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その26 甘やかしは駄目
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「こちらでお休みください。くれぐれも黙って出ていくことのないようにお願いします」
「わかりました」
にちゃっとした笑顔を張り付けたまま部屋に案内してくれたハイン殿。扉を閉める直前までそんな顔だった。
「良かったのかしら?」
「俺達は正直にフォルスを見せたし、提案もした。ダメなら出ていくとも。それでも休んでいいと言ってくれたわけだ」
セリカの言葉に俺の見解を口にする。すると彼女はフォルスを抱っこしながら俺に言う。
「ぴゅ~♪」
「でも、ドラゴンがダメだって言うなら無理やり接収しようとしない? ラッヘさんだから大丈夫だと思ったけど、私はそれが心配だったんだよね」
「それは無いと思う」
「どうして?」
「この国の騎士と兵士対ドラゴン、どっちが強いと思う?」
「あー……」
俺の質問にセリカが頬を掻きながら返事をした。一度に全員と戦って勝てるとは言わないけど、例えば謁見の間を強引に突破するくらいはできる。
「対人戦は苦手そうだと思ってた」
「どうして?」
「だって優しいじゃない、ラッヘさん」
「……」
「ぴゅー!?」
「ちょっと、どうしたのよ!?」
セリカに予想外のことを言われて、ついフォルスの背中を撫でまくってしまった。
フォルスは止めてきたセリカの膝に逃げた。
「ぴゅー」
「あはは、一息ついてる。びっくりしたわよね。でもラッヘさんが優しいのはいつも思ってたけど? わざわざこの子のために王都まで来るとかね」
セリカが言うにはフォルスを捨てて来ても良かっただろうし、自分の告白を『ドラゴン討伐に邪魔だ』と一蹴してもおかしくないかもしれないとのこと。
「そんなものかなあ……俺は思ったことをやっているだけだ。それにフォルスはドラゴンの調査に使えるし、セリカもおじさんに近くなった俺が好きだと言うなら逃すこともないと思ったのさ」
「そういうことにしとくわ!」
「ぴゅー」
打算的だという話だったがなぜかセリカとフォルスは嬉しそうにしていた。
まあ、可愛いからいいかと苦笑していると、部屋の扉がノックされた。
「リンダですわ。入ってもよろしい?」
「どうぞ」
「おお……本当にいらっしゃったわね……」
「ぴ」
セリカが姿勢を正して座り直すとフォルスもセリカのお腹に背中を預けて姿勢よく座る。とはいっても猫が足を投げ出して座るみたいな感じだが。
とりあえず俺が入室を促すと、満面の笑みをした王妃様が入って来た。
「来ましたわ~♪」
「ほ、本当に来たんですね……」
「ふふふ、セリカさん、わたくしは可愛いものには目が無いんです。騎士をやっていた時はそういうものに触れる機会がなかった反動でしょうか」
「そういえば騎士様だったとラッヘさんから聞いています」
「貴族の娘だからと舐められないように嗜んでいたんですの」
「へえ、カッコイイですね!」
まあ結婚する前はかなりの強者で『破狼』という異名がついていたから嗜んでいたとかそういうレベルではない。
それでもドラゴンを相手にするには一人では無理だったりする。俺が特殊で歓迎されているのはやはりドラゴンと戦えることにあるのだ。
「ありがとう♪ それで、ドラゴンの赤ちゃんに触ってもいいかしら?」
「フォルス、王妃様が触ってもいいかって」
「ぴゅ?」
「少しだけでも……」
王妃様が困った顔で笑いながら懇願すると、俺とセリカの顔を見た後に一声鳴いた。
「ぴゅー」
「あ、いいみたいですよ」
「まあ! お利口さんなのですね」
フォルスはふんすと鼻を鳴らして撫でられる体勢に入った。すると王女様は恐る恐る手を伸ばした。
