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その42 フォルスちゃんの謎
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「なるほど、竜鬱症を治す方法を探すことにしたのね」
「ああ。結局、俺の仇はヤツ一頭だけ。他のドラゴンは助けられるなら助けてもいいんじゃないかと思ってな」
朝食後にフルーツジュースを飲みながら先ほど庭で考えていたことを口にした。
フォルスのためにできることはこのまま育ててやることだが、最悪の事態になれば病によりおかしくなることだ。
「……その時、私達の手で倒すのはいくらなんでもキツイわね……」
「そうだ。もし俺一人ならここまで考えなかったかもしれないが、お前も可愛がっているし王妃様達の覚えもいい。折角なら生き残らせたいと思ったんだよ」
逆に言えばフォルスを殺してしまうことになったらセリカがどれほど悲しむか。
「ぴゅー♪」
「あ、私にくれるの? でもそれはフォルスのだからね。はい、あーん」
「ぴゅーい♪」
茹でた人参を両手で持ってセリカに差し出すフォルス。別に人参が嫌いという訳じゃなく、単純にプレゼントしたいようだ。
だけどセリカは笑って受け取ったあと、フォルスの口に放り込んでやっていた。
王妃様が見たら自分もやりたいと卒倒するだろうか?
「目標はわかった!」
「やることはいつも通りだけどな。母ドラゴンにアースドラゴンと立て続けに見つかったから、次はそうすぐには見つからないと思う」
ここまで短期間にドラゴンと出会ったのは他に類を見ないため、しばらくは情報収集になりそうだとセリカに語る。
「アースドラゴンとアクアドラゴンの素材があるからセリカの装備もすぐ作れるだろう」
「アクアドラゴン……! そんなのも倒しているんだ」
「海辺の町を襲っていたヤツだな。その時はこういう玉は出なかったけどな」
「ふうん。なんで最近のだけ出ているんだろうね」
それはこれからの課題でもあると返してやった。少しだけ考察はできたがまだ合っているかの答え合わせはできないので黙っておく。
「アクアドラゴンってどんなドラゴンだったの?」
「四足歩行で水も陸も動けるヤツだったな。アースドラゴンより少し小さいが、尻尾の一撃は強力だったな。この屋敷が一撃で吹き飛ぶぞ」
「そんなのばっかりじゃない」
「確かに」
二人でくっくと笑っていた。
で、アクアドラゴンの鱗は鮮やかな青と水色で、セリカには似合うだろうという話をする。
「髪の色と合いそうでいいかも」
「それじゃすぐに出発するか」
「いやいや……とりあえず折れた腕が治るまでは大人しくしてよ? 変な方向に向いていてびっくりしたんだから」
「いや、それがな――」
と、俺は折れた左腕をテーブルに出した。その腕を思い切り振り上げてテーブルにぶつけた。
「きゃあ!?」
「ぴゅー!?」
ちょっと衝撃があったものの、俺の腕はなんともなかった。フォルスが慌ててセリカの頭の上に避難してぷるぷるとしていた。
「すまないフォルス。というわけでどうも治ったらしい」
「噓でしょ……!? 変な方向に曲がってたのに……」
「というわけで明日から出発することにするぞ」
「大丈夫ならいいけどさ。うーん、ちょっと楽しみだし行こうか!」
……とりあえず話すべきか悩んだが、教えないことで事態が悪くなることは今までの人生でたくさんあった。そう考えれば先に告げておくべきだろう。
「その前に言っておくことがある」
「ん? なに?」
「フォルスのことだ。俺の骨折が治ったのは恐らくそいつのおかげのようでな」
「どういうこと……?」
「ぴゅーい」
訝しみながらフォルスを頭の上から降ろしているセリカに続ける。
「さっき庭でフォルスが腕に巻きついてきて凄く痛かったんだ。だけどその後、そいつが俺の腕を舐めた後痛くなくなった、というわけだ」
「ええ……? それってフォルスが舐めたら傷が治るってこと?」
「そうなる。鎧を着ている時はダメージ軽減をしてくれるが傷は少ししか治らないしな」
「あ、でも治るんだ……」
しかし骨折ともなるとなかなか治らないものだ。それが一瞬で治ったのだからフォルスが舐めたことによるものに間違いない。
「あんたそんな凄いことができるのねー」
「ぴゅー?」
「フォルスはよく分かっていないと思うけどな」
セリカが笑ってフォルスにキスをしてそんなことを言う。
知っておいてもらった方がいい理由は俺が隠していたという疑心を生まないためもあるし、なにかあった時にセリカがフォルスで傷を癒すこともできるかもしれないということだ。知らなくて誰かが死ぬ、みたいな状況を回避できる。
ドラゴン討伐は真面目な話、死と隣り合わせだからな。今回騎士は運が良かった。
「今日出る?」
「いや、陛下に話しておこうと思う。解体の話も来ていないからそれが確認できてからだな」
「あ、そっか」
とりあえず今日はゆっくりさせてもらおう。
傷は癒えても疲れと減った血は回復しないからな。俺がそういうとセリカが顎に指を当てて言う。
「なら王都を見て回らない? 買い物もしたいし。雑貨なんかも買いたいわ:
「む? うーん、フォルスを置いて行くわけにはいかないだろう。セリカだけ行ってきてもいいぞ」
「えー、みんなで行きたいじゃない!」
気持ちは分かるがフォルスのことがまだ町に触れ回っているわけではないはずだ。そこは迷惑がかかるので止めておこう。
そう思っていると――
「すまない、ラッヘさんはいらっしゃいますか」
「ん? あの声は――」
「ああ。結局、俺の仇はヤツ一頭だけ。他のドラゴンは助けられるなら助けてもいいんじゃないかと思ってな」
朝食後にフルーツジュースを飲みながら先ほど庭で考えていたことを口にした。
フォルスのためにできることはこのまま育ててやることだが、最悪の事態になれば病によりおかしくなることだ。
「……その時、私達の手で倒すのはいくらなんでもキツイわね……」
「そうだ。もし俺一人ならここまで考えなかったかもしれないが、お前も可愛がっているし王妃様達の覚えもいい。折角なら生き残らせたいと思ったんだよ」
逆に言えばフォルスを殺してしまうことになったらセリカがどれほど悲しむか。
「ぴゅー♪」
「あ、私にくれるの? でもそれはフォルスのだからね。はい、あーん」
「ぴゅーい♪」
茹でた人参を両手で持ってセリカに差し出すフォルス。別に人参が嫌いという訳じゃなく、単純にプレゼントしたいようだ。
だけどセリカは笑って受け取ったあと、フォルスの口に放り込んでやっていた。
王妃様が見たら自分もやりたいと卒倒するだろうか?
