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第五部:終わりの始まり

その95 会談の席で

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 「おい! レイドはどこだ!?」

 「わ、わからねぇ……今の今までそこに居たのに……」

 レイドを追っていたハンターが狐につままれたように声をあげる。
 つかず離れず追い、動向を探っていたが山が険しくなりそろそろ引き上げようかという時だった。

 天気は快晴……見失うことなどありえない。
 だが、見失っていた。

 「撒かれた? いや、気付かれていたとは考えにくい……」

 「何日か野営して探そう。それでも居なければ……戻るしかあるまい……」

 何故見失ったのか、それを教えてくれる者は誰も居なかった……。




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 その頃……


 <レイドー! これはもう無理じゃ! 凍え死んでしまう!>

 「さっきまであんなに晴れていたのに! ……くっ、どこか洞穴でも無いか? このまま動き回るのは危険だ」

 <オイラは平気だけど……ちょっと先を見てくるよ>

 ハンター達とそれほど離れていなかったが、レイド達は吹雪に見舞われていた。
 レイドとチェイシャは防寒しているとは言え、この吹雪は想定外である。体が芯から冷え切っていた。

 <向こうに明かりが見えるよ、もしかしたら小屋があるのかも!>

 少し先を飛んでいたファウダーが、チラチラとした明かりを見つけていた。
 
 「ああ……眠くなってきた……」

 <何てベタな!? 寝るな! 寝たら死ぬぞ!>

 <あああ……>

 「だ、大丈夫だ。明かりは……あっちか……」

 <た、頼むぞ? わらわはお主の首にロープで固定されておるから逃げれられんのじゃ……!」
 チェイシャの悲痛な叫びも吹雪でかき消される。

 「ああ、心配するな、もうすぐ……だ……」

 あと一息というところで、ドサリと倒れるレイド。頑張ったが、やはりいきなりの吹雪は鎧を着た身体には耐えられなかった。

 <オイラ助けを呼んでくる! 明かりがあるってことは人が居るはずだよ!>

 <頼む……わらわも眠く……>

 <チェイシャは魔神でしょ!? 頑張ってよ!>

 ファウダーが小屋へ駆け出そうとしたその時、近づいてくる人影があった。

 <ゴクリ……>

 小屋からの救援か……はたまた未知の生物か……ファウダーは近づいてくる人影に声をかけた。

 <た、助けてー!! 人が倒れているんだ!」

 そして……




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 <会談の席>

 
 「……それで、フォルティス君。私に聞きたい事とは? それにギルドマスターが揃っているとは穏やかじゃないね?」

 国王が席に着いてから話し合いに参加するメンバーが席に着く。
 涼しい顔をしてフォルティスに質問をする。

 国王側は国王とゲルスが席に。

 フォルティス側はフォルティス、ギルドマスターであるファロスとレイラ、ハダスが席に着いている。

 「話というのは他でもありません。国王、貴方は鉱山送りになった人間を勝手に釈放しましたね? そして、その者に誘拐を指示した……」

 それを聞いて国王は眉をピクっと動かし、ゲルスを見る。ゲルスは微笑みを絶やさずコクリと頷く。
 予定通りで良い、との合図だ。


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 ー数日前ー

 
 「フォルティスが私と会談を?」

 報告をしにきた兵士に今受けた報告を繰り返す。

 「は、はい。こちらが書状になります」

 「ありがとう、下がっていいぞ」

 「はっ!」

 書状を受け取った国王……グラオベンが内容を読み考える。
 脛に傷を持っていないとは言わない、それが国王と言う者だ。

 「ギルド絡みでの話し合いか……」

 その時、ゲルスがどこからともなく現れる。
 
 「どうかされましたか国王」

 「ゲルスか……いや、裁判監察官のフォルティスがギルドを交えて会談を申し込んできたのだ……」

 誘拐を失敗した後のやりとりからどうも信用ができなくなったゲルスに対し、慎重になるグラオベン。
 しかし当のゲルスはどこ吹く風で答える。

 「ほっほ、ギルド絡みとなるとアントンの鉱山から離脱している件と、ルーナ誘拐の件が濃厚でしょうな。あの時いた冒険者がアントンの死を見ていますし、もしかしたらアントンが何か吹き込んでいる可能性もあるでしょう」

