上 下
50 / 116

その50 久しぶりのギルドへ

しおりを挟む
「夕方には戻るよ」
「行ってらっしゃい。晩御飯はどうする? その子が居たら大変じゃないかねえ」
「もし用意してくれるなら頼めるか? もちろんお代は出す」
「そうこなくっちゃね。パパとママから離れるんじゃないよ」
「ぴゅい……!」

 宿のおかみさんが俺の懐で顔を出しているフォルスへ笑いかけていた。
 フォルスはその言葉に服の襟をしっかり握ってふんふんしていた。
 おかみさんは不用意に触ったりしないので、警戒はしているが怖がっては居ない様子である。

「んー! 荷物と装備がないのは楽でいいわー」
 
 宿を出て町へ繰り出すと、隣で歩くセリカが大きく伸びをしながら言う。ここのところずっと馬車旅だったから装備を外すのも久しぶりだ。
 ここに来るまでいくつか町や村はあるが、フォルスのこともあり野営の気を使わずに済むため立ち寄らなかった。

「だな。鎧が無くてちょっと胸元が寂しいな。フォルスは不安そうだ」
「ぴゅーい」

 顔半分だけ出して周囲を確認するフォルスだが、なにかを探しているような感じだ。

「どうした?」
「ぴゅい」
「なにかしら……?」

 なにやら手をにゅっと出してから首に手を持って行く。そこで前後に動かしてなにかを現していた。首……まさか?

「あ、もしかしてジョーとリリアを探しているのか?」
「ぴゅいぴゅい♪」
「当たった!? ラッヘさんすごい!」

 どうやらそうらしい。俺はフォルスの顎を撫でながら告げる。

「あいつらは自分達の部屋にいるから散歩はしないぞ? ここまで走りっぱなしだったからゆっくりさせてやれ」
「ぴゅー」
「あ、ちょっと不満そう。まあ、朝の散歩とか楽しそうだったもんね」

 野営中はフォルスの運動を兼ねて、馬達と近くを少し散歩するのが日課だった。
 なので今日もそうだと思ったのかもしれない。

「帰ったら顔を見に行こう。っと、こっちだ」
「はーい」
「ぴゅーい」
「あはは、真似してる。それにしても、人が多いところね」

 セリカが肩を竦めて周囲を見渡していた。
 人が多いのはもちろん、肌の色が違ったり、明らかにこの辺の人間じゃないなと思われる顔つきの者などがいて色々な地域から来たと思わせる。
 商業都市ならではの光景だ。

「この国にしかないものを求め来た、なんて他国の人間が居たりするからな。隣国も近いし」
「確かに。ラッヘさんについて来なかったらこういうのも縁が無かったんだろうなあ」
「セリカは優秀だからどこかで城にスカウトされていたかもしれないけどな」
「んふー、ありがと♪」

 そう言って腕を絡ませてくるセリカ。口に出しておくことが大事だと師匠に言われていたからこういうのは割と言う。
 恥ずかしい、などという感情でチャンスを逃したりはできないだろ、と。

「あ、ここね」
「ああ。さて、カルバーキンは居るかな――」

 知り合いの名を口にしながらギルドの扉を開ける。すると外とはまた違った喧騒に包まれた。

「広い……!」
「冒険者から直接素材を買い付ける商人も多いからな」

 圧倒されるセリカの手を取って奥へと歩いていく。酒場と併設されたギルド内は人で溢れており、煙草と酒の匂いが鼻を刺激する。

「ぷちゅん……!」
「お、くしゃみか?」
「ぴゅひゅー」
「人が多いから緊張しているかな」

 かもしれないなとセリカに返してそのまま奥へ。周囲を見渡した後、フォルスは顔を引っ込めたので怖くなったかもしれない。後でミルクを買ってやろう。

「ん? お、ラッヘさんか……!」
「なんだって? おお、久しぶりだな……!?」
「え、マジ? 本当だ!」
「よう、元気そうだな。まだ死んでなかったか」
「そりゃこっちのセリフだ!?」

 そんなことを考えていると周囲の冒険者達が俺に気付いたようで次々に声をかけてきた。

「わ、すごい!? みんな知っているのね」
「まあ、色々あったからな。最初に声をかけてきた奴は酔った勢いでアームブレイカー腕相撲を挑んできて倒した。次の奴は喧嘩だな」
「あー、ありそう」

 冒険者なら誰もが通る道みたいなものなのでセリカにも覚えがあるようだ。
 ま、確かにあの頃は師匠と別れてすぐだったから知名度もなにもあったもんじゃないから仕方ない。

「可愛い子を連れているな。いくらだったんだ?」
「失礼なことを言うな。俺の彼女だ」
「「「な……!?」」」

 娼婦を買ってこんなところに来るわけがないだろうと言い、尋ねてきた奴の鼻の先を指で弾いてやった。
 そんな中、周囲が驚愕の声を顔に彩られていた。

「そういうことだからちょっかいを出すなよ?」
「あ、ああ、そりゃラッヘさんの彼女だって分かってたら出すわけねえ」
「死にたくねえもんな」
「ちょっと驚いたが、まあ同じ男だってことで安心したぜ! おごってやるよ!」
「ありがたい。けど、ちょっと用事があってな。後でまた頼む」

 冒険者達はそれならと笑って道を開けてくれた。気のいいヤツらで助かるな。
 
「ラッヘさんはやっぱ凄いよね……」
「まあ、ドラゴンを相手にするより人間の方が楽だからな。師匠は最初、対人のやり方を教えてくれたし」
「ぴゅーい?」
「たくさん骨も折れたなあ」
「ぴゅい……」
「ははは、今は大丈夫だよ」

 そんな話をしているとフォルスが心配して俺の顎を舐めてくれた。

「なんだか騒いでいると思ったら君かラッヘ」
「え?」
「ああ、居てくれたかカルバーキン」

 柔和な笑みを浮かべて声をかけてきたのは探し人のカルバーキンだった。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...