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最終話 狩る者から駆る者へ
しおりを挟む――ドラゴン
人間には絶対に手に入れられない巨体を持つ世界でも有数の生物。
時に飛行能力を持ち、人に変わることができるという生態も持つ。
そんなドラゴンを俺は何十頭と狩ってきた。
最後に意識を失った時、元気なフリをしていたが魔力をほぼ使い切ったためだ。
魔力を使い切ると命に関わる。それでも、ヤツは倒しておかなければならないと判断して全力を出した。
(俺はこれで死ぬか……? セリカ、アイラ、フォルスにフラメ、シュネル、ヴィント……後は任せる……)
手足も動かず、俺はそんなことを考えていた。
というかまだ意識があるのか。セリカやフォルスの声が最後に聞こえていたけど、静かになった。
このまま死ぬのか……セリカとアイラには悪いことをしたな……だけどあの二人ならいい人が見つかるだろう――
意識が飛ぶな、という感覚に襲われいよいよだと覚悟を決める。死ぬ間際に過去のことを思い出したり、死んだ人に会うと師匠に聞いたことがあったけど現実はこんなものか。
【そうでもないぞ】
「え?」
不意に声が聞こえて俺はドキッとして目を開けた。するとそこは病院のベッドでも、屋敷でも、まして外でもなく、なにも無い真っ白な空間だった。
慌てて上半身を起こすと、目の前にいかつい金髪の男と、翡翠色の髪をした柔和な女性が立っていた。
立ち上がろうとすると、男が手で俺を制して口を開く。
【ああ、そのままで構わないよ。ラッヘ……いや、ディカルが本当の名だったか】
「なんだって……? あなたは一体?」
【あなたが良く知っている者よ。あの子……フォルスを助けてくれてありがとう】
「……!? まさか、クィーンドラゴン……! そっちの男は……誰だ?」
【おう!?】
俺の言葉に男はずっこけた。
するとクィーンドラゴンがくすくすと笑いながら口を開いた。
【ふふ、彼はカイザードラゴンよ。あなたが倒した最強のドラゴン】
「あんたが!? ……あの時はすまない、倒すしかなかった」
【フッ、会って最初に言うのが謝罪とは優しい人間だな。お前のことはずっと剣として見ていたが信頼に値するものだと思ったよ】
カイザードラゴンはそう言って困った顔で笑う。どうやら俺のことは恨んでいないらしい。
【むしろ世界を壊さずにすんで良かったと思っている。全てダークドラゴンの仕業だったわけだが、ああなってしまった以上言い訳もできない。ありがとう】
「いや……俺は倒しただけで……というかブラックドラゴンじゃなかったのか!?」
【それができる人間もドラゴンも多くはない。……とはいえ、カイザードラゴンなどと呼ばれてもあの病に抗えなかったのだから私もその程度だということか】
「……あんたは強かったよ。どのドラゴンよりも。死ぬ一歩手前までいっていたからな。最後に手加減したんじゃないのか?」
【……どうかな?】
不敵に笑うカイザードラゴンが肩を竦めると、今度はクィーンドラゴンが一歩前へ出て話し出す。
【次は私から。病にかかってしまえば後は死ぬだけだったあの子を助けてくれて本当にありがとう。フォルスという名前、とてもいいわ】
「あいつは俺についてきた。必死にな。生きる意志を感じた。それとな」
【ん?】
「可愛かった」
【あははははは! そうね、あの子は可愛いわね! ……そんなあなたをドラゴンの復讐に駆り出してしまった。同胞がすまないことをしたわ……】
「もう倒して終わったことだ。ドラゴンそのものを恨んじゃいない」
俺の感想を言うと、クィーンドラゴンが大笑いをした後、しんみりという。
実際、辛いことばかりだったが、最後はしっかり倒すことができたし、恋人もできた。ドラゴンもいい奴らだとわかったしな。
【まだ、終わりではない】
「なに?」
【あなたはセリカさん達のところへ戻らなければならない。辛い目にあうのは私達だけで十分】
