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その100 平和と暗雲
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「酷いわよねーフォルスちゃん!」
「ぴぃ」
「あはは……」
――翌日である。
今日は朝も早くから王妃様がやってきて、フォルスを愛でていた。
アイラは工房で作業中なので、俺とセリカ、フラメが対応しているところである。
「城から出て大丈夫なのですか?」
セリカが困った顔でそう尋ねると王妃様はフォルスの背中を撫でながら言う。
「今日は謁見もないし、お茶会もないのです。だから問題ありませんわ」
「いえ、時間的なというよりも、その、危険度的な理由で……」
「ふふ、心配ありがとうございますセリカさん。しかしわたくしは元・騎士だった女ですわ。ゴロツキの十人や二十人、今でも相手になりません」
「そうですか」
自信ありげに鼻を鳴らす王妃様にセリカはとりあえず言うだけは言ったと俺に目配せをしてきた。後は自己責任ということでいいと思う。
そんなことを考えていると、王妃様が庭で寝そべるシュネルに興味を移した。
「あのドラゴンは飛べるのですね」
「ええ、大人三人と子供一人を乗せても大丈夫でしたよ」
【百人乗っても大丈夫やで!】
「なんで調子に乗るのよ。せいぜい十人でしょ」
【おう!? 冗談やがな、セリカはん】
あくびをしながら大きな口を叩くシュネルにセリカが釘を刺していた。
「あの大きさから変わらないのが申し訳ない。少し庭を拡張してもらいありがとうございました」
「構いませんわ。この辺りはまだ家屋を建てる余裕のある土地ですからね。お馬さんも広々とした方がいいでしょうし」
「はい! フォルスの訓練に使うのでお庭は大きい方がいいんですよね」
「訓練? フォルスちゃんが?」
「え? ええ。フラメと運動したりするんですよ。ね?」
「ぴゅーい♪」
王妃様が訓練と聞いて首を傾げた。まあ、赤ちゃんにやることかといえばそういうわけでもないしなあ。
【見てみるか、フォルスの雄姿を? 今日の訓練はまだだからな】
「そうですわね……!」
「だって。フォルス、訓練しよっか」
「ぴゅい!」
今日は起きてすぐに王妃様が尋ねて来たのでまだやっていない。さらに言うと朝食もまだである。
ちなみに今、メイドさんが屋敷のキッチンでなにか作ってくれているのを待っているという状況だ。
早速、いつものメニューを開始する。
「はーい、おいでフォルスー! こっちよー!」
「ぴゅーい……!!」
【今度はこっちだぞ】
「ぴゅ!」
「ああああ……!」
それぞれ位置についてフォルスを呼んで走らせる。体力をつけるにはやはり走り込みである。
セリカのところへは四つ足で走り、フラメのところへは二足歩行で走るという変化も加えている。
誘拐事件の後、フラメから色々話をした。それから特に張り切っている。
王妃様がその様子を見てぷるぷると震えていた。
【水を飲んだら次だぞ】
「ぴゅい!」
「次はなんですの……!」
「ぶつかり合いですね」
セリカがそう言った瞬間、フォルスがフラメに向かって突撃を開始した。
ガツンとぶつかる……ようなことはなく、いつもの『どんとこい』ポーズでフラメを押している感じだ。
「ぴゅーい……!」
【ふむ、いいぞフォルス。まだ爪と牙がないお前には腕力を鍛えるのだ】「
「ぴゅいい……!」
「ふわあああああ……!」
フラメも小さくなっているがそれでもフォルスより頭二つくらい大きいので、俺が大岩を押すようなレベルのものだ。フラメ的には成長がみられるとのこと。
「ぴゅひゅー」
「はい、お疲れ様♪」
「ぴゅーい♪」
本日のメニューが終了し、いい汗をかいたフォルスをセリカがタオルで拭いてやる。嬉しそうに鳴くまでがセットなのだ。
「という感じですね。どうでしたか王妃――」
「可愛すぎますわ……!! 危うく鼻血を出すところでした!」
そんなにか。
確かに可愛いのは間違いないが。
「ふう……今日は大変満足しましたわ。明日はわたくしも混ぜていただければと思います」
「ぴゅい」
明日も来るのか。
フォルスは力強く頷いたので王妃様にはかなり慣れたようである。
「皆さま、朝食が出来ましたよー」
「ではラッヘさん、セリカさん。朝食にしましょうか、昨日のお茶会でいい葉を仕入れたのでいただきましょう」
「ありがとうございます! アイラさんを呼んでくるわね」
【オレも行こう】
セリカとフラメが工房へ歩いていき、俺とフォルスと王妃様が残された。
もちろん馬達にもいいもの食べさせてやる。
【わしはふかし芋がええなあ】
「お前は安くていいなあ」
「ぴゅーい」
でかい身体のシュネルの食費はかなり安いなと苦笑しながら今日の朝食につく。
そんな平和な一日がスタートしたが、今日からドラゴン捜索のお触れが出る……どれくらい効果があるだろうか?
