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第四部:ルーナの秘密

その65 散開

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 「……で、この娘が倒れたから風呂は無しになったって?」

 「そうじゃ。もう一人は宿へ帰ったが、この娘だけでも十分じゃろう? わしの娘を返してもらおうか」

 「ふん、二人とも連れてくる予定だったのが狂ったんだ、娘は返すわけにはいかねぇよ」

 「なんじゃと! 話が違うじゃないか!」

 「うるさい! 娘がどうなってもいいのか? ……連れて行くぞ」

 「ぐっ……!」




 はい、ルーナです。 野盗の一人とダラムさんが言い争いをしている中、チェイシャを抱いてベッドの上で寝たふりをし、連れて行かれるのを待っています。話を聞いていたけど、夢と同じで約束を守る気は無いみたいね。

 「なんだあ? ぬいぐるみか?」

 「きつく抱いてますぜ、このまま連れて行きましょう」

 「仕方ねぇな」

 私は大きな袋に入れられ、棒のようなものに吊り下げられて男二人に連れて行かれる。

 <(苦しいわ! きつく抱きすぎじゃぞ!)>

 「(ごめんごめん、ああしないとチェイシャだけ置いていかれそうだったから)」

 <(まったく……しかし、優位に立っておるから何の疑いも無く連れて行くのう)>

 「(そうね、ここで失敗したら警戒されるし、ダラムさんの娘さんの命も危ないから確実に終わらせるわよ)」

 <(うむ。さて、レイド達はちゃんと着いて来ておるじゃろうか>


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 「行きましたね……」

 「ああ、追いかけよう」

 裏口から出て行く、というのを事前に聞いていたので宿へ戻るフリをして、裏口近くの草むらへと身を潜めていたレイドとフレーレ。
 装備品も持っていたので、宿に戻るのは村に居残っている野盗を倒すライノスとレジナ達だけである。

 「でもよく許可しましたね? 反対すると思ったんですけど……」

 「そうかい? 確かにルーナちゃんのことは頼まれてるけど、彼女も立派な冒険者だからね。ルーナちゃんがやりたいって言って時にそれが出来そうな事なら反対はしないよ? もちろんフォローはするけどね」

 「なるほど。それだけですか?」

 「? それだけ? どういうことだい?」

 「いえ……あ、村の入り口に……霊峰側ではないんですねアジト」

 「みたいだな、俺達が出くわしたのは偶然じゃないってことか?」
 レイド達は足音を殺しながら後をつけていく。事前にルーナに<ナイトビジョン>を使ってもらっているので視界は良好、道も野盗も見失うことは無い。

 しばらく歩くと、アジトらしき所へ辿り着いた。

 「何人いるか分からない、慎重に行こう」

 「分かりました。よくある洞穴がアジトみたいですね」

 「まあ、こういうのはだいたい相場が決まっている。さ、入り口まで行こう」

 ルーナを入れた袋を持った野盗が洞穴へ入っていくのを確認し、周りに誰も居なくなったので素早く移動する。
 いつ終わるか分からないので、持続時間の長い初球の補助魔法をかけているが、レイドの能力ならこれでも十分だろう。

 「ルーナ、無茶しないでくださいよ……」


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 「わふ」

 「わ、そんなにせっつくなよ! 今向かってるだろ?」

 レジナに早くしろと、鼻先でお尻を突かれながらライノスは宿屋へと向かう。
 まずは居場所が特定できている人物を狙うのが早い上、捕えて尋問すればもう一人の居場所も分かるかもしれないというのもある。

 「さて、向こうは俺達が気付いた事を知らないから話は早そうだな」

 宿屋の玄関を開け、中へ入ると先ほどの男が受付で新聞を読んでいた。

 「おや、帰ったのか? ……ふん、ゆっくり休みな」

 こうして野盗だと分かってしまえば態度の悪さにも何となく納得がいくなと、ライノスは思っていた。
 とりあえず先ほど考えた方法を試してみる事にする。

 「ありがとう。それで部屋なんだけど、どうも鍵が壊れているみたいでロックすることが出来ないんだよ。ちょっと見てくれないか?」

 受付の男は新聞から目を外し、ライノスをじろっと睨むが、ため息をついて受付から出て部屋まで案内しろと言ってきた。

 「(ったく何で俺が……男しか戻ってきてない所を見ると女は攫えたか? くっそー俺も楽しみたいぜ……)」

 ライノスの部屋の前でガチャガチャと鍵を触り、状態を確かめるが特に問題は無さそうだった。

 「おい、鍵なんざ壊れちゃい、ねえ、よ……」

 振り向いた時、首筋に剣を当てられていることに気付く男。

 「な、何の冗談で? お、お客さん……?」

 冷や汗交じりにライノスへ聞いてきながら、男は腰のあたりに手を回す。
 もちろん見逃すライノスではない。

 「お前が野盗の一味だという事は分かっている。残念だったな!」

 すかさず、をしようとしていた腕を剣で斬りつけ、無力化する。
 ボタボタと血が床を濡らしていた。

 「うぎゃ!? く、くそ!? 何でバレてんだ!? 村長が裏切ったか!?」

 「きゅん!」

 逆の腕で腰のダガーを抜こうとしていた所、シルバに手首を噛まれ悶絶する。
 ゴキン、と嫌な音を立てて骨が砕けた。

 「わふ」

 よくやったとレジナがシルバの顔を舐めて褒める。
 シルバもシロップもルーナに飼われてからいい物ばかりを口にするので、成長が著しい。
 体つきはそれほど大きくなっていないが、顎の強さや脚力といった身体能力はガリガリの頃より、3倍も4倍も上がっていた。

 「ひいい、勘弁してくれ! し、死にたくねえよ……!」

 「なら、もう一人の村に常駐している仲間はどこに居る?」

 「そ、そんなことでいいのか! あいつは……」

 ドッ!

 「あが!? な、何で……」

 男が何か言いかけた時、胸にダガーが刺さり絶命した。ライノスが驚いて後ろを見ると、背を向けて男が逃げ去ろうとしているのが見えた。

 「……! マズイ、狙いは村長か? ヤツを追うぞ! ……って早っ!?」


 「な、何で狼が!? ぎゃあああああ!?」

 ライノスが声をかける前にレジナ達は行動を開始しており、宿屋の外で悲鳴が聞こえていた。
 男が殺される前からレジナは後方の気配に気づいており、いつでも飛び出せる準備はできていたのだ。

 もう一人の男は村長の家から無事に出たライノス達を不審に思い、後をつけていた。
 宿屋なら仲間も居るし挟み撃ちも出来るだろうと、ライノスの方へ向かったが、まさか自分の居場所を暴露されるとは思ってもみなかったため、慌てて口を封じたのだった。

 暗闇に乗じて逃げ切れると男は思っていたが、レジナ達はあっという間に男に追いつき、それぞれ足や手に噛みついたのだった。



 「……ふう、これはルーナさんを攫うのは骨が折れそうだ……」

 一人呟き、ライノスは剣を腰に収めながら、狼達の後を追うのだった。
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