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第四部:ルーナの秘密
その60 裏側
しおりを挟む薄暗い廊下を歩き、真っ直ぐと目的地へ向かう人影があった。
赤い絨毯の上を音も無く進むのはゲルスである。大きな扉の前で一度立ち止まり声を出す。
「……ほっほっほ、戻りました」
「入れ」
ゲルスが扉を開けると、四人の騎士と玉座に座る人影があった。それはビューリック国の国王の人だ。
「よく戻ってきたのうー! どうじゃ、成果のほどは!」
入って来たのがゲルスだと分かると、興奮しながらゲルスへ詰め寄った。
ゲルスはエクセレティコのみならず、ビューリックスの王とも繋がっているのだった。
「そうですねえ、エクセレティコはどうやらルーナの捕獲に失敗したようですよ? しばらく動けないでしょうから今がチャンスかと……」
いけしゃあしゃあとほくそ笑む。どちらが確保しようが、最終的には自分が頂くつもりなので情報を与えるのは苦ではない。
「そ、そうか! ならライノスを行かせたのは正解だったな! ヤツには魔剣を持たせたから一緒に居る勇者とやら相手でも勝てるじゃろう! う、うふふふふ……!!」
それを聞いて少し眉をひそめるゲルス。
「(地下に安置されていたあの剣を……? この国の根幹に関わると大臣が言っていた気がしたが……まあ、俺には関係ないか……。今回はライノスとやらのお手並みを拝見といきましょう、レイドとかいう勇者が大怪我でも負ってくれたら助かるんですがねえ?)」
「余はやはり賢いわい! ゲルスよ、少し休んだらお前も行くのじゃぞ? 女神の力も若い女も手に入るとは……うふふ、うふふふふ……!」
「ほっほっほ、まあ慌てないでください。エクセレティコは同盟国。ルーナを捕獲した後、交渉の場を設けてはいかがでしょう? 何、女神の力をチラつかせば何でも言う事を聞くでしょう……」
「おお、流石はゲルス! 冴えておるのう! うむ、領地確保のために戦争をチラつあせても面白いかもしれんな!」
国王の言葉に周りの騎士がどよめく。わざわざ戦争を仕掛けるほどビューリック国は貧困国ではない。持ちつ持たれつ協力して行けば滅びる事などないのだから。
「……では、私はこれで……」
「うむ、ご苦労じゃったな。吉報を待っておるぞ」
痩せこけた王が労いの言葉をかけるが、その目はもうすぐ目的が達成されると、狂気を孕んでいた。
扉を出たゲルスは自室へと向かう。
「(ほっほ、馬鹿は扱いやすくて楽ですねえ。私の目的も知らずに……。まあ、せいぜいライノス君には頑張ってもらいましょうか。ほっほっほ」
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「わふん……」
レジナがあくびをし、シルバとシロップもレジナの懐ですやすやと寝息を立てている。
外はすでに暗く、月明かりが街道を照らしていた。
アルファの町を出て早二日。
ゴトゴトと馬車に揺られて、私達はまずフジミナの麓にあるという村を目指す。
山の入り口はその村の裏にあり、そこからだと険しい道を少し回避できるのだそうだ。
村に到着するまでは特にすることもないので、フレーレとおしゃべりをしている事が多い。
ほどなくして馬車がゆっくりと停止する。
「そろそろ休もうか、俺が最初に見張りをするから二人は寝ていいよ」
「ありがとうございます! じゃあ起きたら交代しますね!」
レイドさんが御者台から私達に声をかけてくる。
今回は馬車を借りて私達だけで移動しているので、御者はレイドさんがやってくれている。
馬車は私の故郷へ帰った時と違い、幌がついている豪華仕様! 雨が降っても安心なのよね。
ちなみに馬はレイドさんの村で、村長さんから二頭の立派な馬を借りてきてくれたのだが……。
「(馬の名前、何でしたっけ?)」
フレーレが毛布をかぶって私に聞いてくる。
「(雄がブルルで、雌がアップル、よ……)」
……名付け親はレイドさんだそうで、ブルルと鳴くからブルルで、雌の子はリンゴが好物だかららしい。
人の事は言えないがレイドさんのネーミングセンスはイマイチだった。
「(人間、完璧な人はいませんからね……ふあ……)」
「(フレーレも勝手に人のあだ名をつけるんだから似たようなもんじゃない。そういえば領主様にあの時何て言ったの?)」
「(あ、あれは、その……)」
しどろもどろになるフレーレ。うーむ、怪しい……しかしここでは漏らさないだろう、どこかでぽろっと言わせないと。
「(まあ今は追及しないわ、助かったのは事実だし……あ、シルバこっちで寝るの?)」
「きゅーん……」
私が寝ると気付いたシルバがすかさず毛布に入って来た。山に近づくにつれて気温が下がってきたので有り難かったりする。
「(あ、いいなあ。チェイシャちゃん、こっちに来ませんか?)」
<今日のわらわは一人で寝たい気分なのじゃ。すまんが勘弁してくれい……むにゃむにゃ……>
多分もう動きたくないのだろう、昼間は馬車を軽くするためレジナとチェイシャは交代で外を走っていたりする。
「(残念……そろそろ寝ますね……おやすみなさい……)」
そう言うとフレーレがすぐに寝息を立てはじめた。馬車に乗りっぱなしというのも案外疲れるものなのだ。
私も目をつむって見張りに備える事にした。
「(このまま何事も無く不死鳥の所まで行ければいいけど……)」
パパの事、アントン達の事、女神の力と、問題は山積みなのだから。
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