「目標はわかった!」
「やることはいつも通りだけどな。母ドラゴンにアースドラゴンと立て続けに見つかったから、次はそうすぐには見つからないと思う」
ここまで短期間にドラゴンと出会ったのは他に類を見ないため、しばらくは情報収集になりそうだとセリカに語る。
「アースドラゴンとアクアドラゴンの素材があるからセリカの装備もすぐ作れるだろう」
「アクアドラゴン……! そんなのも倒しているんだ」
「海辺の町を襲っていたヤツだな。その時はこういう玉は出なかったけどな」
「ふうん。なんで最近のだけ出ているんだろうね」
それはこれからの課題でもあると返してやった。少しだけ考察はできたがまだ合っているかの答え合わせはできないので黙っておく。
「アクアドラゴンってどんなドラゴンだったの?」
「四足歩行で水も陸も動けるヤツだったな。アースドラゴンより少し小さいが、尻尾の一撃は強力だったな。この屋敷が一撃で吹き飛ぶぞ」
「そんなのばっかりじゃない」
「確かに」
二人でくっくと笑っていた。
で、アクアドラゴンの鱗は鮮やかな青と水色で、セリカには似合うだろうという話をする。
「髪の色と合いそうでいいかも」
「それじゃすぐに出発するか」
「いやいや……とりあえず折れた腕が治るまでは大人しくしてよ? 変な方向に向いていてびっくりしたんだから」
「いや、それがな――」
と、俺は折れた左腕をテーブルに出した。その腕を思い切り振り上げてテーブルにぶつけた。
「きゃあ!?」
「ぴゅー!?」
ちょっと衝撃があったものの、俺の腕はなんともなかった。フォルスが慌ててセリカの頭の上に避難してぷるぷるとしていた。
「すまないフォルス。というわけでどうも治ったらしい」
「噓でしょ……!? 変な方向に曲がってたのに……」
「というわけで明日から出発することにするぞ」
「大丈夫ならいいけどさ。うーん、ちょっと楽しみだし行こうか!」
……とりあえず話すべきか悩んだが、教えないことで事態が悪くなることは今までの人生でたくさんあった。そう考えれば先に告げておくべきだろう。
「その前に言っておくことがある」
「ん? なに?」
「フォルスのことだ。俺の骨折が治ったのは恐らくそいつのおかげのようでな」
「どういうこと……?」
「ぴゅーい」
訝しみながらフォルスを頭の上から降ろしているセリカに続ける。
「さっき庭でフォルスが腕に巻きついてきて凄く痛かったんだ。だけどその後、そいつが俺の腕を舐めた後痛くなくなった、というわけだ」
「ええ……? それってフォルスが舐めたら傷が治るってこと?」
「そうなる。鎧を着ている時はダメージ軽減をしてくれるが傷は少ししか治らないしな」
「あ、でも治るんだ……」
しかし骨折ともなるとなかなか治らないものだ。それが一瞬で治ったのだからフォルスが舐めたことによるものに間違いない。
「あんたそんな凄いことができるのねー」
「ぴゅー?」
「フォルスはよく分かっていないと思うけどな」
セリカが笑ってフォルスにキスをしてそんなことを言う。
知っておいてもらった方がいい理由は俺が隠していたという疑心を生まないためもあるし、なにかあった時にセリカがフォルスで傷を癒すこともできるかもしれないということだ。知らなくて誰かが死ぬ、みたいな状況を回避できる。
ドラゴン討伐は真面目な話、死と隣り合わせだからな。今回騎士は運が良かった。
「今日出る?」
「いや、陛下に話しておこうと思う。解体の話も来ていないからそれが確認できてからだな」
「あ、そっか」
とりあえず今日はゆっくりさせてもらおう。
傷は癒えても疲れと減った血は回復しないからな。俺がそういうとセリカが顎に指を当てて言う。
「なら王都を見て回らない? 買い物もしたいし。雑貨なんかも買いたいわ:
「む? うーん、フォルスを置いて行くわけにはいかないだろう。セリカだけ行ってきてもいいぞ」
「えー、みんなで行きたいじゃない!」
気持ちは分かるがフォルスのことがまだ町に触れ回っているわけではないはずだ。そこは迷惑がかかるので止めておこう。
そう思っていると――
「すまない、ラッヘさんはいらっしゃいますか」
「ん? あの声は――」
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