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その59 ラッヘタレ
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「ということで保留にしようと思う……」
「そ、そうか……」
俺とセリカが再び小屋へ戻り、アイラさんへ頭を下げる。
ひとまず保留ということを告げると少し残念そうに返答をした。
セリカが可愛い系だとしたら、アイラさんは美人系だ。通常なら断る理由もないのだが、俺の中で折り合いがつかない。
「ということで私もアイラさんと仲良くさせてもらうって感じになりました! 喧嘩はしないと思います」
「ええ。恋人なのにラッヘを説得してくれたのか、ありがたい」
「まあ、打算もありますからね」
「?」
セリカが微笑みながら打算と口にし、アイラさんが首を傾げる。そのままセリカの壮大な計画を伝えると――
「いいなそれ! 実にいい!」
「良かった! 受け入れてくれると思った!」
どうも提案内容は喜ばしいものだったようで、がっちりと握手をしていた。すでに俺より仲がいいかもしれない。
「それじゃ今度王都に戻った時、王妃様に聞いておくね」
「工房があれば鍛冶はどこでもできるしね。それにラッヘのモノになったと言えばうっとおしいチャラ男も声をかけてこないだろう」
「うんうん!」
「……盛り上がっているなあ。いや、でも本当に俺でいいのかアイラさん」
「アイラでいい。チャラ男や技術だけが欲しい男はお断りだけど、あたしももう27だ。こんな仕事だけど子供は欲しい。今まで会った男の中だと親父も認めたあんたしかいないんだよねえ」
「わかったよアイラ。まあ、そりゃ嬉しい話だけどさ」
まあ本人がいいならその内だなとため息を吐く。……ん?
「(ラッヘさん、一度始めると凄いから気を付けてね)」
「(そ、そうなのか……? あ、あたしそういうの初めてだけど大丈夫かしら)」
……なんかこそこそと話していた。するとそこへ気になったのかフォルスが間に入っていった。
「ぴゅーい?」
「おっと、どうしたおチビちゃん」
「ひそひそ話が気になったのかな?」
「そういえばドラゴンの赤ちゃんだと言っていたけど、どういうことなの?」
「なら次はその話だな」
一旦、アイラの話から逸れることに安堵して話題を変えることにした。
ひとまずフォルスを拾ったところからの経緯を話すことにする。
「うう……ぐす……おチビはお母さんを亡くしたのか……」
「ぴゅいー」
あっという間に情に流されて号泣していた。フォルスも人見知りをしているが、よちよちとテーブルを歩いていきアイラの膝をポンポンと叩いていた。
「それをやったのは俺だからな。それにドラゴンの病気『竜鬱症』とやらの鍵を握ってるかもしれない」
「確かにこの子は暴れていないものね。大きくなったら暴走する、という線も考えられなくはないけど」
「でも死ぬ直前に語り掛けてくるんです。まるで呪いが解けたみたいに」
「……意図的なものが感じられるな」
アイラはフォルスの背中を指先で撫でながら呟く。この病の正体は『誰かが振り撒いたのでは』という仮説を。
「それで得をする者がいるだろうか。町は破壊されて人も死ぬ。復讐といった話なら別だろうが今のところ無差別だ。関連性は調べたことがあるけど、共通項は無かった」
「そうか。ならやっぱりこればかりはドラゴンに尋ねるしかないわね」
「ああ。というわけで俺が戦っている間、フォルスの面倒を見てもらえるようセリカに対ドラゴン用の装備を作ってもらいたいんだ」
ここで本題に入り、金の入った財布をアイラに見せる。
「素材も持って来た。さっきの話とは別できちんと代金も支払う。頼めるだろうか?」
「フフ、当たり前じゃない。二人とは長い付き合いになるわけだし、死なれないように頑張るに決まっているでしょ」
「ありがとうアイラさん!」
「ラッヘの子が授かれるなら安いものだよ。代金はもちろんもらうけどね♪」
生活があるから当然だと三人で笑い、今後の予定の話に切り替える。しかしこれがいけなかった。
「夜は交互に小屋のベッドでいい?」
「私はいいけどラッヘさんはまだ保留中よ?」
「装備を作るのは最低でも十五日はかかるからね。他の仕事もあるから二十日くらいはここで過ごすことになるよ」
「ならその間に……」
「……」
ギラリとした二人の目がこちらを向いて俺は顔を逸らす。そんなに焦らさないで欲しいものだ。
今まアイラのところで寝泊まりしていた際、馬車の荷台で寝ていたからな。もしかしたら俺が襲われていた可能性もあったということか……
まあそれはともかく今日からここでしばらく世話になることに決まった。
「しかし、おチビは可愛いな」
「ぴゅーい!」
「人見知りが激しいんですけど、アイラさんは怖くないみたい」
「抱っこしてもいいのか?」
「ぴゅ!」
また『どんとこい』のポーズを決めるフォルス。アイラが恐る恐る両手で抱き上げるとちょっとフォルスはぷるぷるしていた。
「無理するなよ?」
「ぴゅ」
「ぬいぐるみのようだ。フフ」
アイラが頬ずりをすると、フォルスが頬をペロリと舐めた。なんというかフォルスは声の大きさと気配を察知する気がするな。後、女性に懐きやすい気がする。
王妃様の時も早かった。
「それじゃまずは食事にしましょうか! 食材とお酒、もってきたんですよ」
「お土産だな」
「それは嬉しいな! まずはセリカとの懇親会だ!」
(ぶるる!?)
(ひひーん!)
と、そこで外に放してあるジョーとリリアの嘶きが聞こえてきた。なんだか慌てている様子だが、なんだ?
