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その72 隙あらば
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「わざわざありがとうございます。荷物はちょっと重いので助かりますよ」
「これが仕事ですからね。では積み込みをお願いします」
アイラの荷物は工房の道具などが主なので分けて載せないと馬がへばってしまう。
幸いこちらは三人居るので馬車を二台ほど都合し、計三台に乗せることができる。ドラゴンの素材はすでに使い切っているので俺の馬車は余裕がある。
「アイラさんも鎧を作ったのね!」
「アースドラゴンとフラメの素材を少し貰って胸当てとガントレットだけね。元々使っていたのもあるからこれだけで十分かなって」
セリカがアイラと一緒に荷物を運びながら目ざとく新装備について語っていた。
二人ともズボンに具足などをつけているため防御は厚い。いいことだ。
「ぴゅーい」
「ん? 今日は俺のポケットがいいのか?」
「ぴゅ♪」
【まだまだ甘えん坊だな】
「ぴゅー……」
【はっはっは】
甘えん坊に反応したフォルスが隣に立っていたフラメの足をぺちぺちと叩いて抗議していた。ダメージはないので笑うフラメ。
さっとフォルスをポケットに入れてからアイラの御者台にフラメを載せる。
【すまない】
「強いけどアイラは戦い慣れていないからな。頼むぞ」
【口から炎を出して追い払ってやる】
「ふふ、ありがとう」
「これで全部かな?」
御者台にちょこんと座ったフラメの頭を撫でながらアイラがお礼を言うと、セリカが工房から出てきて声をかけてきた。
アイラは小さく頷くと一度小屋と工房を確認しにいく。
「……お父さんが亡くなってから6年くらい住んでいたんだっけ。思い入れが無いというと嘘になるけど、こんなものかもね」
「王都がいい場所ってわけじゃないけどな。人による」
「そうねー。でも使ってくれる人がいたんでしょ?」
そう、ここは無人になる訳ではない。ギルドでここから居なくなることを話した際にカルバーキンが貸して欲しいと名乗り出たのだ。
中腹にあるため、魔物討伐で一時避難ができるようにという山小屋のような使い方をするらしい。かまどや暖炉もあるからちょうどいいとは思う。
「それじゃ、ありがとうね」
そう言ってアイラが扉を閉める。
思い出はそれなりにあると笑いつつ、御者台に座った。
「それじゃ二人は町まで送っていくからこっちの御者台に乗ってくれ」
「え? 別々じゃないんですかい?」
「この馬車が一番広いから三人並んでも大丈夫だ」
「……わかりました」
さて、それじゃ先に町に行くとしますかね。
◆ ◇ ◆
「……」
「……」
ラッヘ達が荷を積んでいる間、馬車を持って来た二人の作業員は目を細めて……冷や汗をかいていた。いや、正確には一人だけだが。
なぜか? それは他ならぬこの二人が盗賊ゴリアートとその部下だからだ。
「(ありゃ確かにドラゴンですね。小さい方も生意気に角がありますぜ)」
「(そうだな。アイラも美しいが、あっちの娘もいいじゃないか)」
二人は馬車を襲撃し、乗っていた人間と入れ替わったのである。にこにこと笑顔を零しているゴリアートと歪んだ笑顔の盗賊A。他にも離れたところに部下を忍ばせている。
積み込みをしているのを見ている、という風に見えるがその実、奪えるものがないかと考えているところだった。
「(……ドラゴンの素材で作った鎧ですってよ。一体売ったらいくらになるんだか……)」
「(あれは奪えないな。……やはりドラゴンと素材くらいか)」
「(売れますかねえ)」
「(売るさ。別の国でもいいだろう)」
くっくと目を細めるゴリアート。
しかし載せられる荷物の量と見事な装備を見て少し首を傾げる。
「(しかし何者だこの二人……冒険者だとは思うが、随分と羽振りがいい気がする)」
「(ドラゴン素材を持っているくらいですし、金持ちなんじゃないですかい?)」
「(ふむ。財布がどこにあるか分かればいいんだが……)」
などと、すでに強奪する気で金勘定などを考えていた。町に行くまでそれなりに時間がかかるため、山のどこかで襲撃する必要があると。
「(あ、あのドラゴン喋ってますぜ!?)」
「(……できればアレも欲しいな。下手をすると一生遊んで暮らせるかもしれないぞ)」
フラメを見てほくそ笑むゴリアート。ちなみにこれは変装なので本来の顔は違ったりする。
「(あの男を殺せば全部手に入るか。全員でかかればひとたまりもないだろう)」
「(で、ですが、十二人を三分で倒した奴ですぜ……?)」
「(こっちは百人からいる。全員を待機させているんだ、なんとでもなる)」
「(た、確かに……あ、終わったみたいですぜ)」
二人が見守っていると小屋を確認したセリカとアイラが御者台に載るのが見えた。
呑気にあくびをしている赤いドラゴンの隣も娘の隣も空いている。どっちでも美味しい展開だと思っていると――
「お二人は俺の馬車にお願いします。ここも充分広いですし、ソファになっているので」
「……狭くないですか?」
「意外と座れますよ。フォルスはポケットな」
「ぴゅーい」
「(あそこにいるのか。なら従った方が良さそうだ)」
