49 / 377
第四部:ルーナの秘密
その71 中腹
しおりを挟む「しっかりしている建物ですね」
フレーレが言うようにコテージのような山小屋は作りがしっかりしていて、すきま風なども無さそうな立派なものだった。これならゆっくり休めるわね!
実を言うとここまで登ってくるのに一苦労……。途中から傾斜が変わって、ペース配分を考えた歩きをしていたんだけど、それでも疲れてしまった……。身体能力低下の後は過激な運動をしたことが無かったけどここまでとは。
「俺は薪を取ってくるから、二人は食事の準備をお願いしていいかな?」
「はーい! 行ってらっしゃい!」
「きゅん!」
シルバがレイドさんに着いて行き、チェイシャとシロップは残った。シロップはまだレイドさんを許していないようだ。
「栄養を取って休みたいですし、お肉を出しますね」
<さっき獲った鹿を食べようぞ!>
「きゅーん♪」
「あれは保存用よ。寝かせておいた方が美味しくなるのよ?」
<そうなのか……じゃあ今日は何の肉じゃ?>
チェイシャが首を傾げて聞いてくる。シロップも真似をして首を傾げているのがかわいい。
「鶏肉ですよ、村の人が分けてくれました! 卵も新鮮なものをもらったんですよ」
登山口へ向かっていると、朝早くに村を助けてくれたお礼だって、おばさんが渡してくれたの。
鶏はアルファのように「町」では飼育しておらず、こういった村から卸す事が多い。町で何でもやると、村が過疎になってしまうから家畜を育てるといった仕事は村に任せているんだそうだ。
「ただいま。それじゃ火を熾そうか」
レイドさんが囲炉裏に薪をくべたので、私が火の魔法で……あ!? 魔力がないんだった……。
それを見ていた二人が声をあげる。
「あ、そうか! ルーナちゃんの魔力は0だったね……。 フレーレちゃんは?」
「わたしは水なら出せるんですけど、火はダメですね……どうしましょう……」
<むう、このままでは肉が食えんではないか。ちょっとついてきてくれ>
「う、うん」
チェイシャに案内されて、外に出ると木の根元を探し始めていた。
「どうしたの?」
<どこかに火焔茸というキノコが無いかと思ってな。赤いカサをして細身のキノコなんじゃが……>
「ああ、そう言えば! それなら分かるわ!」
しばらく探していると3本ほど見つかり、ホクホク顔でチェイシャが山小屋へ戻る。
「ふふ、お腹すいたの?」
「きゅん……」
フレーレがシロップとシルバを膝に乗せて遊んでいた。そろそろおチビ達のお腹具合も限界のようだ。
「お待たせ! これを囲炉裏に置いて……」
<わらわの小規模魔法弾を撃つと……>
ボフッ!
見事成功!
火焔茸一本でも結構燃えるので、残り二本はストックしておくことにした。
明日もまた火が必要になると思うしね。
「わあ、魔法に頼ることが多いから火焔茸で火をつけるのは珍しいですねー。それじゃ料理はわたしがしますよ」
設置されている台所へ向かい、手を洗ったフレーレは、鍋を持ってくる。
「あ、鶏雑炊ね。疲れてるからいいわね」
鍋に水を入れて火にかけ、沸騰した所で鶏肉を投入! 人によってはささみがいいらしいけど、新鮮だからここはもも肉よね。
塩、ごま油、醤油、お酒……そしてお米投入!
ああ、良い匂いが……
「仕上げです!」
卵が投下され完成した。
全員に配られ、はふはふと雑炊をすすり、少し足りないかもということで干し肉も用意された。
「ふう、消化にいいから助かるね。俺が魔王討伐の旅をしていた時はこんなにいい物はでなかったからな、はは」
何を思い出したのか、レイドさんが急に笑い出す。昔の話をするのは珍しいね?
