上 下
135 / 253
第五章:疑惑の女神と破壊神編

第百二十七話 デヴァイン教と聖女

しおりを挟む

 「うー……昨日、酒場に行ってから記憶が無い……カケル、僕は何をしていた?」

 「世の中には知らないほうがいいこともある」

 「気になるだろ!?」

 少しアルコールに慣れたのか、酒を飲んだ翌日なのにクロウは割と元気だった。眠そうではあるが、船の時みたいに寝たきりということにはならなかった。

 「さて、今日はデヴァイン教へ行くのじゃな? わしも行っていいかのう?」

 あれだけ飲んでまったく変わらない師匠が真面目な顔で言う。

 「どうだ、クロウ?」

 「問題ないかな。神官である僕が信者候補として連れて行く分には御咎めは無い」

 「よし、ルルカとレヴナントもそれでいいか?」

 俺が二人に声をかけると、部屋の隅からすすり泣く声が聞こえてきた。

 「……私達はお留守番ですね……」
 
 「そうですねお嬢様……」

 まだいじけていた。

 「いい加減機嫌を治せよ……昨日散々奢ったろう?」

 「はい、美味しかったです!」

 悪びれた様子も無くティリアが答えてきた。まあ、忘れていたのは俺達なので、腹いっぱい食べさせることに抵抗は無い。するとリファが立ち上がって口を開いた。

 「冗談はここまでにしよう。カケル達が戻ってくるまで、宿で待機でいいのか?」

 「お前等……こほん。そうだな、時間はそれほどかけない予定だし、万が一ここから脱出することになった場合、居場所が分からないのは困る。だから、俺達が帰って来るまで頼むよ」

 「分かりました。封印の場所や破壊神のこと、何か分かるといいのですが……」

 「相手は聖女だし、何か分かるだろうさ」

 「それじゃ行ってくる」

 「気を付けてな!」

 ティリアの言葉にレヴナントが答えた後、二人に見送られて俺達は朝も早くから聖堂を目指した。クロウが言うには信者が集まる朝9時までが勝負だとのこと。現在7時半、余裕を持っての出発であった。


 ◆ ◇ ◆


 ――聖堂は町の裏から別の門をくぐって行く。

 見れば、聖堂の周りは高い壁に覆われていて、門以外の所から侵入するのは難しそうだ。

 「私なら余裕だけどね」

 何故か俺の頭の中を見たようなことを言うレヴナント。それには構わず肩を竦めて歩いていると、目的の聖堂へ続く門へと辿り着く。

 「……これは、クロウ様……! お戻りになられましたか!」

 門番……白いローブを着て槍を持っている、僧兵と言った感じの人がクロウを見て歓喜の声を上げた。クロウは頷き、門番へと告げる。

 「ああ、ご苦労様。レオッタ達が先に戻っていただろ?」

 「ええ、後から戻ると聞いていたので無事だとは思っておりました! ささ、お入りください……おや、後ろの方々は?」

 「旅先で出会った信者候補の者達だ。是非、聖女様のお言葉を聞きたいと言うから連れてきたのさ」

 「おお! さすがはクロウ様、信者集めに余念がありませんな。聖女様はお部屋におられると思います。枢機卿へお伺いしてみては?」

 「分かった、それじゃ通らせてもらうよ。行こう」

 俺達は無言で頷き、クロウの後を追い、全員が中へ入ったところで門番が門を閉めた。

 まっすぐ聖堂まで道が伸びており、だいたい100mくらいで中に入れそうだ。てくてくと歩きながら、俺はクロウへ尋ねる。

 「門番、えらく恐縮していたな。……実はクロウってかなり偉かったりするのか?」

 「……偉いかどうかは分からないけど、六神官の内の一人ではあるかな。聖女様の次が枢機卿、そして大司教、次いで僕達、神官職の順だ。僕から下はレオッタ達のような司祭で、信者は聖堂に属さない一般人ってところ」

