているが、不発だったとはいえ何か仕込まれている可能性が高い。いざという時に敵が増えるのは困るんだ、分かってくれ」
「クソ……絶対にトドメを刺してきてくれよ……」
毒づきながらも納得するアントン。
実際、以前のアントンには魔物化の因子が組み込まれていたが、一度死んでジャンナの血で復活した際、その効果は全て消えており、メルティの病気と同じく『生まれ変わった』ように新しい体へと変わっていたのだった。
続けてファロスはあの時居たメンバーへと告げる。
「ルーナちゃんの事は気になる、ビューリックへ行く口実も出来た、レイド達に追いつくぞ……!」
全員がコクリと頷き、ようやく重い腰をあげるギルド一同。
そしてそのレイドはというと……
---------------------------------------------------
「ん……んん……」
「あら、起きました? まだゆっくりなさって。もう少しで美味しいシチューができますからね」
あの部屋の奥から聞こえてきた謎の音を聞いて毛布を被って寝てしまったレイド。
目が覚めた時に女性は囲炉裏の前で鍋をかき混ぜていたのだった。
「すまない……まだ吹雪は?」
「少し治まったみたいだけど、まだ出るにはちょっとね。というより本当にビューリックへ行くのかしら? 危ないわよ、とても」
「はあ、方法がこれしか思いつかなかったもので……あ、俺はレイドと言います、助けて頂いたようで、ありがとうございます」
「あまり無茶をするとご両親が心配するわ……はい、シチュー。そっちの狐にもどうぞ」
<コーン♪>
「起きてたのか……ああ、すいません頂きます。お恥ずかしい話ですが、俺は両親が居ないんです。ある村に捨てられていた、らしいです。妹と一緒に……村長に話を聞いても両親の事はまったく分からない、入り口に捨てられていたとしか。だから顔も知りません……。それで、今から助けに行く仲間はたった一人の肉親である妹の手がかりにもなっていて……それで」
「そうなの……ごめんなさいね、変な事聞いちゃって。名前も分からないの?」
女性は悲しそうな顔をしてレイド見て、眉を下げる。
「ええっと手紙が残されていたそうで……父親がヘスペイトで、母親がアーテファだったかな? 俺ももういい歳ですから今更両親の事は気にしていませんよ。何か事情があったのかもしれないし……それより貴女はどうしてこんな山奥に一人で暮らしているんですか?」
「……そうね、名前を手紙で残しているんだもの、きっと何かあったのよ。で、私? うーん、旦那はいるんだけどね。たまにしか帰ってこないのよ。子供もね居たんだけど……あなた達と同じくらいの歳かしらね」
不意に顔に陰りを見せる女性をみて気まずくなるレイド。
ちなみにそんなに歳を取っているようには見えなかった。
「そ、そうですか大変ですね……」
レイドが悪い事を聞いたと慌ててシチューをすする。
「ふふ、そんなに急いで食べなくても時間はまだあるわ。ね、彼女は居ないの?」
ブフォ!
レイドはいきなりな質問をされ、シチューを吹き出す。
女性はワクワクしながら答えを待っていた。
「急に何を言いだすんですか!?」
「だって、この吹雪で外にも出られないし。ね、あなたの話を聞かせてくれない? おばさん暇なのよ」
だったら町に移住すればいいのにと思うレイドだったが、しつこく食い下がってくるので仕方なく話し始めたのだった。
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