最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

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その44 入れ違い

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「馬車を降りるとは……」
「散歩だからね。セリカさんは買い物をするでしょう。女性はこういうのが好きだと聞いたことがあるので」
「婚約中の方、ですか」
「え、ええ」

 屋敷は王都内でも離れたところにあるため、途中までは馬車で移動して商店が立ち並ぶあたりでまさかの下車。
 騎士数十人と俺にセリカというなんとも威圧感のある移動になってしまった。

「やっぱりお姫様なんですか?」
「隣国のコーネル国の姫だよ。僕のひとつ下の十五歳なんだ」
「俺とセリカの歳と比べたら近いしいいですね」
「もー、私は大丈夫だって言ってるじゃない」
「ぴゅーい!?」

 セリカが俺の肩をポコポコ叩きながら口を尖らせていた。その様子を見たフォルスが喧嘩と勘違いしたのか懐から手をパタパタさせていた。
 
「落ちないのですかな……?」
「意外と体幹がいいんですよこいつ」
「ぴゅー」

 フォルスの動きに目を輝かせている王子。俺とセリカが喧嘩をしていないとホッとしたフォルスが王子と目を合わせていた。

「な、慣れたかな……?」
「さっき撫でていましたから大丈夫かと。抱っこしてみますか?」
「い、いいのか……!?」
「いいか?」
「ぴゅ!」

 どんとこいと言わんばかりに手を広げていたので、俺から王子に渡してみた。
 恐る恐る受け取った王子がそっと抱きかかえていた。

「やっぱり小さいな……アースドラゴンはあんなだったのに」
「ぴゅひゅー」
「ん? どうしたんだ?」

 ほわっとしていたところにフォルスが王子の腕をポンポンと叩いていた。なにごとかと思ったようだけど俺とセリカには分かっていたりする。

「首の位置が悪いんだと思います。もうちょっと上に」
「こ、こうか?」
「ぴゅー」
「いいみたいですね」
「良かった……」

 おさまりが良くなったのか満足気に鼻を鳴らしていた。そこで騎士の一人が笑いながら言う。

「王子に要求をするとは大物ですな!」
「本当ですよ」
「ぴゅー?」
「まあいいじゃないか。恐ろしいドラゴンもこれでは可愛いものだ」

 ご満悦になった王子がまた歩き出す。そこで気になっていたことを尋ねてみることにした。

「そういえばラクペインが居ませんね」
「彼は怪我を負っていてな。アースドラゴンとの戦いで手にヒビが入っているそうなんだ。それがどうしたのだ?」
「なるほど。いえ、王子が気軽に町中に出ているので大丈夫なのかなと」
「まあ確かに僕が町を散策するのは滅多にないことだけど、たまにはいいんじゃないかな?」
「気を付けてください。王都とはいえ、旅行者や冒険者など他国や別の地域の者も来ます。フォルスがドラゴンであるのを隠しているのは誘拐されないためでもありますから」
「なに!?」

 王子が俺の言葉にドキッとしながら周囲を確認し始めた。ドラゴンの幼体は珍しい。研究に使おうとしたくらいなので、見世物としても使えるし売れる。
 大きくなったら殺して素材にするかもしれない。そう言った話を王子に告げた。

「それに王子も誘拐されたら身代金要求などあるかもしれません。最悪、殺されることもあります。だから気を付けてください、と」
「フォルスを誘拐だと……そんなことはさせない……おい、警備を増やすのだ。不審な動きをするものはその場で尋問していい」
「いや、そこまではしなくていいですから……!」
「ぴゅふぁ……」

 少し脅しすぎたか。
 というより自分よりも赤ちゃんドラゴンの心配とは。こっちもこっちで真面目な話、王子も大物である。

「おや、動きが鈍くなったな?」
「朝ごはんを食べたから眠いんだと思います。赤ちゃんなので寝ている時間が長いんですよ」
「なるほど……」
「落とさなければそのままでいいですよ。落ち着いているし」

 という感じでフォルスが眠りについたのだが、動かすのもアレだしということで王子にお任せすることに。
 
「それで解体の進捗はご存じですか?」
「一応、ハンスに聞いて明日には終わる予定となっている。それがどうしたのだ?」
「では我々は明後日、出発すると思います。陛下に伝えてもらえますか」
「な――」
「エリード王子、お静かに」
「なにぃ……」

 騎士に言われて声を大きくしなかった王子は偉いなあ。

「早くないか? 一年くらいゆっくりしても……」
「そうはいきませんよ。仇探しにフォルスのこと。やることはいくらでもありますしね」
「うんうん」

 セリカも大きく頷いていた。というかここに居たら王妃様が甘やかしすぎるから教育に良くないのだ。

「ぐぬう……」
「王子、彼は滅竜士《ドラゴンバスター》ですぞ。災厄に悩まされている地域や国は多いのです」
「しかしラッヘ殿だけに任せるものでもあるまい……」

 ちょっと嬉しいことを言ってくれるが俺は俺のためにやっている。あの仇を討伐したらその後、ドラゴンの討伐を続けるかと言われればわからない。
 なので国を挙げてドラゴンに対抗できる装備や人材はいくらあってもいい。
 もしかすると俺だって寿命の前に死ぬかもしれないからだ。

「その気持ちは持っていてください。陛下は先日のアースドラゴン戦でまだ力が足りないと言っていました。我等ももっと強くなります。今は申し訳ないですがラッヘ殿を頼りましょう」
「そう……だね……」
「ぷひゅー」

 その後、商店街の買い物を満喫しながらドラゴンと戦う時の心構えなどを聞かれたりしていた。なぜか王子が一番熱心に聞いていたな。戦わないと思うけど。

 そんな調子で一通り王都を散歩する俺達であった。

◆ ◇ ◆

「すみません、この辺でわたくしの息子を見ませんでしたか?」
「ええ? 顔をしらな……王妃様ぁぁぁぁ!? なぜこんなところに……」

 その辺を歩いている人を摑まえて、リンダ王妃はエリード王子の行方を尋ねていた。さすがに王妃の顔は間違えないと、その場で膝をつき、周囲の人間もそれに倣った。

「今はお忍びで来ていますからよしなに。それで知っていますか?」
「王子はさっき通りましたね……でも、あっちの大通りへ行きましたよ」
「そうですか。行き違いになったようですね。ありがとうございます。行きましょう」
「ハッ」

 御者の騎士へ指示を出すと颯爽と馬車が動き出した。その後をさらに騎士達が駆け足で追いかけていく。
 町の人たちは立ち上がりながらそれを見送る。

「なんだあ……?」
「祭りでもあるのか……?」

 何故王妃様がここに居るのか……? まったく理解できないまま首を傾げる人々であった。
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