パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

文字の大きさ
上 下
54 / 377
第四部:ルーナの秘密

その76 包囲

しおりを挟む
 「これはどういうつもりだ、ライノス?」

 と、レイドさんが本気で怒ってライノスさんへと言葉を放つ……。
 
  レイドさんはライノスさんを睨みつけ、いつでも抜けるように剣に手をかけていた。

 どうしてこんな状況になっているのか。

 少し時は遡り……。





 ---------------------------------------------------





 夜中に下山したにも関わらず、ダラムさんが暖かく出迎えてくれ、ダラムさんの家に宿泊しているライノスさんと、後からやってきた騎士団をまとめている人、エリックさんと会った。

 真面目なライノスさんとは裏腹にちょっとお調子者な印象で、握手した私の手を離さない事をライノスさんに咎められていた。うーん、苦手なタイプかも? と思ったのは内緒だ。

 で、その日はダラムさんの家で晩御飯とお風呂を頂き、そしてベッドを借りる事が出来た。

 お風呂に入った後、ジャンナさんが目を覚ましたので血の使い方を教わった。
 レジナに血を飲ませ、傷口にも血を塗りこむと荒かった呼吸が静かになり、目は覚まさなかったが一命を取り留めたようで、フレーレと抱き合って喜んでいた。
 
 これならメルティちゃんとアントンもきっと、と思い、急いで戻ろうとダラムさんに挨拶をして出発するつもりだった。


 そして今、ダラムさんの家から出たところでライノスさんとエリックさんに声をかけられたのだ。
 ちなみに騎士達に囲まれている状況で、私達は訳が分からない。

 そこで先ほどのレイドさんの言葉である。

 でもエリックさんはまるで気にした様子も無く、言葉を続けていた。

 「さて、それじゃあ……ルーナちゃん、俺達と一緒に来てもらおうー」

 エリックさんの横には俯いたライノスさんが。そして騎士達が私達を取り囲んでそんな事を言いだしたのだ。
 全員武装し、武器をこちらに向け、いつでも攻撃できる態勢のようだった。

 「え、っと。一緒に行く理由が無いんですけど……」

 いきなりの事で訳が分からなかったが私はハッキリと断った。ライノスさんが悔しそうな顔をして私達に告げていた。

 「……申し訳ないが黙って着いて来てくれないか? 悪い様には、しない……」

 「どうしてですか? 理由を教えてもらわないと……」

 フレーレが困ったようにライノスさんへ聞くと、エリックさん……いえ、エリックに遮られた。

 「いやいや、それはルーナちゃんにだけしか言えないんだよー。あ、君とそっちのレイドさんだっけ? それと、獣達は好きに帰っていいからー」

 「オレも手荒な真似はしたくない、頼む! ここは言う事を……」

 「ふざけるな! 何が目的かは分からんが、こんな理不尽に対して『はいそうですか』と言えるわけがない! ルーナちゃん、フレーレちゃん。俺の後ろに(隙を見てブルル達の所へ行って離脱するぞ)」

 「(わかりました。それじゃ、上級補助魔法かけておきますね)」

 「こそこそ何を喋っているのかなー? ……お前達、力づくで構わない。無力化しろ」

 「エリック!?」

 「埒が明かないからねー。魔法が使えない今なら……え!?」

 エリックは目の前の光景に度肝を抜かれていた!

 「はあああ!!」

 「ええい!」

 「おあいにく様ね! こっちは万全よ!」

 囲んでいた騎士の内、私達の馬車への道を陣取っていた3人を倒し一気に駆ける! 目指すはもちろん馬車だ!

 「ひゅー♪ やるねー! 弓兵、足を狙って射撃!」

 最初は驚いていたが、すぐに平静を取り戻し軽口をたたいてくる。弓まで!? 容赦なしね!
 でもこっちは足が速いわよ!
 
 「かかってきたやつは正当防衛だ、叩きのめしていい! 攻撃してこないヤツは放置を!」

 レイドさんが走りながら、指示を出してくれる。
 状況は……! そう思って振り返るとちょうど背負ったレジナに向かって矢が飛んできていた!

 「痛っ!?」

 身をよじって直撃は避けたけど肩をかすめてしまった!

 「馬鹿野郎! 背中を狙うんじゃない!」

 「し、しかしあの早さでは……!」
 ライノスさんが弓兵に向かって怒鳴っている声が聞こえた。
 
 こっちはあと一息で馬車に辿り着くわ!

 「……ん? 誰か見ている? ……あれかー、補助魔法か? すごいなーこりゃ逃げられちまうなー」

 急にエリックは追撃を止め、私達を見ながら呟きキョロキョロと辺りを見渡す。
 そして私達はブルルとアップルの所まで辿り着き、フレーレ達と一緒に荷台へ雪崩れ込むと、レイドさんは一気に馬車を走らせた!

