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その111 仇との遭遇
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「いやあ、食った食った。ブラックはあれで良かったのか?」
【少しの肉と、リンゴがあれば十分だ】
レストランから出て来たヒュージとブラックドラゴンはそんな話をしながら食べた料理の感想を口にしていた。
満足気なヒュージはリンゴばかり食べていたなと肩を竦めて歩き出す。
しかし、少し歩いたところでヒュージが訝しむ。
「……妙だな」
【どうした?】
「人通りが少ない……いや、人が歩いていないんだ。警邏中の兵士は居るんだけど、町の人がな」
【巣にこもっているのではないか?】
「まだ陽も高いからこんなことは――」
そうヒュージが返そうとした時、妙な汗をかきながら笑みを浮かべ……足が止まる。
振り返って返事をしていたブラックドラゴンが訝しみながら視線の先を辿ると――
◆ ◇ ◆
「……本当に人の姿をしているんだな」
「これは紛れ込まれたら分からないわね。でも、ようやく尻尾を掴んだわね」
【尻尾は出ていないぞ?】
「そういう意味じゃないんだフラメ」
――俺達の目の前には男が二人立っていた。
一人はまさかと思ったが、禍々しい雰囲気の装備に身を包んだヒュージ。そしてその前には似顔絵に近い顔の男が居た。
フェークから報告を受けた時は驚いたが、間違いなくこいつが黒いドラゴンだろう。
俺達が姿を見せると同時に、城から派遣されて来た騎士と兵士があちこちから出てきて二人を取り囲んだ。
潜伏をして俺達に奇襲でもかけてくるつもりだったようだが、それは逆で、俺達が誘い込んだ形になる。
【……なんだ、お前達は?】
【ご挨拶だな黒竜よ。その姿は、すでにバレているぞ?】
【上手く気配を消しているけど、ここまで近かったらさすがに分かるよ】
【……】
黒いドラゴンは正面を向いてフラメとヴィントに目を向ける。感情があまりこもっていない感じだな。
【なんのことか分からないが――】
「おおや、お前が黒竜だってことはここに居る全員が知っている。北の方でグリーンドラゴンを殺したな? それを見ていた人間が居たんだよ。その姿をな」
【……!】
瞬間、少しだけ眉が動いた。
こいつがどう否定しようがこちらが確信していることは揺るがない。俺はこのまま質問を投げかけることにした。
「どうして仲間を殺すようなことをした? それもそうだが、人間の町を破壊したりもしたな? 理由はあるのか?」
「てめえ――」
「あんたには後から聞く。今は黙ってなさい」
「……!?」
ヒュージが黒いドラゴンの隣に並んでなにかを言おうとしたが、臨戦態勢のセリカに窘められた。
するとそこで黒いドラゴンが口を開く。
【くく……まさか追いつめているつもりが五分だったとはな。いや、ドラゴンを連れているだけのことはあるということか。目的? 理由? そんなものは簡単だ。私がこの世界で最強のドラゴンだと知らしめるため。それに弱い者は存在する価値はあるまい?】
「……町の人達のことか?」
【まあ、色々だよ。たった一人の私にすら勝てなかった人間達に生きる価値があるとも思えん。無駄に増え、山を切り崩し海や山を汚す。そうすると体の大きな我々は住処を変えざるを得ない。……おかしいじゃないか。強者が弱者に遠慮するなど】
「……」
なにがあったのかは知らないが、こいつは『人間ごときが』と考えているようだ。
「なら、フラメ達みたいに共存すれば良かったじゃない!」
【できるか? ドラゴンを見ると素材だと襲ってくる者達と。フレイムドラゴンにウインドドラゴン。そいつらもいずれお前達を殺すぞ】
黒いドラゴンが笑いながら言い放ち、セリカが口を噤む。確かに言っていることはわからなくはない。
【だが、無差別に殺すのは良くないだろう。討伐するために遭遇戦ではなく討伐戦に変わってしまう。分かるか? 自主的に狩りに来るということだ】
