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第五部:終わりの始まり

その89 フォルサ学院長という人

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 「さ、とりあえず今日は再会を祝して乾杯と行こうじゃないか!」

 「……学院長しか居ないんですね……」

 <(ぴー。人望が無いとか?)>

 「何か言った?」

 「い、いえ何も!?(あの人はどこからでも聞きつけるからダメよジャンナ!)」

 <(ぴ!? わ、分かったわ)>

 とりあえずモーニングスターは置いておき、食堂へとやってくるフレーレとジャンナ。
 見知った食堂のおばさんが居て少し懐かしかった。

 「あの陰気な顔したフレーレが友達のために頑張るってんなら腕によりをかけないといけないねぇ!」
 
 一人といえど食事はしなくてはならない。隅でボソボソ食べていたのを覚えてくれていたらしい。

 「お酒も出してね」

 「自分で取ってきな」

 「え!? 酷くない!?」

 「(うふふ、いつもこんな感じでしたね……いつも一人で居るわたしを学院長が引っ張り回してくれましたっけ……酷い目にもだいぶ会いましたけど懐かしいですね)」

 次々と運ばれてくる料理を食べていると、フォルサが明日からの事を話し始める。

 「カリキュラムはもう考えふぁふぇど、とりあえず今の実力を見ふぁいな。君は冒険者にふぁっふぇレベルが上がったんだろう?」

 「食べるか喋るかどっちかにしてください……はい、少しは変わっていると思いますけど」

 「期待しよう。酒は飲まないか?」

 「明日から訓練するなら止めておきます。わたしは急がないといけないので……」

 「そう? 焦るのと急ぐのはかなり違うから気を付ける事ね。助けたいと思うのは立派だけど、君まで倒れたら誰も助けれなくなるという事も考えないと」

 フォルサは真面目な顔でフレーレをじっと見て言った。

 「そう、かもしれませんね。今もルーナが苦しんでいると思うと、気がはやってしまって」

 実際ルーナはそんなことになっていないのだが、今のフレーレには知る由もない。
 しばらく無言でカチャカチャと食器の音だけが響く夕食となった。
 そしてふと気づいたように、フォルサが声をあげる。

 「そうね……明日は前に出来なかった精神面の訓練をしましょうか! そうと決まれば今日は早く寝なくっちゃね」

 「? 急に元気になりましたね? 精神の修行は終わったと思いましたけど……」

 <(嫌な予感しかしないわね……)>

 このジャンナの勘はもちろん的中する。

 そして旅の疲れをお風呂と睡眠で癒し、翌朝を迎える。


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 陽もまだ出ていない、少し肌寒い中フレーレは動きやすい服装とメイスを持って外に出ていた。
 グラウンドのような場所の真ん中でフォルサが仁王立ちしているのが遠くからでも分かる。

 フレーレは駆け足でそこまで行き、ジャンナは頭上をパタパタと飛んでいた。

 「来たわね」

 「おはようございます、学院長! まずは腕試しからですよね?」

 「そうよ、ってその小鳥は何? かわいいわね」

 フレーレの肩に止まったジャンナをみてうっとりするフォルサ(年齢不詳)がそこにいた。
 不穏な気配を感じたジャンナはフレーレの胸元へ逃げた。

 「チッ、勘のいい……さ、それじゃまずは『スケルトンサバイバル』から行くわ」

 「あれですか、分かりました!」

 スケルトンサバイバルそれは……

 「『出でよ、死してなお現世にしがみ付く魂よ。そのおぞましき姿を現したまえ!』」

 フォルサが呪文を唱えると、黒い塊が集まり、それが骸骨の姿へと変貌する。
 その数は10や20どころではなかった。
 この骸骨たちを倒していく訓練が『スケルトンサバイバル』なのだ。

 「久しぶりですね、これも。いつでもいいですよ!」

 <(ぴ! 何このスケルトンの数……!? 聖職者がアンデッドを喚ぶなんてありえないでしょ!)>

 「それじゃ……3、2、1……始め!」

 合図と同時にフレーレが走る!

 「一つ!」

 ガシャン! と、骨董品が割れたような音が響く。
 
 「二つ! 三つ!」

 骸骨の頭を確実に撃ち砕き、その数を減らしていく。
 十体を越えたところでフォルサが叫んだ!

 「スピードを上げるよ、マジックアローも使っていかないと危ないかもね?」
 ふふふ、と口の端を吊り上げて笑う。
 その宣言通り、骸骨のスピードは急激に早くなった!

