最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

文字の大きさ
上 下
105 / 116

その105 陽気なドラゴン

しおりを挟む
【んあああああ! 痛いぃぃ!】
「ええー……」
「ぴゅいー……」

 ひとまずウインドドラゴンが正気に戻った……らしい。
 だが、痛い痛いと叫ぶばかりである。
 その情けない姿にセリカとフォルスが呆れていた。

【たいした傷ではなかろう。ほれ】
【背中に激痛!? 確かにこれに比べたら肩は痛くないね!?】

 まだ大きいフラメがウインドドラゴンの背中を叩くと、そっちの方が痛かったようでぷるぷると震え出した。

【別のところを殴って痛みを変えるのはちゃうと思うんやけどなあ……】
「俺もそう思う。正気に戻ったようでなによりだ」
【ん? 人間かい? そういえば今、僕を殴ったのは……フレイムドラゴンじゃないか……!? それに翼竜《ワイバーン》も!】

 俺が声をかけるとウインドドラゴンはひょっこりと起き上がり、胡坐をかいて座る。フラメと一緒で手足があるタイプのドラゴンだが、少し線が細い気がするな。
 ずっと驚いているウインドドラゴンにフラメも前に胡坐をかいて座る。

「ぴゅーい♪」
「フラメ、膝に座っていい?」
【もちろんだ。いつもと逆だな、はっはっは!】

 そこでフォルスが大喜びでセリカの顔を見ながらフラメを差す。どうやら膝に座りたいらしい。もちろん拒否するフラメではないので俺達は遠慮なくフラメの膝へ乗った。

【随分と仲がいいね?】
【お前と同じで、とあるドラゴンの病により暴れていたところをこの者達に助けられたのだ】
【暴走……そういえば……記憶が曖昧だ……】
【かくかくしかじかやで、ウインドドラゴン様】

 シュネルが話をしてくれると、ウインドドラゴンは腕組みをしてうなりを上げた。

【うーん、なるほど。いつの間にかそういうことになっていたんだねえ。本来なら狩られるところだけど、そのクイーンドラゴン様の子供が救出方法を持っているから僕達は助かっている、と】
「話が早くて助かるよ」
【いえいえ、こちらこそありがとう。もし助けてくれなかったら、僕があの町を破壊してとんでもない悪者になっていたからね】
「相変わらず話がわかるわね、ドラゴンって」
【まあ、言葉を交わせるからお互いの意思は伝えられる。オレ達は人間を食う訳ではないから共存は可能だと思っている】

 ウインドドラゴンは頭を下げ、フラメは嬉しいことを言う。そら人間も悪い奴がいるし、種族どうこうより『在り方』の方が大事なのかもしれないな。

【それじゃ僕もお世話になった方がいいかな】
「そうだな。もし、再び暴れてもフォルスが近くにいれば助けられる」
【よろしく頼むよ。それで早速だけどお願いがあるね】
「ぴゅー?」
「なあに?」

 突然の要求にセリカとフォルスが首を傾げる。するとウインドドラゴンはフッと笑ってから口を開く。

【僕にも名前をつけてもらいたい。ウインドドラゴンだと長いからねえ。翼竜《ワイバーン》にもあるんだ。僕だって欲しい!】
「あー」
「ぴゅい」

 素直な奴である。
 即名付けはあまり考えていなかったが、いざという時の為に候補はあった。

「ヴィントとかビエントなんてどうだ?」
【お、いいねえ! 響き的にヴィントがいいかな】
「かっこいいもんね。ならあなたはヴィントに決まりよ!」
「ぴゅー♪」
【よろしく人間のお嬢さんとクイーンドラゴン様の子供!】
「私はセリカよ。この子はフォルス。で、ラッヘさん」
【セリカにフォルスとラッヘだね! 僕はヴィントだ!】

