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第五部:終わりの始まり
その90 本質
しおりを挟む午後からの訓練は比較的軽く、魔力を極限まで使い切って少し回復したらまた枯渇させると言うものであった。魔力の総量を上げたいならこれが一番だと、マジックアローのみでフォルサと戦いを繰り広げていた。
「は、はあ……! あ、当たらない!?」
「狙いが甘いわね! これで私が攻撃していたら君はもう二十回は死んでるわね♪」
フレーレも狙いが悪いわけではない。単純にフォルサが早すぎるのだ。
「そろそろ限界ね、今日はこれくらいにしましょう。さ、明日と明後日でどう仕上がるか楽しみだね。聖魔光は使えるようになって欲しいけど……」
そう言いつつ、校舎へと戻って行くフォルサ。
「あ、ありがとうございました……」
フレーレは膝をついて息を整える。
確かに魔力はあがるだろう、でもこれでトラウマが克服できるとは思えなかった。そんなフレーレの顔は複雑である。
<(ぴー。大丈夫? こんなことしてたら死んじゃうわよ……)>
「これくらいはまだ大丈夫ですよ。明日からが怖い所ですね……」
そして翌日、フレーレの予感は見事に的中する。
「今日はドラゴンゾンビを倒しに行きましょう」
ピクニックにでも行くかのようなノリで軽く言うフォルサ。ドラゴンと言えば最近ファウダーと戦ったことが記憶に新しいが、フレーレは直接戦闘をしていない。
「またそんな無茶を……というかこの辺りに居るんですか?」
「ええ、いつの間にか裏山の洞窟に棲みついていてね。この辺は学院があるから人があまり来ないけど、いつ暴れてもおかしくないからこの機会に倒しておこうと思って。君の訓練にはちょうどいいかと思って」
「は、はい……」
二人で裏山を歩いていくと、段々空気が淀んできているのが感じられた。
フレーレは授業で習った事があり、恐らくドラゴンゾンビの瘴気だろうと思いながら進む。
ジャンナは伊達に不死鳥ではないらしく平気そうだった。
「ここですか……」
洞窟に辿り着き、中から呻き声のようなものが聞こえる。間違いなく何かがここに棲んでいるのは間違いない。
「じゃあ、一つルールを課しましょう。君はドラゴンゾンビ相手にヒール、またはシニアヒール以外は攻撃をしてはいけない。殴ったりしたら、その分私が君を殴ろう」
「え!?」
「以上だ、では先頭を頼むわよ」
「わ、わたし回復魔法は……」
「まあできなくてもいいわよ? その時は死ぬだけだし」
まさかこれがトラウマの克服法だとでもいうのか、フレーレは心臓をドキドキさせ、冷や汗をかきながら前へと進む。
「(ショック療法……?)」
そんな言葉が脳裏をよぎった頃、目標へと辿り着く。
フシュルルルルル……
巨大な体躯が横たわっており、所々の肉が腐って骨が見えている個所などもある。フレーレは一瞬「う」と口を押えて後ずさるが、フォルサがそれをさせてくれなかった。
「さ、それじゃ行ってみようー♪」
「は、はひ!」
慌てて噛んだが、事態はそれどころではない。
フシュルルルル……
「アンデッドに回復魔法は通用すると聞いたことはありますが……<ヒー……>」
魔法を唱えようとしたところで、ドラゴンの寝息がピタッと止まり、その目を見開く!
ゾンビになったとは言えドラゴン。気配を感じて寝たふりをして近づいてくるのを待っていたのだ!
「ガアアアアア!」
「え!? 起きて……! きゃあ!」
間一髪でドラゴンの噛みつきを回避し、フレーレは地面に転がる。
「ほら、次が来るわよ! 君は油断が多いな」
「くっ! <ヒー……ッル>!」
唱えた途端頭ががガンガンする、しかし何とか唱え終える事ができ、ドラゴンは後ずさる。
「グギャアァァァァ!?」
「や、やった!」
<ぴ! まだよ!>
ジャンナが叫ぶと、ドラゴンがさらに攻撃を仕掛けてくるところだった! しかしヒールの効果はあったようでじゅうじゅうと肉が溶けて行く音が聞こえていた。
「う、ぐ……! <シ、シニア……ヒール>!」
「ギャアアム! グギャアア!」
一瞬怯んだが、今はもうない双眸がフレーレを見た気がした。そして怯みながらも攻撃を仕掛けてくる!
