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その7 町に到着

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 ――野営を終えて再び町を目指して進む。
 
 早朝に出発したので、今日の昼には到着できるだろう。そんなことを考えながら見晴らしのいい街道をジョーで駆けて行く。
 こういった広い道は潜伏する場所がないため、盗賊や魔物も姿を見せない。実にいい。

「すぴー」
「また寝ているのか。こういうものなのか?」

 チビは俺のお腹のあたりで丸まって寝ていたんだが、起きなかったので布にくるんで肩から下げる形にした。
 ずっと寝ているが病気とかではないだろうな……?

「い、いや、心配じゃないぞ! こいつが勝手に死ぬのはこいつのせいだからな!」「ぶるひーん」

 なにか言いたいことがあるのかジョー? 今日は水だけがいいらしいな。

「……」

 俺がそんなことを考えているとジョーは前を向いて黙った。現金な馬である。そこから一度、水辺で休憩をしたがチビは起きなかった。
 いつもならすぐに目を覚ますのだが……?

◆ ◇ ◆

「通って良し」
「ありがとう」
「……? いや、ちょっと待て。そりゃなんだ?」
「ん?」

 というわけで昼前に俺は町へと到着した。ジョーの奴が急いでくれたので、早く着いた。後でいい餌を買ってやろうと思う。
 それはともかくギルドカードを見せて町の中へ入ろうとしたのだが、そこで呼び止められた。

「なんだ? 急いでいるんだ、早くしてくれ」
「いや、その布にくるんでいる生き物はなんだ……?」
「子供のドラゴンだ」
「ド……!? お、おいおい、そんなのを町に入れられちゃたまらないぞ」

 そんなことか。なら実績のある俺なら問題は無いだろう。門兵にもう一度ギルドカードを見せながら言う。

「大丈夫。俺は滅竜士《ドラゴンバスター》の通り名で呼ばれている者だ。責任は取れる」
「あんたがあの……!? って、おかしいだろ!? あ、こら町にはいるんじゃあない!」
「急いでいるんだ」
「そりゃそわそわしているから分かるけどよ……」

 他の通行客が往来する中、俺と門兵が押し問答を続ける。するとチビがもぞもぞと動き出した。

「……ぴ? ぴぃ!」
「お」
「う、動いた……!? うおお!?」
「目が覚めたのか……! 大丈夫か?」
「ぴぃ♪」

 どうやらぐっすり寝てご機嫌のようだ。呑気なやつめ……。
 というか勢いあまって門兵を吹き飛ばしてしまったか。起き上がるのに手を貸そう。

「すまない」
「いてて……。まあいいけどな」
「とりあえず急ぎではなくなった。どうすればいい?」
「ぴぃ?」

 俺は我儘を言ってしまったと反省し、門兵へ尋ねる。よく分かっていないがチビも彼を見て首を傾げた。

「……これは……可愛いな」
「今だけだ。でかくなると凶悪になるぞ。まあ、まだ歯も生えていないがな。チビ、あーんしろ」
「ぴぃー」
「本当だ。まあ、子供に噛みついても害は無さそうだしいいか。滅竜士《ドラゴンバスター》、きちんと面倒を見ろよ」
「もちろんだ。行くぞ、ジョー」

 そう呟いてジョーと一緒に町へ入ろうとしたところで、ふと立ち止まる。

「獣医はこの町に居るんだっけか?」
「馬の面倒を見ているおっさんが居たはずだ。宿の厩舎担当に聞いて見りゃいいだろ」
「助かる」
「ぴぃー♪」

 先ほどまで死んだように眠っていたのに元気だなこいつ。まあいい、とにかく宿へ行くか。

「ぴぃ! ぴぴぃ♪」
「こら、暴れるな」

 町中に入ると、その途端に喧騒が聞こえてくる。チビは村で人を見ていたが、その何倍も人がいるので色めき立っているようだ。
 包んでいる布から手を伸ばしてバタバタするので落ちそうになっていた。寝てないなら落ちないだろうと布から取り出して懐に入れてやる。

「ぴぃ~」
「落ち着いたのか? 変な奴だな」

 服と鎧の間にある『遊び』の部分にチビを入れているのだが、首だけ出した状態で一息ついていた。まあ大人しくしてくれるなら言うことはないので、ジョーを引きながら宿を目指す。
 この町には何度か来たことがあるので勝手知ったるというところな場所だ。
 他の国にも行くことはあるが、基本的に故郷であるこのフォルゲイト国で活動をしている。

 ……俺の町を破壊したドラゴンが居るかもしれないからな。

「ぶるん」
「ぴ!? ぴぴぃ!」
「ひーん……」

 ジョーが興味津々で俺の胸元に顔を寄せてきた。しかしびっくりしたチビに威嚇されてしょんぼりと頭を垂らす。

「しばらく一緒なんだから仲良くするんだぞ? こいつは賢いから噛んだりしないし」
「ぶるん!」
「ぴぃー」

 顔を引っ込めるチビ。まあ、村を出発する時に初めて顔を合わせてからまだ二日だ。その内慣れるだろう。

「よし、それじゃ宿へ行ってゆっくり休むか。ジョーも素材のせいで重かったから疲れたろう」

 ということでいつも使っている宿へ行くと――

「ダメに決まってんだろ!?」
「どうしてだ、いつも使っているじゃないか」
「いつもと違うのが居るからだ! なんだそりゃ、ドラゴンだと? おめえそいつを狩るのが仕事じゃなかったっけか?」
「そうだ」
「ぴぃ」

 俺が頷くとチビも真似する。宿の親父は呆れた顔で大声を出した。

「仲良く頷いてんじゃねえよ!? とにかくペットはダメだ。馬と一緒に厩舎に置いてこい」
「ぴ、ぴぃ……」
「大声を出すな。怯えているじゃないか。わかった。もういい、他を当たる」
「ペットは……ましてドラゴンは無理だ。お前の町のこともそうだが、他の地域だってドラゴン災害に見舞われているところは多いんだぞ」
「……」

 宿を出る際に親父さんからそんなことを言われた。それは分かっている。

「こいつの親と出会って少しわかったことがあってな。そのためにもこいつは必要なんだ」

 振り返らずに答えて俺は宿を出る。さて、野宿でも構わないがどうするかな。
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