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その90 一般人VSドラゴン

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「寝ている相手なんてラッキーだぜ……」

 ヒュージは剣を抜くと寝ているドラゴンの方へゆっくりと近づいていく。
 首を獲ればドラゴンだとしても絶命する。そして自分の持つ剣はドラゴンを倒したことがあるため倒せることに自信があった。

「俺が見たヤツよりも小さいな。へへ、こりゃ美味しいな……!」

 呼吸をするたび体が動くドラゴン。薄緑色をした鱗と、羽についている鋭い爪は近づくに連れてその存在を確固たるものにしていく。
 しかし、ヒュージが以前倒した個体よりも小さく、細いと感じていた。

「前のは羽が生えていなかったからな。それでもかなり強かったが……」

 小声でそんなことを口にしながら剣を握る手に力を込める。両手持ちなら確実に首を落とせる。

「悪いが死んでくれ……!」

 ヒュージが笑みを浮かべて剣を振った。その瞬間、嫌な気配を感じてその場から飛びのいた。

「うお……!?」

 先ほどまでヒュージが立っていた場所にドラゴンの尻尾があった。先端は尖っており、剣を振り下ろしていたら首に刺さっていた。

【グルルルル……】
「野郎……」

 ドラゴンはゆっくり目を開けてヒュージを確認する。いつから気づいていたのか? 彼は「誘いこまれた」と気づき苛立ちを覚えた。

「ぜってぇ殺す……!」
【……グォァァァァァ!】
「くっ……!?」

 激高して怒鳴りつけたヒュージに対し、ドラゴンはまるで昼寝を邪魔したのはそっちだと言わんばかりの咆哮を上げた。
 ヒュージはその声に一瞬怯むも、勇敢に立ち向かう。

「うおおおお!」
【グガァァァ!!】

 ドラゴンも立ち上がり戦闘体勢となった。腕はなく、翼と足のみの個体である。
 ヒュージの剣はまっすぐ、狙いをつけた頭に振り下ろされた。

【グオァ!】
「チィ……!」

 フラメやアースドラゴンのように的が大きくないためするりと剣を回避された。しかしヒュージは一撃では終わらず、そのまま踏み込んで下から切り上げた。

「……! 手ごたえあり! ……うお!?」

 羽と胴体の付け根を切り裂き赤い血がしたたり落ちる。攻撃が通ったことに笑みを浮かべた彼に、ドラゴンが少し浮いて前足で蹴りを繰り出した。
 咄嗟に剣でガードをしながら、ヒュージはバックジャンプで威力を殺す。
 それでも衝撃はかなりのもので木に激突してようやく止まった。

「げほ……!? やるじゃねえか……!」
【グルォォォ!】
「そいつは前のやつで見たぜ!」

 ドラゴンは木を背にしたヒュージに向けて口を開けると、喉の奥から炎が吐き出された。
 ヒュージはすぐに身をかわして側面からドラゴンの首を狙う。

【!】
「うらァァァ!」

 すぐに首を曲げられないドラゴンが気づいた時にはすでに剣が首に触れていた。
 
 しかし――

「硬……い!?」

 ――鱗の表面に食い込んだが切り落とすことはできなかった。

「力を込めて……! ぐあ!?」
【グギャァァァ!】

 驚愕するヒュージのことなどお構いなしにドラゴンが暴れ出した。
 その場で尻もちをついたその時、ドラゴンの前足がヒュージの胴体を掴む。
 すぐに力を入れられ、メキメキと上半身が嫌な音を立てた。

「がぁぁぁ!? ……くそがぁぁぁ!」
【ぐぎゃ!?】
「く、ううう……」

 持っていた剣で足の付け根を刺して拘束から逃れる。ダメージは大きく、ヒュージはその場で嘔吐をした。

「ダメージを取っていけば……!」

 予想以上に抵抗をみせると悪態をつきながらドラゴンへの攻撃を再び開始。
 足を負傷したドラゴンは動きが鈍くなり、一撃は軽いもののいつもの動きができるようになってきた。

「よし……!!」
【グゥゥゥ……】

 だが、次の瞬間ドラゴンは羽を大きく動かして突風を起こした。
 怯むヒュージの前で、ドラゴンは空へと舞い上がっていく。

「飛んだ……! だけど用意はしているんだ!」

 空を飛んでいたと聞いていたので弓矢の用意は当然している。剣を収めて弓矢取り出してから矢を放つ。

【ゴォァァァァ!】
「まずい……!? うあああ!?」

 もちろんドラゴンには分かっていたらしく、炎を吐いて矢ごとヒュージを燃やしにきた。
 矢は燃え尽き、放ったヒュージも左半身にやけどを負った。

「ぐ、……ポーション……を」

 傷口にポーションをふりかけると、傷口にぶくぶくと泡が発生して腕のやけどが治まっていった。少し高い位置にいるドラゴンに瓶を投げつけてさらに挑発をする。

「降りてきやがれ!!」
【グゴォァァァ!】

 ヒュージは移動しながら矢を放つが、剣の通る高さに降りてくることはなかった。賢い生き物なため空に居ると有利が取れると判断したようである。

「チッ……空を飛ばれると流石に無理か……」

 木の間に隠れながら様子を伺い、チャンスを待つ。まだ慌てるほどじゃないと息を整えていた。
 大口をたたくだけあり、一歩も引かず戦っているがラッヘと違い経験の差が浮き出ている形になった。

【……】
「探しているのか? ……おい、こっちだ!」

 ヒュージが剣を再び抜いて石を投げつける。
 その行動に、ドラゴンは激高して炎を吐いて攻撃を仕掛けて来た。だがヒュージは隠れながら挑発を続ける。

「どうした? 当たらないぜ! ……!」
【グオォォォ……!】

 そこでドラゴンは自らの手で引き裂こうと急降下を始める。ヒュージはここぞとばかりに狙いを定めて剣を振った。

「うりゃぁぁぁぁ!」
【ギャオォォォン!】

 互いの攻撃が交錯した。
 ヒュージの剣は鱗を裂いたが刃が欠けた。一方のドラゴンは彼の鎧をひしゃげさせる。

「うごぁ……!?」
【ギィエァァァ……】

 ドラゴン素材の鎧の上からなのに強い衝撃をうけて顔が歪む。もし違う鎧であれば胸が抉られていたかもしれない。

「こ、こいつは強ぇ……! 地上ならやれそうだが――」

 直後、ヒュージはそのあたりの茂みに身を潜めてやり過ごすことにした。これは自分だけの手では負えない、と。

【……】

 やがてドラゴンは空を旋回した後どこかへ飛んでいき、ことなきを得ることができた。

「……逃がしちまったが、まあ大丈夫だろ。空の対抗策を考えねえと――」

 ヒュージは踵を返して町へと向かう。
 引き際を間違えなかったヒュージは賢かったといえる。だが、ドラゴンもまた賢いのだ――
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