【だからお前達ドラゴンの正気を消して襲わせた! 殺し合えばいずれ人間とドラゴンは少なくなる! そこに私という強者が子を作り、私の血を引いたドラゴンを増やしていくのだ】
【なるほどね。身内以外は必要ないってタイプか】
ヴィントが『たまにいるんだ、こういう身勝手なことをする奴が』と鼻で笑う。
それが気に入らなかったようで、黒いドラゴンは笑みを消して言う。
【それがどうした? どう私を責めたとて、私が強いということは変わらない。作り出した病原菌で理性を失ったのは誰だ? それが証明だ】
「実際、強いの?」
【まあ、オレよりは強いだろうな。だが、こちらにはヴィントもラッヘもセリカも居る。お前が勝てる要素は少ない】
「こっちには俺も居るがな? あの時とは違うぜ?」
「ヒュージ、お前は黒いドラゴンと手を組んだのか?」
「てめえを倒すためにな」
「呆れたわ。滅竜士《ドラゴンバスター》がドラゴンと手を組むなんて。やっぱあんたはダメダメね? ねー?」
「ぴゅーい!」
「くっ……」
セリカとフォルスが顔を見合わせていた。挑発ではなく、真実なのだから仕方がない。
「わかった。どちらにせよ、その黒いドラゴンは俺の町を潰した仇なんだ。喋ろうが、謝ろうが、抵抗しなかったとしても……殺す」
【ふん、人間が私を? 馬鹿が、フレイムドラゴンやウインドドラゴンを倒した程度で調子に乗るなよ……! ヒュージ、話は終わりだ。私の計画を邪魔するこいつらは始末するぞ】
「おう」
【一瞬で灰に――】
「シュネル!」
黒いドラゴンが正体を現す一瞬の隙。そこで俺はシュネルの名を呼んだ。
【……待ってたでぇ!】
【貴様……ワイバーン!】
「うおおお!?」
そして上空から強襲してきたシュネルは二人を掴んで再度急上昇。そのまま王都の外へと飛んでいく。
【追うよ! みんな乗って!】
「ああ!」
「ヒュージは私が相手をするわ。ラッヘさんは黒いドラゴンを!」
「ああ。フォルス、しっかり掴まっていろよ」
「ぴゅい!」
【……さて、どうなる】
仇は目の前。 後は討伐するのみ。
俺は滅竜士《ドラゴンバスター》として最後の仕事を……執行する!
【少しの肉と、リンゴがあれば十分だ】
レストランから出て来たヒュージとブラックドラゴンはそんな話をしながら食べた料理の感想を口にしていた。
満足気なヒュージはリンゴばかり食べていたなと肩を竦めて歩き出す。
しかし、少し歩いたところでヒュージが訝しむ。
「……妙だな」
【どうした?】
「人通りが少ない……いや、人が歩いていないんだ。警邏中の兵士は居るんだけど、町の人がな」
【巣にこもっているのではないか?】
「まだ陽も高いからこんなことは――」
そうヒュージが返そうとした時、妙な汗をかきながら笑みを浮かべ……足が止まる。
振り返って返事をしていたブラックドラゴンが訝しみながら視線の先を辿ると――
◆ ◇ ◆
「……本当に人の姿をしているんだな」
「これは紛れ込まれたら分からないわね。でも、ようやく尻尾を掴んだわね」
【尻尾は出ていないぞ?】
「そういう意味じゃないんだフラメ」
――俺達の目の前には男が二人立っていた。
一人はまさかと思ったが、禍々しい雰囲気の装備に身を包んだヒュージ。そしてその前には似顔絵に近い顔の男が居た。
フェークから報告を受けた時は驚いたが、間違いなくこいつが黒いドラゴンだろう。
俺達が姿を見せると同時に、城から派遣されて来た騎士と兵士があちこちから出てきて二人を取り囲んだ。
潜伏をして俺達に奇襲でもかけてくるつもりだったようだが、それは逆で、俺達が誘い込んだ形になる。
【……なんだ、お前達は?】
【ご挨拶だな黒竜よ。その姿は、すでにバレているぞ?】
【上手く気配を消しているけど、ここまで近かったらさすがに分かるよ】
【……】
黒いドラゴンは正面を向いてフラメとヴィントに目を向ける。感情があまりこもっていない感じだな。
【なんのことか分からないが――】
