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第五部:終わりの始まり
その81 ベルダー、その目的
しおりを挟む「これは……どういうことだ……」
睡眠薬の効果は抜群だったが、レジナ達が騒いでいたおかげで、耐性のあったレイドは他のみんなより早くに目を覚ました。
それでも眠ってから四時間は経過しており、ルーナが残した手紙を読んで愕然とする。
「う……レイ、ドさん?」
次に目を覚ましたのはフレーレだ。
頭を振りながら、突っ伏していた体を起こしレイドの方を向く。
「フレーレちゃん、大丈夫かい?」
「くぅーん……」「きゅん」「きゅーん……」
「あ、はい……体はどこも……え!? レジナ達、何でケージに? ルーナ、チビちゃん達をいじめたら……ルーナ?」
フレーレはレジナ達をケージから出しながらルーナを呼ぶが返事は無い。寝ているのかと思い、店内を見渡すもどこにもルーナの姿は無かった。
「……ルーナちゃんは、ベルダー達と一緒にビューリックへ行ったようだ……それも脅迫されて……くそ!」
「ど、どういうことですか!?」
レイドから手紙を渡され、それを読んだフレーレの顔が見る見るうちに曇り、目には涙が滲んでいた。
「どういうことなのかなんて俺が聞きたい! ……ともあれ、俺はギルドへ向かう。フレーレちゃんは皆を頼んだよ」
「は、はい!」
まさかこんな短時間で事を起こすとは……慣れ親しんだ町ということでレイドは油断したと思っていた。
自分がついていながら……後悔しても遅い、今はできることをやらなければとレイドはギルドへ走って行った。
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<ルーナSide>
「……」
「強引な手で悪かったが、これも必要な事なんでな」
ベルダーとライノスに挟まれて馬車を移動するルーナはずっと俯いたままだった。
「強引? あれは脅迫って言うのよ?」
ルーナはレイドとフレーレと別れた後、山の宴に入る直前でベルダーに呼び止められたのだ。
部屋に戻れば狼達や魔神が居る可能性を考え、ベルダーは完全に一人になった所を狙った。
そしてベルダーが告げた言葉とは……
「今夜、大人しく俺達に着いて来なければ、レイドさん達を皆殺しにする……脅迫でなくて何なのよ?」
「も、申し訳ない……」
ライノスは謝るばかりで、話にならない。ベルダーはルーナに嫌味を言われてもどこ吹く風だった。
「……俺は俺の目的の為に行動するだけだ。そしてお前にはやってもらうことがあるから連れてきた。手荒な事をするつもりは無い」
「どうだか……とりあえず私はクーデターとやらに加担する気はないわよ。そんなことしようとしたら舌を噛み切って死んでやるんだから」
「ルーナさん、お、落ち着いてください……ベルダー殿、少しくらいなら話しても構わないでしょう? オレにも関わっている話ですし。実は……」
「ふん、まあ少しならいいだろう」
ライノスの話はこうだ。
ルーナがクーデターに参加しないのは読み通りで、そこを強制するつもりは無い。
だが、ライノスの妹と義理の父は助けたい。
そしてベルダーはゲルスを討ち果たしたい。
そこでルーナが動いてくれるのが最適なのだと、ライノスは言う。
国王がルーナを欲しているのは承知しており、ファロスやアントンの話からすると、ゲルスもルーナの力を求めている節がある。
そこでルーナを国王に献上するフリをして、クーデター前にライノスの妹、エレナを見つけ、大臣と共に町へ逃げ出して欲しいと言うのだ。
ゲルスはビューリックにルーナが居ると知れば必ず戻ってくるハズ、そう思い全ての事柄を一度に終わらせるため、ルーナを連れて来たのだと。
「エリックと一緒にルーナさんを連れて行こうとした時はここまでの解決策はありませんでした。オレも妹をダシにされて国王の言いなりになるのは終わりにしたいんです。ルーナさんには関係ない事で本当に申し訳ありませんが、力を貸してください! 補助魔法のあるルーナさんなら、エレナを連れて逃げられると思うんです!」
