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その57 山に住む者
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「ゆっくりでいいからな」
「ぶるひん」
「ぴゅーい」
町から出てしばらく東へ進むと大きな山が見えるのだが、そこが鍛冶師の居る目指すべき山だ。
街道を途中で曲がり山へ向かう道へと入っていく。ここから先は魔物が増えてくるので慎重に進みたいところである。
俺の言葉にジョーが鳴いて歩みを遅くしてくれる。
「急がなくていいの?」
「山道は疲れやすいからな。俺達が徒歩で登るならそうでもないが、荷台があって荷物も多い。ゆっくりでいいさ」
馬を酷使しても可哀想だし、なにより死期が早まるようなのは困る。
ジョーとはまだまだ旅をしたいしな。フォルスもようやく懐いたので今更新しい馬という選択肢は無い。それはセリカの馬であるリリアも同じだ。
「まあ、山頂とかに居るわけじゃないから三十分くらいで到着するよ」
「それもそうか。町に行く必要があるからそんな遠くには居ないわよね。で、どんな人なの?」
「変わり者って奴だな。気に入った相手の装備は作るがそれ以外は門前払い……元々、どっかの町で有名な鍛冶師だったらしいが嫌になって辞めたんだと」
「職人さんって拘りがあるからねえ」
セリカがシートに背を預けながら苦笑する。その側面はあるが、もう一つ理由がある。まあそこは会えば分かるかとそれ以上はなにも言わなかった。
「ぴゅー?」
「あら、蝶だわ」
どういう鎧がいいかみたいな話をしつつ進んでいると、不意に蝶がクッションに座っているフォルスの近くに飛んできた。
その蝶がなんの気まぐれか、フォルスの頭に止まった。
「ぴぃ!」
嫌がったフォルスが頭の上の蝶を振り払うため手をパタパタと振る。蝶は空を飛んで行く。
「ぴゅひゅー」
安堵のため息を吐く。しかし、蝶はまだ諦めておらず、
「あ」
「ぴゅ!?」
蝶はフォルスの鼻先に止まった。ひらひらと動く羽が挑発しているようにも見える。
「ぴゅーい!!」
「あはは、頑張れフォルス!」
「あまり暴れると落ちるぞ」
蝶に怒りを覚えたのかフォルスはめちゃくちゃに手を振り始めて蝶を追い払おうと奮闘する。
するとようやく蝶はフォルスの鼻先からひらりと飛んで行った。
「ぴゅー!!」
「怒るな怒るな」
飛んで行く蝶にぷんすかと叫ぶが、蝶はどこ吹く風だ。怒り損だと背中を撫でてやる。
「ぴゅーい」
「あ、私も撫でるー。でもフォルスはドラゴンなのに蝶が止まるなんてね」
「まあ、なんというかこいつは穏やかだからな。赤ちゃんというのもそうだけど顔といい雰囲気といい呑気だし」
「確かに……みんなトカゲだと思ってるくらいだもんね。凶悪には見えないどころか超可愛いもん」
「ぴゅー♪」
セリカも背中を撫でてやると機嫌が直ったようで甘えた声を出した。威厳とかそういうのは全然ないので蝶や鳥なんかも寄ってくるのかもしれない。
悪意のない気配、例えば瞑想をしている僧侶などに寄ってくるのと似たようなものだ。
「……このまま大きくなってくれるといいんだがな」
「うん……」
いつか大きくなる時は必ず来る。その時、狂暴に暴れるのであればこの手で倒す必要が出てくる。
「ま、今は考えることじゃないな」
「ぴゅー?」
のんきなドラゴンを撫でながら俺はそう思いながら手綱を揺らす。
そして山の中腹辺りに来たところで道を外れて森の中へ入った。
少し進みづらそうだが、行けない程ではない。さらに奥へ進むと――
「到着だ」
「ひゃあー、道なき道って感じだったわね。お、小屋……と、工房、かな?」