「どんなパーティだったんですか?」
「ん? 妹のセイラ以外には後二人居てね、勇剣士の男……ソキウスとビショップの女の子のチェーリカって二人だった。元々同じ村出身で腐れ縁とか何とか言ってたかな? 初めて会った時はソキウスに勘違いで戦いを挑まれて大変だったよ……」
少し嬉しそうなレイドさんを見て何となく微笑ましくなりニコニコしてしまう。
「それでどうなったんですか?」
「まあ、一応俺が勝ったんだけどソキウスも強かったよ。結構危なかったかな?」
「へえ、レイドさんが危ないって結構すごいですねその人」
「ああ、武器マスターの恩恵というものを持っていたらしくて、片手に鞭、片手にダガーとか無茶な戦い方をするヤツだったよ! 攻撃が読めないからね」
「面白いですねその人! それで食事は……?」
「……セイラもチェーリカもあまり上手くなくてね……。セイラは大雑把だし、チェーリカは修行ばかりで料理をしたことが無い、と……」
うーん、旅先でも美味しいものは食べたいよねー。
「ふふ、今すっごくげんなりした顔をしてますよ? そんなにだったんですか?」
私が聞いてみると、照れくさくなったのか一気にご飯を食べ、「ごちそうさま!」と寝袋へ潜りんでしまった。
「あ! もうちょっと! さっきのソキウスさんと戦いになった理由とか……!」
「また今度ね! ほら、ルーナちゃんは身体能力が落ちているんだから早く寝て回復させないと! ……それじゃあおやすみ!」
ああ、こうなったらもう聞いてくれない……。
「私達も食べて寝ようか」
「そうですね、おチビ達はもう限界みたいですし」
囲炉裏の前で仲良くシルバとシロップが丸まって寝ていた。大きい毛玉みたいになってるね。
<んぐ……もぐもぐ……もう無いかや?>
そのかわいさとは裏腹に、チェイシャが顔にご飯粒をつけておかわりを要求してくる。かなり食べたと思うけど……。
「いくら魔神って言ってもあまり食べすぎは良くないんじゃない?」
<む。そんなことは……ないはずじゃ……?>
目が泳ぐチェイシャ。
「満腹にはしない方がいいって言いますからもう止めておきましょう。ね?」
<ぐぬぬ……仕方あるまい……鹿肉を楽しみに今日は寝るか……>
チェイシャは私の寝袋の横でごろんと寝そべる。
「それじゃあ、私達も歯磨きして寝ましょうか。あ、片付けは私がやるから」
フレーレに先に歯を磨いてもらって、食器を片づける。さ、明日も頑張って登らないとね!
レジナにメルティちゃん……後、アントン……旅立たないでよ?
あ!? ……レイドさん、歯磨きしてない!?
山での静かな一日目の夜が更けて行った。
---------------------------------------------------
<2日目 昼前>
「ふう……はっ……」
「少し休憩しようか、水筒はあるかい」
昨日、今日と早朝から登ってきて、かなり高い所まで来れた。
しかし、魔物と戦いながら登り、さらに私の力も衰えているのでまだチェイシャの言う場所まではまだまだかかる。
だんだん気温も下がってきているけど、汗をかくのでそれほど寒いとは感じない……。
でもそのままにしておくと汗が冷えた時に風邪を引いてしまうので、休憩を挟み水分を取ってから汗を拭いていた。
「はい、フレーレも」
「ありがとうございます。結構寒くなってきましたね。あ、ルーナのポンチョかわいいー!」
あのピンクのポンチョを取り出し、汗を拭いて装備する。歩くと暑いけど冷やさないようにしないと、風邪を引いたらことだ。
<もう少し登ると雪もあるかもしれんな。チビ達、気を付けるんじゃぞ?>
「きゅーん♪」「きゅきゅん!」
「チビ達はまだまだ元気だな、飼い狼だから心配していたんだけどね、実は」
「レジナと狩りに出かけたりしているから、きっとそのせいだと思います。一時期、丸くなってたことはありましたけどね」
そんな他愛も無い話をしながらさらに登って行く。
夕方に差しかかる頃、ついに私は木の棒を杖代わりにして登るのが精一杯になってきた。
明日は三日目……予定だと到着するけど、かなり遅い行軍なのでもっとかかるかも?
うう……足手まといは嫌だなあ……。
苦労して登って来たし、不死鳥さんお願いだから血を分けてね。
0
お気に入りに追加
4,221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。