狭い馬車内で頭を下げるライノス。勝手な事を言うと思いつつ、それでもルーナは腑に落ちないことがあった。
「レイドさん達に力を借りないのはどうして?」
「さっき自分で言っていたろうが『クーデターに参加する気は無い』と。あいつらも一緒だろう? 後は別の国の人間がウロウロするのは目立ちすぎるからな」
「なるほどね。レイドさん達が私を囮にする作戦に承諾するとも思えないってのもありそうね」
「そういうことだ、少し寝ていろ。着いてから寝れるとは限らんからな。クーデターまで時間はあるが、キナくさい事に代わりは無い。念のため見張りをするか……」
そう言うとベルダーは毛布をルーナにかけて御者台へと移った。
釣り大会からずっと起きており、少しだがお酒も飲んでいたので眠気があったのは事実だった。
「それではオレはこちら側に座りますので……」
「ライノスさん、事情は分かったけど……あえて言うわ。あなたも最低ね」
「……分かっています。何と言われてももう後戻りはできませんからやるしかないんです。事が終わればオレの事は好きにして構いません。ただ、父さんとエレナだけは……」
「……」
顔を伏せているライノスを見ないよう後ろを向いてルーナは寝る体制に入る。
「(勝手なんだから! みんな、追いかけてこないでね……)」
目を瞑ると睡魔はすぐにやってきた。起きたら丸裸にされてたりしないよね、と、どうでもいいことを考えながら意識を手放す。
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<アルファの町 Side>
レイドが乱暴に玄関を開けると、中に居た冒険者やイルズがびっくりして注目していた。
いつものような冷静さが無いことに気づき、イルズが奥の部屋へと誘う。ちょうど帰ろうとしたファロスがそれを目撃し、着いて行く。
「どうしたそんなに慌てて、らしくないぞ」
「ふう、ふう……ルーナちゃんが連れて行かれた……昼間ギルドに来ていたベルダーとライノスの二人にだ!」
「手紙? ……なるほど、脅迫されて連れて行かれたのか……それで?」
ファロスは冷静にレイドへと問う。どうするつもりだ、と目が語っていた。
「今から追う。急げば追いつけるだろう、すぐに取り返してやるさ」
するとファロスはイルズと顔を見合わせて、ゆっくりと首を振った。
「残念だがそれを許可することはできん。さっきベルダーという男が言っていただろう『クーデター』を起こすと。それを知ったからにはビューリックへ行くのを許可できん」
「馬鹿な!? 誘拐ですよ? なら国境を越える前に追いつけばいいことだ!」
「あ! 待て!?」
レイドは言うが早いかギルドを飛び出した。それを見てファロスとイルズはため息をつきながら話す。
恐らく間に合うまいと。
「これを見越して、我々に情報を与えたのでしょうね」
「今となればそうとしか考えられん『知っていてほしい』とはぬけぬけと言ってくれるね」
聞いてしまえばそんな危険な国に人を送るなど出来ないだろう、そしてベルダーの狙いはもう一つ。
アルファの町で『クーデターがあるかもしれないからビューリックへ行くな』と勧告すれば、冒険者は行かないだろう。
しかし、それは確実ではない。今のレイドのように向かう者も居るし、人の口に戸は立てられない。どこかで噂話として持ち上がるだろう。
そうすることにより、国に緊張が走り安易にクーデターを起こせなくする役目を果たそうとしていたのだ。
あくまでもベルダーの目的を果たす為だけのことだったが。
「レイドは追いつけますかね……」
「もう無理だろうね。ベルダーという男が何者か分からないが、相当の手練れだ。国境も手を打っているに違いないよ」
帰ってきたらレイドとフレーレには監視をつける必要がありそうだ、エクセレティコの城へも行かなければならない問題も抱えて、二人は再びため息をついた。
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