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第五部:終わりの始まり

その84 フレーレの過去

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 「これでよし、と。ルーナちゃんの事は聞いたわ、あまり落ち込まないようにね? チャンスは必ず来ると思うから」

 フレーレに頼まれてレイドの治療を行ったシルキーはルーナの事は聞いていたため、レイドとフレーレの二人が無茶をしないようやんわりと注意をする。

 「ああ、そうするよ……」

 負けたショックなのか、レイドは窓の外を見ていた。シルキーの言葉にも生返事をするばかりだったのだ。

 「それじゃ私は行くわ。体は動くと思うけど、血は回復しないから無理はしないでね?」

 それだけ言ってシルキーは病室を出て行く。それでもレイドは窓の外を見ながら片手をあげて挨拶するだけであった。

 そしてしばらくし、入れ替わりにフレーレが入って来た。

 「レ、レイドさん! ギ、ギルドの人達がルーナの救出は保留にするって!」

 「俺が出て行った時の口ぶりからするとそうだろうな……」

 「今からギルドへ抗議に行きましょう! このままじゃルーナがかわいそうですよ!」
 
 「そのつもりだ、今から行こう。俺に良い考えが……」
 すると病室のドアが開き、ファロスとイルズが入って来たではないか。

 「ギルドマスター……」
 フレーレがファロスを見て呟くと、ニコッと笑みを浮かべてベッドの近くまで歩いてくる。

 「具合はどうだ? といってもシルキーが治したようだから傷は大丈夫だろう。ここに来たのは二人に話があったからだ。フレーレちゃんも居るのは僥倖だったが……」

 ファロスに続いてイルズが話を続ける。

 「レイド、フレーレ。二人共ビューリック行く事は許可できん。これを守らなかった場合反逆者として扱う事にするから注意するようにな」

 「え!?」

 「ど、どういうことです!?」

 ファロスが言うには、冒険者はギルドに登録することで冒険者になれる。言わばギルドに雇われている状態なのだ。そのため、ルールに従う必要があると説明された。

 「でも人の命がかかっているんですよ!?」

 「下手にエクセレティコの人間が関わると、こちらの国のせいにされかねんのだ。それを口実に戦争が始まる可能性だってあるんだぞ? 向こうの国王は、言っちゃ悪いが狂気じみているらしいからな」

 「し、しかし……!」「でも!」
 尚も食い下がる二人に、厳しい言葉が飛んできた。

 「それにお前達はルーナちゃんの何だ? 親か? 兄妹か? 恋人か? そこまでする必要があるのか? ギルドを敵に回して、ビューリックから狙われる可能性があるというのに。この国全体に関わる問題になるかもしれないんだぞ。それでも助けに行くと言うのかお前達は! 何か考えがあって行ったということも考えられるだろう? 信じて待つことも大事だとは思わんか?」

 「う、ぐ……!」

 「そ、それは……」

 イルズの言葉にぐうの音も出ない二人。
 「行動には十分気を付けるんだ」とファロスがいい残し、再び病室はレイドとフレーレのみになる。

 「あ、あの」

 「すまない、今日はもう帰ってくれないか?」
 フレーレは手紙とパーティの事を話そうと思ったが、レイドは考え事をし取りつく島も無かった。
 仕方なくフレーレは病室を後にし、教会の自分の部屋へと戻って行った。


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 そして翌朝……

 色々と考え事をし過ぎて、明け方になるまで寝つけなかったフレーレ。
 餌を食べず、しょんぼりしたままのレジナ達を思い出し山の宴へと向かう。

 裏庭の小屋へ行くとそこはもぬけの空だった。

 「あれ? 一匹も居ない……狩りにでも行ったのかしら?」

 それなら少しは元気が出たという事なので問題ないがフレーレは胸騒ぎがしていた。
 そこに丁度マスターが出てきた。

 「マスター! レジナ達、いつから居ないんですか!」

 「俺は今朝から見てないな、朝ごはんを持ってきたときにはすでにいなかったよ。てっきり君の所に行ったと思ったんだけど、違うのかい?」

 それを聞いて山の宴を飛び出すフレーレ。
 まず向かったのはビューリック側の門だが、こちらでは見ていないと門番さんに聞いた。
 そして次に近隣の森方面の門番さんへ話を聞くと……。


