パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪

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第四部:ルーナの秘密

その71 中腹

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 「しっかりしている建物ですね」

 フレーレが言うようにコテージのような山小屋は作りがしっかりしていて、すきま風なども無さそうな立派なものだった。これならゆっくり休めるわね!

 実を言うとここまで登ってくるのに一苦労……。途中から傾斜が変わって、ペース配分を考えた歩きをしていたんだけど、それでも疲れてしまった……。身体能力低下の後は過激な運動をしたことが無かったけどここまでとは。

 「俺は薪を取ってくるから、二人は食事の準備をお願いしていいかな?」

 「はーい! 行ってらっしゃい!」

 「きゅん!」

 シルバがレイドさんに着いて行き、チェイシャとシロップは残った。シロップはまだレイドさんを許していないようだ。

 「栄養を取って休みたいですし、お肉を出しますね」

 <さっき獲った鹿を食べようぞ!>

 「きゅーん♪」

 「あれは保存用よ。寝かせておいた方が美味しくなるのよ?」

 <そうなのか……じゃあ今日は何の肉じゃ?>

 チェイシャが首を傾げて聞いてくる。シロップも真似をして首を傾げているのがかわいい。

 「鶏肉ですよ、村の人が分けてくれました! 卵も新鮮なものをもらったんですよ」
 登山口へ向かっていると、朝早くに村を助けてくれたお礼だって、おばさんが渡してくれたの。
 
 鶏はアルファのように「町」では飼育しておらず、こういった村から卸す事が多い。町で何でもやると、村が過疎になってしまうから家畜を育てるといった仕事は村に任せているんだそうだ。

 「ただいま。それじゃ火を熾そうか」

 レイドさんが囲炉裏に薪をくべたので、私が火の魔法で……あ!? 魔力がないんだった……。
 それを見ていた二人が声をあげる。

 「あ、そうか! ルーナちゃんの魔力は0だったね……。 フレーレちゃんは?」

 「わたしは水なら出せるんですけど、火はダメですね……どうしましょう……」

 <むう、このままでは肉が食えんではないか。ちょっとついてきてくれ>

 「う、うん」

 チェイシャに案内されて、外に出ると木の根元を探し始めていた。

 「どうしたの?」

 <どこかに火焔茸というキノコが無いかと思ってな。赤いカサをして細身のキノコなんじゃが……>

 「ああ、そう言えば! それなら分かるわ!」

 しばらく探していると3本ほど見つかり、ホクホク顔でチェイシャが山小屋へ戻る。

 「ふふ、お腹すいたの?」

 「きゅん……」

 フレーレがシロップとシルバを膝に乗せて遊んでいた。そろそろおチビ達のお腹具合も限界のようだ。

 「お待たせ! これを囲炉裏に置いて……」

 <わらわの小規模魔法弾を撃つと……>


 ボフッ!

 見事成功!

 火焔茸一本でも結構燃えるので、残り二本はストックしておくことにした。
 明日もまた火が必要になると思うしね。

 「わあ、魔法に頼ることが多いから火焔茸で火をつけるのは珍しいですねー。それじゃ料理はわたしがしますよ」
 設置されている台所へ向かい、手を洗ったフレーレは、鍋を持ってくる。
 
 「あ、鶏雑炊ね。疲れてるからいいわね」

 鍋に水を入れて火にかけ、沸騰した所で鶏肉を投入! 人によってはささみがいいらしいけど、新鮮だからここはもも肉よね。
 塩、ごま油、醤油、お酒……そしてお米投入!

 ああ、良い匂いが……

 「仕上げです!」

 卵が投下され完成した。
 全員に配られ、はふはふと雑炊をすすり、少し足りないかもということで干し肉も用意された。
 
 「ふう、消化にいいから助かるね。俺が魔王討伐の旅をしていた時はこんなにいい物はでなかったからな、はは」

 何を思い出したのか、レイドさんが急に笑い出す。昔の話をするのは珍しいね?

