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その43 王子のお迎え
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屋敷に誰かが訪問してきたようで、食堂に声が聞こえてきた。
周囲が静かなので少し奥にあるここでも聞こえてくる。
「王子かしら?」
「恐らくな。出迎えに行ってくる」
若い男の声でここに来るとなるとセリカの言う通り王子しかいないだろう。
なにか用があったろうか? そう思いながら玄関へ足を運んだ。
「はい、どちら様でしょうか?」
「エリードです。おはようございます」
やはり王子だった。
ひとまず立ち話をさせるわけにもいかないので応接室へと案内する。
「早朝から起こしになられるとは驚きましたよ。今日はどのようなご用件で?」
「うん、ちょっとね。……あの小さいのは?」
「小さいの? フォルスのことですか?」
「そう! あのチビドラゴンのことだよ。母上が昨日ここに来て遊んだと聞いてさ。僕も遊ばせて欲しいと思ったんだ」
なぜか王子もフォルスを愛でたいらしい。確かに男の子ならこういうのは好きかもしれない。いわゆるカブトムシのような感じだ。
「フォルスが嫌がらなければいいですけど、俺はこれから出かけますよ?」
「そうなんだ? 大丈夫、僕も一緒に行くよ」
「フォルスは町中だと……」
「僕が居れば平気だよ。さ、行こう行こう」
エリード王子は笑顔でそんなことを口にする。フォルスがドラゴンだとすぐに分かる奴は居ないから平気とのことだ。俺は一度、相談するためセリカとフォルスのところへ戻る。
「あ、おかえりー。どうだった?」
「ぴゅい♪」
食堂「エリード王子だったよ。それでフォルスを連れて散歩と買い物に出たいと言ってきた」
「ぴゅい?」
「あら、王子様にも気に入られたの?」
セリカが苦笑しながらテーブルに座るフォルスを撫でた。そしてフォルスを抱っこしてから立ち上がる。
「オッケーならいいんじゃない? 帽子を被せておけばなおよしって感じで」
「なら移動中は俺が懐に入れておこう。お前は買い物がしたいだろ」
「ありがと♪」
「お前もいいか?」
「ぴゅい?」
まあフォルスに言ってもわからないか。
俺は再度エリード王子の下へ戻ってから問題ない旨を伝えた。
「では着替えてきますのでもうしばらくお待ちを」
「ああ、ありがとう」
というわけで俺は万が一を考えて装備を整え、セリカは普段着になった。
フォルスには帽子を被せると、いつものように鎧の間にフォルスを入れて応接室へ戻る。
「お待たせしました」
「おはようございますエリード王子」
「ほら、フォルスも」
「ぴゅい!」
「おお……」
頭を下げるセリカに続けてフォルスにも挨拶をさせた。両手を上げて大きく鳴いたことに感動している様子が伺える。
そのまま屋敷を出ると、エリード王子が騎士二人に声をかけた。
「お前達はラッヘさんが居ない間この屋敷を守るんだ」
「「ハッ!」」
「いや、別になにも大事なものはないですし……」
「賊が入り込んでフォルスを狙うかもしれないじゃないか……! なあ?」
「ぴゅい?」
「はあ……」
エリード王子がフォルスに熱い演説を行いながら声をかけていた。
もちろんフォルスにはなんの分からない。
しかし、一度顔を見たせいかちょっと逃げ腰ではあるがエリード王子に対して焦ってはいない。
「な、撫でてもいいかい?」
「フォルスなでなでだ」
「ぴゅ? ぴゅい!」
ぷるぷると震えながら目を瞑り、頭を差し出す。そこはすぐには難しいのか。王妃様にはすんなり懐いたのにな。
王子はフォルスそっと頭を撫でてふにゃっと顔を綻ばせた。
「よし、満足した! 行くぞ」
「ぴゅい!?」
「王子、大きい声を出すとびっくりするんで」
「ああ!? す、すまない……とりあえず行こうか……」
