最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

文字の大きさ
上 下
48 / 116

その48 ラッヘの師匠

しおりを挟む
「そういえばどこに向かっているの?」
「ん? ああ、そういえば東だとしか言っていなかったか」

 王都を出発してから早二日が経過した。
 フォルスもモリモリご飯を食べるようになり、きちんと運動もしておりとても元気だ。

「ぴゅひゅー……」

 今は御者台のソファで眠っているフォルスの背中を撫でながら、俺はセリカの質問に答える。

「もう二日ほど行ったところにある、デルモンザという大きな町に行くんだ。その町の裏にある山に装備を作れる人間が居る」
「デルモンザって職人さんが多い町だっけ。でも町に住んでいないんだ」
「ま、会えばわかる」

 ――商業都市デルモンザ

 ここは優秀な職人が居る町で、色々なものを売っている。
 国境に近いということもあり、商人がよく訪れるのもあっていつしか商業都市と呼ばれるようになった。
 人も物も集まるため、師匠との特訓の間ここでドラゴンに対抗しうる装備を作れる人を探していたというわけだ。

「ラッヘさんのお師匠様かあ。その人にも会ってみたいわね」
「今はどこにいるか分からないからなあ。会えるのだろうか?」
「そうなんだ?」

 あの時、町を潰されて絶望のまま生きていた俺の前にフラっと現れたのが師匠だった――

◆ ◇ ◆

『なんだお前、そんなところで腐ってんのか? 男なら仇を取ってやるくらい言えってんだ』
「放っておいてくれ……」
『まあ、死にたきゃ死ねばいいけどよ。なにもしねえで死ぬなんて面白いもんかねえ』
「……俺は冒険者でもなんでもない……ドラゴン相手には――」
『勝てないってか? いいじゃねえか。死ぬつもりなら、戦って死ねよ?』
「……!」

◆ ◇ ◆

「――という感じで、壊れた町でなにもする気力がなく、死にかけていた俺を見つけたのが師匠だった」
「す、凄いわね……戦って死ねって……」

 到着するまでの間、折角なのでセリカに師匠と出会った時のことの話した。
 セリカは驚くがあの時はハッとさせられたものだ。
 あそこでまごついていても俺が死ぬだけでなにも変わらない。だけど、同じ死ぬなら後悔しないように死ねと師匠は笑いながら言ってくれた。

「その後、師匠が凄腕の剣士だと知ったんだよな」
「有名な人?」
「いや……名前は知らないんだ」
「え!?」
「分かっているのは俺と同じく単体でドラゴンを倒せる実力がある、くらいでな。ずっと師匠と呼べ! と言い聞かされていた」

 鍛えてもらっている間は文字通り生死に関わることが多かったからそこまで気にしていなかったな。
 
「で、ラッヘさんが強くなったからどこかへ行っちゃったってこと?」
「ああ。朝起きたら居なくなっていた。置手紙には『よくやった。お前はもう十分強い。楽しかったぜ』とだけ書いてあった」
「なんでラッヘさんを鍛えてくれたのかなあ」

 俺の話は楽しいのか、セリカは質問を重ねてくる。まあ知られて困るものでも無いのでいいんだけどな。

「気まぐれだと言っていたかな? あの人の強さなら城で働くこともできそうなんだが、そういうのは窮屈だって言っていた」
「はえー……自由人って感じね……」
「結婚もしていないしな。いや、今ならしているかもしれないか。それで初めてのドラゴン討伐は師匠と一緒だった」
「二人なら余裕だったんじゃない?」
「だな。というか師匠なら一人でも倒せるだろう。……が、あくまでも倒すのは俺のやることだと復讐の肩代わりにはなってくれなかった」

 もしあの時、師匠に頼んでいたらきっと鍛えてくれはしなかったろうな。そういう人間だった。

「そして師匠と別れた後、ドラゴンに対抗しうる装備を求めてここへ来たってわけだ」
「はー、ラッヘさんのことなにも知らないから凄く新鮮で嬉しかったかも」
「セリカの町を助けたのは装備を作ってから一年後くらいだな」

 セリカは俺が助けたことがある、というくらいの間柄だ。だから俺のことが好きだと言われた時は驚いたものだ。
 俺のことを知りたいというのと同じく、セリカのことももっと知る必要があるなと、ふと思った。
 ま、それはまだ続く旅の先でいいだろう。

「それで、今から私の装備を作るために行くのか……なんだか感慨深いわね。お師匠様もドラゴンに対抗する装備を持っていたの?」
「いや、普通の装備だった。武器はちょっと特殊な感じだったけど」
「ふうん? 特殊……」
「一度だけ触らせてもらったことがあるんだが、抜いた瞬間背筋が寒くなる剣だった」
「寒かったんじゃないの?」
「焦熱の月だったんだぞ」

 物凄く暑い日が続くことがあるのが焦熱の月だ。その時に抜いたにも関わらず周囲を寒いと感じるレベルの代物だ。魔剣とかそういう類のものかと思える。

「防具は?」
「適当な鋼のものを急所だけにつけていたな。後は回避するんだ、あの人は」
「とんでもない人だったのね……」

 何度も言うが師匠との特訓は本気で死ぬかという状況も存在した。もしセリカが出会ったとしたら、若くしてAランクになったという話だけで師匠は構い倒しそうだ。
 そういう訓練を多分やる。

「……セリカには会わせられないな」
「えー! 見てみたいんですけど!」
「ぴゅーいー」
「ほら、大きな声を出すからフォルスが起きたぞ」
「ああ、ごめんね……!?」

 たまにはこういう話もいいかと俺は苦笑しながら馬車を走らせるのだった。
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...