 堂々と語るヴィントに各々が『今つけたばっかりだけどね』と笑う。
 そこで町からたくさんの人間が出てくるのが見えた。

【どうしたのだ?】
「あ、こんなでかいのが二人も居たら目立つな」
「それもそうね……」

 程なくして武装した人達が俺達の下へ到着すると、その中にトラント達も居た。

「ラッヘさん!!」
「トラントじゃないか、用事は終わったのか?」
「ええ、それはもう……ってなんか町が襲われそうになったと思ったらドラゴン同士の戦いが始まったんですけど、やっぱりラッヘさんだったんですね」
「騒がせたか、すまない」

 俺がそう口にすると、歴戦の戦士のような男が前に出て来た。

「むう……これは圧巻だな……失礼、私はこのレツトの町のギルドマスターをやらせてもらっているパリオスと言います。町を守っていただいたようで……」
「そういえばこの町のギルドには寄ったことが無いな。ラッヘです。たまたま立ち寄った際に出くわしただけなので気にしないでください。一応、このウインドドラゴンはこちらで引き取りますので」
【いやあ、危ないところだったねー! 病気でこんなになるんだ、ごめんよ】
「い、いえ……ドラゴンを倒すどころか手なずけているとは……」

 パリオスさんは陽気に話すヴィントに冷や汗をかきながら呟いていた。
 そんな中、駆けつけた冒険者達がひそひそと話すのが聞こえてくる。

(すげえな)
(滅竜士《ドラゴンバスター》だっけ? 倒さないで済ませるとはもうドラゴンにかけては右に出る奴はいねえな)
(なんにせよ事前に町を守ってくれたのは助かったよ……)

 などなど。
 まあ、たまたまなのでそこまで気にしなくてもいいと思う。

「陛下からの書状は受け取り、事情は存じております。念のため人を集めましたが、杞憂でしたな」
「いや、いい判断だと思いますよ」

 握手を交わしながら伝えておく。いざという時に動けないよりはいいと思うのだ。
 早々にパリオスさん達は引き上げ、場には俺達とトラント達が残った。

「いやあ俺も居合わせたかったですよ!」
「ドラゴンに僕の魔法が通用するか……試してみたかったですね」
「ゼキルは恐れ多いわね!? でも、ドラゴンと戦ったらいい経験になりそう」
【今度やってみるか? オレは構わんぞ】
「ま、マジですか!? ぜ、ぜひ……」
「それで、用事は終わったの?」
「ぴゅーい」

 そうだそうだとフォルスが手を振ってセリカの援護をする。どうやら目的は終了しているようだ。

「なら帰るか。こいつはヴィント、よろしくな」
「おお、もう名前まで……俺はトラント、よろしく!」
【よろしくー! それじゃラッヘについていけばいいかな】
【せやで。わしについてきてくださいな!】

 ということで予期せずウインドドラゴンを連れて帰ることになった。最近、やたらと出会うな? フォルスと出会ってからだが、なにかあるのだろうか――

◆ ◇ ◆

【んー? フレイムドラゴンだと? どうしてウインドドラゴンを抑えているんだ? というかどこから出て来た】

 人の姿をした黒い竜が高台からドラゴン二頭が大人しく話しているのを遠くから眺めていた。
 町を壊せばよし、もしくは人間達に倒されても構わないと嗾《けしか》けたのだが、どの結果にもならずに苛立ちを覚えていた。

【そういえばこいつが言っていた『滅竜士《ドラゴンバスター》』とかいう男がドラゴンを連れているらしいが、あいつか。ワイバーンもいるようだな】
「……」
【ふん、喜べ。お前の目的を達成できるかもしれんぞ】
「……くく、なら追いかけるかい?」
【当然だ。俺の思惑に乗らないやつは……排除するのみ――】

 黒い竜は真っ黒な鎧に身を包んだヒュージにそう言うと、ゆっくりと歩き出す。
 目的はラッヘ。
 舞台は再び、フォルゲイト王都へ――
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...