懐に隠れたフォルスに残念がる王子の後について俺達も歩き出した。
◆ ◇ ◆
「ふんふふ~ん♪」
「ご機嫌ですね王妃」
「今日も会いに来れますもの」
「この大荷物はなんですか?」
ゆっくりと進む馬車の中でリンダ王妃が鼻歌をしながら外を眺めていた。
そこで侍女が王妃の横にある大きな袋を見て苦笑しながら質問を投げかけた。
「これは精力のつく食べ物ですわ」
「ぶっ……!? な、なぜそのようなものを……」
「これは戦略なのです。フォ……ラッヘ殿にここに居てもらうための……!」
「いえいえ、そんな簡単に子はできませんよ……」
「それはわからないではありませんか! セリカさんは若いですしポンポン産むかもしれません」
「はあ……」
まあ困ることはないのでいいかと侍女は呆れつつもそれ以上は言わなかった。
そして馬車がラッヘ邸へ到着すると、見知った顔を見つけて王妃は怪訝な顔になった。
「おや、どうして騎士がここに? 護衛は置かなかったはずですが」
「はい。我々はエリード王子と共にここへやってきました」
「なるほど。ふふ、あの子もフォルスちゃんに会いに来たということですわね。結構です。では中へ――」
王妃はそういって笑うが次に騎士達が発した言葉で固まった。
「現在、屋敷には誰もおりません。エリード王子と共にお散歩へ出かけました」
「ラッヘ様、セリカ様も――」
「フォルスちゃんも……!?」
「もちろんであります!」
「なんてこと……! 我慢していたわたくしを差し置いてやすやすとお散歩……エリード……恐ろしい子……!」
「いえ、言えば多分ラッヘさんなら行ってくれましたよ」
侍女が手を広げて告げると、王妃はすぐに気を取り直して返事をした。
「そうですわね。なら追いかければいいだけの話ですわ。エリードを追いますよ」
「かしこまりました」
「お気をつけて!」
騎士達が急いで屋敷を離れる敬礼をして見送っていた。
庭に放たれているジョーとリリアが草を食べながら『大変そうだねえ』と鼻を鳴らすのだった。
周囲が静かなので少し奥にあるここでも聞こえてくる。
「王子かしら?」
「恐らくな。出迎えに行ってくる」
若い男の声でここに来るとなるとセリカの言う通り王子しかいないだろう。
なにか用があったろうか? そう思いながら玄関へ足を運んだ。
「はい、どちら様でしょうか?」
「エリードです。おはようございます」
やはり王子だった。
ひとまず立ち話をさせるわけにもいかないので応接室へと案内する。
「早朝から起こしになられるとは驚きましたよ。今日はどのようなご用件で?」
「うん、ちょっとね。……あの小さいのは?」
「小さいの? フォルスのことですか?」
「そう! あのチビドラゴンのことだよ。母上が昨日ここに来て遊んだと聞いてさ。僕も遊ばせて欲しいと思ったんだ」
なぜか王子もフォルスを愛でたいらしい。確かに男の子ならこういうのは好きかもしれない。いわゆるカブトムシのような感じだ。
「フォルスが嫌がらなければいいですけど、俺はこれから出かけますよ?」
「そうなんだ? 大丈夫、僕も一緒に行くよ」
「フォルスは町中だと……」
「僕が居れば平気だよ。さ、行こう行こう」
エリード王子は笑顔でそんなことを口にする。フォルスがドラゴンだとすぐに分かる奴は居ないから平気とのことだ。俺は一度、相談するためセリカとフォルスのところへ戻る。
「あ、おかえりー。どうだった?」
「ぴゅい♪」
食堂「エリード王子だったよ。それでフォルスを連れて散歩と買い物に出たいと言ってきた」
「ぴゅい?」
「あら、王子様にも気に入られたの?」
セリカが苦笑しながらテーブルに座るフォルスを撫でた。そしてフォルスを抱っこしてから立ち上がる。
「オッケーならいいんじゃない? 帽子を被せておけばなおよしって感じで」
「なら移動中は俺が懐に入れておこう。お前は買い物がしたいだろ」
