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第五部:終わりの始まり
その87 フレーレの旅立ちと女神の封印
しおりを挟む「よし! それじゃあ行きましょうか!」
ひとしきり泣いた次の日、教会の部屋を片付けてフレーレは学院を目指すことに決めた。
今が役立たずなら、そうじゃ無くなればいいと考えた結果である。
回復魔法が使えない相談も、学院長なら何か手はあるはずという考えも少なからず期待していた。
「(でも、あの人の事だから疲れそう……)」
さて学院長は何者なのか? ため息気味のフレーレである。
ちなみにアルファの町から馬車でゼタという町まで行き、そこからは歩いていく必要があるのだ。
「ゼタの町行きの馬車にお乗りのお客様はお急ぎください~」
「あ、の、乗りますー!」
マジックバッグを背に、フレーレは馬車の荷台へと乗り込み、いよいよ出発となった。
思えば学院を卒業後、アルファの町に戻ってから一人で動くことは殆どなかったことに気付く。
「(……レジナやシロップちゃん達でも居ればいいのに……)」
心の中でそう呟くのを見透かしたように、上空ではジャンナがパタパタと飛んでいた。
レイド達から離脱した後、フレーレの居る教会へ向かいがどうするのか様子を見ていたのだ。
<ぴー。朝からバタバタしていたけど、どこに行くのかしら? 見失わなくて良かったわ>
少しレイドと離れるのが遅れていたらフレーレは出発していただろう。ただ、フレーレはジャンナのクロスを持っているので追う事は難しくない。
<次の町へ着いたらレイドに合流も難しいでしょうし、その時に顔をみせましょうか……>
ゼタの町はビューリック側の山と逆方向なので、もう追う事はできない。仮に追うとフレーレが言ったところでジャンナもどこに居るのか分からないのだ。
馬車は順調に歩を進め、道程の半分以上は過ぎていた。この調子なら夜には到着するだろう。
ガタゴトと前に座っていたおじさんがリンゴを差し出してくれた。
「眠そうだね、良かったら食べなよ。女の子一人でどこまで行くんだい?」
「ふあ……あ、ありがとうございます! あ、おいしい……ええ、ちょっと知り合いに会いに……」
オブリヴィオン学院は有名だ。ただし悪名の方で。
厳しい修行と監獄のような規律。デッド・オア・アライブ。そんな噂がまことしやかにささやかれる場所にフレーレは身を置いていたのだった。
概ねこの学院の事を話すと人に引かれるので、フレーレは極力黙っていることにしているのだ。
「ふうん。ま、気を付けてな。とはいえこの辺りは平和だけど……」
と、それだけ言いおじさんは他の人にもリンゴを配りながら話しかけていた。恐らく商人で、情報収集のためだろう。
「あふ……ちょっと眠くなりましたね……少し、眠ろう、かな……」
言うが早いか、荷台の隅に座っていたフレーレは壁を枕に眠り始めた……。
そして屋根の上に居るのはジャンナだ。
<ぴー。じっとしているのも飽きるわね。早く着かないかしら……>
段々落ちていく陽を見ながら、ジャンナもうとうとするのであった。
---------------------------------------------------
「お嬢ちゃん、着いたよ!」
「は、はひ!?」
突然揺さぶられて慌てて身を起こすフレーレ。キョロキョロと見渡してみると馬車からは人が降りて行っているのが見えた。
「す、すいません……」
涎を拭いてカバンを手にして馬車を降りる。念のため財布があるかカバンを見て、ホッとしていた。
「まあわたし以外開けられない様になってるから盗られないとは思いますけどね。さ、もう真っ暗だし宿を取らないと」
ほぼ半日以上使って到着した町は、すでに店も閉まっており閑散としていた。
ちらほら酒場や食堂の明かりが見えるが、一人ではあまり行けないのでフレーレは宿で食事が取れる事を期待して道を歩いて行く。
「やっぱり一人は寂しいですね……」
その時だ、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、一羽の鳥がフレーレの元へ飛び込んできた。