「しかし、もう俺には魔力が、ない」
そう言ってくれるのは嬉しいが起き上がることができない。だからこそ死んだ二人に会っているのだろうから。
しかしその考えを打ち消す言葉を投げかけてきた。
【大丈夫だ。私達はもう逝くが、最後の力をお前に渡そう】
【二人分の力があれば目を覚ますことができるわ。ここに呼んだのは話したかったのと、力を渡すことが目的だったの】
「そんなことが――」
できるのかと言おうとした瞬間、二人の姿がぼやけたように見えた。
「ま、待ってくれ! 俺はあんた達を殺したんだ! ここまでしてもらうわけには……!」
【フォルスを、私達の子を頼む。それだけで十分だ】
【まだ他のドラゴンも治っているとは思えないから、あなたが居てくれると世界が助かるわ】
「すまない……! ありがとう――」
泣いていてぼやけているのか、そういうものなのか分からなくなったころ、俺は白い空間に飲み込まれるようにして意識がまた遠くなっていく――
(いつかまた会おう――)
◆ ◇ ◆
「ありがとう!」
「うわぁ!?」
「ぴゅいー!?」
「息を吹き返した!? 陛下! 王妃様! 王子ぃぃぃぃ!!」
叫びながら起き上がると、目の前にセリカの顔があり、胸にはフォルスが張り付いていた。
上を見ればシュネルが見下ろしており、両脇には小さくなったフラメとヴィントが立っていた。
まだフラメが倒れていたところだったようで、地面には乾いていない血のシミがある。
「俺は――」
「うわああああん! 良かったぁぁぁ! 結婚する前に死んじゃうかと思ったぁぁぁ」
「うわ!?」
「本当よ! 仇が来たと言って出て行ってからこんなことになっているなんて!」
セリカに泣きながら抱き着かれ、声がする方を見るとアイラもこの場に駆け付けていた。少し涙ぐんでいるが大泣きをしないのが大人だなと妙なことを思ってしまう。
【お前もしぶといな】
「フラメに言われたくはないな」
全身を傷だらけにして腕組みをするフラメに笑いかける。なんとかお互い生き残ったようだ。
【しかし、見事だったね。これでドラゴン達も無駄に暴れなくて済む】
【せやなあ。みんな見とった? わしの雄姿!】
「ぴゅー♪」
「あはは、フォルスは見てたみたいよ」
「もちろん我々も見ておりましたよ! 弱いドラゴンなどとんでもないですよ」
【ありがとうなー!】
和やかなムードの中で騎士や兵士たちも加わってきた。そこへ陛下達が馬車で駆けつけてきた。
「無事か……!」
「みんな!」
「た、倒したんだな……!? すごいぞラッヘさん!」
「陛下。それとみんなに話したい事がある――」
俺はセリカの背中を撫でながら応対し、先ほど見た夢のような出来事を話した。
フォルスはカイザードラゴンとクイーンドラゴンの子であること。
ここに俺を戻してくれたのはその二人で会ったことなどをだ。
最初は困惑していたが、今までの経緯から疑っても仕方が無いと皆が口にした。
【あいつダークドラゴンやったんかい……】
とりあえずみんなが思っていたことをシュネルが口にし、それぞれ苦笑していた。
多分、自分のタイプには興味が無かったのだろう。
その後で陛下が口を開いた。
「ご苦労だったな、ラッヘ……いや、ディカルよ。各国には私から通達を出しておく。恐らく、お前にたくさんの礼が来るだろう」
「そうですわね! これで旅を続けなくてもよくなったし、屋敷で暮らすんでしょう?」
陛下と王妃様が笑顔で語る。
「フラメ達も暴走しないなら、僕は空を飛んで色々な土地へ行きたいなあ。なあフォルス?」
「ぴゅい!」
フォルスは抱っこされているい俺の腕でエリード王子に『どんとこい』と腕を広げていた。
屋敷に残る……それでもいいかもしれない。復讐は終わった。剣を手放し、別の仕事について穏やかに暮らすこともできるだろう。
しかし、俺にはまだ考えていることが、ある。
「陛下。各国に連絡を取るならお願いしたいことが」
