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第五部:終わりの始まり
その88 聖職者育成学院 オブリヴィオン
しおりを挟むゼタの町で一泊したフレーレは朝早く学院に向けて出発した。
今日中に辿り着くにはこれくらいの時間でないと、暗くなってしまう。
小高い丘に建てられているのだが、曲がりくねった坂を登らなければならないためである。
<ぴー。あふ……まだ眠いわー……>
「ジャンナはポケットにでも入っていてください。わたしが登りますから!」
見知った仲間が来てくれたというのはフレーレにとって代えがたいものだったようで、坂を登る足取りは軽かった。
<ぴー。今から行くその学院ってどんなところなの? 昨日は質問攻めにあったから聞けなかったけど>
「そうですね、まず女の子しか居ませんね。そして、シスターやプリースト、果てはビショップ、ヴァルキリーみたいな聖職を育てるための学校なんですよ? 回復魔法やカリスマみたいな恩恵がある人くらいしか入れないんですけどね」
<ぴ、フレーレは回復魔法の恩恵があるから入れたのね>
「そうですね、恩恵がある人は国からの援助で学費はかからないのであの時のわたしはかなり、助かりました……」
実際、里親になりたい親というのは子供が出来ないからや、死別したりといった事情で欲しがる人が多い。
フレーレのように良い恩恵があると、将来の仕事はお金が稼げる可能性が高いので、老後も安心である。
だが、蓋を開けてみると城でずっと仕事をして帰って来なかったり、ひと昔なら戦争に駆り出されたりと、親としては心配なことが多いため、回復魔法の恩恵持ちであるフレーレは引き取り手が居なかったという訳である。
「結構、自暴自棄になってましたから、学院時代は恥ずかしいんですけどね……」
<ふうん?>
顔を赤くするフレーレがそんなにやんちゃをしていたとは思えないジャンナ。付き合いが長いチェイシャやルーナであれば「あー」とでも言ってくれたかもしれない。
そんな話をしながらどんどん坂を登るフレーレ。
道の途中にある川で休憩し、昼食をとった後もその速度を下げずに突き進んで行った。
「……着きました、ここがオブリヴィオンですよ」
門が見える位置まで歩き、立ち尽くすフレーレ。「学院」のはずだが、あまりに静かである。
夕日が照らす校舎はどことなく不気味さを醸し出していた。
<なんだか薄気味悪いところね……>
「ええ……厳しい修行に耐えられなかった人は……行きましょうか」
<ぴ!? 耐えられなかった人はどうなったの!? ねえ!>
---------------------------------------------------
門に少し歩いていくと小さな建物が見えてくる。
フレーレが近づき、小窓へ声をかけるとにゅっと顔が出てきた。
「すいません、校舎へ行きたいんですけど許可証をお願いできますか?
「はいはい、校舎に行きたいだなんて物好きがいたもんだね……おや、あんたは?」
「あ、まだいらっしゃったんですね。わたしフレーレです」
眼鏡をかけなおしフレーレの顔を見てきょとんとするお婆さん。それに応えるとお婆さんは笑いながら許可証を出してくれた。
「おやま、歴代でもトップクラスの成績で追い出さ……卒業したフレーレちゃんかい。もう帰ってこないと思っていたよ」
「わたしもそのつもりでしたけどね、どうしても学院長にお願いしたいことがありまして……」
「あんたがかい? 明日は大嵐かね……。学院長はあんたはいつか帰ってくるってずっと言ってたけど、その通りになっちまったねぇ。気を付けるんだよ?」
「はい! ありがとうございます!」
お婆さんに手を振りながらフレーレは校舎を目指す。
余談だが、フレーレは隻眼ベアの事件があるまではビショップだったことを覚えているだろうか?
本来、フレーレの年齢でなるのは非常に難しく、なりたての冒険者がシニアヒールまで持っているのも稀なのである。学院での修行と努力によりその技能を身につけており、他の人間より頭一つ上だったりする。
<ぴー。あなたって凄いのね?>
「そんなことないですよ。凄かったら回復魔法が使えなくなるなんてこともないでしょうから……」
<(素質はある、けど心が弱い、か。あたしのクロスを大事にするわけね……でも重要なのはそこじゃないのに……)>
誰ともすれ違うことなく、フレーレは目的の部屋へと辿り着く。
扉の上には『学院長室』のプレートが掲げられていた。
フレーレがノックしドアを開ける。
「失礼します……」
部屋は真っ暗だった。
「あれ? 学院長、居ますか?」
フレーレが声をかけると奥の机でふっと明かりが点いた。どうやら蝋燭のようだ。
顔の前で手を組んで座っているロングヘアの人影が口元に笑みを浮かべている。
「学院長……?」
再びフレーレが声をかけると、人影は突然叫びだした!