 「結構高いな……」

 「それでも、結局今回みたいに各地へ派遣されるから、レオッタ達とそれほど変わらないと思っているけど……さ、入ってくれ」

 クロウに案内され、静かな聖堂へと入る。先程説明のあった司祭だろうか、せわしなくあちこち走り回っている人影が目に入る。特に声をかけられることなく、ある部屋へと到着する。

 「……枢機卿、いらっしゃいますか? クロウです」

 クロウがノックをして声をかけると、中から渋いおっさんの声が聞こえてきた。

 「戻ったか、入れ」

 「……失礼します」

 少し強張った顔でクロウが入り、俺達にも入るよう促し、俺、ルルカ、師匠、レヴナントの順で中へと入った。目の前には机に座った、40代くらいの男が手を前に組んで座っていた。

 「……無事だったか。む、その者達は何だ?」

 「はい、信者候補を連れて参りました。私の言葉に共感を覚え、いずれここで従事したいとのこと。報告を兼ねて、聖女様にお目通りしたいと考えていますが、よろしいでしょうか?」

 すると枢機卿が目を細めて俺達を見て、口を開いた。

 「では私も同席させていただこう、良いな?」

 「……問題ありません。場所は洗礼の間で」

 クロウが眉を少し上げて、明らかに嫌そうな表情になったがすぐに平素を取り戻していた。

 「よかろう。先に行っておれ、聖女様は私が呼んで来よう」

 「ありがとうございます。では行きましょう」

 「お、おう……」

 クロウが振り返って、外に出るよう促し、廊下へと戻った。クロウは無言で前を歩きしばらくすると『洗礼の間』と書かれた部屋へ俺達を招き入れる。

 洗礼の間は俺達が入ってきた扉と、玉座のような豪勢な椅子の後ろにもう一つ扉があった。玉座の逆サイドには待合室のように椅子が並んでいて、洗礼を待つ人が座るものであろうことが伺える。クロウが俺達を椅子に座らせると、ようやく喋りはじめた。

 「……ここなら大丈夫か……? すまない、枢機卿が同席することになった」

 「聖女の次に偉いヤツだっけ? 何か重い雰囲気だったが……」

 「ボクはあのおじさん、嫌な感じがしたね」

 ルルカも嫌そうな顔をして舌を出すと、クロウが話を続ける。

 「枢機卿のエドウィンだ。聖女様のお世話係と言っても差し支えない。ルルカの言うとおり、いけ好かない男だ、僕たちを小間使いか何かと勘違いしているくらい、顎でコキ使ってくれるんだ。枢機卿だから命令には従うけど、くだらない用事も結構多くてね……」

 文句をいうクロウ。しかし、その後に『だが』と、後追いで言う。

 「頭はかなり切れる。下手に嘘をついても看破されて左遷や追放になった人間も多い」

 「そういう手合いが同席するのは厄介じゃな。お主の顔が曇ったのはそれが原因か」

 「そう。ただ、さっきも言ったけど報告を兼ねてだから、封印を解かせるよう僕に命令した枢機卿に、聖女様の前で質問をすることができるのはありがたい」

 恐らくだが、聖女の神託で封印を解くことになったのかどうか疑問を持っているみたいだな。だけど、聖女の前で報告すると言った時、同席するとしか言わなかったし、慌てた様子も無かった。なので聖女の神託が嘘という線は薄いような気がする。

 「ま、聞いてみようじゃないか。聖女様とやらにさ」

 レブナントがそう言うと、玉座の後ろにある扉から、薄い青……水色の髪をした女の子が入ってきた。若干、ボーっとしている感じの目をしている。そして大あくびをしながら『お腹すいた』と呟き、お腹をおさえて困っていた。

 「あ」

 そして俺達を見つけ、おろおろし始め、一言。

 「何か食べ物を持っていませんか……?」

 いきなり食べ物をたかられた。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた 少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...