「ほほう……」
「ぴゅいー」
「大人しい……ですね、あのドラゴンの赤ちゃんとは思えませんわね。毛も生えているとは興味深いですわ」
「赤ちゃんなのでこんなものかもしれませんね」
感嘆の声を上げた王妃様へセリカが微笑みかけていた。当のフォルスは俺やセリカが撫でている時より嬉しそうではない。ちゃんとわかっているんだなと少し嬉しい。
「では撫でさせてくれたお礼を」
「……! ぴゅい♪ ぴゅー」
「あ、なんか遠慮してる?」
「うふふ、可愛いですわ」
フォルスは王妃様が出したミルクに一瞬だけ喜んだものの、ぷいっとそっぽを向いた。これも野営中に言い聞かせているためだ。
いわゆる『知らない人からもらって食べない』というやつだ。
ただ、これも難しいところがあって、いざ俺達とはぐたりした場合、何も食べられなくなる。今後の課題だな。
「なんで頷いているの?」
「ん、気にしないでくれ。王妃様、私がやりますよ」
見られていたか……
それはともかく俺は王妃様からミルクを預かりコップに移す。それをフォルスに差し出すと、
「ぴゅーい♪」
俺のところへ来て両手でコップを持ってから飲み始める。
「お行儀も良いのですね」
「あんまり甘やかしすぎないようにしていますけどね。本当はヤギのミルクが好きなんですけどお腹を壊すからあげないようにしたりとか」
「なるほど……赤ちゃんでここまで聞き分けられるのであれば、知能はかなり高そうですわね」
そこで王妃様が顎に手を当てて興味深いといった話をする。先ほどまでの愛でていた表情と違い、真剣だ。
「ドラゴン……今、陛下が会議をしていますわ。少し提案したいことができたのでわたくしはこれで失礼しますね♪ またねフォルスちゃん」
「ぴー」
「提案……?」
そう言って控えていた騎士とメイドを連れて部屋を去っていく王妃様。
なんだか嫌な予感がするのは俺だけか?
「美味しい?」
「ぴゅー♪」
口の周りをミルクでベタベタにしているフォルスと、それを見て微笑むセリカを見てそんなことを思うのだった。
「わかりました」
にちゃっとした笑顔を張り付けたまま部屋に案内してくれたハイン殿。扉を閉める直前までそんな顔だった。
「良かったのかしら?」
「俺達は正直にフォルスを見せたし、提案もした。ダメなら出ていくとも。それでも休んでいいと言ってくれたわけだ」
セリカの言葉に俺の見解を口にする。すると彼女はフォルスを抱っこしながら俺に言う。
「ぴゅ~♪」
「でも、ドラゴンがダメだって言うなら無理やり接収しようとしない? ラッヘさんだから大丈夫だと思ったけど、私はそれが心配だったんだよね」
「それは無いと思う」
「どうして?」
「この国の騎士と兵士対ドラゴン、どっちが強いと思う?」
「あー……」
俺の質問にセリカが頬を掻きながら返事をした。一度に全員と戦って勝てるとは言わないけど、例えば謁見の間を強引に突破するくらいはできる。
「対人戦は苦手そうだと思ってた」
「どうして?」
「だって優しいじゃない、ラッヘさん」
「……」
「ぴゅー!?」
「ちょっと、どうしたのよ!?」
セリカに予想外のことを言われて、ついフォルスの背中を撫でまくってしまった。
フォルスは止めてきたセリカの膝に逃げた。
「ぴゅー」
「あはは、一息ついてる。びっくりしたわよね。でもラッヘさんが優しいのはいつも思ってたけど? わざわざこの子のために王都まで来るとかね」
セリカが言うにはフォルスを捨てて来ても良かっただろうし、自分の告白を『ドラゴン討伐に邪魔だ』と一蹴してもおかしくないかもしれないとのこと。
「そんなものかなあ……俺は思ったことをやっているだけだ。それにフォルスはドラゴンの調査に使えるし、セリカもおじさんに近くなった俺が好きだと言うなら逃すこともないと思ったのさ」
「そういうことにしとくわ!」
「ぴゅー」
