最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する

八神 凪

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その9 恨みを買う

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 というわけでセリカと共にギルドへやってきた。
 チビは興味津々だが、頭を出さないように手で押さえておく。

「ぴゅー」

 不満げな声を出すがパニックになられても困るから我慢して欲しい。後でなんか好きそうな食い物を与えてやるつもりだ。

「んあ? セリカじゃないか。帰ったんじゃなかったのか? それにラッヘも一緒か」
「ちょっと野暮用でな」
「また来ちゃった!」

 ちょうど目の前を通りかかったギルドマスターのウェイクが俺達に気づいて声をかけてきた。ちょうどいいかと思い、俺は親指を奥の通路に向けて話があると示唆する。

「なんだ? なんかお前、胸でかくね」
「そういう病気なんだ」
「しらっと嘘をつくな!? お前が冗談を言うとは珍しいな? こっちだ」
「ラッヘさん雑過ぎるわよ」

 嘘をすぐに見破るとはさすがギルドマスターか。そのままセリカと共にウェイクについていくと、見慣れた部屋へ通された。

「ま、座ってくれ。なんか込み入った話か? ドラゴン関連ってところだろうが……」
「ああ、その通りだ。こいつを見てくれ」
「ぴゅーい!」

 ずるりと胸元からチビを取り出して机に置くと、キョロキョロした後に俺の手を甘嚙みしてきた。

「ぴゅー……」
「あら、知らないいかついおっさんのせいでストレスになったかしら?」
「誰がいかついおっさんだセリカ……!? というか、ラッヘ!? ド、ドラゴンの幼体か……?」
「その通りだ。少し前に受けた仕事でドラゴンを倒したんだが、その時こいつが孵化してな」
「ふむ……」

 状況を説明すると、ウェイクは腕組みをしてチビを見ながら俺に問いてきた。

「どうしてこいつも殺さなかった?」
「いやいや、子供を殺すとか可哀想でしょ?」
「お前はちょっと黙ってろ。俺はラッヘに聞いている」
「う……」

 さっきまでのお茶らけた雰囲気を消してセリカを黙らせる。ウェイクはそのまま視線をまた俺に向けて回答を促してきた。

「最初から話そう」

 そして母親ドラゴンを倒す依頼を受けたこと、そいつが人の言葉を話すことができる個体だったこと、竜鬱症というドラゴンを狂わせる病気が彼らの間で流行っているなどだ。

「驚愕の情報ばかりだな……!? ドラゴンが喋れる? まさか……」
「事実だ。こいつを頼むと言われたな」
「確かにお前がドラゴンを連れて帰るなんてことはしないだろうし、信憑性は高い。が、それでもチビとはいえドラゴンだ。恨みを持つ者も多いだろ、お前みたいに」
「まあな」

 町を破壊するドラゴンのせいで被害を受けた者は数多い。俺を筆頭になんとかなったとしても恨みがある奴はもちろんいる。

「どうするんだ? この町はお前のおかげで助かった。だからそいつを連れていても理解してくれる人間はいなくもない。だが、そうじゃないやつもいる」
「はは、宿の親父に追い出されたばかりだ。実際、チビだからとは言っても正体をしれば忌避する奴はいるはずだ。だから俺はこの町を出ることにした。多分、戻ってこないだろう」
「え!?」
「そうか」
「そうか、ってこの町を救ってくれた英雄よ!? そんな簡単に……」

 セリカがまくし立てるように言うが、俺とウェイクは特に気にしなかった。チビの甘噛みが強くなり痛い。

「ま、そういうことで俺はドラゴンを倒すという目標は変わらないが竜鬱症の調査を同時に調査してみようと思う」
「なるほど、だから戻ってこない、か」
「ああ」
「ええー……」

 ウェイクは納得してくれたようだ。セリカは物凄く納得いかないという顔をしている。チビは嚙む力がまた強くなったのでやんわりと外した。

「それでウェイクに頼みがあるんだ」
「頼み? 俺ができることがあるかねえ……」
「ぴゅ」
「すまん、ちょっと頼む」
「はい」
「ぴゅー!」
「はいはーい、ママでちゅよー」

 また甘嚙みをしてこようとしたので、セリカにチビを渡して話を続ける。

「事情は伝えた通りだ。で、俺は王都に一度行こうと思う」
「王都? そいつを連れて行くのはまずいだろ」
「いや、逆だ。竜鬱症……こいつの調査は国を挙げてやるべきだと思う。だからもっとドラゴンの情報を集めたい。そのため陛下に報せる必要がある」
「ふむ……」

 俺の意見にウェイクが顎に手を合ってて目を瞑って考え始めた。正直な話、受けてくれるかは半々ということで悩むのだろう。
 ドラゴンは災厄の存在。それを倒すことを生業にしているということは国の人間に知られているが、そのドラゴンを連れていることに抵抗を覚える者が多いはずだ。

「……分かった。一筆書いてやる。が、あまり期待はするなよ?」
「それは問題ない。ただ、ギルドマスターの説得もあればかなり違うだろ?」
「まあな。それじゃ書いてくるか」
「あ、待ってウェイクさん! 私の用事も聞いてもらっていい?」
「お、なんだお前も用事があったのか? 別に急いでないからいいぞ」

 そういえばやることがあると言ってついてきたんだっけか。とりあえず先にそっちを済ませようかとウェイクが尋ねると、セリカがとんでもないことを言いだした。

「私、ラッヘさんについていくことにしたわ! だから、今のパーティは抜けることにするの」
「「ぶっ!?」」
「ぴゅい!?」

 その言葉を聞いて俺とウェイクが噴き出した。咳き込みつつ俺はセリカへ返すことにする。

「げほ……! いや、なにを言っているんだお前! この町の高ランク冒険者であるお前が抜けたら困るだろうが」
「他にも強い人はいるし大丈夫だって! それにこの子とラッヘさんだけだと心配だし。……帰ってこないって言うし……」
「ん? 最後の方聞き取れなかったんだが」
「いいの! 私が決めたんだから! ねー?」
「ぴゅーい」

 チビを胸元に抱いて同意を求める。しかしチビはよく分かっていないようで首を傾げていた。渡したのは俺だが、他の人間が抱っこしても暴れないんだなとちょっと寂しく感じる。

「でも、あいつらが納得するかねえ」
「そこは自分で言うわ。ラッヘさん、この町に留まれないし今からね」
「性急すぎると思うが……」
「ギルドの酒場に居るでしょ。さ、行くわよー!」
「ぴゅー♪」
「あ、こらチビは隠せ」

 慌てて回収して懐に入れ直す。そのままセリカは部屋を後にし、ギルドないに併設されている酒場へ向かった。

「いいのか……?」
「まあ、本人次第だが……とりあえず追おう」
「だな」

 少し遅れて俺とウェイクがセリカの後を追い、酒場へ移動すると――

「ラッヘ、あんたこいつをドラゴン討伐の危険な旅に連れて行くんだって……?」
「だから私がついていくんだって!」

 ――パーティメンバーから恨み言を言われた。うーむ、俺が言い出したことではないが……
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