 骸骨達が振り降ろしてくる拳が徐々にフレーレへとヒットしていき傷を負うフレーレ。
 それでも回り込まれまいと位置取りを考えて移動しながらメイスを振るう。


 「二十一……二十二……!? ≪マジックアロー≫! はあ、はあ……」

 そして四十五体を倒したところでフレーレが地面へぶっ倒れ訓練が終了。
 骸骨たちはピタッと止まり、指示待ち状態へと変わる。

 「15分20秒……ふうん、全部頭を砕いているわね、後半の体力が落ちた状態でもできているから合格。でも魔法を使いながらの複数討伐は微妙だったわね。65点ってとこかしら? ただ、体力と腕力は上がっているわね。代わりに早さと魔力の伸びが悪い……あまりマジックアロー使ってないんじゃない?」

 以前のフレーレは三十体程度でへばっていたので、進歩したと言えるだろう。
 しかし指摘通り、ルーナの補助魔法で戦う事が多かったためレベルを上げて物理で殴る戦いが多くなっていたのだ。それゆえ使えば伸びる魔力があまり成長していなかった。

 「ふう……ふう……そうですね、友達……ルーナの補助魔法が強力過ぎて、その辺の魔物ならヒット&アウェイで頭を狙えますから……」

 「なるほどね。まあ頭を狙うのを忘れていないならいいわ、どんな生き物も頭を潰されれば息絶えるからね。それこそスライムにだって核という脳みそのようなものがあるし。相手が殺す気で来るなら容赦はしちゃだめよ? たとえ知っている人間であろうとね」

 「は、はい」

 <(この人、実は魔王なんじゃない?)>

 「(しっ、聞こえますよ!? 確かに強さは異常ですけど……)

 「さて、それじゃあ魔力の底上げの訓練をしましょう」

 「はい、お願いします! このスケルトンはどうするんですか?」

 「ああ、そうね。君に任せてもいいけど、私の準備運動に使わせてもらおうかな」

 フォルサはそう言うとパチンと指を鳴らす。すると骸骨達は再び動き始める。

 「学院長! 武器! 武器は!?」

 「ああ、大丈夫よ。最近パッと思いついた技を見せてあげるわ……はああああ……」

 フォルサが拳を握り、力を込めると両手が金色に光り出したではないか!
 そしておもむろに近づいてきた骸骨が拳を振り上げた時、それは起きた。

 パン

 乾いた音、そう丁度濡れたタオルを振った時のような音がした。
 そして骸骨の頭は砂のように粉々になってしまっていた。

 「へ?」
 <(はあ!?)>

 パパパパパパパン!

 殴った腕が見えないほどのスピードで骸骨達が次々と倒れていく。
 七十は居た骸骨は三分で片付けられてたのだった……。

 <(な、七十体のスケルトンをたった三分で……>

 「スケルトンも武器を持っていないとはいえ……」

 「あーすっきりした! これは体内の気力と魔力を混ぜて具現化する技よ。私は『聖魔光』と名付けたわ! これの訓練も含めて次行きましょうか。とりあえず三日。君の実力なら、それくらいでいけそうだわ。でも三日で終わらなかった時は……覚悟しておいてね?」

 「……」

 できなかった時はきっとわたしを殺すつもりなのだろうとフレーレは思っていた。『期待していたモノに裏切られた』時、この学院長はその対象を容赦なく潰しにくる。

 学院時代、それで何人もの生徒が再起不能に陥ったのをフレーレは知っている。中途半端な人間には見向きもしないが、いざ目をつけられると生きるか死ぬかしかないのだった。

 ただし、生き残る事が出来れば、多大な力を得る事ができるので今のフレーレには必要な事であった。
 しかしトラウマを克服する訓練など知っているのだろうか? その思いは来る前からあったが、それでも今はこの学院長にすがるしかなかった。 

 そして次なる訓練が始まる。





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 <魔王城>


 ディクライン、カルエラート、バステトが到着した先は一つの部屋だった。
 特に変哲もない部屋のようだが、薄暗く中が見えにくい。

 「……何か居るにゃ……」

 「気づいたか、中々やるなお前。まずはこれを見てもらおう」

 ディクラインが明かりを点けると部屋の真ん中にベッドが置かれていた。
 しかし、その周りをガラスの箱のようなものが覆っており、中には……


 「これは……女の子?」

 「そうだ。この子は俺達が魔王を倒す前に戦っていた子なんだ。そして敗北を前に、勇者を転移魔法で帰し、一人残って戦った……その仲間も他の場所で眠っている」

 「10年前の事? でも魔王は私達が倒したし……」

 「カルエラート、お前はその時魔王の所には居なかっただろ?」

 「え、ええ……あの時私は、アイディールと一緒に側近のアンゼルムと戦っていたわね」

 「そうだ。その時に魔王と対峙したのは俺とベルダー、そしてゲルスの三人だけだ」

 「それと私と何の関係があるにゃ?」

 「いい所に気付いたな、詳しくはまだ言えないが、そのバステトを倒して持ち帰った女神の力、それを全て解いた後まずは女神アルモニアを復活させるつもりだ」

 「……復活させた後はどうする……いや、いいか。私はお前に着いて行くと決めた時から何があってもお前の味方であるつもりだからな」

 「すまんな。封印はルーナが解いた分が三つ、お前が一つ解いたから残り三つだな」

 「誰が解かれたのか気ににゃるけど……」

 「ま、それは追々な。お前には少し聞きたい事があってカルエラートに解いてもらったんだ」

 「ほほう、この私を選ぶとはお目がたかいにゃ! 何でもきくといいにゃ!」

 「いや、ここから近かっただけなんだけど……」
 カルエラートがボソっと呟いたが、ディクラインが「シッ」と口に人差し指を当てた。
 調子に乗らせて喋らせるつもりなのだろう。


 ガラスの箱に入ったベッドで寝ている少女は一体何者なのか?
 そして、元勇者パーティだったというゲルス。謎は深まるばかりであった……。
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