「ああ」
――開けた場所に出た。
セリカの言う通り生活する小屋と武具を打つ工房がひっそりと建っている。
それと畑があり、どこからか引いてきている水場も存在する。鍛冶に水は必要だから当然だ。生活にも使うしな。
「もっと荒れていると思ったけど、周りは結構キレイにされてるのね」
「きちんとしているヤツだからな。っと、ここで待ってろ」
「ぶるる」
御者台から降りた俺は小屋に近づいてから声をかけた。
「すまない、ラッヘだ! 作ってもらいたいものがあって参上した!」
ノックは好まないというのは何度か通っている内に気づいたことだ。
こうやって大声で呼ぶと勝手に出てくる。
「んあー!? ラッヘだとぉ!」
「うわあ!?」
「ぴゅー!?」
すると扉の間で待ち構えていたんじゃないかと思うくらいの速さで扉が開き、小屋の主が飛び出して来た。
セリカとフォルスがびっくりして飛び上がっている中、目的の人物は俺の前まで駆けてくる。
「うおおーい! 本当にラッヘじゃねえか! どうしたんだ!」
「久しぶりだなアイラさん」
「アイラでいいって!」
短いオレンジ色の髪をした女性が笑いながら俺の肩を叩いていた。そこでセリカが眼をぱちくりしてから声を出す。
「え? え? ……女性?」
「あん? なんだ嬢ちゃん? ラッヘの知り合い?」
「ああ。俺の彼女だ」
「へえ、彼女……彼女……!?」
「ぴゅい!?」
「大きな声を出さないでやってくれ、こいつが驚く」
「お、おお……って、こいつはなんだ?」
なんか変な顔をしているアイラさんにフォルスが驚くことを伝える。セリカとフォルスを紹介しておくかと口を開く。
「アイラさんには言っても構わないか。こいつはドラゴンの赤ちゃんでな。名前をフォルスという」
「ドラゴンだとぉ!?」
「声大きい!?」
「ぴゅー!?」
アイラさんの絶叫に、セリカとフォルスが三たび驚いていた。
「ぶるひん」
「ぴゅーい」
町から出てしばらく東へ進むと大きな山が見えるのだが、そこが鍛冶師の居る目指すべき山だ。
街道を途中で曲がり山へ向かう道へと入っていく。ここから先は魔物が増えてくるので慎重に進みたいところである。
俺の言葉にジョーが鳴いて歩みを遅くしてくれる。
「急がなくていいの?」
「山道は疲れやすいからな。俺達が徒歩で登るならそうでもないが、荷台があって荷物も多い。ゆっくりでいいさ」
馬を酷使しても可哀想だし、なにより死期が早まるようなのは困る。
ジョーとはまだまだ旅をしたいしな。フォルスもようやく懐いたので今更新しい馬という選択肢は無い。それはセリカの馬であるリリアも同じだ。
「まあ、山頂とかに居るわけじゃないから三十分くらいで到着するよ」
「それもそうか。町に行く必要があるからそんな遠くには居ないわよね。で、どんな人なの?」
「変わり者って奴だな。気に入った相手の装備は作るがそれ以外は門前払い……元々、どっかの町で有名な鍛冶師だったらしいが嫌になって辞めたんだと」
「職人さんって拘りがあるからねえ」
セリカがシートに背を預けながら苦笑する。その側面はあるが、もう一つ理由がある。まあそこは会えば分かるかとそれ以上はなにも言わなかった。
「ぴゅー?」
「あら、蝶だわ」
どういう鎧がいいかみたいな話をしつつ進んでいると、不意に蝶がクッションに座っているフォルスの近くに飛んできた。
その蝶がなんの気まぐれか、フォルスの頭に止まった。
「ぴぃ!」
嫌がったフォルスが頭の上の蝶を振り払うため手をパタパタと振る。蝶は空を飛んで行く。
「ぴゅひゅー」
安堵のため息を吐く。しかし、蝶はまだ諦めておらず、
「あ」
「ぴゅ!?」