「痛っ!」
「どうした、自分にかけてみたらどうだ?」
フォルサはフレーレにヒールかけろと言うが、口をつぐんだままフレーレは答えを返せなかった。
涙は出っ放し、目は血走っておりそれほど戦闘していないがすでに満身創痍の様相に見える。
「!?」
隙を見逃さずドラゴンはフレーレに噛みつこうとするが、それをメイスで鼻先を殴り追い返す。
「殴ったね? ルールはルールだ」
「うあ!?」
フォルサはフレーレの後ろへ回りこみ、背中へ拳を叩きつける。
<フレーレ!?>
「ん? 喋る鳥とは珍しいわね? とりあえずそれは後ね。さあ、どうするのかしら?」
フレーレは咳き込みながら考える。
「(回復魔法は使える……そしてドラゴンゾンビには効く……だったら……!)」
「ギャ?」
フレーレがダッシュしてドラゴンの懐へ潜りこむ! それを許すまいと爪で引っ掻いて来た!
ザシュ!!
「っ……! <シニアヒール>!!」
肩をかすめるが、致命傷ではない。フレーレはそのままドラゴンゾンビに手をかざし、回復魔法をを唱えていた!
「ギャオォォォォォン……!」
ズゥゥゥゥゥン……
全身の肉を溶かしきって、ドラゴンゾンビは骨だけになりバラバラになった。
「やった……やりましたよ学院長!」
飛び上がって喜ぶフレーレ、シニアヒールを使った後だが頭痛は無かった、しかし……。
「まあ、45点というところだな。自分に使ってみろ」
「? は、はい<ヒール> う……」
少し頭痛がしたが、何とか回復は出来た。
「で、出来ました! これなら……」
「これならなに? 死にに行くつもり?」
フォルサは呆れた様にフレーレへと言葉をかける。まあ座れとドラゴンの骨に腰掛けていた。
そしてじっと目を見て問いかける。
「……治癒の心は?」
「はい!? えっと、慈愛の心……です」
「そうだ。確かに君はドラゴンゾンビを倒した。だが、その時の心はどうだった?」
「無我夢中で何も考えていなかったと思います」
正直な言葉だった、いきなり回復魔法だけで戦えと言われて考える余地などなかったからだ。
「そう、では一度それを置きましょう。それじゃ聞くけどドラゴンゾンビに回復魔法は効く。それは君がトラウマを負ったという、回復魔法を使って傷口が広がった事と同じだとは思わない?」
「あ!」
「からくりは分からないけど、傷口を壊死させているとかそういうことかもしれないわね。でも、そこもどうでもいいの。重要なのは『回復魔法』が必ず癒すものではないということ。アンデッド相手には攻撃魔法よりも効く」
「……それが慈愛と何が?」
「アンデッドとは生前の恨みや妄執、後悔といった感情で出来上がる。それを楽にさせてやるのも慈愛だとは思わない?」
「……」
「君がトラウマを負った状況とは少し違うけどね。君は回復魔法を使った時は相手を思いやっていたはずよ? だから考え方の本質は同じだという事なのよ」
「でもわたしは回復どころか……」
フレーレは俯くが、フォルサの厳しい言葉がさらに続いた。
「自惚れちゃダメよ? 回復魔法にも限界はあるわ。アントンと言う男がかけられた、回復魔法を逆にするという悪意がそれ以外にもあるかもしれないし、そもそも魔法が効かない体質の人だってどこかに居るかもしれないわよ?」
「じゃあ……! じゃあそんな時はどうするんですか!? 回復魔法なんてあっても使えなかったら意味なんてないじゃないですか!」
フレーレは泣きながらフォルサに食ってかかる。それを見て困った顔をしながらフォルサは続ける。
「信じるのよ。自分の力は間違いない、必ず回復するんだって、自分を信じる。その勇気が大切なのよ」
「勇気……」
胸元にあるクロスを無意識に握り呟く。
「それでもダメなら仕方ないじゃない? 回復魔法使いだって万能じゃないのよって、笑い飛ばすくらいでいいのよ」
「そう、そうなんですね……あの校訓の『慈愛』は自分自身の事も含まれている、そう言う事ですね?」
「君がそう思うならそうなんじゃないかしら? さて、君の果たした成果が出たようよ」
「え?」
その時、ドラゴンゾンビから一つの光が現れた。
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