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その48 ラッヘの師匠
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「そういえばどこに向かっているの?」
「ん? ああ、そういえば東だとしか言っていなかったか」
王都を出発してから早二日が経過した。
フォルスもモリモリご飯を食べるようになり、きちんと運動もしておりとても元気だ。
「ぴゅひゅー……」
今は御者台のソファで眠っているフォルスの背中を撫でながら、俺はセリカの質問に答える。
「もう二日ほど行ったところにある、デルモンザという大きな町に行くんだ。その町の裏にある山に装備を作れる人間が居る」
「デルモンザって職人さんが多い町だっけ。でも町に住んでいないんだ」
「ま、会えばわかる」
――商業都市デルモンザ
ここは優秀な職人が居る町で、色々なものを売っている。
国境に近いということもあり、商人がよく訪れるのもあっていつしか商業都市と呼ばれるようになった。
人も物も集まるため、師匠との特訓の間ここでドラゴンに対抗しうる装備を作れる人を探していたというわけだ。
「ラッヘさんのお師匠様かあ。その人にも会ってみたいわね」
「今はどこにいるか分からないからなあ。会えるのだろうか?」
「そうなんだ?」
あの時、町を潰されて絶望のまま生きていた俺の前にフラっと現れたのが師匠だった――
◆ ◇ ◆
『なんだお前、そんなところで腐ってんのか? 男なら仇を取ってやるくらい言えってんだ』
「放っておいてくれ……」
『まあ、死にたきゃ死ねばいいけどよ。なにもしねえで死ぬなんて面白いもんかねえ』
「……俺は冒険者でもなんでもない……ドラゴン相手には――」
『勝てないってか? いいじゃねえか。死ぬつもりなら、戦って死ねよ?』
「……!」
◆ ◇ ◆
「――という感じで、壊れた町でなにもする気力がなく、死にかけていた俺を見つけたのが師匠だった」
「す、凄いわね……戦って死ねって……」
到着するまでの間、折角なのでセリカに師匠と出会った時のことの話した。
セリカは驚くがあの時はハッとさせられたものだ。
あそこでまごついていても俺が死ぬだけでなにも変わらない。だけど、同じ死ぬなら後悔しないように死ねと師匠は笑いながら言ってくれた。
「その後、師匠が凄腕の剣士だと知ったんだよな」
「有名な人?」
「いや……名前は知らないんだ」
「え!?」
「分かっているのは俺と同じく単体でドラゴンを倒せる実力がある、くらいでな。ずっと師匠と呼べ! と言い聞かされていた」
鍛えてもらっている間は文字通り生死に関わることが多かったからそこまで気にしていなかったな。
「で、ラッヘさんが強くなったからどこかへ行っちゃったってこと?」
「ああ。朝起きたら居なくなっていた。置手紙には『よくやった。お前はもう十分強い。楽しかったぜ』とだけ書いてあった」
「なんでラッヘさんを鍛えてくれたのかなあ」
俺の話は楽しいのか、セリカは質問を重ねてくる。まあ知られて困るものでも無いのでいいんだけどな。
「気まぐれだと言っていたかな? あの人の強さなら城で働くこともできそうなんだが、そういうのは窮屈だって言っていた」
「はえー……自由人って感じね……」
「結婚もしていないしな。いや、今ならしているかもしれないか。それで初めてのドラゴン討伐は師匠と一緒だった」
「二人なら余裕だったんじゃない?」
「だな。というか師匠なら一人でも倒せるだろう。……が、あくまでも倒すのは俺のやることだと復讐の肩代わりにはなってくれなかった」
もしあの時、師匠に頼んでいたらきっと鍛えてくれはしなかったろうな。そういう人間だった。
「そして師匠と別れた後、ドラゴンに対抗しうる装備を求めてここへ来たってわけだ」
「はー、ラッヘさんのことなにも知らないから凄く新鮮で嬉しかったかも」
「セリカの町を助けたのは装備を作ってから一年後くらいだな」
セリカは俺が助けたことがある、というくらいの間柄だ。だから俺のことが好きだと言われた時は驚いたものだ。
俺のことを知りたいというのと同じく、セリカのことももっと知る必要があるなと、ふと思った。
ま、それはまだ続く旅の先でいいだろう。
「それで、今から私の装備を作るために行くのか……なんだか感慨深いわね。お師匠様もドラゴンに対抗する装備を持っていたの?」
「いや、普通の装備だった。武器はちょっと特殊な感じだったけど」
「ふうん? 特殊……」
「一度だけ触らせてもらったことがあるんだが、抜いた瞬間背筋が寒くなる剣だった」
「寒かったんじゃないの?」
「焦熱の月だったんだぞ」
物凄く暑い日が続くことがあるのが焦熱の月だ。その時に抜いたにも関わらず周囲を寒いと感じるレベルの代物だ。魔剣とかそういう類のものかと思える。
「防具は?」
「適当な鋼のものを急所だけにつけていたな。後は回避するんだ、あの人は」
「とんでもない人だったのね……」
何度も言うが師匠との特訓は本気で死ぬかという状況も存在した。もしセリカが出会ったとしたら、若くしてAランクになったという話だけで師匠は構い倒しそうだ。
そういう訓練を多分やる。
「……セリカには会わせられないな」
「えー! 見てみたいんですけど!」
「ぴゅーいー」
「ほら、大きな声を出すからフォルスが起きたぞ」
