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その17 セリカの実力

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「この辺りか」
「多分そうね。浅いところまで出てくるらしいからもう剣は抜いておこうかしら」

 そんなこんなで、程なくしてブレイドタイガーの出る森へやってきた。
 セリカは油断なくさっと腰の剣を抜いて周囲の警戒に入った。
 
「ふむ」

 初めて彼女が戦闘をするところを見ることになる。
 Aランクというだけあってまとっている気配が瞬時に変わり、能力の高さを伺わせてくれる。

「ぴゅーい」
「今からセリカは仕事だ。俺と一緒でいいな?」
「ぴゅー!」
「お」

 俺が言い聞かせるとフォルスは元気よく鳴いたあと懐《ふところ》……ではなく、左肩に移動した。どうやらここで観戦するらしい。
 肩にしっかりフィットしているので簡単には落ちないと思う。だが、いざ俺が介入することになった場合は懐にいれるとしよう。危ないからな。

「……それにしても静かだな。静かすぎると言ってもいいが」
「あ、やっぱり気づいた? そうね、生き物の気配が少ないわ」
「ということはある程度、手負いのテリトリーに入っていると思ってよさそうだな」
「ぴ」
「フォルス可愛い~」

 しっかりと俺の肩に掴まって伸びているフォルスを見て顔がほころぶセリカ。
 帽子を被って真面目な顔をしているため確かに可愛いかもしれない。

「さて、と。あんまり時間をかけたくないし、さっさと探しましょうか!」
「よろしく頼む」

 念のため俺も大剣を抜いて右肩に担いでおく。さっきも言ったがセリカの狩りを見るのは初めてなのでお手並み拝見といこう。

「索敵もやっていたのか?」
「うん。でも、だいたいミントがやっていたけどね。私とデュレもこの役割をやることはあったけどミントには敵わなかったわ」
「なるほど。俺はパーティというのを組んだことがないからそういうのはわからないんだよな」

 セリカもデュレの二人はいわゆる前衛というやつなので、ミントのような周りを見て警戒をしてくれる人間が居ると非常に楽だという話は聞いたことがある。
 俺がパーティを組まない理由は目的が私怨であるということと、ドラゴンは複数現れることはなく一頭なので一人でなんとかしているというところだ。

「ぴゅー」
「興味があるのか? 王都に行く途中、森があるし散歩するのもいいな」
「それもいいわね」

 セリカがこちらを振り向かず、草むらなどを観察しながらゆっくりと奥へ進んでいく路銀稼ぎをするのに森へ行くのはいいかもしれない。
 フォルスはまだ赤ちゃんだが、体力はつけておかないといけないからな。大きくなったらずっと抱っこするわけにもいかないし。

「……そういやこいつは飛竜なのかな?」
「え? なに?」
「ぴゅー!!!」

 俺の呟きにセリカが振り返った。その瞬間、フォルスが大きな声でセリカに吠えた。

「セリカ!」
「……! 殺気!」

 その時、振り返ったセリカの背後に大きな影が現れた。俺が叫ぶのと同時にセリカもなにかを察し、その場から飛びのいた。
 するとセリカの立っていた場所をなにかが通り過ぎた。大きさ的に棒かなにかに見えたが、すぐにそれがそんなものより危険なものだと気づく。

「ブレイドタイガー……」

 棒状のものはブレイドタイガーの太い腕だった。
 ツメはダガーのように鋭く、当たればただの出血では済まないだろう。

「でかいわね、縄張りから追い出されてこの辺りの魔物や動物を食いあらしてるって感じかしら」
「グルルル……」
「ぴゅー!」

 威嚇してくるブレイドタイガーに、フォルテは小さい手をバタバタさせながらセリカに叫ぶ。危ないと言っているのだろうか?

