最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

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その79 エムーン王国へ

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「早いな……」
「陛下が物凄く張り切っちゃってまして……」
「ぴゅーい」

 王都に到着してから七日ほど経過したのだが、工房の進行状況は驚くほど早く、外回りはすでに完成していた。
 今も庭で訓練をしているのだが、どうやら内部も炉やかまどといった大まかなものはすでに出来ており、設置のため作業員が出入りしていた。
 アイラが設計図を見ながら現場監督とすり合わせをしているところに声をかけたら、彼からは先のような答えが返って来た。
 
「陛下はウチに甘い気がするな……町の人も納得しないんじゃないかな」
「助かるけど確かにそうかも」

 俺が少し難色を示し、ひょこっとフラメと遊んでいたセリカもやってきてそう言う。しかし現場監督はきょとんとした顔で俺達へ答える。

「え? いえ、滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘさんが町に住むならとみんな乗り気ですよ」
「え?」
「先日のアースドラゴン討伐を目の当たりにした人は多いですし、民も国王様も安全が確保されるのを考えたら安いですって。ああ、アイラ様それはですね――」

 はっはっはと笑いながら現場監督は工房内に居るアイラのところへ歩いて行った。

【確かにドラゴンを単騎で倒せる人間は多くないだろうし、ラッヘは貴重な存在だな。オレが王なら確保しておくだろうな】
「まあ、特殊ではあるというのはわかるけど」
「もっと自慢していいと思うけど、謙虚なのがラッヘさんだからね。ね、フォルス」
「ぴゅーい♪」
【いい性根をしている。セリカとアイラはいい男を掴まえたな】
「お前も大概いいヤツだからな?」

 何故か得意げに腕組みをしてふふんとするフラメの鼻を指で突いてやるとコロンと後ろへ転がった。それを見た足元にいるフォルスが遊んでいるのと勘違いしてフラメの上に飛び乗った。

「ぴゅー♪」
【こらこら間違えて潰してしまいそうだからやめておけ】
「ふふ、仲いいわね」

 という感じで割と平和な日々を過ごしている。
 先日、フラメの血と鱗、それと唾液などを採取しに研究者がやってきた時に少しざわついたくらいか。
 知らない人が多かったからフォルスがセリカのポケットに逃げ込んだのはいつも通りである。
 さて、工房の制作は順調のようなので俺達はそろそろ隣国へ行く準備をしないといけないか。

◆ ◇ ◆

「もう行かれるのですか?」
「はい。俺の知る研究者のところへ行きたいと思います」
「こちらの研究者にも素材は渡しているでしょう? それではダメなのですか? フォルスちゃん、あーん♪」
「ぴゅー」

 そんなわけで朝の訓練と朝食が終わったタイミングで来訪して来た王妃様に旅立つことを話した。すると明らかに口を尖らせる王妃様。
 今日も居るということはとりあえず置いておき、俺は話を続ける。

「俺の知り合いはかなりの魔物研究をしている者で、現地に足を運ぶような変人なんですよ。あいつなら別の観点から見てくれそうで」
「なるほど……ラッヘ様のお知り合いなら有能そうですわね。それでフォルスちゃんとフラメさんは?」
「連れて行きますよ? 暴れ出したら危ないので」
「うう……」

 まあアイラが居るので小さいフォルスは暴れても可愛いだけなので置いて行ってもいいんだが、王妃様や王子が来て色々食べさせたりするので太るのが怖い。
 さすがにアイラでは王妃様達を止めるのは難しいだろうしな。

「いつから行くのですか?」
「明日の朝には発つ予定です。なので今から準備を進めます」
「承知しました。ではその間フォルスちゃんはわたくしが面倒を……」
「王妃様、本日はテイオム卿の謁見があるので後10分で戻ります」
「え!? そ、そうでしたかしら? 陛下に任せて――」
「いえ、魔物頒布報告なので王妃様も一緒に……というか王妃様が一緒にとおっしゃっていたではありませんか」

 お付きの騎士にそう言われて、王妃様ががーんといった顔で口を開けて愕然とした表情になった。

「ぴゅー」

 その顔が面白かったのかフォルスが手を叩いて鳴いていた。
 程なくして王妃様は連れられて帰ってしまい城へ帰って行った。

「本当にフォルスが好きねえ王妃様。おいでー」
「ぴゅーい♪」
「あ、お腹がパンパンになってる。後で運動しないと」
【オレが連れて行こう。少し休憩したらだな】
「うん、お願いね。私はあまり荷物がないから後で一緒に遊ぶわ!」
「うーむ、甘やかしはよくないな……」

 フラメがフォルスを背中に乗せて庭へ出ていくのを見送りながら、俺は王妃様をどうするか今後の課題になりそうだな。
 そういえばフラメの羽は穴が開いたまま治っていない。爪はかなり伸びてきたんだがなあ……なにか原因があるのだろうか?

 そんな疑問もあいつに聞けばわかるかと俺はセリカと共に荷造りをしていく。
 隣国であるエムーンへの国境はここから数日で、目的の人物の居る町は国境からさらに何日かかかるため、食料の補充が重要だな。

「それじゃ行ってくる。屋敷は頼む」
「いってらっしゃーい♪」
「ああ」
「気を付けてね!」

 というわけで翌日の早朝。
 陽の上がる前に俺とセリカは出発をすることにした。この時間なら王妃様も来れないという算段である。

【いいクッションだ】
「ぴゅーい♪」

 荷台ではフラメとフォルスがクッションで寛いでいた。
 今までは御者台に置いていたけど、お兄ちゃんが居るので後ろでも安心である。

「アイラさん嬉しそうだったわね」
「……あれで良かったのか? セリカ」
「まあ、私、アイラさんも好きだしいいのよ! ラッヘさんを独り占めをしようとするわけじゃないしさ」
「そっか。早く落ち着けるよう頑張るか」

 セリカとそんな話をしながら俺達の馬車は王都を後にした。

 ……ちなみに後で入れ違いですぐに王妃様がやってきたことを後でアイラに聞いた。恐ろしいなと思ってしまった。
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