「ありがと♪」
「お前もいいか?」
「ぴゅい?」
まあフォルスに言ってもわからないか。
俺は再度エリード王子の下へ戻ってから問題ない旨を伝えた。
「では着替えてきますのでもうしばらくお待ちを」
「ああ、ありがとう」
というわけで俺は万が一を考えて装備を整え、セリカは普段着になった。
フォルスには帽子を被せると、いつものように鎧の間にフォルスを入れて応接室へ戻る。
「お待たせしました」
「おはようございますエリード王子」
「ほら、フォルスも」
「ぴゅい!」
「おお……」
頭を下げるセリカに続けてフォルスにも挨拶をさせた。両手を上げて大きく鳴いたことに感動している様子が伺える。
そのまま屋敷を出ると、エリード王子が騎士二人に声をかけた。
「お前達はラッヘさんが居ない間この屋敷を守るんだ」
「「ハッ!」」
「いや、別になにも大事なものはないですし……」
「賊が入り込んでフォルスを狙うかもしれないじゃないか……! なあ?」
「ぴゅい?」
「はあ……」
エリード王子がフォルスに熱い演説を行いながら声をかけていた。
もちろんフォルスにはなんの分からない。
しかし、一度顔を見たせいかちょっと逃げ腰ではあるがエリード王子に対して焦ってはいない。
「な、撫でてもいいかい?」
「フォルスなでなでだ」
「ぴゅ? ぴゅい!」
ぷるぷると震えながら目を瞑り、頭を差し出す。そこはすぐには難しいのか。王妃様にはすんなり懐いたのにな。
王子はフォルスそっと頭を撫でてふにゃっと顔を綻ばせた。
「よし、満足した! 行くぞ」
「ぴゅい!?」
「王子、大きい声を出すとびっくりするんで」
「ああ!? す、すまない……とりあえず行こうか……」
懐に隠れたフォルスに残念がる王子の後について俺達も歩き出した。
◆ ◇ ◆
「ふんふふ~ん♪」
「ご機嫌ですね王妃」
「今日も会いに来れますもの」
「この大荷物はなんですか?」
ゆっくりと進む馬車の中でリンダ王妃が鼻歌をしながら外を眺めていた。
そこで侍女が王妃の横にある大きな袋を見て苦笑しながら質問を投げかけた。
「これは精力のつく食べ物ですわ」
「ぶっ……!? な、なぜそのようなものを……」
「これは戦略なのです。フォ……ラッヘ殿にここに居てもらうための……!」
「いえいえ、そんな簡単に子はできませんよ……」
「それはわからないではありませんか! セリカさんは若いですしポンポン産むかもしれません」
「はあ……」
まあ困ることはないのでいいかと侍女は呆れつつもそれ以上は言わなかった。
そして馬車がラッヘ邸へ到着すると、見知った顔を見つけて王妃は怪訝な顔になった。
「おや、どうして騎士がここに? 護衛は置かなかったはずですが」
「はい。我々はエリード王子と共にここへやってきました」
「なるほど。ふふ、あの子もフォルスちゃんに会いに来たということですわね。結構です。では中へ――」
王妃はそういって笑うが次に騎士達が発した言葉で固まった。
「現在、屋敷には誰もおりません。エリード王子と共にお散歩へ出かけました」
「ラッヘ様、セリカ様も――」
「フォルスちゃんも……!?」
「もちろんであります!」
「なんてこと……! 我慢していたわたくしを差し置いてやすやすとお散歩……エリード……恐ろしい子……!」
「いえ、言えば多分ラッヘさんなら行ってくれましたよ」
侍女が手を広げて告げると、王妃はすぐに気を取り直して返事をした。
「そうですわね。なら追いかければいいだけの話ですわ。エリードを追いますよ」
「かしこまりました」
「お気をつけて!」
騎士達が急いで屋敷を離れる敬礼をして見送っていた。
庭に放たれているジョーとリリアが草を食べながら『大変そうだねえ』と鼻を鳴らすのだった。
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