33 / 116
その33 王都の危機
しおりを挟む
【ゴガァァァァ!!!】
「……!? 今の咆哮は……!?」
「森全体に響いたわ……!? なに!?」
「ぴゅー……」
俺達はなにかの咆哮を耳にして身構える。
鳥は慌ててどこかへ飛んで行き、魔物達も遠くへ離れようと移動するのが見える。
俺達が近くに居るにも関わらず無視していくため、よほど恐怖を感じているらしい。
というより――
「今の咆哮、もしかしたらドラゴンじゃないか……?」
「え!? で、でも空は静かだったわよ?」
「飛ばない個体も居るんだ。地を這うアースドラゴンと名付けたドラゴンと戦ったことがある」
「そうなんだ。森は平和だって言ってたのにね……」
セリカがフォルスを抱っこして咆哮が聞こえてきた方角に目を向ける。距離はそれほど遠くない。
「ん!? 王子達が危ないんじゃないか……!?」
「え? どういうこと?」
「セリカとフォルスが散歩している時に、狩りに出ていた王子達を見たんだ。ドラゴンなら行った方がいいな。セリカ、悪いけど荷物をまとめて王都に向かってくれ」
「ラッヘさんは?」
「このまま咆哮の聞こえてきた場所へ向かう」
森を抜けて王都に向かわれると面倒なことになる。外壁はそう簡単に壊れないだろうし、防御魔法があるから対処は可能だ。
だが、アースドラゴンは剣などの攻撃には強く、魔法に弱い。なので魔法使いを中心にしたいところだが、防御魔法が疎かになりやすいんだよな。
「だから俺が行く」
「なら私も行くわよ!」
「ダメだ。セリカは戦えるだろうからともかく、ジョーやフォルスが巻き込まれたらあっという間に死んでしまう」
「あー……」
突発的ではなく準備をしていたとしても馬車は離れたところに置くのがいい。
少しくらいなら、は確実に命を落とす。
「頼むぞ!」
「あ、分かったわ! 気を付けてね!」
「ぴゅー!!」
「お父さんはお仕事に行ったの。私達は王都へ行くわよ」
「ぴゅ、ぴゅーん……!」
背後でフォルスが大泣きしていたがセリカがなんとかしてくれるだろう。魔物も出ないだろうしあっちは任せてもいいと判断した。
「こっちか……!」
そこで木が折れるような音とザザザ……というなにかが移動する音が聞こえてきた。
俺は剣を抜いてからその場へ駆け出していく。
「おおおおお!」
【ゴガァァァ!】
「チィ、硬い……! こっちだ!」
現場に到着すると体長が3メルほどのドラゴンが目に入った。
やはりかと思うと同時に、一人の騎士が馬を駆り剣を振りながらドラゴンを翻弄している姿を目撃した。
確か騎士団長の一人であるラクペインという人だったはず。
騎馬で回り込みながら側面を攻撃しているのは見事だ。
【グゴォァァァァ!】
「チィッ!」
「いけない!」
しかしドラゴンが尻尾を上手く使い、ラクペイン殿の移動に対して先回りをした。
急な妨害に馬はすぐに避けられないため、このままではぶつかってしまう。
そう思った俺は剣に力を込めて飛び出した。
「させるか!」
【グォァ……!】
鞭のようにしなる尻尾の一撃を大剣で受けきる。その直後、俺の鎧から鈍い光が浮かび上がった。俺が戦闘を開始すると自動でかかる魔法のようなものだが、これが無ければ到底ドラゴンと戦うなど不可能だ。
「あ、あなたは……!」
「ラクペイン殿、加勢するぞ!」
「ラッヘ殿……! まだ近くに居たのですか!?」
「話は後だ! まずはこいつをどうにかする!」
「承知!」
とはいえ、ラクペイン殿の剣は通常の物。アースドラゴンの皮膚を破るには心許ない。
通常の武器であればランスのように一点を突くか、バトルアックスのような重量武器を両手で力任せに叩き潰すのが望ましい。
