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その13 好き嫌いと体質

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「ふあ……」
「危ないぞ、町までは頑張れ」
「うん。うふふ、ありがとうねラッヘさん」
「……」

 セリカが笑いながらこちらを見てきた。
 そこで昨晩のことを思い出して俺は目を逸らす。まあ、お互い成人なので恋人になればそういうこともする、ということだな。お互い初めてだったので大変だったが。

「ぶるるー」

 昨晩はお楽しみでしたねと言ったジト目を向けてくるジョー。お前はセリカの連れてきた牝馬を口説け。ちなみに名前はリリアというらしいぞ。

「すぴー」
「あら、フォルスは寝ているのね?」
「こいつは結構寝ている時間が多いぞ。赤ん坊はそういうものとかなんとか」
「そうね。可愛いー」

 御者台の椅子に丸くなって寝ているチビドラゴンの名前はフォルスになった。
 『力』を意味する言葉で、ドラゴンなら強そうな方がいいだろうとセリカが言うので、古代語から引っ張って来た形になる。
 だいたい似た意味だが、スロトンゲストよりは耳障りがいいと思う。

「ひとまず王都だよね? 大丈夫かなあ」
「陛下に事情を話せばわかってくれるはずだ。なんせドラゴンはこの国だけじゃなく世界で困っているんだからな」
「ま、確かにね。私達がのもドラゴンのせいだし。なにかの病気で暴れ回っているならなんとかしてあげたいよね」
「ああ。そうすることで厄災が収まる可能性があるからな」
 
 どうせ俺はヤツを探してドラゴンの情報を得るために旅をしている。そのついでと思えば大した手間でも無い。
 
 ――問題はその病気を治す方法が不明という点だ。

「この子もあんな風になっちゃうのかなあ……」
「わからん。だが、少なくとも母親は感染していたから可能性はある」
「その時は……?」
「俺が殺す。それが連れ歩いている責任だ」
「……うん」

 当然だがチビ……フォルスを連れているのは監視も兼ねているのだ。
 狂ってしまえば殺すことも止む無し。俺は滅竜士《ドラゴンバスター》なのだから。

「ぴ、ぴぃー……」
「お、どうした? 飯か? 喉が渇いたか?」
「ぴい。ぴぃー」
「おしっこか? ジョー、止まってくれ」
「ぶるふ」

 立ち上がってもじもじしているので多分そうだとジョーを止めてフォルスを抱えて御者台を降りた。街道ぞいの草むらに行くと盛大におしっこを出す。

「ぴぃー」
「満足そうに鳴くな。まったく」
「ぴぃぴぃ♪」
「ふふ、すっきりして嬉しそうね」
「出発だ」

 セリカが微笑みながらそう言うので、俺は咳払いをして再び御者台へ乗った。
 するとフォルスが俺の太ももに頭を乗せてまた寝息を立て始める。

「なんて自由なやつだ」
「いいじゃない。頭を撫でて、ラッヘさんも満更でもないでしょ?」
「ドラゴンだぞ」
「すぴぃ~♪」
「めちゃくちゃ可愛がってるじゃない……」

 フォルスはふんすと鼻歌のような声を出していた。寝ているんじゃないのか? ご機嫌だな。

「今日の昼は新しい食べ物を与えてやろう」
「あら、なにか新しい食べ物?」
「そうだ。とりあえず肉とパンは食べることが分かったけど、まだ歯が未熟だからな。今日はミルクを与えてみようと思っている」
「あー、確かに赤ちゃんにはミルクよね」

 ごろごろと喉を鳴らすフォルスに目を向けたセリカがうんうんと頷いていた。俺が食っているものに嫌いなものは無さそうだ。
 栄養があるものをと考えるとやはりまずミルクが必要だと思った。

 そんなこんなで昼になり、適当な場所で食事をすることにした。
 天気もいい。寒い季節だが風が心地よいと感じるな。

「ミルクはなんのやつなの?」
「ヤギのを買ってみた。今は氷が無いからとりあえず一回分だ」
「それじゃ私が温めるわね」
「すまない」
「ぴ! ぴぃー!」
「ひひん」

 セリカがファイアの魔法で火を熾している間に俺は荷台からパンと干し肉を取りに行く。フォルスは地面にちょこんと座って馬のリリアと遊んでいた。
 ジョーも近くに居て少し慣れてきたようだ。

「ああやってみるとリザード系の仲間に見えるんだけどな。後ろ頭から出ている小さな二本の角がドラゴンだってわかるけど」
「町に行ってもあんまりバレないかもしれないわね。出来たわよ」
「お、サンキューそれじゃ飯にするか」
「はーい! フォルス、ミルクとパンよ」
「ぴゅー♪」

 両手を上げて喜ぶフォルスの前にある低めの即席のテーブルに、セリカがミルクの皿とバターたっぷりの小さくちぎったパンを置いた。
 
「俺達と一緒に食べるから待つんだ」
「ぴ……!」
「あ、ちゃんと待てるのね」
「最初に教えたんだ。賢いならこれくらいできるだろうと思った」

 それでも涎は出ているので本能は隠せないのである。
 ひとまず俺とセリカが手を合わせると、フォルスも真似をする。

「よし食うぞ!」
「ぴぃー!」
「いただきまーす!」

 少し硬いパンに干し肉を乗せて口にする。塩っけが上手くマッチしている。
 いつも食べるものだが、飽きないのはいいことだと思う。

「はい、私達のミルク」
「おお、助かる。……ふむ、やっぱり牛と違って匂いが独特だな」
「だねー。こっちの方が好きって人もいるけど、フォルスちゃんはどうかな~?」
「ぴゅーい♪」

 フォルスは匂いを嗅いだ後、お気に召したのかさっそく舌を伸ばして味わい始める。

「ぴゅー♪」
「美味しいみたいね!」
「そりゃ良かった。ヤギのミルクはオッケー……っと」
「あ、メモしているんだ」
「まあな」
「お父さんじゃん。あ、ちゃんとパンは手にもって食べるのね」

 セリカがそう言って笑い、きちんと両手にパンをもって口に運ぶフォルスを褒めていた。
 そんな平和な食事だったが、いざ片付けに入るころ――

「ぴ……ぴぃ……」
「んあ!? ど、どうした!?」
「どうしたの? ……あれ!? 苦しそう!」

 リリアと遊んでいたフォルスが急に苦しみだした。なにごとかと思っていると、お尻のあたりからプスンとおならが出た。

「トイレか……!」
「ぴぃー……」

 それっぽい。
 俺は慌てて抱えると、木の下に穴を掘ってフォルスの尻を穴に向けた。

「いいぞ!」
「ぴ!」

 ――瞬間、水っぽいものが噴出。それも大量に。どうやらこいつは下痢を起こしてしまったようだ。
 パンは今までも与えてきた。そして特に問題が無かった。となると……

「ヤギのミルクはダメそうだな」
「体質に合わないのね……それにしても出すわね」
「まあ下痢だし仕方ない。あとで埋めておけば大丈夫だろう」
「ぴぃー」

 激しい戦いはすぐに終わり、セリカが水の魔法で尻を洗ってから出発。
 しばらくトイレが近かったが、夜には治っていた。
 さて、そろそろ町かな。馬車を新しくしてもいいかもしれないな。


◆ ◇ ◆

 ――余談

「おお!? 老木じゃなかったかこいつ?」
「だべ。なんか若々しい葉をつけよるぞ。どうしたんだっぺ」
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