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その114 持たざる者は道化として

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「ふう……」
「どうしたセリカ、息が上がっているんじゃないか?」
「ふん、だからなに? そろそろあんたの動きを見切って来たところだから」
「負け惜しみか! へへ、すぐオレの女にしてやるぜ!」

 などとヒュージが叫びながら斬りかかってくる。
 いやあ、最初から馬鹿だと思っていたけど、ここまでだとは思わなかったわ。
 ドラゴン……といってもシュネルと同じクラスを倒したといっても一人で倒したわけじゃないし、それを実力と勘違いしているのは度し難い。
 現時点で剣を合わせているけど前よりは確かに腕が上がっているように見える。

 けど、これは恐らく身に着けている装備のせいだと思う。
 黒いドラゴンが与えたのか、あまり趣味のよくない感じの鎧と剣。 そしてその一撃を受けると、なかなか重い攻撃だった。
 まあラッヘさんほどではないけどね? 息が上がっているのは力勝負じゃ分が悪いからというだけで、

「技と装備じゃ負けていないのよ!」
「こいつ……!」

 アイラさんに作ってもらった私の剣は私専用に作られているため、これ以上馴染むものはないくらいだ。
 息を整えた私は一気に攻め入る。大剣はラッヘさんとの訓練で慣れているから概ねの動きが分かるのだ。

「チッ……!?」
「そこ!」
「うるぁぁぁぁ!」
「……! はあ!」

 私の一撃が頬を掠る。
 それに怒りを覚えたのか、殺す気の大振りだ。それを受けると、大きく後ろに下がらされた。

「まだだ!」
「なんの……!!」

 大ぶりな剣が当たるわけもなく、それを回避して肩口を突く。
 そのことに驚愕に歪む顔をしたヒュージが一歩下がり、今度は私を睨みつけてくる。

「なんだお前は……」
「これでもAランク冒険者だからね? ああ、あんたがどれくらいのかは知らないし興味はないから言わないでいいわ」
「くっ……ドラゴンの装備だというのに……」
「装備が良くなっても腕が変わらないなら同じことよ。それにこっちもドラゴンの素材で作られた装備だからね?」

 装備が同じ程度であれば後は腕次第だと突き付けてやる。強さはとにかくわかりやすい。
 さらに私はというと……

「<アクアスプレッド>!」
「うお!?」
「言っとくけど魔法も使えるからね? 剣だけじゃないってこと。あんたはなにか魔法が使えるのかしら? 諦めて降参しなさい。とは言っても今度こそ牢に入るのは間違いないけど」
「う、ぐ……うおおおおお!」

 私が指摘すると、ヒュージが途端に大声で叫び出した。

「おいブラック! てめえの装備、使えねえじゃねえか!」
【あ? 強度や切れ味は間違いなく最高レベルを誇る。貴様が扱えないだけだろうが。私のせいにしてもらっては困るな】
「くそが……!」
「喋っている暇があるのか?」

 ラッヘさんと戦っている黒いドラゴンが忌々しいと口を開く。信頼関係というものはないらしい。それにしてもラッヘさんの攻撃をあの巨体でよくかわしているわね。
 アースドラゴンも速かったことを思い出す。

【……しかし、そう言われては私としても遺憾だな、試してやろう――】
「なに……? あ……ああああああああああ!?」

 ラッヘさんに尻尾を打ち付けながらヒュージに手を翳すと、急に苦しみ出した。
 鎧からどす黒い煙があふれ出す。

「一体なにが――」

 そう呟いた瞬間、ヒュージが一気に詰め寄って来た。明らかに先ほどより速い……!?

「くっ……!?」
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんて力……!?」

 速度だけじゃなくて力も……!? だけど目に光がない。操られている、というかこれはまさかフラメ達と同じ……?
 
「がぁぁぁぁ!!」
「きゃあ!?」
「おれの……おれのものダ……!! オレはツヨイ……ドラゴンバスターナンダ!!!」
「この!」

 全力以上の力で攻撃してくるヒュージの剣が私の鎧を欠けさせていく。こちらも魔力を全開にして反撃をしているので剣や鎧を破壊できている。
 けど、ヒュージはおかしな力を出しているためほぼ互角となった。

「あああああああああああ!!」
「その男、様子がおかしい! セリカさん加勢を!」
「だめ! 近づかないで!」
「「「ぐあぁぁ!?」」」

 駆けつけてくれた兵士さんが一閃に斬られてその場に倒れた。ドラゴン装備というのは伊達ではなく、鎧はあっさりバラバラになった。血は出ているけど幸い死んではいない……と思いたい。

「本当の馬鹿ねあんたは!!」
「ぐがぁぁぁぁ!!」
「まだ強く……!? きゃ!?」

 その瞬間、大剣の一撃で剣を打ち払われた。そのままヒュージは横薙ぎに剣を振り、私の胸に迫って来た。これは、まずい……かも!

「ぐが……!?」

 そう思った瞬間、胸に衝撃が入って目の前が一瞬チカチカとする。
 骨にヒビくらいは入ったかという感じで、私は危うく剣を取り落としそうになった。

「くっ!?」
「おおおおおおおお!」

 揺れる視界の向こうで大剣が頭上にあるのが見えた。あれを私の頭に振り下ろす気だ。兜はあるけど、頭に先ほどの衝撃を受けたら下手をすると死ぬ。
 剣でガードしようとするも、ダメージのせいで腕が上がらない。

「任されたんだから……あんたなんかに負けるわけにはいかないのよ!」
「ぴゅー!」

 そこでフォルスの声が聞こえて来た。身体が少し軽くなった気がする。
 さらにそこで驚くべきことが起こった!

「ぴゅい……ぴゅ……まぁま!!」
「……!? フォルスが喋っ――」

 フォルスが叫びながらこっちへ向かって来ていた。その光景に目を見開いたその時、私の頭上に迫っていた大剣がなにかに阻まれるように止まった。

「……! 悪いけどこれで寝てもらうわ!」
「がぁぁぁぁぁぁ!?」

 そしてなんとか持ち上げた剣の柄でヒュージ顎を打ち抜いた。よろけたところで剣を持った手を斬りつけ、取り落とさせた。手首を落とすまではしていないから目が覚めてもショックは受けないだろう。
 そのまま前進してヒュージを蹴り倒し、首を絞めてた。

「ふう、これで終わり……っと」
「ぴゅー♪」

 そこへフォルスが足を駆け上ってきて私の顔を舐めてきた。

「フォルス! こっちへ来ちゃったの?」
「ぴゅ!」
「そういえばさっきまぁまって言ってたわね? もう一回言ってみて?」
「まぁまー♪」
「……! 言えた!? うううう……可愛い……」

 抱っこして高い高いして可愛がってあげた。だけど、今はそれどころじゃない。

「すみません、この人を拘束しておいてください! 次は――」

 私はぐっと剣を握ると、大暴れしているフラメに目を向ける。
 
「ぴゅい!」
「行くわよフォルス!」
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