最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

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その93 その意気やよし!

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【グォァァァァァ!?】
「やったか!」
【グルォ……!】
「まだみたいね……!! ラッヘさん!」

 血を流しながら大きく仰け反った翼竜《ワイバーン》は羽をはばたかせて踏ん張ると、俺に再度突撃してきた。

「あの怪我で動けるのかよ……!?」
「フッ、中級クラスらしいがなかなかどうして根性があるじゃないか。む!」

 血走ったような赤い目を俺に向けて炎弾を吐いて来た。それを回避すると方向を変えて俺の移動したところへ突っ込んで来た。これなら逃げられないと考えたようだな。
 なぜ飛ばないのか? それは最初の接敵で翼の根元にダメージを与えているので動かしにくくなっているからである。
 そのためフィジカルで俺を倒そうとしてきたわけだが、純粋な力勝負だと分が悪い。あの大きさなので正面からぶつかるとこちらが吹っ飛ばされる。
 のだが――

「よし、来い……!」
【グガァァァァ!】
「正面から!?」
「ぴぃー!」

 セリカが驚いた声を上げ、フォルスが両手で顔を隠してびっくりしていた。
 
「フォルス、お前がよくやっているじゃないか。これくらいやってみせるさ」
「ぴぃー? ……ぴぃ♪」

 俺の構えを見て理解したようで両手を上げて喜んでいた。どういうことかというと、いわゆる『どんとこい』のポーズである。
 まあ、もちろんフォルスみたいに受け入れるためというわけではないけどな。
 そうしていると翼竜《ワイバーン》が俺に頭からぶつかって来た。その瞬間、衝撃が体に伝わる。このままだと吹っ飛ばされて終わり。
 だが、俺はそのまま顎を掴んで受け流すように下へ回り込むと、下から膝をぶち込みつつ投げ飛ばした。

【ギョァァァァ!?】
「投げた!?」
「そこ、避けないと危ないわよ!」
「うお――」

 周囲が騒ぐ中、翼竜《ワイバーン》がふわりと空中に浮き、ゆっくりときれいな弧を描いてから物凄い音を立てて地面に落ちた。

「どうだ……!?」

 ギサーラさんが大声で叫ぶ。
 俺は体を起こして翼竜《ワイバーン》の頭に手をやってからサムズアップをしてやった。

「「「「うおおおお!? すげぇぇぇ!!」」」
「やっぱりラッヘさんね!」

 そこで静かだった周囲から一斉に歓声が上がった。動かなくなった翼竜《ワイバーン》に集まろうとしてきたので俺が手で制する。

「いつ目が覚めるか分からないから、すまないが近づかないでくれるか?」
「お、おお……大丈夫なんですか?」
「慣れているからな。ちょっとやることがあるんだ」
「やること……?」
「ああ。ギサーラさんには見てもらってもいいかもしれないな。こっちへ来てもらえるかな?」

 俺が招くと、セリカ一緒にこちらへやってきた。
 二人が到着したので懐からフォルスを取り出して仰向けになったワイバーンの足の付け根にある傷口に近づく。

「グレリアは知っていますよね? 今、あの一家に世話になっていて、研究を頼んでいるんだ」
「研究……? というかそのチビトカゲはともかく、そっちの巾着に入っている奴は喋っていたような」
【うむ】
「やっぱり……!?」

 カバンからフラメが頷いたのを見てギサーラさんがびっくりしていた。そこで小声にて事情を話すと、フラメとフォルス、そして翼竜《ワイバーン》を見た後にため息を吐いた。

「ドラゴン……まさか滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘさんが連れているとは……しかし、治せる手だてがあるならむやみに殺すこともないか」
「そうなの。フォルスは可愛いし、フラメは物分かりがいいから仲間にした方が絶対楽しいわ」
「そしてその手だてがこの子なのか」
「ぴゅい……!」

 知らない人なのでフォルスは俺の脇に隠れるようにしながら応えていた。
 
【直接、舐めさせない方がいい。血も軽い毒を持つからな】
「へえ、そうなんだ。俺はこの種類と会ったのは始めてだから助かる」
「やはりドラゴン同士は詳しいんだな」
「ならフォルスの唾液を手で集めて塗ってあげましょうか。フォルス、これにべーしてね?」
「ぴゅーい」

 セリカがその役割を担ってくれるとフォルスを俺から受け取り、タオルに唾液を集めて塗ることにしたようだ。
 それを見守っていると、ギサーラさんが周囲の冒険者達に解散を告げてから話しかけて来た。

「ふう、とりあえずこいつを運ぶ算段をつけたが……暴れないことを祈るか……」
「絶対じゃないからそういう考えでいてくれるとありがたいよ。まあ、どうしようもなかったら俺がなんとかするつもりです」
「ラッヘさんが言うなら任せる。……しかし治療した後はどうするんだ?」
「どう、とは?」

 俺が聞き返すとギサーラさんが少しだけ渋い顔をして口を開く。

「……ドラゴンは治療が確定じゃないだろ? それで連れ歩くのはわかるが、あまり集めていると危なくないか?」
「言いたいことは分かるよ。フォルゲイト国の陛下はドラゴンを連れても問題ないからあっちで策を考えるつもりです」
「国に強力なドラゴンが集まるのは他の国に睨まれないか心配だ……」

 ギサーラさんは嫌味ではなく本気でそう言ってくれた。確かにそのきらいはあるのだが、その時は放浪するしかないと考えている。

「なにやっているのか知らねえが……トドメを刺さねえのはよくないぜ?」
「お前、ヒュージ……! おい、さっきの指示が聞こえなかったのか? お前達は一旦ギルドに戻っていろ」
「馬鹿言っちゃいけないぜギルドマスター! ここで殺しておかないとまた暴れるだろうが!!」

 ヒュージが嫌な笑みを浮かべながらこちらに近づいてくるのが見えた。ギサーラさんが激高して追い払おうとするが、彼はその瞬間、後ろに隠していた剣を前に持ち替えてから翼竜の首へと駆けだした。

「こいつ……!」
【いかん!!】

 俺が駆け出すより早く、フラメが巾着を破り出て翼竜へと向かう。

 そして――

「このトカゲがぁ!」
【ぐぬ……!】
「フラメ!?」

 ――ヒュージの凶刃がフラメの腹に突き刺さった。
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