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第四部:ルーナの秘密
その74 女神
しおりを挟む「とおりゃぁあ!!」
<ピィィィ!! オノレ! コノアタシガァァァァ!>
『うふふ……』
レイドさんの剣を上空に飛んで回避し、長い尾羽から炎をボトボトと垂れ流す。
「くそ、高いな。天井が吹き抜けみたいになっているのはこのためか!」
<ええい、静まらんか!>
チェイシャが話しかけながら、魔法弾で上空のジャンナさんへ放つが流石に分が悪いようだ。
フレーレのマジックアローもヒラリとかわしていた。
「これじゃ止められませんよ! 何とか地上に降りて来てもらわないと……」
「私がデッドエンドを使えたらレイジング・ムーンで迎撃できるのに!」
チビ達を抱えて、炎から逃げ惑う。戦力にならない以上、ケガをしないよう立ち回るのが精一杯だ。
<レイド! わらわをヤツに向かって投げろ!>
「本気か!? ええい……! いけええ!!」
レイドさんがダッシュしてチェイシャの背中を鷲掴みにして勢いよく放り投げると、ジャンナさんの鼻先まで届き、チェイシャが顔に張り付いていた!
<ピギャァァァァ!?>
<落ち着け、別に注射くらいで死んだりせんぞ>
<ソウジャナイ! ウグウウウ!>
チェイシャの説得も虚しく、顔を振り払いチェイシャを叩き落とした。
着地はキレイに決まっていたのは流石だった。
「あの炎って際限なく出るんですか?」
<恐らくな。しかし、ありゃ異常じゃな。正気のようで正気ではない……注射が嫌いにしても暴れすぎなんじゃが……>
「今はそれを言っても始まらない。このままじゃこっちが疲弊するのが先だ、少し様子を見よう」
「レイドさん! こっち!」
私は扉の前へと戻り、開け放っていた。ここなら天井からの炎は回避できるし、追ってきても低く飛ばないといけないので攻撃するチャンスがあると考えたからだ。
「幸い、みんなケガははしていませんね。オーガの一撃も凄かったですが、あの炎も火傷で済みそうにないくらい熱いです……」
フレーレが影からジャンナさんを見て呟く。空中で私達を探しているような動きだ。
少しずつ高度が下がってきているような気がする……そうだ、アレを使ってみよう……。
「ジャンナさんが降りてきたら私がとっておきを使うわ。恐らくそれで一瞬怯むはずだから、そこで攻撃を仕掛けて!」
「大丈夫かい身体は?」
剣を握ってジャンナさんの方を見ながら聞いて来たので、レイドさんに一言「大丈夫」とだけ告げた。
そして、そのチャンスが訪れる!
うまく動かない体が憎い! けど!
「今だ! くらえ、トウガラシ爆弾!!」
<ピ!? ゲホゲホ……>
私特製のトウガラシ爆弾を顔にぶつけるとキレイに爆散しジャンナさんの顔がトウガラシまみれに。
目と喉をやられ、地上にドスンと落ちてきた。
「わたしが行きます! メイスで頭を叩けば気絶するはず!」
<あ! 待てフレーレ! お主、補助魔法はかかっておらんのじゃぞ!?>
ジャンナさんが涙目でフレーレを捉えたかと思った瞬間、その口がカパっと開いた。口の中には炎がチラチラと燃えさかっているのが見える。
「……! ブレスか! 危ない!」
「きゃ……!」
間に合わない……! 私が駆け出そうとしたところで頭に声が響く。
『あらあら、仕方ないわね。戦いやすいようにお膳立てしてあげたのに……こうなったら私が手助けしてあげる。ついでに力も取り戻しちゃおうかしら』
「な、何? ……あ……」
フッと力が抜け、私は私の体が勝手に動く様を見る事になる。
『≪アルティメイト・ウォール≫』
ゴォォォォォ!!
私が魔法を唱えると、フレーレとジャンナさんの間に薄い膜のようなものが発生し、ファイヤーブレスを無効化した。
「え? ルーナ……?」
呆然としているフレーレの横を駆け、手に光の刃を出し、ジャンナさんへ斬りかかる。
『≪ディバインブレイド≫』
「ルーナちゃん!?」
<まさか!>
光刃であっという間にジャンナさん両翼を落とし、絶叫をあげるジャンナさん! そこまでしなくても!?