「チェイサァァァァ!」
【ゴルルル……!】
しかし、俺の大剣はドラゴンを殺すためだけに鍛えられた特注品。
振り回してきた尻尾に斬撃がしっかり通る。
血飛沫を上げたのを見てアースドラゴンは近くの木々をなぎ倒しながら俺から距離を取った。
「警戒した……?」
「こいつらは暴れているだけのように見えるが、驚くほど賢いんだ。ラクペイン殿の剣が通用しないことを認識し、俺のは斬られるとすぐに判断した」
「なんと……やはりとんでもない化け物だ……私のことはラクペインでいいですよ。次はどうしますか?」
「なら俺もラッヘと呼んでくれ。敬語も無しだ。次を言うなら、ラクペインはこの場を離れてくれるか?」
【ゴルルルル……】
俺とラクペインが合流して話を始める。その間、アースドラゴンはこちらをじっと見る。隙を伺っているのだろう。
さらに尻尾を地面に叩きつけて苛立っているのも分かった。
そこでラクペインが口を開く。
「私も騎士の端くれ。臆してはいない。ここは協力してやったほうがいいのではないか?」
「気持ちはありがたいが、その剣じゃこいつには通用しない。戻って武器を変えてきた方がいい」
「……なるほど」
「足はそっちのが速いしな」
俺がそう言って笑うと、理解してくれたようでサッと馬を王都に向けて走り出した。
「気遣い感謝する……! すぐに戻ってくるから私の分も残しておいてくれよ!」
「悪いが、俺は早食いでね。急がないとありつけない」
「すまない、任せる!」
ラクペインがそう叫んで一気に加速した。さすが騎士の馬だ、ノンビリ者のジョーとは違うな。
【ゴガォァァァァ!】
「おっと、ここから先は行かせられない。ここで倒すぞ――」
俺はアースドラゴンの前に回り込み、大剣を構えた。
「……!? 今の咆哮は……!?」
「森全体に響いたわ……!? なに!?」
「ぴゅー……」
俺達はなにかの咆哮を耳にして身構える。
鳥は慌ててどこかへ飛んで行き、魔物達も遠くへ離れようと移動するのが見える。
俺達が近くに居るにも関わらず無視していくため、よほど恐怖を感じているらしい。
というより――
「今の咆哮、もしかしたらドラゴンじゃないか……?」
「え!? で、でも空は静かだったわよ?」
「飛ばない個体も居るんだ。地を這うアースドラゴンと名付けたドラゴンと戦ったことがある」
「そうなんだ。森は平和だって言ってたのにね……」
セリカがフォルスを抱っこして咆哮が聞こえてきた方角に目を向ける。距離はそれほど遠くない。
「ん!? 王子達が危ないんじゃないか……!?」
「え? どういうこと?」
「セリカとフォルスが散歩している時に、狩りに出ていた王子達を見たんだ。ドラゴンなら行った方がいいな。セリカ、悪いけど荷物をまとめて王都に向かってくれ」
「ラッヘさんは?」
「このまま咆哮の聞こえてきた場所へ向かう」
森を抜けて王都に向かわれると面倒なことになる。外壁はそう簡単に壊れないだろうし、防御魔法があるから対処は可能だ。
だが、アースドラゴンは剣などの攻撃には強く、魔法に弱い。なので魔法使いを中心にしたいところだが、防御魔法が疎かになりやすいんだよな。
「だから俺が行く」
「なら私も行くわよ!」
「ダメだ。セリカは戦えるだろうからともかく、ジョーやフォルスが巻き込まれたらあっという間に死んでしまう」
「あー……」
突発的ではなく準備をしていたとしても馬車は離れたところに置くのがいい。
少しくらいなら、は確実に命を落とす。
「頼むぞ!」
「あ、分かったわ! 気を付けてね!」
「ぴゅー!!」
「お父さんはお仕事に行ったの。私達は王都へ行くわよ」