「おおや、お前が黒竜だってことはここに居る全員が知っている。北の方でグリーンドラゴンを殺したな? それを見ていた人間が居たんだよ。その姿をな」
【……!】
瞬間、少しだけ眉が動いた。
こいつがどう否定しようがこちらが確信していることは揺るがない。俺はこのまま質問を投げかけることにした。
「どうして仲間を殺すようなことをした? それもそうだが、人間の町を破壊したりもしたな? 理由はあるのか?」
「てめえ――」
「あんたには後から聞く。今は黙ってなさい」
「……!?」
ヒュージが黒いドラゴンの隣に並んでなにかを言おうとしたが、臨戦態勢のセリカに窘められた。
するとそこで黒いドラゴンが口を開く。
【くく……まさか追いつめているつもりが五分だったとはな。いや、ドラゴンを連れているだけのことはあるということか。目的? 理由? そんなものは簡単だ。私がこの世界で最強のドラゴンだと知らしめるため。それに弱い者は存在する価値はあるまい?】
「……町の人達のことか?」
【まあ、色々だよ。たった一人の私にすら勝てなかった人間達に生きる価値があるとも思えん。無駄に増え、山を切り崩し海や山を汚す。そうすると体の大きな我々は住処を変えざるを得ない。……おかしいじゃないか。強者が弱者に遠慮するなど】
「……」
なにがあったのかは知らないが、こいつは『人間ごときが』と考えているようだ。
「なら、フラメ達みたいに共存すれば良かったじゃない!」
【できるか? ドラゴンを見ると素材だと襲ってくる者達と。フレイムドラゴンにウインドドラゴン。そいつらもいずれお前達を殺すぞ】
黒いドラゴンが笑いながら言い放ち、セリカが口を噤む。確かに言っていることはわからなくはない。
【だが、無差別に殺すのは良くないだろう。討伐するために遭遇戦ではなく討伐戦に変わってしまう。分かるか? 自主的に狩りに来るということだ】
【だからお前達ドラゴンの正気を消して襲わせた! 殺し合えばいずれ人間とドラゴンは少なくなる! そこに私という強者が子を作り、私の血を引いたドラゴンを増やしていくのだ】
【なるほどね。身内以外は必要ないってタイプか】
ヴィントが『たまにいるんだ、こういう身勝手なことをする奴が』と鼻で笑う。
それが気に入らなかったようで、黒いドラゴンは笑みを消して言う。
【それがどうした? どう私を責めたとて、私が強いということは変わらない。作り出した病原菌で理性を失ったのは誰だ? それが証明だ】
「実際、強いの?」
【まあ、オレよりは強いだろうな。だが、こちらにはヴィントもラッヘもセリカも居る。お前が勝てる要素は少ない】
「こっちには俺も居るがな? あの時とは違うぜ?」
「ヒュージ、お前は黒いドラゴンと手を組んだのか?」
「てめえを倒すためにな」
「呆れたわ。滅竜士《ドラゴンバスター》がドラゴンと手を組むなんて。やっぱあんたはダメダメね? ねー?」
「ぴゅーい!」
「くっ……」
セリカとフォルスが顔を見合わせていた。挑発ではなく、真実なのだから仕方がない。
「わかった。どちらにせよ、その黒いドラゴンは俺の町を潰した仇なんだ。喋ろうが、謝ろうが、抵抗しなかったとしても……殺す」
【ふん、人間が私を? 馬鹿が、フレイムドラゴンやウインドドラゴンを倒した程度で調子に乗るなよ……! ヒュージ、話は終わりだ。私の計画を邪魔するこいつらは始末するぞ】
「おう」
【一瞬で灰に――】
「シュネル!」
黒いドラゴンが正体を現す一瞬の隙。そこで俺はシュネルの名を呼んだ。
【……待ってたでぇ!】
【貴様……ワイバーン!】
「うおおお!?」
そして上空から強襲してきたシュネルは二人を掴んで再度急上昇。そのまま王都の外へと飛んでいく。
【追うよ! みんな乗って!】
「ああ!」
「ヒュージは私が相手をするわ。ラッヘさんは黒いドラゴンを!」
「ああ。フォルス、しっかり掴まっていろよ」
「ぴゅい!」
【……さて、どうなる】
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