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第四章:風の国 エリアランド王国編

第八十九話 本来の目的と現在と未来

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 「ほら、二枚焼けたぞ」

 「わーい♪」

 俺はホットケーキを二枚差出し、それを頬張るティリア。

 え? ゴブリン? 察してくれ……八つ裂きなんて生ぬるいもんじゃねぇ……さらに恐ろしいものの片鱗を見たぜ……。

 という冗談は置いておき、ゴブリン達はティリアが魔法であっという間に蹴散らしたのだ。というか仮に俺達が戦っていてもゴブリン程度ならかなり余裕である。デブリンくらいの大物が来ない限りはそうそう負けはしない、と思う。

 休憩も終わり、馬達も元気を取り戻し、再び王都へ向けて馬車を走らせる。そういえば、とバウムさんが言っていた言葉を思い出しティリアに聞いてみる。

 「ティリアは魔王を引き継いでからどれくらい経つんだ? バウムさんの話だと完全に覚醒するまで時間がかかる、みたいなことを言っていたけど」

 「……実は、まだ一年経っていません」

 「そうなのか? その割には強いみたいだけど……」

 「もし完全に力が使えたらリファやルルカを連れて行きませんよ。特に腕力には自信がありません!」

 うん、俺を持ち上げるのに一苦労していたからそれは分かる。そこでリファが俺の作ったホットミルクを飲みながらティリアに話しかけていた。

 「とりあえずどれくらいで完全に力を使えるようになるんですか? 私はともかく、ルルカは無理を言ってついてきてもらっていますし、いずれ戻らないと行けないのでは?」

 「力は一年くらいで馴染むようになるので、もう少しですね。そうですね、フエーゴへ向かおうと思いましたが、ここでの一件でバウムさんが協力してくれるようであれば、一度ルルカを送りに帰りましょうか」

 ルルカは本意じゃなかったんだな。となると、フエーゴ行きは俺一人で行くことになるかと思っていた所でルルカが声をあげた。

 「ボクはこのままでも……あ、いや、今後はカケルさんに着いていきたいかも」

 「はあ? どういうつもりだ?」

 「ど、どういうことですか?」

 俺とティリアがハモりながらルルカに聞くと、あっけらかんと答えてくれた。それも良くない形で。

 「んー、カケルさんに興味がある、ってところかな? ほら、ボクは研究するから早く帰りたかったけど、カケルさんのいた世界の話とか聞きたいし? お嬢様の方も気になるけど、ボクはあくまでもリファに頼まれたからついてきたってのもあるしね。カケルさんはどう? ボクと一緒なのは」

 ……正直言うと、その申し出は受けたいと思う。頭がいいので一緒にいて困ることは無さそうだし、何より可愛い。いや、ティリアもリファも可愛いが、興味があると言われて嬉しくならない男はいまい。……だよね?

 「俺は構わないぞ? チェルを無事に送り届けたらまた一人だろうし」

 「え!? 連れて行ってくれないんですか!?」

 驚いたのはチェルだった。

 「え? だって、お母さんと一緒に暮らせたらそれの方がいいだろ?」

 「あ、はい、それはそうですけど……あの、私の気持ちとか……」

 何だかぶつぶついいながら目のハイライトが消えて行くチェル。どうしたというのか? それはともかく、俺はルルカに言う。

 「何にせよこの騒ぎが終わってからだな。とりあえず黒のローブ軍団をなんとかしないと旅に出るのもままならないし」

 「分かったよ。差し当たって何か異世界から来たっていう証拠になりそうな道具とかってない? ボクみたいなぁ~」

 猫なで声で俺に近づいてくると、ティリアが口を開いた。

 「……仕方ありません、私からルルカへ言えることはありませんし、好きにしてもらっていいですよ」

 「お嬢様、いいんですか?」

 リファがティリアに尋ねると、少し寂しそうな顔をして微笑んだ。

 「ええ、束縛するつもりはありませんから」

 「……」

 少しだけバツが悪そうな顔をしたルルカは押し黙り、俺に近づくのを止めてごろりと寝転がった。パンツが見えているがそれどころではないのかもしれない。
 聞けば、ルルカは俺を探す旅のお供として知識が必要だろうと、賢者であるルルカをリファが無理矢理頼み込んで来てもらったらしい。なので、世界を救う旅という部分に関しては後で知らされたことで、そのまま旅に出るつもりは無かったのだそうだ。