 「どんなパーティだったんですか?」

 「ん? 妹のセイラ以外には後二人居てね、勇剣士の男……ソキウスとビショップの女の子のチェーリカって二人だった。元々同じ村出身で腐れ縁とか何とか言ってたかな? 初めて会った時はソキウスに勘違いで戦いを挑まれて大変だったよ……」

 少し嬉しそうなレイドさんを見て何となく微笑ましくなりニコニコしてしまう。

 「それでどうなったんですか?」

 「まあ、一応俺が勝ったんだけどソキウスも強かったよ。結構危なかったかな?」

 「へえ、レイドさんが危ないって結構すごいですねその人」

 「ああ、武器マスターの恩恵というものを持っていたらしくて、片手に鞭、片手にダガーとか無茶な戦い方をするヤツだったよ! 攻撃が読めないからね」

 「面白いですねその人! それで食事は……?」

 「……セイラもチェーリカもあまり上手くなくてね……。セイラは大雑把だし、チェーリカは修行ばかりで料理をしたことが無い、と……」

 うーん、旅先でも美味しいものは食べたいよねー。

 「ふふ、今すっごくげんなりした顔をしてますよ? そんなにだったんですか?」

 私が聞いてみると、照れくさくなったのか一気にご飯を食べ、「ごちそうさま!」と寝袋へ潜りんでしまった。

 「あ! もうちょっと! さっきのソキウスさんと戦いになった理由とか……!」

 「また今度ね! ほら、ルーナちゃんは身体能力が落ちているんだから早く寝て回復させないと! ……それじゃあおやすみ!」

 ああ、こうなったらもう聞いてくれない……。

 「私達も食べて寝ようか」

 「そうですね、おチビ達はもう限界みたいですし」

 囲炉裏の前で仲良くシルバとシロップが丸まって寝ていた。大きい毛玉みたいになってるね。

 <んぐ……もぐもぐ……もう無いかや?>

 そのかわいさとは裏腹に、チェイシャが顔にご飯粒をつけておかわりを要求してくる。かなり食べたと思うけど……。

 「いくら魔神って言ってもあまり食べすぎは良くないんじゃない?」

 <む。そんなことは……ないはずじゃ……?>

 目が泳ぐチェイシャ。

 「満腹にはしない方がいいって言いますからもう止めておきましょう。ね?」

 <ぐぬぬ……仕方あるまい……鹿肉を楽しみに今日は寝るか……>

 チェイシャは私の寝袋の横でごろんと寝そべる。

 「それじゃあ、私達も歯磨きして寝ましょうか。あ、片付けは私がやるから」

 フレーレに先に歯を磨いてもらって、食器を片づける。さ、明日も頑張って登らないとね!
 レジナにメルティちゃん……後、アントン……旅立たないでよ?


 あ!? ……レイドさん、歯磨きしてない!?

 山での静かな一日目の夜が更けて行った。

 ---------------------------------------------------



 <2日目 昼前>


 「ふう……はっ……」

 「少し休憩しようか、水筒はあるかい」

 昨日、今日と早朝から登ってきて、かなり高い所まで来れた。
 しかし、魔物と戦いながら登り、さらに私の力も衰えているのでまだチェイシャの言う場所まではまだまだかかる。
 だんだん気温も下がってきているけど、汗をかくのでそれほど寒いとは感じない……。
 でもそのままにしておくと汗が冷えた時に風邪を引いてしまうので、休憩を挟み水分を取ってから汗を拭いていた。
 「はい、フレーレも」
 
 「ありがとうございます。結構寒くなってきましたね。あ、ルーナのポンチョかわいいー!」
 あのピンクのポンチョを取り出し、汗を拭いて装備する。歩くと暑いけど冷やさないようにしないと、風邪を引いたらことだ。

 <もう少し登ると雪もあるかもしれんな。チビ達、気を付けるんじゃぞ?>

 「きゅーん♪」「きゅきゅん!」

 「チビ達はまだまだ元気だな、飼い狼だから心配していたんだけどね、実は」

 「レジナと狩りに出かけたりしているから、きっとそのせいだと思います。一時期、丸くなってたことはありましたけどね」

 そんな他愛も無い話をしながらさらに登って行く。

 夕方に差しかかる頃、ついに私は木の棒を杖代わりにして登るのが精一杯になってきた。
 明日は三日目……予定だと到着するけど、かなり遅い行軍なのでもっとかかるかも?

 うう……足手まといは嫌だなあ……。

 苦労して登って来たし、不死鳥さんお願いだから血を分けてね。
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