「大丈夫だ。あいつは強いんだ、見てろ」
「ぴゅ!」

 俺の言葉に元気よく返事をした。
 後は討伐を見守るだけ。そう思っているとブレイドタイガーがこちらに視線を向けてきた。

「グル? グルルルル……♪」
「ぴゅー!?」
「あ、こいつフォルスを餌だと認識したぞ」
「ホント!? なら絶対に負けられないわね」

 フォルスを見て舌なめずりをするブレイドタイガー。ヤツにびっくりして自分から俺の懐に潜り込んで来た。

「ぴゅー……」
「餌にさせるわけにはいかないわね!」

 不安そうなフォルスの声を聞いてセリカは真っすぐブレイドタイガーへ向かっていく。

「いい踏み込みだ」
「……!」
「それ!」

 セリカの得物は片手でも扱えるもので1メルは無い。
 ただ、セリカは盾を扱うため、片手で扱えるくらいの長さと重さがこれくらいでいいのだと思う。
 まずはセリカの先制攻撃がブレイドタイガーの顔に飛んで行く。鋭い刃がブレイドタイガーの顔を斬り裂くかに見えたその時、ヤツはすぐにしゃがんで回避した。

「やるじゃない。でもね!」
「グガ……!?」

 セリカは伏せたブレイドタイガーの顔を硬い金属の盾で叩きつけた。

「いい攻撃だ。相手の視界を塞ぎつつ鼻を一瞬だけ潰せた」
「食らいなさい!」

 すぐにセリカは盾をあまり動かさないように向かって左側面へと回り込む、ちなみにセリカは左利きだ。ブレイドタイガーも手練れなので、移動したセリカの気配を感じて左へ飛ぶ。

「グガァ……!」
「浅いか」

 それでもセリカの攻撃が一瞬早く、ブレイドタイガーの右肩を斬り裂き、血が飛び散った。

「ぴぃー……」
「怖いなら見なくていいんだぞ?」
「ぴ!」

 それでもセリカが戦っているせいか顔の半分だけ出して元気よく鳴いた。
 
「やああああ!」
「グルゥォォォア!」

 そんなフォルスをよそにブレイドタイガーとの戦いは続いていた。ちょうどヤツが爪を振ってそれを剣で払ったところだ。
 セリカは最小限の動きでそのまま踏み込み頭を割るため振り下ろす。そこでブレイドタイガーはまずいと思ったのか前に出た。

「っと!」
「ッガァ!」

 わざと盾にぶつかってセリカのバランスを崩してから噛みつこうと牙を剥く。
 腕に噛みつこうとしたが、セリカはそれを回避。
 しかしブレイドタイガーは前足を振り回してセリカの顔に傷をつけた。

「チィ」
「グルゥ!」

 まずいか? そう思ったがセリカは少しバックステップをしてから突きを繰り出した。

「グオァァァァ!?」

 その一撃はさらに前へ出たブレイドタイガーの右目を突き刺した。カウンター気味に入ったので深くえぐるようにはいった。
 後少し剣を奥に居れれば脳を傷つけ絶命させることができる。そう思っていると剣を嫌がって体をねじってセリカを吹っ飛ばした。

「きゃあ!?」
「む……!」

 大きく振り回されて剣から手を離したためセリカは地面に転がされた。
 そこへ剣が顔に刺さったままブレイドタイガーが涎を垂らしながら飛び掛かっていく。
 噛みついてきた牙を盾でガードし事なきを得るが、反撃するための武器がない。

「ぴぃ~……」
「セリカ……!」
「大丈夫! <アースファング>!」
「……!? グギャァァァァ!!?」

 俺が一歩踏み出そうとした直後、土で出来た刃がブレイドタイガーの腹をぶち抜いた!

「ガウ……!」
「っと、まだ動けるとはやるじゃない。でも悪いわね、これで終わり……!」

 地面に縫い付けられたブレイドタイガーの一撃をガントレットでガードすると、セリカは目に刺さった剣を掴んで一気に引き抜くと素早く首を落とした。

「ふう、魔法を使わないで倒したかったけど一人だとやっぱり手ごわいわね。どう?」
「さすがだな」
「ぴゅーい♪」
「やったね♪」

 俺達の言葉にセリカは満足そうにニカッと笑い、親指を立てるのだった。






◆ ◇ ◆

※ メルはメートルと同義の単語です。
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