「ああ、ごめんね……!?」
たまにはこういう話もいいかと俺は苦笑しながら馬車を走らせるのだった。
「ん? ああ、そういえば東だとしか言っていなかったか」
王都を出発してから早二日が経過した。
フォルスもモリモリご飯を食べるようになり、きちんと運動もしておりとても元気だ。
「ぴゅひゅー……」
今は御者台のソファで眠っているフォルスの背中を撫でながら、俺はセリカの質問に答える。
「もう二日ほど行ったところにある、デルモンザという大きな町に行くんだ。その町の裏にある山に装備を作れる人間が居る」
「デルモンザって職人さんが多い町だっけ。でも町に住んでいないんだ」
「ま、会えばわかる」
――商業都市デルモンザ
ここは優秀な職人が居る町で、色々なものを売っている。
国境に近いということもあり、商人がよく訪れるのもあっていつしか商業都市と呼ばれるようになった。
人も物も集まるため、師匠との特訓の間ここでドラゴンに対抗しうる装備を作れる人を探していたというわけだ。
「ラッヘさんのお師匠様かあ。その人にも会ってみたいわね」
「今はどこにいるか分からないからなあ。会えるのだろうか?」
「そうなんだ?」
あの時、町を潰されて絶望のまま生きていた俺の前にフラっと現れたのが師匠だった――
◆ ◇ ◆
『なんだお前、そんなところで腐ってんのか? 男なら仇を取ってやるくらい言えってんだ』
「放っておいてくれ……」
『まあ、死にたきゃ死ねばいいけどよ。なにもしねえで死ぬなんて面白いもんかねえ』
「……俺は冒険者でもなんでもない……ドラゴン相手には――」
『勝てないってか? いいじゃねえか。死ぬつもりなら、戦って死ねよ?』
「……!」
◆ ◇ ◆
「――という感じで、壊れた町でなにもする気力がなく、死にかけていた俺を見つけたのが師匠だった」
「す、凄いわね……戦って死ねって……」
到着するまでの間、折角なのでセリカに師匠と出会った時のことの話した。
セリカは驚くがあの時はハッとさせられたものだ。
あそこでまごついていても俺が死ぬだけでなにも変わらない。だけど、同じ死ぬなら後悔しないように死ねと師匠は笑いながら言ってくれた。
「その後、師匠が凄腕の剣士だと知ったんだよな」
「有名な人?」
「いや……名前は知らないんだ」
「え!?」
「分かっているのは俺と同じく単体でドラゴンを倒せる実力がある、くらいでな。ずっと師匠と呼べ! と言い聞かされていた」
鍛えてもらっている間は文字通り生死に関わることが多かったからそこまで気にしていなかったな。
「で、ラッヘさんが強くなったからどこかへ行っちゃったってこと?」
「ああ。朝起きたら居なくなっていた。置手紙には『よくやった。お前はもう十分強い。楽しかったぜ』とだけ書いてあった」
「なんでラッヘさんを鍛えてくれたのかなあ」
俺の話は楽しいのか、セリカは質問を重ねてくる。まあ知られて困るものでも無いのでいいんだけどな。
「気まぐれだと言っていたかな? あの人の強さなら城で働くこともできそうなんだが、そういうのは窮屈だって言っていた」
「はえー……自由人って感じね……」
「結婚もしていないしな。いや、今ならしているかもしれないか。それで初めてのドラゴン討伐は師匠と一緒だった」
「二人なら余裕だったんじゃない?」
「だな。というか師匠なら一人でも倒せるだろう。……が、あくまでも倒すのは俺のやることだと復讐の肩代わりにはなってくれなかった」
もしあの時、師匠に頼んでいたらきっと鍛えてくれはしなかったろうな。そういう人間だった。
「そして師匠と別れた後、ドラゴンに対抗しうる装備を求めてここへ来たってわけだ」
「はー、ラッヘさんのことなにも知らないから凄く新鮮で嬉しかったかも」
「セリカの町を助けたのは装備を作ってから一年後くらいだな」
セリカは俺が助けたことがある、というくらいの間柄だ。だから俺のことが好きだと言われた時は驚いたものだ。
俺のことを知りたいというのと同じく、セリカのことももっと知る必要があるなと、ふと思った。
ま、それはまだ続く旅の先でいいだろう。
「それで、今から私の装備を作るために行くのか……なんだか感慨深いわね。お師匠様もドラゴンに対抗する装備を持っていたの?」
「いや、普通の装備だった。武器はちょっと特殊な感じだったけど」
「ふうん? 特殊……」
「一度だけ触らせてもらったことがあるんだが、抜いた瞬間背筋が寒くなる剣だった」
「寒かったんじゃないの?」
「焦熱の月だったんだぞ」
物凄く暑い日が続くことがあるのが焦熱の月だ。その時に抜いたにも関わらず周囲を寒いと感じるレベルの代物だ。魔剣とかそういう類のものかと思える。
「防具は?」
「適当な鋼のものを急所だけにつけていたな。後は回避するんだ、あの人は」
「とんでもない人だったのね……」
何度も言うが師匠との特訓は本気で死ぬかという状況も存在した。もしセリカが出会ったとしたら、若くしてAランクになったという話だけで師匠は構い倒しそうだ。
そういう訓練を多分やる。
「……セリカには会わせられないな」
「えー! 見てみたいんですけど!」
「ぴゅーいー」
「ほら、大きな声を出すからフォルスが起きたぞ」
「ああ、ごめんね……!?」
たまにはこういう話もいいかと俺は苦笑しながら馬車を走らせるのだった。
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