48 / 377
第四部:ルーナの秘密
その70 登山
しおりを挟む「村の奥に霊峰へ続く門がある。開けておいたから、いつでも向かうとええ」
「皆さん、本当にありがとうございました。私だけでなく、村も救っていただき……」
昨日の夜、私とレイドさんでダラムさんの家へ駆け込み事情を説明すると快く承諾してくれ、早朝から登れるように手配してくれたのだ。
今は登山口で、ダラムさんとレーネさんが見送りに来てくれていた。
「あ、あの……お気をつけて! 帰ってきたらまたお顔を見せてください……」
「うん? レジナも連れて帰らないと行けないし、帰りも寄らせてもらうよ」
レーネさんがレイドさんへ何やら話しかけていたけど、遠くて聞こえなかった。何だったんだろう?
「それじゃあ、レジナのことよろしくお願いします!」
「きゅん!」「きゅきゅん!!」
「ああ、気を付けてな。不死鳥様に会えるといいな」
ダラムさん達に見送られて登山を開始した。荷物は全員マジックバッグがあるので、かさばら無いのが幸いね。山でがちゃがちゃと重装備を持って登っていたら、今の私の体力じゃあっという間に力尽きる……。
「ルーナ、きつかったら言ってくださいね? 休憩も大事ですから」
<じゃな。ジャンナの居場所はわらわが探知しておるから到着は早いと思う。頂上まで行く事は無いが、三日は覚悟しておくのじゃ>
霊峰は頂上まで7630m。頂上まで登っていたら何日かかるのか。山の上の方に行くと息が苦しくなったり気分が悪くなったりするから危ないのよね。
「途中、山小屋が建っているそうだから、基本的にはそこを目指そう。できれば建物内で夜を明かしたい」
霊峰には貴重な植物や魔物、動物が居るので封鎖しているとダラムさんが言ってたっけ。特産品のキノコも山の浅い所で採取しているとか。
「ライノスさんが来れなかったのは残念でしたね」
フレーレがメイスを片手に先頭を歩く。
フレーレ、私、レイドさんの順で登っていて、後ろが一番危険だからとレイドさんがしんがりになった。
ちなみにライノスさんは騎士団を待つ必要があるため、誘ったが断られてしまったのだ。
「仕方ないよ、元々の依頼が野盗の討伐だったんだし」
「きゅーん!」
そんな話をしながら登っていると、シロップが吠えた。そっちを見ると森の中で蠢く影が……。
「見たことない魔物!?」
「ウッドウォームか、ここだけって訳じゃないけど珍しいな!」
「きゅん!」
シルバがこっそり横から近づき、2mくらいの黄土色をした大きなワームっぽい魔物に噛みつくと、ワームが奇声を上げてのた打ち回る。口大きいなあ……シルバ大丈夫かしら。
そこにレイドさんが前進し、頭と胴体に斬りつける!
「でかした! こいつは見かけによらず動きが早い、動きを止めてくれたのはありがたいぞ!」
レイドさんがシルバを褒め、動くウッドウォームに斬りかかる。
「うう、気持ち悪いですよ……」
「あ、フレーレ、ああいうのはダメなんだ?」
「はい、蜘蛛とかムカデなら頭があるけどああいう芋虫みたいなのってどうも。口しかないからどこを攻撃していいか分からないし、うねうねしてて何か嫌なんですよ……」
「まあ確かに……」
一匹だけなので、シルバとレイドさんに任せて私達は邪魔しない様、狩るところを見ていた。
いつの間にかシロップも参戦し、レイドさんがキレイに三等分にしたところでウッドウォームは動かなくなった。
「流石レイドさん! シルバとシロップもありがとう!」
「きゅん♪」「きゅきゅーん!」
二匹が褒めて褒めてと私の足元へ集まってきたので、撫でてあげると尻尾を大きく振って喜んでいた。
<まだ浅いからこの程度じゃな。明日からは強力な魔物になるから、あまり悠長な事はしておれんぞ>
戦えない私を護衛すると、頭の上に乗っているチェイシャが怖い事を言う。
「うー、せめて剣を振るくらいは出来たらいいんだけど……」
「まあまあ、今回はわたし達が頑張りますよ」
「はは、フレーレちゃんも言うようになったね。……君もあまり無理はしないようにね」
「……は、はい」
回復魔法の件は確かに深刻だよね……。フレーレにはいつも助けられてるし、何か出来る事があるといいんだけど……。
その後もウッドウォームに何度か遭遇した。
他には群れでこっちを見ていて可愛い! と思っていたら実は凶暴だった”ヴォーパルラクーンドッグ”が、シルバとシロップ、そしてチェイシャと死闘を繰り広げていた。やっぱり狸って狐のライバルなのかしら?
「ヴォーパルラクーンドッグの毛皮は高く売れるんだ」
「きゅーん」
レイドさんが皮をキレイに剥いで、内臓を穴に捨てて埋めた。
シロップがその様子を横で興味深そうに見ていたら……。
「次はお前だ!」
「きゅきゅん!?」
バリバリバリ!
「あ、痛っ!? じょ、冗談だよ」
「きゅーーーーん!」
レイドさんがふざけてシロップをぎゅっと捕まえ、驚いたシロップがレイドさんの顔を引っ掻いて私の所へ逃げてきた。
「今のはレイドさんが悪いわね……」
「気をつけないと、親しい人でも牙を剥くことがあるって教えたかったんだけどね……」
「それでも今のは酷いです……」
「ガフ!」
珍しく冗談を言ったレイドさんが私達にヘコまされ、シルバに本気で噛まれていた。
「いたたた!? 悪かったよ! 俺はお前達の皮を剥いだりしないって!」
そんな調子で珍しい魔物を倒しながら、私達は最初の山小屋へとたどり着いた。
---------------------------------------------------
「(ルーナさん達は霊峰へ行ってしまったか……。どうも魔力が無いらしいから攫うならチャンス、か?)」
騎士団へ野盗を引き渡すために村に残ったライノスが一人考える。野盗はカモフラージュで受けた依頼だったが、思いのほかうまくいったので内心喜んでいた。
「(村を助ける事が出来たのは良かったな……ルーナさんは下山してきた所を狙うべきか……騎士団に事情を……いや、巻き込むことはできんか)」
元より悪事に向かない性格なので村が助かった事は喜べていた。だが、だからこそルーナの誘拐には難儀を示しているのだ。
「ライノス殿? 夕飯の準備が出来ましたが……」
トントンとノックされ、ダラムがライノスを夕食へ招く声が聞こえた。
ライノスはルーナ達が出発した後、村長の家で是非寝泊りをと誘われ、厄介になっている。
実際にはあまり役に立っていなかったが断りきれなかった。まあ騎士団が来たとき村長が居れば話は早いだろうという打算もあったが……。
「ありがとうございます! すぐ行きますので……」
お待ちしています、と村長の声が聞こえて、階段を下りていく音が遠くなっていった。
「……お前のご主人を攫わないといけないんだよな……それを知ったらお前はオレを許してくれないだろうな……」
ダンジョンで一緒に過ごし、主人を守って傷ついた勇敢な狼の頭を撫でながら、困った顔のまま誰も答えてくれない部屋でライノスは呟くのだった。
0
お気に入りに追加
4,184
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。