「ん? なんだ? 世界の英雄の頼みだ、多少の無茶は聞けると思うぞ」
「では……」
俺は一度、深呼吸をしてドラゴン達を見渡す。
「ぴゅい?」
【なんだ?】
【どうかしたかい?】
【なんや? わしは出ていかんで? 芋食いたいし】
「俺の願いは――」
◆ ◇ ◆
「ディカルさん! 東にある『ヤークル国』で二本角のドラゴンが発見されたと伝令が!」
「お、また珍しいタイプのドラゴンだな! よし、竜騎兵団《ドラグナー》は準備をして現地に向かうぞ」
「オッケー!」
「気を付けてね!」
【行くぞ】
レスバが一報を持ってきて、俺達は武器を持って立ちあがる。
あれから半年が経った――
陛下にお願いをし俺達は今、海の孤島に住み家を移していた。
そこで、セリカやアイラ、ドラゴン達と一緒に暮らしていて、さらに仕事もしている。
仕事内容はドラゴンの治療。
被害は広がらなくなったが、病にかかったままのドラゴンがまだたくさんいる。
俺はそいつらを助けるための組織を作ったのだ。
ちなみにこの半年で数頭保護することができている。ヴィントとシュネルが飛べるのが大きい。
各国から許諾を貰い、目立つよう旗をもって飛んでいるためお咎めもないしな。
そしてこの孤島は海のど真ん中で、絶好の場所にあり、空を飛べさえすれば各国にアクセスするのが容易となっている。
孤島と言っても広く、他に王都から来た研究者や騎士に兵士も移住しているため集落にも見えるかな?
ドラゴンが増えれば手狭になるが、人型になれるようフラメ達も修行をしていた。
「ディカルさん早く! 被害が出る前に!」
「ああ、すぐ行く!」
セリカが笑顔で俺を呼ぶ。
次はどんな奴なんだろうな? この前のは氷を操るヤツでなかなか手ごわかったものだ。
……ドラゴンを殺していた俺がドラゴンを助けるようになるとは、人生わからないものだ。
「ぱぁぱ、いこー! ぴゅー!」
最近、フォルスも歯が生えて来て少し喋れるようになった。こうなると益々可愛く見える。相変わらずぴゅいぴゅいしていることが多いが。
【今日はオレも行こう】
「頼むぞフラメ」
【フラメにいちゃ、いこー!】
フォルスと巾着に入ったフラメを抱えて外に出る。そこには大きくなったヴィントが待っていた。
「シュネルは?」
「フェークさんが買い物に行くのに乗って行っちゃったわ」
「マジか。あの人、まさか居つくとは思わなかったなあ」
「情報収集能力が高いからありがたいけどね! さ、それじゃ行くわよー!」
フェークさんは情報収集、レスバはこの島で手紙や船で来た人達の相手をするようになり、居ついてしまった。まあ、ふらりと居なくなる可能性があるけど、今は頼らせてもらっている。
「ぴゅー♪ まぁま、いこー!」
こいつを拾ってから巡り合わせが変わった。
あの時、チビドラゴンを拾わなかったら俺はまだ滅竜士《ドラゴンバスター》としてドラゴンを殺し続けていただろうか?
「……ま、過去は過去だ。行先はヤークル国だ、頼むぞヴィント!」
【任せてよ! それ――】
そして俺はまたドラゴンの下へ。
狩る者から駆る者……滅竜士《ドラゴンバスター》から竜勇士《ドラゴンマスター》として、彼等を助けるために――
――FIN――
◆ ◇ ◆
どうも作者の八神です!
最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する
これにて終了となります!
ここまで読んでくれた方へ厚く御礼申し上げます!
本当はキャラがもう少しいたので(冒険者三人組とか)掘り下げの話とかも書きたかったのですが、そこまで人気も無かったので終了とさせていただきました。申し訳ございません……
まだ連載中のお話や、新作もご用意しておりますのでそちらもよかったらよろしくお願いいたします!
では、またどこかでお会いできるのを楽しみにしております!
八神 凪
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