「ぴゅーい! ぴゅー!」
「フォルス?」
ふむ、なにかあったのは間違いないか。外に行こう。
「そ、そうか……」
俺とセリカが再び小屋へ戻り、アイラさんへ頭を下げる。
ひとまず保留ということを告げると少し残念そうに返答をした。
セリカが可愛い系だとしたら、アイラさんは美人系だ。通常なら断る理由もないのだが、俺の中で折り合いがつかない。
「ということで私もアイラさんと仲良くさせてもらうって感じになりました! 喧嘩はしないと思います」
「ええ。恋人なのにラッヘを説得してくれたのか、ありがたい」
「まあ、打算もありますからね」
「?」
セリカが微笑みながら打算と口にし、アイラさんが首を傾げる。そのままセリカの壮大な計画を伝えると――
「いいなそれ! 実にいい!」
「良かった! 受け入れてくれると思った!」
どうも提案内容は喜ばしいものだったようで、がっちりと握手をしていた。すでに俺より仲がいいかもしれない。
「それじゃ今度王都に戻った時、王妃様に聞いておくね」
「工房があれば鍛冶はどこでもできるしね。それにラッヘのモノになったと言えばうっとおしいチャラ男も声をかけてこないだろう」
「うんうん!」
「……盛り上がっているなあ。いや、でも本当に俺でいいのかアイラさん」
「アイラでいい。チャラ男や技術だけが欲しい男はお断りだけど、あたしももう27だ。こんな仕事だけど子供は欲しい。今まで会った男の中だと親父も認めたあんたしかいないんだよねえ」
「わかったよアイラ。まあ、そりゃ嬉しい話だけどさ」
まあ本人がいいならその内だなとため息を吐く。……ん?
「(ラッヘさん、一度始めると凄いから気を付けてね)」
「(そ、そうなのか……? あ、あたしそういうの初めてだけど大丈夫かしら)」
……なんかこそこそと話していた。するとそこへ気になったのかフォルスが間に入っていった。
「ぴゅーい?」
「おっと、どうしたおチビちゃん」
「ひそひそ話が気になったのかな?」
「そういえばドラゴンの赤ちゃんだと言っていたけど、どういうことなの?」
「なら次はその話だな」
一旦、アイラの話から逸れることに安堵して話題を変えることにした。
ひとまずフォルスを拾ったところからの経緯を話すことにする。
「うう……ぐす……おチビはお母さんを亡くしたのか……」
「ぴゅいー」
あっという間に情に流されて号泣していた。フォルスも人見知りをしているが、よちよちとテーブルを歩いていきアイラの膝をポンポンと叩いていた。
「それをやったのは俺だからな。それにドラゴンの病気『竜鬱症』とやらの鍵を握ってるかもしれない」
「確かにこの子は暴れていないものね。大きくなったら暴走する、という線も考えられなくはないけど」
「でも死ぬ直前に語り掛けてくるんです。まるで呪いが解けたみたいに」
「……意図的なものが感じられるな」
アイラはフォルスの背中を指先で撫でながら呟く。この病の正体は『誰かが振り撒いたのでは』という仮説を。
「それで得をする者がいるだろうか。町は破壊されて人も死ぬ。復讐といった話なら別だろうが今のところ無差別だ。関連性は調べたことがあるけど、共通項は無かった」
「そうか。ならやっぱりこればかりはドラゴンに尋ねるしかないわね」
「ああ。というわけで俺が戦っている間、フォルスの面倒を見てもらえるようセリカに対ドラゴン用の装備を作ってもらいたいんだ」
ここで本題に入り、金の入った財布をアイラに見せる。
「素材も持って来た。さっきの話とは別できちんと代金も支払う。頼めるだろうか?」
「フフ、当たり前じゃない。二人とは長い付き合いになるわけだし、死なれないように頑張るに決まっているでしょ」
「ありがとうアイラさん!」
「ラッヘの子が授かれるなら安いものだよ。代金はもちろんもらうけどね♪」
生活があるから当然だと三人で笑い、今後の予定の話に切り替える。しかしこれがいけなかった。
「夜は交互に小屋のベッドでいい?」
「私はいいけどラッヘさんはまだ保留中よ?」
「装備を作るのは最低でも十五日はかかるからね。他の仕事もあるから二十日くらいはここで過ごすことになるよ」
「ならその間に……」
「……」
ギラリとした二人の目がこちらを向いて俺は顔を逸らす。そんなに焦らさないで欲しいものだ。
今まアイラのところで寝泊まりしていた際、馬車の荷台で寝ていたからな。もしかしたら俺が襲われていた可能性もあったということか……
まあそれはともかく今日からここでしばらく世話になることに決まった。
「しかし、おチビは可愛いな」
「ぴゅーい!」
「人見知りが激しいんですけど、アイラさんは怖くないみたい」
「抱っこしてもいいのか?」
「ぴゅ!」
また『どんとこい』のポーズを決めるフォルス。アイラが恐る恐る両手で抱き上げるとちょっとフォルスはぷるぷるしていた。
「無理するなよ?」
「ぴゅ」
「ぬいぐるみのようだ。フフ」
アイラが頬ずりをすると、フォルスが頬をペロリと舐めた。なんというかフォルスは声の大きさと気配を察知する気がするな。後、女性に懐きやすい気がする。
王妃様の時も早かった。
「それじゃまずは食事にしましょうか! 食材とお酒、もってきたんですよ」
「お土産だな」
「それは嬉しいな! まずはセリカとの懇親会だ!」
(ぶるる!?)
(ひひーん!)
と、そこで外に放してあるジョーとリリアの嘶きが聞こえてきた。なんだか慌てている様子だが、なんだ?
「ぴゅーい! ぴゅー!」
「フォルス?」
ふむ、なにかあったのは間違いないか。外に行こう。
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