 「な、何だと!? それは報告に無かったぞ! もし俺がアントンを鉱山から出したことがバレればそれだけでスキャンダルだ! この地位は脅かされるのだぞ!?」

 グラオベンが激昂すると、ゲルスは目を細めて笑うのを止める。

 「……グダグダうるせぇんだよ、起こっちまったもんは仕方ねぇ。アントンが出所している証人は居るかもしれないが、しらばっくれちまえばいいんだよ。アントン本人が証言するなら危ないかもしれんが、ヤツは確実に殺した。確実な証言ができるやつは居ないからな」

 
 「う、むう……どちらにせよ聞いてみなければ分からんということか」
 
 「何、その時は私も同席させてもらいましょう(実験場が減るのはいただけませんからね)」

 基本的には知らぬ存ぜぬで通す、怪しい所があればゲルスが答えると言う流れで会談に臨んだのだった。
 

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 「……では、アントンの件は知らないと?」

 「そう言っている」

 グラオベンはニコやかに応えると、続いてファロスが言葉を繋げる。

 「我々はアントンの死体を見ました。そして、その時に遺体を持ち帰った冒険者がアントンの遺言を聞いたのです。黒幕は国王……そしてゲルスさんあなたですよ」

 「……」

 笑みを絶やさず、真っ直ぐファロスを見るゲルス。
 それに続いてハダスも発言を行った。

 「その冒険者達は私も知っていましてね。嘘をつくような人間じゃあなかったですよ。その内一人は勇者ですしね。申し訳ないですが国王、そんな怪しげな男を連れているあなたの方が信用できませんな」

 「あたしゃ面倒なのが嫌いでね……ネタはあがってるんだ。大人しく息子に席を譲って隠居しろって言ってんだよこっちは。ゲルスとかいったね? あんたが小さい子を殺したって話も聞いてるんだよ、そんなやつは許しちゃ置けないんだがね? で、そんなヤツと一緒に居る国王なんて臭くて仕方ないね」

 レイラが頭を掻きながら乱暴に言った。どう取り繕っても、事実は変わらないと告げているのだ。
 
 だが……

 「ほっほっほ! 何をおっしゃるのやら。そのアントンとか言うものは死んだのでしょう? 女の子を私が殺したなどどうやって突き止めたのでしょうか? あまりおかしなことを言うのは止めていただきたい」

 ギルドマスターたちがこぞって講義をするが、まるで相手にしないと言う感じのグラオベンとゲルス。

 「いいですか? あなた方の言う事は全て『また聞き』というやつですよ? それで疑われたらたまりません。もっとも、アントンとかいう者は死に、アントンから何かを聞いたと言う冒険者もここには居ないようですね? それでは話になりません。お引き取りいただきたものですね」

 グラオベンは内心焦りながらも、ゲルスの口八丁でこの場は回避できたかと安心していた矢先の事だった。

 「はは、語るに落ちるとはこの事かね?」

 レイラが笑いながらファロスの肩をバンバン叩き、ハダスがニヤリと笑う。
 そして黙っていたフォルティスが口を開いた。

 「……レイラは『小さい子』だと言ったが『女の子』とは一言も言っていない。関与していないと言うあなたが何故それを知っているのか? 答えは簡単。証言通り、ゲルス。貴様が現場に居たからだ!」

 「……たまたまですよ、女の子だという気がしただけです」

 苦しい言い訳だが、反論をしながら次の手を考えるゲルス。

 そこでフォルティスたちの後ろで声があがる。

 「……そうかそうか……あくまでもシラを切るってか」

 フードを被ったアントンが口を開く。いよいよ限界だという口調だ。
 イルズが肩を掴むが、それを振りほどきフードを取り去った!

 「……!?」

 珍しくゲルスの顔が驚愕の表情を作る。
 それを見て口の端をあげるアントン。そして叫ぶ。

 「生きた証人の登場だ、これで言い訳できねぇだろう!」
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