 「ああ、あの親子かい? 今朝早く森へ入っていくのを見かけたね。いつも勝手に出て行くんだよね、ははは」
 門番さんは笑いながら、まあ動物だからいいけどと言いながら持ち場に戻って行った。
 狩りなら帰ってくるハズ。そう思い小屋の前で待っていたが、その日、狼の親子が姿を現すことは無かった。


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 さらに翌日


 「レイドさん、チェックアウトしたんですか?」

 「ああ、今朝早くに出て行ったよ。何か用事でもあったのかい?」

 「い、いえ……ありがとうございます……」

 宿を後にし、今度はギルドへ向かうがそこにもレイドの姿はどこにも無かった。

 「フレーレちゃん、どうしたんだい?」

 一昨日の剣幕を思い出し、一瞬ビクッと強張るが、手がかりも無いため一応レイドの事を聞くことにした。

 「レイドさんはこっちに来ませんでしたか?」

 「レイド? いや、病室で会ってからは見てないな。どうかしたのかい?」
 どうやらギルドにも来ていないらしい、居ないことを悟られてはまた騒ぎになりそうだとフレーレは何も言わずその場を後にした。

 そして……

 「……レジナ達、今日も居ないですね……」

 「ああ、一度も帰ってきていないよ。ルーナちゃんが居なくなったし、もしかしたら森に帰ったのかもしれないね。あいつは頭が良かったから、ルーナちゃんが帰ってこないとふんだのかもしれないなあ……」

 マスターは頭を掻きながら店の中へと戻って行く。

 「そうだ! チェイシャちゃん達は!?」

 そのままルーナの部屋に入らせてもらったが、そこには誰も居なかった。
 
 「そ、そんな……誰も……誰も居なくなっちゃった……」

 アントンなら何か知っているかもとフレーレは走る。だが……

 「アントンさんは今はギルドで匿われていますよ? 何でも、近々大きな会談があるとかで……」

 「そう、ですか……ありがとうございました……」



 それから町のあちこちを探したが誰も見つける事が出来ず、教会へと戻るしかなかった。
 
 「……一人になっちゃった」

 枕に顔をうずめて一人呟く。誰も答えを返してくれる者はいない。

 「なんでかなあ……なんでわたし、最後はいつも一人なんだろう……」

 フレーレは孤児だ、なんとなく教会での日々を思い出す。
 他の孤児達と仲良く過ごしていたが、一人また一人と里親が見つかりその数を減らしていく。

 何故かフレーレだけはいつまでも里親になってくれる人は現れなかった。

 回復魔法の恩恵があるのは分かっていたため、神父の勧めでプリーストやビショップを育成する学院に入学し、そこで魔法のイロハを習得したのだ。

 学院では友達も居たが、フレーレの能力は他人よりも高く、それを見て卑屈になった生徒達から次第に仲間外れにされるようになってしまった。

 「あの頃は色々考える暇も無かったけど、寂しかったな……」

 そんなこともあり、一人で居るのは嫌だと思うようになる。
 かくして、若いうちからビショップへと至り、冒険者として登録をした後、アントン達と出会うことになる。

 あの頃は身勝手なだけなアントン、ディーザ、フィオナ達だが、好きに生きている事を羨ましいと思い、自分もそうなりたいと思っていた。

 しかし、ご存じのとおり裏切られ再び一人になってしまう。だが、その事件をきっかけに出来た友達がルーナだった。
 
 「ルーナと一緒に居るのは楽しかったな……レジナ達もチェイシャちゃん達も……」

 それももう終わり。

 森へ帰ったレジナは帰ってくることは無いだろう、どこへ行ったか分からないがチェイシャ達も主を探しに行ったのかもしれない。そしてレイドは自分に迷惑をかけないよう黙ってルーナを助けに行った、そんな気がしていた。
 回復魔法が使えない自分はただの役立たずなのだから。

 「う、うう……一人は嫌だよう……」

 ひとしきり泣いた後、フレーレは先ほどの学院の事を思いだす。
 
 「そうだ……学院長……あの人ならもしかすると……」

 思い立ったフレーレはすぐに行動を開始する、かつてお世話に、そして苦しめられた恩師に会うため旅立つ。
 その学院の名は『オブリヴィオン忘却』、フレーレはそこで何かを見つける事ができるのだろうか?
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