「ぴゅ、ぴゅーん……!」
背後でフォルスが大泣きしていたがセリカがなんとかしてくれるだろう。魔物も出ないだろうしあっちは任せてもいいと判断した。
「こっちか……!」
そこで木が折れるような音とザザザ……というなにかが移動する音が聞こえてきた。
俺は剣を抜いてからその場へ駆け出していく。
「おおおおお!」
【ゴガァァァ!】
「チィ、硬い……! こっちだ!」
現場に到着すると体長が3メルほどのドラゴンが目に入った。
やはりかと思うと同時に、一人の騎士が馬を駆り剣を振りながらドラゴンを翻弄している姿を目撃した。
確か騎士団長の一人であるラクペインという人だったはず。
騎馬で回り込みながら側面を攻撃しているのは見事だ。
【グゴォァァァァ!】
「チィッ!」
「いけない!」
しかしドラゴンが尻尾を上手く使い、ラクペイン殿の移動に対して先回りをした。
急な妨害に馬はすぐに避けられないため、このままではぶつかってしまう。
そう思った俺は剣に力を込めて飛び出した。
「させるか!」
【グォァ……!】
鞭のようにしなる尻尾の一撃を大剣で受けきる。その直後、俺の鎧から鈍い光が浮かび上がった。俺が戦闘を開始すると自動でかかる魔法のようなものだが、これが無ければ到底ドラゴンと戦うなど不可能だ。
「あ、あなたは……!」
「ラクペイン殿、加勢するぞ!」
「ラッヘ殿……! まだ近くに居たのですか!?」
「話は後だ! まずはこいつをどうにかする!」
「承知!」
とはいえ、ラクペイン殿の剣は通常の物。アースドラゴンの皮膚を破るには心許ない。
通常の武器であればランスのように一点を突くか、バトルアックスのような重量武器を両手で力任せに叩き潰すのが望ましい。
「チェイサァァァァ!」
【ゴルルル……!】
しかし、俺の大剣はドラゴンを殺すためだけに鍛えられた特注品。
振り回してきた尻尾に斬撃がしっかり通る。
血飛沫を上げたのを見てアースドラゴンは近くの木々をなぎ倒しながら俺から距離を取った。
「警戒した……?」
「こいつらは暴れているだけのように見えるが、驚くほど賢いんだ。ラクペイン殿の剣が通用しないことを認識し、俺のは斬られるとすぐに判断した」
「なんと……やはりとんでもない化け物だ……私のことはラクペインでいいですよ。次はどうしますか?」
「なら俺もラッヘと呼んでくれ。敬語も無しだ。次を言うなら、ラクペインはこの場を離れてくれるか?」
【ゴルルルル……】
俺とラクペインが合流して話を始める。その間、アースドラゴンはこちらをじっと見る。隙を伺っているのだろう。
さらに尻尾を地面に叩きつけて苛立っているのも分かった。
そこでラクペインが口を開く。
「私も騎士の端くれ。臆してはいない。ここは協力してやったほうがいいのではないか?」
「気持ちはありがたいが、その剣じゃこいつには通用しない。戻って武器を変えてきた方がいい」
「……なるほど」
「足はそっちのが速いしな」
俺がそう言って笑うと、理解してくれたようでサッと馬を王都に向けて走り出した。
「気遣い感謝する……! すぐに戻ってくるから私の分も残しておいてくれよ!」
「悪いが、俺は早食いでね。急がないとありつけない」
「すまない、任せる!」
ラクペインがそう叫んで一気に加速した。さすが騎士の馬だ、ノンビリ者のジョーとは違うな。
【ゴガォァァァァ!】
「おっと、ここから先は行かせられない。ここで倒すぞ――」
俺はアースドラゴンの前に回り込み、大剣を構えた。
10
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる