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第四部:ルーナの秘密

その64 作戦

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 「……ちゃん」

 「……ーナちゃん」

 なんだろう、レイドさんの声が聞こえる……私達は野盗に掴まったのに……?

 「ルーナちゃん!」

 「ハッ!?」

 肩を揺すられている事に気づき、目を覚ます。レイドさんの顔が視界に入り、思わず抱きついた。

 「ど、どうしたんだい? 急に意識を失ったと思ったら泣き出したからビックリしたよ」
 急に抱きついた私を咎めることなく、小さい子をあやすように背中をポンポンと叩いてくれた。

 「わたしの名前を叫んでいましたけど……」
 フレーレも近づいて来て心配そうに顔を覗き込んでくれる。ダラムさんや他の人が居ないことを確認し、私はレイドさんから離れて話し出す。

 「……うん……夢を見ていたみたいなんだけど、ダラムさんにお風呂を勧められてフレーレと一緒に入っていたら野盗がダラムさんとお風呂場に入ってきて……そのまま攫われちゃったの……」

 「え!? い、今、村長さんがお風呂を勧めてきましたよ!? ルーナが倒れたからお断りしましたけど……」

 するとライノスさんが、言葉を続ける。

 「……女神の腕輪の危機回避とか、かな?」

 「夢自体はレジナ……あの母狼が罠にかかった時に見ているから女神の力って訳じゃないと思うの。あの時はまだ腕輪を持っていなかったし」

 でも、これがあの時と同じ夢なら、状況は違ってもこの村は野盗に占拠されているという事になる。

 「レジナの時と同じなら、この村は野盗の手に落ちています。後、ダラムさんの娘さんが野盗に掴まっているみたい」
 レイドさんが顔を険しくして言う。

 「となると、夜襲の可能性も考えないといけないか。ルーナちゃんの夢が当たるかはともかく、注意はしないといけない。霊峰に行く前に、憂いは絶っておいた方が良いしな」

 レイドさんは私の話を信じて、村を野盗が占拠している体で話を進める。山登りで妨害に合う可能性も考えると急がば回れだと思う。

 「どうしましょう? 村長へ確認を取りますか?」

 「そうですね、村長だけしか居ない時に聞いてみましょう。お風呂が罠なら逆手にとってもいいかもしれません」
 ライノスさんとフレーレが早速、野盗に対して手を打つため提案をする。

 「……まずはダラムさんの話から聞いてみましょう」

 丁度その時、ダラムさんが戻って来て、私を見て顔を綻ばせる。

 「おお! 目が覚めましたか、薬を持って来たのですが必要無さそうですな」
 小さな薬瓶を持って帰ってきていたが、その薬も怪しい物に見える。

 「ありがとうございます! もう大丈夫ですから! ……それで村長さんに折り入ってお話が……」

 「わしにですかな?」

 「はい、霊峰の事について少し……他の方には聞かれたくないので村長さん人払いをお願いできますか?」

 ダラムさんが目配せをすると、お手伝いさん達が部屋から出て行った。最後の一人がパタンとドアを閉めるのを確認してから私は話を始める。

 「ダラムさん、この村は野盗に占拠されているんじゃありませんか?」
 単刀直入に聞くと、ダラムさんの顔色が変わり、どもりながら反論をしてきた。

 「な、何を言うかと思えば……ばかばかしい、そんなことあるわけがなかろう……」

 まあそれは仕方ないよね。脅されていたりしたら本当の事を言う訳がない。

 「……お風呂場で私とフレーレを攫うつもりだった、そして娘さんが野盗へ攫われていて私達と交換に娘さんを返してもらう予定だった、違いますか?」

 冷や汗がダラダラと流れている所を見ると図星らしい、私は畳み掛けるように言葉を続ける。

 「二日後には騎士がここに来る予定は聞きましたよね? その前に私達が暴れて野盗を探してもいいですか? その場合娘さんの命はどうなるか分かりませんが……」

 もちろんそんな気は無いが、ダラムさんは信じたようで慌てて身を乗り出してくる。

 「ま、待て! そんなことをされたら娘はおろか、村もどうなるかわからん!? な、何が望みじゃ……」

 「野盗との繋がりをみとめますね?」 

 諦めたようにダラムさんが手元の酒をグイっとあおり、話し出す。

 「ああ、お前さんの言うとおりこの村は野盗に襲われた。わしらも戦ったから蹂躙をされるほどではなかったが、わしの娘が囚われてしまってな……。仕方なく言う事を聞くしかなかった」

 「なるほどな、野盗の考えそうなことだ。おおかた、村に来た旅人や冒険者から金を巻き上げて殺すような感じだろう」

 レイドさんが腕を組んだまま、昔そういった事がある村を見てきたと話す。
 
 「私に考えがあるんだけど、みんないい?」

 「なんです?」

 「私が野盗に掴まるフリををして、アジトまで連れて行かれるの。そこでダラムさんの娘さんを助けられるのと、アジトが分かるから一網打尽にできないかしら? 攫われるときはチェイシャを連れて行きたいわね」

 攫われている私の後を誰か着いてきてくれれば、という作戦だ。

 「危険じゃないですか? 気づかれたらルーナが危ないと思うんですけど……」
 フレーレは私の心配をしてくれるが、今は野盗がリードを取っているからこれくらいはしないと油断させることが難しいと思う。

 「私には切り札があるから、いざという時は使うわ」
 ダラムさんがまだ味方とは限らないので方法は濁しておく。レイドさんが目を閉じて考え、やがて口を開いた。

 「村長、村にはどれくらい入り込んでいる?」

 「……村に常駐している者は多くない。宿屋の主人と、村の入り口に居る言葉遣いが怪しい男くらいだな」

 「あの訛りがあった男は入り口で誰か来るのを確認する役目だったか。歓迎するには陰気な男だと思ったが……」
 ライノスさんが思い出して言うと、確かにと思う。人数や性別、装備などを見定める役割を持っていたのかもしれない。

 「なら、アジトは俺とフレーレで追う。ライノスはすまないが、その二人を抑えてから来てくれないか? レジナとチビ達なら匂いで追跡してくれるはずだ」

 「分かりました。ルーナさん、くれぐれも注意してください」

 「ありがとうございます。それじゃダラムさん、動物達を連れてきていいですね?」

 「……もう村と野盗の事は知られてしまったんじゃ、お前さん方に任せるしかあるまい……」
 半ばあきらめたように、項垂れるダラムさん。大丈夫、なんだかんだで私達、強いんだから!!


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 <あいわかった、わらわがルーナと一緒に居ればいいのじゃな?>

 「きゅん!」「きゅーん!」

 チェイシャに事情を話すとすぐに承諾してくれた。いつも思うんだけど、チェイシャって物分りいいよね。
 チビ達が自分たちもと騒ぐが、フレーレにたしなめられる。

 「おチビちゃんたちはレジナと一緒にライノスさんに着いて行ってね。ライノスさんが野盗二人を倒したら、ルーナの匂いを嗅いで追いかけて来てね! 重要なんだから頑張るのよ?」

 「わふ! わふわふ……」
 「きゅん? きゅん!」「きゅーん♪」

 レジナが頼りにされたのが嬉しいのか、おチビ達を言い聞かせていた。

 「ふうむ、喋る狐……」

 <ん? 霊峰に居る不死鳥とは知り合いじゃぞ。良かったのう、わらわ達が来て>

 「な、何と!? 不死鳥様のお導きか……分かりました。このダラム、協力は惜しみません。村の若者も戦えるものがおりますので、ルーナさんを連れて行ってもらった後わし自ら声をかけて回りましょう!」

 チェイシャのおかげでダラムさんもやる気になってくれたようで、私とチェイシャを一緒に連れて行ってもらう方法をぶつぶつと考えていた。

 「さ、それじゃ作戦開始ね!」

 「ルーナちゃんが一番危険なんだから、気を付けてくれよ? 何かあったら、お父さんに何言われるか分からないからな……」

 「レイドさんったら……ふふ」

 「笑い事じゃないよ? ふう……」
 
 冗談でなく、本気で言うレイドさんが妙におかしくて笑ってしまった。
 フレーレとライノスさんも苦笑し、いい意味で緊張がほぐれた。

 それじゃ、野盗退治と行きましょう!
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