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始まる同居生活
6. 初! 異世界の食事
しおりを挟む――美月は図書館へと足を向け、フリージアを相手にしながら進んでいく。なぜ図書館なのかというと、美月は先のことを見据えてふたりをここへ連れてきた。ここなら日本という国を掻い摘んで説明するには十分すぎるほどであるからだ。それなりに大きい市民図書館についた三人は早速中へと入っていく。
「ほえー。ここも私のお城くらい大きいし、この世界って貴族が多いの?」
「あはは、そういう訳じゃありませんよ。さ、座ってください。とりあえず認識を埋めていきましょう。まず、ここは地球という星で、日本という国です。えっと、エレフセリアでしたっけ? そこにも国はあるでしょう? そういう国の一つだと思ってください」
「承知した」
「よくわからないけどわかったわ!」
神妙な顔で頷くジンに対し、能天気な顔で言うフリージア。
そして、ここから美月の地球と日本講座が始まった。特に必要だと思った日本の常識、通貨、建物に車といった異世界には無いものの説明を中心に、美月はノートを使って次々と話していく。
ジンはクソ真面目な性格から、話を聞けば聞くほど、自分では気づかないくらい冷や汗をかき、フリージアは頭から煙を吹いていた。
特にジンがやばい、と思ったのが金銭についてだった。エレフセリアでは魔物を倒して素材でもギルドへ持っていけば宿賃や食事代が手に入っていた。
だが、日本には魔物などおらず、狩猟で生活をしていくにはあまりにも厳しい。そして仕事につくのも大変なのだと美月が話し、世知辛い日本の事情を聞いてジンは目の前が暗くなる。
「……俺は元の世界に戻るどころか生きていくことすら……」
「……ぼへー」
「ま、まあ、ちょっと大げさに語っちゃいましたけど、仕事をみつけること自体は選ばなければ見つかると思います。ただ、その前に文字を書けるようにしましょう。それができないと履歴書がかけませんし、市役所の書類も作れませんから」
「……よろしく頼む」
「お、おねが……お腹すいた……」
ぐぅ~と、フリージアのお腹が派手に鳴り、机に突っ伏した。そこで美月が腕時計を見て『あ』と、短く呟く。
「えっと……ごめんなさい、もうとっくにお昼がすぎちゃってましたね。軽くご飯にしましょうか」
「そうだな。俺は干し肉があるからこれを――」
「うう……世知辛い……」
早速覚えた言葉を使うフリージアの目には涙が滲んでいた。昨日からロクに食べていないので干し肉では満足いかないのは目に見えていたからである。そんな様子に、美月は困った顔で笑いながら席を立つ。
「図書館で飲食はできませんから一旦出ましょうか! お昼は……ハンバーガーでいいかな」
「しかしミツキはかなり使っているだろう? そこまでしてもらうわけには……」
「いいんですよ。バイトをしているし、貯金もあります! それにこれは投資でもあるんです」
「投資?」
「はい! 異世界のお話、そして魔法について聞きたいんです!」
「ええー……」
ジンが呆れた声をあげると、フリージアは目をキラキラさせて美月の腕を取って言う。
「行く行く! 何でも話しちゃう! はんばーがー食べに行きましょう!」
「ええ、こっちですよ!」
「まったく」
ため息を吐いてやはりふたりの後を追うジンであった。
◆ ◇ ◆
「いらっしゃいませー♪」
「ひっ!?」
ハンバーガショップに入るや否や、テロレンテロレンと入店を知らせるチャイムにビクっとしたところに声をかけられ、フリージアがジンの背中に隠れながら周囲をきょろきょろと見渡す。
「て、敵……!?」
「違いますよ。この中からこれって思ったのを言ってください。わたしが頼むので」
そう言って美月がメニューを指さすと、ジンが覗き込み色とりどりのハンバーガーを見ながら口を開く。
「……これは、どういう食べ物なんだ?」
「これはパンにお肉を挟んだもので、他にはお魚だったりベーコンだったり色々ありますね」
「ほう」
肉と聞いて少し声が色めき立ち、ジンがまじまじと見始める。その後ろからそっとフリージアもメニューに目を向けた。
「あ、その”チキンたつた”ってやつニワトリのお肉でしょ? 私それがいいわ。お城で”アンガーチキン”って魔物の肉とたぶん似てると思うの。チキンだし! あれ美味しかったのよね♪」
謎の自信でチキンタッタとポテト、そしてコーラを注文し、ジンはチーズバーガーセットを頼んだ。しばらく席で待っていると、トレイに乗せられた商品を持って店員がやってくる。
「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ!」
「ほわああああ!」
テーブルに並べられたハンバーガーを目にすると、フリージアはなんだかよくわからない声を上げながら目を輝かせていた。
「こうやって食べるんですよ」
美月が包装をはがして半分ハンバーガーを覗かせてから口に含む。ジンは小さく頷き、同じく包装をはがし、ハンバーガーにかぶりつく。
「……うまい……」
表情に変化はないが、声色で興奮気味だった。その様子をみてフリージアも自分のチキンタッタを手に持ち、包装をはがしにかかる。
「えへ、いい匂い……」
べりべりと雑な剥がし方を見て美月が叫ぶ。
「あ、ダメですよそんなに乱暴に剥がしたら!?」
「え? ……あ!?」
直後、ポロリとチキン部分がパンとパンの間から離脱した。同時に少量の千切りキャベツがポロポロと先に床へと着地するのをフリージアは目で追うしかなかった。
マスタード入りマヨネーズのかかったチキンはさっくりふんわりと揚がっており、とろけたチーズも食欲を誘う。全てを同時に口に入れれば相当な満足感を得られるであろうことは明白。
しかしこのままではチキンは床へ落ち、フリージアはパンとソースのみの寂しいものを食べるしかなくなる。初ハンバーガーは苦い思い出になる。
美月がそう思っていたその時、チキンがふわりと浮かび上がった!
「あ!」
「……ぐ……は、早く取れ……」
「う、うん!」
隣でジンが呻きながら手を翳し、慌てて宙に浮いたチキンをパンにはさんでことなきを得た。
「ぶはあ……!? し、死ぬ……」
「今のって、魔法ですか……?」
「そ、そうだ……”フロート”という魔法だ。重い物を持ち上げたりするときに使う。……しかし、やはり魔法を使うのはきついようだ……」
「あ、ありがと。……もぐもぐ……美味しい!」
「そうだ。こんな美味しいものを捨てるなんてできないからな。味わって食うんだ、魔王」
「そうね! これ、じゃがいも? これも美味しい!」
何とか楽しく食事が再開できホッとする美月も食事を続ける。
「黒い飲み物~♪ ……しゅわってした!?」
コーヒーだと思って口をつけるコーラにびっくりしてこぼしてしまうフリージアであった。
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