『それじゃあこれで終わり≪セイクリッド……≫ あら、もう時間切れ? ……まだ封印を解放させる必要があるわね。それじゃあ後、よろしくね』
え!? ちょ、ちょっと!?
急に体が動く感覚が戻り、ジャンナさんにぶつかるが、でに虫の息だった。たった一撃で……。
「あ! 血を採らないと!? ……ごめんなさい、ジャンナさん!」
このままクリスタルを破壊すれば、おそらくチェイシャのようになると思う。
でも確実ではないし、小さくなった体の血が蘇生を促す物でなかったら意味が無い。追い打ちをかけるようで嫌だが今の内に採血しておくに越したことは無い。
<ふ、不覚……あたしが動揺した隙を狙って体を操ってくるとは……>
意識を取り戻したジャンナさんが、荒い呼吸をしながら吐き捨てるように話し始めた。
<お前の中に……女神が居るようだな……? 最初はチェイシャから回収した腕輪の力を持っただけだと思っていたが、アルモニア本人も、な、内包しているのか……>
<……違和感はそれか、ルーナお主、アルモニアに体を乗っ取られておったな? しかし、だとしたらルーナの体をそのまま支配しないのは何故じゃ……?>
チェイシャがやってきて、独り言のように呟いた。
「さっきのは、ルーナであってルーナではありませんでした。姿はそのままですが、相手を攻撃するのに……あんなに嬉しそうに笑うことはありませんから……」
「聞いた事も無い魔法だったしな……しかし結局こうなったか……」
<……気にするな、あたしもそろそろ待つのにも飽きていたしな。だらだらできて楽だったけど。……血は採れたか……? チクっとするのが嫌なんだよね……あるじにこの身体にされた時、散々やられたから……>
気怠そうに遠くを見ながらぶつぶつと何か喋っていたが、段々と息が小さくなっていく。
「……OK、四本分採血したわ……後は……」
<ふう……こいつを壊せば終わりだ……頼む……>
ジャンナさんが目を閉じてゴロンと寝転がると、クリスタルのある胸が上を向いた。
「俺がやろうか……?」
レイドさんが私の肩に手を置いてそう言ってくれるが、首を振ってその手を握る。
これは私がけじめをつけないといけない、そう思った。
パキン……!
クリスタルは鉄の剣であっさりと砕け散った。
ジャンナさんの身体にヒビが入り、光を出しながらガラガラと音を立てて崩れた。
「……何だかやるせないですね。確かにルーナのお父さんに会うために女神の力は必要ですけど、こんな無理矢理殺してみたいなやり方……」
<主ならあるいは、と思ったが消息は不明じゃしのう……。しかもルーナの体にアルモニアが居るとなると姿を現すとは考えにくい……(それはともかく、女神の力で操るのではなく本人とは……いったいどういう事なのかわらわにもさっぱりわからんぞ? パパ上なら知っておるじゃろうか)>
「うう、ジャンナさん……この血は無駄にはしません……」
私が立ち上がると破片の中に一際輝くものがあることに気づき、それを拾う。
「十字架?」
<”勇気のクロス”じゃな、女神の力の一つじゃ>
「キレイですね……」
フレーレが吸い込まれるように十字架を見つめていた。
「これで3つ。パパとの約束は4つだからあと一つね」
「……それじゃ、行こうか」
レイドさんが十字架と私を一瞬だけ見て、元来た道へと戻り始めた。怒っている感じじゃないけど、気になる表情だった。
私達も追いかけようとしたとき、崩れたジャンナさんの身体をごそごそとしていたシルバとシロップが、何かをくわえて戻ってきた。
「きゅん!!」「きゅーん!!」
<……>
床にそっと落としたそれは……小鳥だった。体はほんのり薄いピンクで、長い尾羽が真っ赤だった。
「……見た目はエナガにそっくりね……」
「毛がふわふわですよ……この子がもしかしてジャンナさん?」
<恐らくそうじゃな。何とか姿を留めたようじゃが、相手がアルモニアじゃったから小鳥まで戻ったみたいじゃな。しばらくすれば目が覚めると思うから、連れて行こう>
そう言ってレイドさんの横へと走っていくチェイシャ。私はジャンナさんを両手で持って歩き出す。
……女神アルモニア……このまま女神の力を集めて大丈夫かしら……? パパ、一体何を考えているの?
私にとってすごく嫌な予感が拭えないまま、神殿を後にしたのだった。
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