 「ライノス! 今度俺の前に現れたら容赦せんから覚悟しておけ!」
 騎士達の脇を駆け抜ける時に、ライノスさんへ厳しい言葉を浴びせていた。


 「レ、レイドさん……くっ!? エリック! 逃げられるぞ!?」

 「……あー、ここはとりあえずいいかな?」

 騎士達に号令をかけ、私達の馬車を見逃した。どこか違う所を見てる?

 「……どういうことだ? 何故ヤツはみすみす……?」

 <分からんがここで捕まったら終わりじゃ、急げ!>

 先ほどまで黙っていたチェイシャが荷台の後ろから魔法弾を出しつつ叫ぶ。
 フレーレもマジックアローで弾幕を張っていた。

 追ってきていないが、念のための威嚇射撃らしい。
 
 「もう追ってくる気は無さそうですね」

 「ええ、レイドさんこのまま一気に国境を抜けましょう。関所で待ち伏せされていたら厄介ですし」

 「そのつもりだ! 飛ばすぞ、しっかり捕まってろ!」

 「きゅん!」「きゅきゅん!」

 <はあ、目が覚めたと思ったらバタバタしてるわねぇ。……とりあえずあたしの目で見ても追ってきてないからしばらくは大丈夫でしょ>

 ジャンナさんが私の頭の上に乗り、魔法か技を使って後方を見てくれていた。
 ライノスさん、どうしちゃったんだろ? せめて理由を言ってくれれば……。

 小さくなっていく村の入り口を見ながらそんな事を思う。

 そして帰路を急ぎ、私達はアルファの町を目指した。




 ---------------------------------------------------
 



 「どうするんだエリック?」

 少しほっとしているようにも見えるライノスがエリックに今後の事を聞く。

 「とりあえず、ルーナちゃんは一時置こう。どうもお客さんみたいだしねー。ライノスもルーナちゃんを手に入れるまでは城に戻らない方がいい、またケチをつけられてエレナちゃんに何かあっても面白くないだろ?」

 「確かに期限は決まってなかったが……」

 「うん、とりあえずどこに帰るのかは分かってるんだ焦ることは無いさー。それより……そろそろ出てきてほしいんだけどー?」

 エリックが声をかけると、スゥっと一人の男が現れた。驚いた騎士達がどよめきの声をあげる。

 「お前はベルダー!? どうしてこんなところに!?」
 
 顔を隠した自称シーフの男を見てライノスが叫ぶ。

 「ああ、ダンジョンに居たヤツか。久しぶりだな? まさかお前がビューリックの刺客だとはな」
 騎士達と一緒に居るライノスを見て、ベルダーはそう結論付けた。

 「ふふ、ライノスは真面目だからねー刺客とか全然似合わないんだよねー。それはさておき、どうやらずっとルーナちゃん達を追いかけていたみたいだけどいいのかい、追わなくて」

 「ふん、俺の目的はルーナの監視と安全を守る事だ。お前等を足止めすることがそれに繋がるだろう? というか、もう少し危害を加えるように襲っていたらお前等全員皆殺しだったぞ?」

 ベルダーは当たり前のように言い、エリックがそれを聞いて笑う。

 「はは! あなたなら出来そうだねー確かに!」

 それを聞いて騎士達の中には憤慨している者も居たが、ベルダーが殺気を出すとやがておさまった。

 「で、ここに残ったのは俺に話があったからでしょー? 何の話が聞きたいのかなー?」

 「そうだな、お前は話が早そうだ。ルーナの行動を邪魔をさせないのと同じくらいの重要度で、はゲルスという男を探している。ヤツは居場所を悟らせないためにあちこち移動しているようだが、城の中までは探りにくいのでな。騎士団のお前なら何か知っているんじゃないかと思ってな? どうだ」

 「……ビンゴー。ルーナちゃんを逃がしたけど、代わりに面白い人が釣れたねー。答えは『ゲルスを知っている』だねー。いいよ、知っていることを話そう。その代わり……」

 「俺の力を借りたい、か?」
 どうせ俺達の目的はルーナが鍵だ、邪魔されないなら……とベルダーはエリックたちには聞こえない呟きをしていた。

 「ゲルスはビューリックの城に出入りすることがある。決まった日や時間は無いけど、僕は見たことがあるぞー。国王とゲルス。僕の目的はその二人を殺す事だからねー……」

 それを聞いたベルダーは目を細めて、どうやら笑っているようだ。

 「それだけでも十分、だな。いいだろうとりあえず次はお前の話を聞こうじゃないか。残りの情報はそのお前の話を聞いてからでも遅くない。まあ嘘だったら……分かっているな?」

 回答に満足したベルダーが、ダガーに手をやりエリックに話をさせる。
 そのやりとりをライノスは黙って見ているしか出来なかった。

 「(一体なんだこれは……オレは夢でも見ているのか……? クーデターに誘拐……このまま流されていたら俺はどうなってしまうんだ? 考えるんだ、流されないためにオレにできることを……)」

 そんな事を考えつつ、ヘタレや腰抜けと言われてもいい。魔剣を抜くことが無くて良かったと、エリックとベルダーの会話を聞きながら、ライノスはため息をついていた。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。