蝶はフォルスの鼻先に止まった。ひらひらと動く羽が挑発しているようにも見える。
「ぴゅーい!!」
「あはは、頑張れフォルス!」
「あまり暴れると落ちるぞ」
蝶に怒りを覚えたのかフォルスはめちゃくちゃに手を振り始めて蝶を追い払おうと奮闘する。
するとようやく蝶はフォルスの鼻先からひらりと飛んで行った。
「ぴゅー!!」
「怒るな怒るな」
飛んで行く蝶にぷんすかと叫ぶが、蝶はどこ吹く風だ。怒り損だと背中を撫でてやる。
「ぴゅーい」
「あ、私も撫でるー。でもフォルスはドラゴンなのに蝶が止まるなんてね」
「まあ、なんというかこいつは穏やかだからな。赤ちゃんというのもそうだけど顔といい雰囲気といい呑気だし」
「確かに……みんなトカゲだと思ってるくらいだもんね。凶悪には見えないどころか超可愛いもん」
「ぴゅー♪」
セリカも背中を撫でてやると機嫌が直ったようで甘えた声を出した。威厳とかそういうのは全然ないので蝶や鳥なんかも寄ってくるのかもしれない。
悪意のない気配、例えば瞑想をしている僧侶などに寄ってくるのと似たようなものだ。
「……このまま大きくなってくれるといいんだがな」
「うん……」
いつか大きくなる時は必ず来る。その時、狂暴に暴れるのであればこの手で倒す必要が出てくる。
「ま、今は考えることじゃないな」
「ぴゅー?」
のんきなドラゴンを撫でながら俺はそう思いながら手綱を揺らす。
そして山の中腹辺りに来たところで道を外れて森の中へ入った。
少し進みづらそうだが、行けない程ではない。さらに奥へ進むと――
「到着だ」
「ひゃあー、道なき道って感じだったわね。お、小屋……と、工房、かな?」
「ああ」
――開けた場所に出た。
セリカの言う通り生活する小屋と武具を打つ工房がひっそりと建っている。
それと畑があり、どこからか引いてきている水場も存在する。鍛冶に水は必要だから当然だ。生活にも使うしな。
「もっと荒れていると思ったけど、周りは結構キレイにされてるのね」
「きちんとしているヤツだからな。っと、ここで待ってろ」
「ぶるる」
御者台から降りた俺は小屋に近づいてから声をかけた。
「すまない、ラッヘだ! 作ってもらいたいものがあって参上した!」
ノックは好まないというのは何度か通っている内に気づいたことだ。
こうやって大声で呼ぶと勝手に出てくる。
「んあー!? ラッヘだとぉ!」
「うわあ!?」
「ぴゅー!?」
すると扉の間で待ち構えていたんじゃないかと思うくらいの速さで扉が開き、小屋の主が飛び出して来た。
セリカとフォルスがびっくりして飛び上がっている中、目的の人物は俺の前まで駆けてくる。
「うおおーい! 本当にラッヘじゃねえか! どうしたんだ!」
「久しぶりだなアイラさん」
「アイラでいいって!」
短いオレンジ色の髪をした女性が笑いながら俺の肩を叩いていた。そこでセリカが眼をぱちくりしてから声を出す。
「え? え? ……女性?」
「あん? なんだ嬢ちゃん? ラッヘの知り合い?」
「ああ。俺の彼女だ」
「へえ、彼女……彼女……!?」
「ぴゅい!?」
「大きな声を出さないでやってくれ、こいつが驚く」
「お、おお……って、こいつはなんだ?」
なんか変な顔をしているアイラさんにフォルスが驚くことを伝える。セリカとフォルスを紹介しておくかと口を開く。
「アイラさんには言っても構わないか。こいつはドラゴンの赤ちゃんでな。名前をフォルスという」
「ドラゴンだとぉ!?」
「声大きい!?」
「ぴゅー!?」
アイラさんの絶叫に、セリカとフォルスが三たび驚いていた。
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