「治癒の心は!」
「! 慈愛の心!」
「汚れた魂に!」
「安息を!」
「受けた仇は!」
「倍返し!」
「出てきた禍根は!」
「根こそぎ断て!」
すると人影が立ち上がり、部屋が一気に明るくなる。
「おかえりフレーレ!」
「……まだこの校訓なんですか? だから一般の人が怖がるんですよ……」
「いいじゃないか、分かり易くて。よっと!」
机を飛び越えてきた灰色のロングヘアをし、紫のローブをまとったこの女性こそが……。
「お久しぶりです。フォルサ学院長」
「2年ぶりか、おっぱい以外はあまり変わってないな君は!」
「や、止めてくださいよ……」
学院長のフォルサであった。
---------------------------------------------------
「それで、今更この学院に何のようなの?」
「はい、二つ頼みたいことがありまして」
出された紅茶を飲みながらフレーレは肩を落とす。フォルサはそれを見て眉をひそめる。
「私に頼みごととは、切羽詰ってるわね。昔の君なら絶対に言わないセリフだ。何があったの?」
「実は私の友達が……」
フレーレは置かれている状況を全て話した。ルーナの事、回復魔法が使えない事、女神の力の事など全てだ。ジャンナが喋れること以外は情報を開示していた。
「へえ……面白そうな事に巻き込まれているわね。しかし君に友達か、それは喜ばしいわね。となると何とかしてあげたいところなんだけど……」
フォルサが顎に手を当てて考える。ルーナの奪還は無理だとしても、回復魔法は何とかならないだろうか?
フレーレはごくりと唾を飲みこんで、頼み込んでいた。
「お願いします! あの怪しい催眠術でもなんでもいいですから! ルーナを助けるために何でもします!」
「え? 今、『何でも』って言った?」
あ! とフレーレが小さく呻く。しまった、何でもはマズイ。この人の『何でも』は死人が出るとフレーレは感じていた。
「あ、いえ……何でもじゃありません!」
<(変わり身早いわね!?)>
「そう? 聞き違いかしら……とりあえず話は分かったわ。まずは回復魔法を再び使えるようにしましょうか。今日はもう暗くなったから、明日までにカリキュラムを考えておくわね」
「あ、ありがとうございます!」
「そうと決まれば今日はご馳走ね、こんなこともあろうかとすでに食堂には手を回しておいたわ! 後は渡し損ねていた卒業祝いをあげるわね。君は逃げるように去って行ったからね……一応卒業扱いにはしているから」
「あの時は本当にすいませんでした」
「まあ、あれは向こうが悪いからね。あれ? この辺に置いていたはずだけど……」
フォルサが部屋の奥にある宝箱をごそごそと漁り、卒業祝いとやらを探していた。
「君、ビショップよね? 冒険者になるって聞いていたから武器を用意していたんだよ」
「そうなんですか。わたしたちの武器って剣みたいな刃物はダメだから中々無いんですよね」
今はアコライトだが、とりあえず話の腰を折らないよう訂正せずに進める。尚もごそごそとするフォルサ。
「まあヴァルキリーなら戦闘職だからいいけど、プリーストとかは『一応』殺生ご法度だから……お、あった!
私が用意したのも刃物じゃないから安心していいわよ」
宝箱からそれを取り出し、フレーレの元へ歩く。
「はい、卒業おめでとう。遅くなったけどあげるわ」
「あ、はい! ありがとうございます! あ、今持っているメイスより軽いですねって、先っぽにトゲトゲがいっぱいついてるーーー!?」」
「いいでしょ? モーニングスターって言うのよ」
「よくありませんし、名前とかどうでもいいですから!? こんなので殴ったら確実に死んじゃいますよ!」
「いいじゃない、魔物相手なんでしょ? 冒険者って」
「野盗退治とか人間の相手もしますからダメですよ!」
「大丈夫よ、刃物じゃないし、君は可愛いから『てへっ間違えちゃった』って言っとけば許してくれるわ……きっと。頑張って振れーレ!」
「振りません! 何を間違ったらこんなに殺傷能力の高そうなのとメイスを間違えるんですか……そもそもこんなにトゲトゲしていたらしまっておく所がありませんよ?」
「腰から下げておけばいいじゃない。痴漢避けになるわよ?」
「普通の人も近寄ってきませんからね!?」
<(ぴー。これは疲れるわね……フレーレがここに帰りたくない理由が分かった気がしたわ……)>
尚も続く口論を聞きながら、今日の夕飯の事を考えるジャンナであった。
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