 結局、現状はティリアの独り相撲で流されるまま旅を続けているため、ルルカがさっきのように俺について行く、という発言が出るのも分からないではない。

 問題はそこまでして世界を救おうとするティリアだ。言っていることは正しいと思えるが、確証がないまま動くのは危険なんだよなあ……せめて『原因』が分かってから『こうしたいです!』なら俺も手伝わないことは無い。 だが、今は手探りの状態で何をしようとするのか明確でないのに着いて来て欲しいというのはやはり無理がある。

 何となく気まずい雰囲気の中、馬車はガラガラと進み、野営を経てさらに数時間。そしてようやく王都へと辿り着いた。


 「よっと……ここが?」

 中へ入るための荷物検査があるため、俺は御者台に移動してクリューゲルに話しかける。チェルは身元が割れると問題になりそうなので御者台の下にある空間に寝そべってもらい、やり過ごす作戦だ。

 「ああ、王都オルカンだ」

 空にはワイバーンが飛びかっており、レリクスのいた城と違い、町と隣接しているのが特徴的だな。町の入り口に差し掛かると、クリューゲルが言うように荷物検査をする兵士が俺達を止めた。

 「ヘイ! ストップだ! 町へ入るには身分と荷物を検査させてもらうぞ? 異種族がいたら税金をいただくZE? まあこのご時世、この国に異種族を連れているなんざ自殺行為だからそんなことはないと思うが」

 胡散臭い喋りをする兵士が、町に入る人へ何度も言ったであろうセリフを吐く。俺とクリューゲルはユニオンのカードを。ティリア達は貴族用の身分証明書を持っているらしく、それを出していた。

 「……腰抜けのクリューゲルさんか……こっちは冴えない冒険者っと……で、このチンチクリンは……こ、光翼の魔王様……!?」

 「ちんちくりんで申し訳ありませんね? ……通らせていただいてもよろしいかしら?」

 凄い威圧感を出し、兵士に言葉を投げかけるティリア。兵士はガタガタと震えながら直立で姿勢を正した。

 「は、はいいいいいい!? も、申し訳ありません! 命ばかりはお助けを!」

 「では参りましょう、お嬢様」

 リファが馬車を引き、ルルカも後を追う。やっぱり魔王ってのは恐ろしいものなんだな。何か威圧するスキルとかあるのかね? 後でティリアに聞いてみるか。ナルレアも知ってそうだけど。

 <ふあ……出番ですか?>

 「(違う。なんだ出番って? 今は移動中だから後で聞くよ)」

 <左様でしたか……それではおやすみなさい……>

 あ、寝るんだ。

 というか俺のスキルの一部のくせに随分と人間臭いよな、こいつ? そんなことを思いながら、俺達は無事町へ入ることが出来たのだった。



 ◆ ◇ ◆


 「おい、大丈夫か?」

 「ああ、心配ないZE……あの威圧感、あのちびっ子は本物の魔王だった。しかしクリューゲルがどうして魔王と一緒に?」

 「もしかしたらあれか、異種族狩りの関門である風斬の魔王対策で連れてきたのかもしれんな。手土産で隊長に復帰するつもりかも」

 「今の竜の騎士隊はなあ……それにクリューゲルさんから王を見限ったって話だ、むしろ止めようとして帰ってきたんじゃないか?」

 「……あるかもしれんな。念のため城へ伝達しよう、頼めるか?」

 「任せとけYO。折角IKUSAが始まろうってのに止められてたまるかっての」

 「できれば戦争など起きて欲しくは無いがな……」

 「ま、俺達は従うしかないさ。じゃないとクリューゲルみたいになっちまう」

 竜も身分も剥奪されちゃたまらないと身震いしながら、兵士たちは次に町へ入る商人の相手に戻るのだった。

 そして魔王が来訪してきたことを知った城内は騒然となる。
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