<ぴ、ぴー! ま、待ってぇ! ね、寝過ごしちゃったわ……>
「ええ!? ジャンナ!? どうしてこんなところに?」
驚いたのも無理はない、もう皆バラバラになってしまったと思っていた所にジャンナが現れたからだ。
学院に行った後、一人でもビューリックに向かうつもりだったフレーレには嬉しい誤算である。
<フレーレはあたしのクロスを持ってるでしょ? だから追いかけて来たのよ。他の皆はどこかへ行ったわ。主でも探すんじゃないかしら?>
サラリと有無を言わせない嘘をついてフレーレには自分だけがついて来た事を告げる。
「そう……そうですか、でも追いかけて来てくれてありがとうございますジャンナ! あ、丁度宿へ行くところだったんですよ、行きましょう!」
少し元気を取り戻したフレーレを見てひと声鳴くジャンナ。
そしてフレーレはジャンナをそっと掌に載せ、ニコニコと宿屋を目指すのであった。
---------------------------------------------------
<廃城>
「ほら、今日からここがお前の住処だ」
「にゃー!? 乱暴にするにゃ!」
フルプレートに身を包んだ女騎士が、つまんでいたトラ猫(?)を絨毯の上へと放り投げると、トラ猫(?)は憤慨して抗議を始める。尻尾をうまく使って二本脚で立っているのが可愛らしい。
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、廊下から男が入ってくる。何とその顔は……
「何だ、騒がしいな……お、カルエラート帰ったのか。するとそいつが?」
「ああ、ディクラインか。丁度いい、これを受け取ってくれ」
カルエラートと呼ばれた女性がディクラインへサークレットを手渡す。
それよりも問題はその男だった。ディクラインはルーナの父親である。
「っと、女神の封印を解いてきたか、サンキュー。で、その猫は何の封印だったんだ?」
「猫じゃないにゃ! バステトは虎だにゃ! ふっふっふ、聞いて驚くにゃ? ”暴食のバステト”とは私の事だにゃぁぁぁ!?」
「うるさいぞ猫。私がディクラインと話している最中だろうが」
カルエラートはバステトの尻尾を踏んで黙らせる。当のバステトはディクラインの後ろに隠れて尻尾をふーふーしていた。
「あの女酷いヤツにゃ! 殺られた時も私がぐっすり寝て居る所を奇襲してきたのにゃ。騎士の風上にもおけにゃいのだにゃ!」
アッカンベーをするバステト。何かに火が付いたカルエラートは剣を抜いてディクラインへ手を差し出す。
「ディクラインその駄猫を渡せ、やはりあの時殺しておくべきだった。後悔した。もう後悔し終わったから、そいつをバラバラにして海に捨てる」
目の光彩が無くなったカルエラートを見てバステトが「ひっ」と小さく呻くとディクラインがカルエラートを制していた。
「まあまあ、落ち着けよ。暴食ってことはこれは忍耐のサークレットか」
「そうにゃ。あなたは色々知っていそうだにゃ? ちょっと何が起こっているか聞かせて欲しいにゃ。どうもお仲間も封印が解かれているみたいだしにゃ……」
バステトが状況を尋ねると、ディクラインに宥められたカルエラートも剣を置いて近くの椅子に座り、訪ねていた。
「そうだな、私も聞いてみたいものだ。魔王との戦いからもう10年だぞ? この魔王城暮らしも慣れたが、お前とベルダーのやっている事をそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「にゃ!? こ、ここは魔王の城なのかにゃ!? あ、私はちょっとおにゃかが……」
逃げようとしたところでバステトはカルエラートに捕まり膝の上で撫でられる。しかし撫で方が雑なので痛いだけだった。
「まあこの女神の封印しているアイテムを取ってきてもらっているし、そろそろいいか……こっちに来てくれ」
ここで話せないことなのかと顔を見合わせたカルエラートとバステトだが、さっさと歩いていくディクラインを慌てて追い始めた。
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