ゴリアートは部下と共にラッヘの御者台に乗り込む。隙を見せればすぐに奪うと考えながら――
「これが仕事ですからね。では積み込みをお願いします」
アイラの荷物は工房の道具などが主なので分けて載せないと馬がへばってしまう。
幸いこちらは三人居るので馬車を二台ほど都合し、計三台に乗せることができる。ドラゴンの素材はすでに使い切っているので俺の馬車は余裕がある。
「アイラさんも鎧を作ったのね!」
「アースドラゴンとフラメの素材を少し貰って胸当てとガントレットだけね。元々使っていたのもあるからこれだけで十分かなって」
セリカがアイラと一緒に荷物を運びながら目ざとく新装備について語っていた。
二人ともズボンに具足などをつけているため防御は厚い。いいことだ。
「ぴゅーい」
「ん? 今日は俺のポケットがいいのか?」
「ぴゅ♪」
【まだまだ甘えん坊だな】
「ぴゅー……」
【はっはっは】
甘えん坊に反応したフォルスが隣に立っていたフラメの足をぺちぺちと叩いて抗議していた。ダメージはないので笑うフラメ。
さっとフォルスをポケットに入れてからアイラの御者台にフラメを載せる。
【すまない】
「強いけどアイラは戦い慣れていないからな。頼むぞ」
【口から炎を出して追い払ってやる】
「ふふ、ありがとう」
「これで全部かな?」
御者台にちょこんと座ったフラメの頭を撫でながらアイラがお礼を言うと、セリカが工房から出てきて声をかけてきた。
アイラは小さく頷くと一度小屋と工房を確認しにいく。
「……お父さんが亡くなってから6年くらい住んでいたんだっけ。思い入れが無いというと嘘になるけど、こんなものかもね」
「王都がいい場所ってわけじゃないけどな。人による」
「そうねー。でも使ってくれる人がいたんでしょ?」
そう、ここは無人になる訳ではない。ギルドでここから居なくなることを話した際にカルバーキンが貸して欲しいと名乗り出たのだ。
中腹にあるため、魔物討伐で一時避難ができるようにという山小屋のような使い方をするらしい。かまどや暖炉もあるからちょうどいいとは思う。
「それじゃ、ありがとうね」
そう言ってアイラが扉を閉める。
思い出はそれなりにあると笑いつつ、御者台に座った。
「それじゃ二人は町まで送っていくからこっちの御者台に乗ってくれ」
「え? 別々じゃないんですかい?」
「この馬車が一番広いから三人並んでも大丈夫だ」
「……わかりました」
さて、それじゃ先に町に行くとしますかね。
◆ ◇ ◆
「……」
「……」
ラッヘ達が荷を積んでいる間、馬車を持って来た二人の作業員は目を細めて……冷や汗をかいていた。いや、正確には一人だけだが。
なぜか? それは他ならぬこの二人が盗賊ゴリアートとその部下だからだ。
「(ありゃ確かにドラゴンですね。小さい方も生意気に角がありますぜ)」
「(そうだな。アイラも美しいが、あっちの娘もいいじゃないか)」
二人は馬車を襲撃し、乗っていた人間と入れ替わったのである。にこにこと笑顔を零しているゴリアートと歪んだ笑顔の盗賊A。他にも離れたところに部下を忍ばせている。
積み込みをしているのを見ている、という風に見えるがその実、奪えるものがないかと考えているところだった。
「(……ドラゴンの素材で作った鎧ですってよ。一体売ったらいくらになるんだか……)」
「(あれは奪えないな。……やはりドラゴンと素材くらいか)」
「(売れますかねえ)」
「(売るさ。別の国でもいいだろう)」
くっくと目を細めるゴリアート。
しかし載せられる荷物の量と見事な装備を見て少し首を傾げる。
「(しかし何者だこの二人……冒険者だとは思うが、随分と羽振りがいい気がする)」
「(ドラゴン素材を持っているくらいですし、金持ちなんじゃないですかい?)」
「(ふむ。財布がどこにあるか分かればいいんだが……)」
などと、すでに強奪する気で金勘定などを考えていた。町に行くまでそれなりに時間がかかるため、山のどこかで襲撃する必要があると。
「(あ、あのドラゴン喋ってますぜ!?)」
「(……できればアレも欲しいな。下手をすると一生遊んで暮らせるかもしれないぞ)」
フラメを見てほくそ笑むゴリアート。ちなみにこれは変装なので本来の顔は違ったりする。
「(あの男を殺せば全部手に入るか。全員でかかればひとたまりもないだろう)」
「(で、ですが、十二人を三分で倒した奴ですぜ……?)」
「(こっちは百人からいる。全員を待機させているんだ、なんとでもなる)」
「(た、確かに……あ、終わったみたいですぜ)」
二人が見守っていると小屋を確認したセリカとアイラが御者台に載るのが見えた。
呑気にあくびをしている赤いドラゴンの隣も娘の隣も空いている。どっちでも美味しい展開だと思っていると――
「お二人は俺の馬車にお願いします。ここも充分広いですし、ソファになっているので」
「……狭くないですか?」
「意外と座れますよ。フォルスはポケットな」
「ぴゅーい」
「(あそこにいるのか。なら従った方が良さそうだ)」
ゴリアートは部下と共にラッヘの御者台に乗り込む。隙を見せればすぐに奪うと考えながら――
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