打算的だという話だったがなぜかセリカとフォルスは嬉しそうにしていた。
まあ、可愛いからいいかと苦笑していると、部屋の扉がノックされた。
「リンダですわ。入ってもよろしい?」
「どうぞ」
「おお……本当にいらっしゃったわね……」
「ぴ」
セリカが姿勢を正して座り直すとフォルスもセリカのお腹に背中を預けて姿勢よく座る。とはいっても猫が足を投げ出して座るみたいな感じだが。
とりあえず俺が入室を促すと、満面の笑みをした王妃様が入って来た。
「来ましたわ~♪」
「ほ、本当に来たんですね……」
「ふふふ、セリカさん、わたくしは可愛いものには目が無いんです。騎士をやっていた時はそういうものに触れる機会がなかった反動でしょうか」
「そういえば騎士様だったとラッヘさんから聞いています」
「貴族の娘だからと舐められないように嗜んでいたんですの」
「へえ、カッコイイですね!」
まあ結婚する前はかなりの強者で『破狼』という異名がついていたから嗜んでいたとかそういうレベルではない。
それでもドラゴンを相手にするには一人では無理だったりする。俺が特殊で歓迎されているのはやはりドラゴンと戦えることにあるのだ。
「ありがとう♪ それで、ドラゴンの赤ちゃんに触ってもいいかしら?」
「フォルス、王妃様が触ってもいいかって」
「ぴゅ?」
「少しだけでも……」
王妃様が困った顔で笑いながら懇願すると、俺とセリカの顔を見た後に一声鳴いた。
「ぴゅー」
「あ、いいみたいですよ」
「まあ! お利口さんなのですね」
フォルスはふんすと鼻を鳴らして撫でられる体勢に入った。すると王女様は恐る恐る手を伸ばした。
「ほほう……」
「ぴゅいー」
「大人しい……ですね、あのドラゴンの赤ちゃんとは思えませんわね。毛も生えているとは興味深いですわ」
「赤ちゃんなのでこんなものかもしれませんね」
感嘆の声を上げた王妃様へセリカが微笑みかけていた。当のフォルスは俺やセリカが撫でている時より嬉しそうではない。ちゃんとわかっているんだなと少し嬉しい。
「では撫でさせてくれたお礼を」
「……! ぴゅい♪ ぴゅー」
「あ、なんか遠慮してる?」
「うふふ、可愛いですわ」
フォルスは王妃様が出したミルクに一瞬だけ喜んだものの、ぷいっとそっぽを向いた。これも野営中に言い聞かせているためだ。
いわゆる『知らない人からもらって食べない』というやつだ。
ただ、これも難しいところがあって、いざ俺達とはぐたりした場合、何も食べられなくなる。今後の課題だな。
「なんで頷いているの?」
「ん、気にしないでくれ。王妃様、私がやりますよ」
見られていたか……
それはともかく俺は王妃様からミルクを預かりコップに移す。それをフォルスに差し出すと、
「ぴゅーい♪」
俺のところへ来て両手でコップを持ってから飲み始める。
「お行儀も良いのですね」
「あんまり甘やかしすぎないようにしていますけどね。本当はヤギのミルクが好きなんですけどお腹を壊すからあげないようにしたりとか」
「なるほど……赤ちゃんでここまで聞き分けられるのであれば、知能はかなり高そうですわね」
そこで王妃様が顎に手を当てて興味深いといった話をする。先ほどまでの愛でていた表情と違い、真剣だ。
「ドラゴン……今、陛下が会議をしていますわ。少し提案したいことができたのでわたくしはこれで失礼しますね♪ またねフォルスちゃん」
「ぴー」
「提案……?」
そう言って控えていた騎士とメイドを連れて部屋を去っていく王妃様。
なんだか嫌な予感がするのは俺だけか?
「美味しい?」
「ぴゅー♪」
口の周りをミルクでベタベタにしているフォルスと、それを見て微笑むセリカを見てそんなことを思うのだった。
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