◆ ◇ ◆
「……嫌な気配がするね」
街道を歩いていた男はふと立ち止まり、空を仰ぎながらそんなことを呟いた。
日差しが気持よく、良い天気だが男は妙な違和感を覚えていた。
「……? あれは――」
見上げた空に黒い点が見えた気がした。彼は目を細めて『それ』を確認しようとする。
「……!?」
遥か上空の黒点。それはこの世界を荒らすドラゴンの姿だった。
「ドラゴン、か? どこへ……この方向はフォルゲイト国じゃないか?」
男は見失わないように上を見ながら駆け出していく。もちろん、その速度に追いつけるはずもなく彼方へと飛び去って行った。
「ふむ、あれがドラゴンなら彼に頼む必要があるけどどこにいるのか――」
男は腕を組んでそう呟く。確か、デルモンザで見かけた後は北へ向かったはずと思い返していた。
「ん?」
「バーバリアン、少し休憩をしますよ」
「ぶるひん……」
そこへ大きな荷台を引く馬車が目の前に止まる。急いでいるのか、馬の息は荒くかなり疲れている様子だった。
「かなり無理をさせましたねえ。ここからはゆっくり行きましょうか。ラッヘさんはフォルゲイト国の王都に屋敷があるそうなので尋ねたらわかるでしょう」
「ぶるふん」
「ラッヘ……ふむ――」
男はニヤリと笑みを浮かべて馬車の持ち主……レスバへと近づいていく――
「ぴぃ」
「あはは……」
――翌日である。
今日は朝も早くから王妃様がやってきて、フォルスを愛でていた。
アイラは工房で作業中なので、俺とセリカ、フラメが対応しているところである。
「城から出て大丈夫なのですか?」
セリカが困った顔でそう尋ねると王妃様はフォルスの背中を撫でながら言う。
「今日は謁見もないし、お茶会もないのです。だから問題ありませんわ」
「いえ、時間的なというよりも、その、危険度的な理由で……」
「ふふ、心配ありがとうございますセリカさん。しかしわたくしは元・騎士だった女ですわ。ゴロツキの十人や二十人、今でも相手になりません」
「そうですか」
自信ありげに鼻を鳴らす王妃様にセリカはとりあえず言うだけは言ったと俺に目配せをしてきた。後は自己責任ということでいいと思う。
そんなことを考えていると、王妃様が庭で寝そべるシュネルに興味を移した。
「あのドラゴンは飛べるのですね」
「ええ、大人三人と子供一人を乗せても大丈夫でしたよ」
【百人乗っても大丈夫やで!】
「なんで調子に乗るのよ。せいぜい十人でしょ」
【おう!? 冗談やがな、セリカはん】
あくびをしながら大きな口を叩くシュネルにセリカが釘を刺していた。
「あの大きさから変わらないのが申し訳ない。少し庭を拡張してもらいありがとうございました」
「構いませんわ。この辺りはまだ家屋を建てる余裕のある土地ですからね。お馬さんも広々とした方がいいでしょうし」
「はい! フォルスの訓練に使うのでお庭は大きい方がいいんですよね」
「訓練? フォルスちゃんが?」
「え? ええ。フラメと運動したりするんですよ。ね?」
「ぴゅーい♪」
王妃様が訓練と聞いて首を傾げた。まあ、赤ちゃんにやることかといえばそういうわけでもないしなあ。
【見てみるか、フォルスの雄姿を? 今日の訓練はまだだからな】
「そうですわね……!」
「だって。フォルス、訓練しよっか」
「ぴゅい!」
今日は起きてすぐに王妃様が尋ねて来たのでまだやっていない。さらに言うと朝食もまだである。
ちなみに今、メイドさんが屋敷のキッチンでなにか作ってくれているのを待っているという状況だ。
早速、いつものメニューを開始する。
「はーい、おいでフォルスー! こっちよー!」
「ぴゅーい……!!」
【今度はこっちだぞ】
「ぴゅ!」
「ああああ……!」
それぞれ位置についてフォルスを呼んで走らせる。体力をつけるにはやはり走り込みである。
セリカのところへは四つ足で走り、フラメのところへは二足歩行で走るという変化も加えている。
誘拐事件の後、フラメから色々話をした。それから特に張り切っている。
王妃様がその様子を見てぷるぷると震えていた。
【水を飲んだら次だぞ】
「ぴゅい!」
「次はなんですの……!」
「ぶつかり合いですね」
セリカがそう言った瞬間、フォルスがフラメに向かって突撃を開始した。
ガツンとぶつかる……ようなことはなく、いつもの『どんとこい』ポーズでフラメを押している感じだ。
「ぴゅーい……!」
【ふむ、いいぞフォルス。まだ爪と牙がないお前には腕力を鍛えるのだ】「
「ぴゅいい……!」
「ふわあああああ……!」
フラメも小さくなっているがそれでもフォルスより頭二つくらい大きいので、俺が大岩を押すようなレベルのものだ。フラメ的には成長がみられるとのこと。
「ぴゅひゅー」
「はい、お疲れ様♪」
「ぴゅーい♪」
本日のメニューが終了し、いい汗をかいたフォルスをセリカがタオルで拭いてやる。嬉しそうに鳴くまでがセットなのだ。
「という感じですね。どうでしたか王妃――」
「可愛すぎますわ……!! 危うく鼻血を出すところでした!」
そんなにか。
確かに可愛いのは間違いないが。
「ふう……今日は大変満足しましたわ。明日はわたくしも混ぜていただければと思います」
「ぴゅい」
明日も来るのか。
フォルスは力強く頷いたので王妃様にはかなり慣れたようである。
「皆さま、朝食が出来ましたよー」
「ではラッヘさん、セリカさん。朝食にしましょうか、昨日のお茶会でいい葉を仕入れたのでいただきましょう」
「ありがとうございます! アイラさんを呼んでくるわね」
【オレも行こう】
セリカとフラメが工房へ歩いていき、俺とフォルスと王妃様が残された。
もちろん馬達にもいいもの食べさせてやる。
【わしはふかし芋がええなあ】
「お前は安くていいなあ」
「ぴゅーい」
でかい身体のシュネルの食費はかなり安いなと苦笑しながら今日の朝食につく。
そんな平和な一日がスタートしたが、今日からドラゴン捜索のお触れが出る……どれくらい効果があるだろうか?
◆ ◇ ◆
「……嫌な気配がするね」
街道を歩いていた男はふと立ち止まり、空を仰ぎながらそんなことを呟いた。
日差しが気持よく、良い天気だが男は妙な違和感を覚えていた。
「……? あれは――」
見上げた空に黒い点が見えた気がした。彼は目を細めて『それ』を確認しようとする。
「……!?」
遥か上空の黒点。それはこの世界を荒らすドラゴンの姿だった。
「ドラゴン、か? どこへ……この方向はフォルゲイト国じゃないか?」
男は見失わないように上を見ながら駆け出していく。もちろん、その速度に追いつけるはずもなく彼方へと飛び去って行った。
「ふむ、あれがドラゴンなら彼に頼む必要があるけどどこにいるのか――」
男は腕を組んでそう呟く。確か、デルモンザで見かけた後は北へ向かったはずと思い返していた。
「ん?」
「バーバリアン、少し休憩をしますよ」
「ぶるひん……」
そこへ大きな荷台を引く馬車が目の前に止まる。急いでいるのか、馬の息は荒くかなり疲れている様子だった。
「かなり無理をさせましたねえ。ここからはゆっくり行きましょうか。ラッヘさんはフォルゲイト国の王都に屋敷があるそうなので尋ねたらわかるでしょう」
「ぶるふん」
「ラッヘ……ふむ――」
男はニヤリと笑みを浮かべて馬車の持ち主……レスバへと近づいていく――
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