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第三章:出会ってしまった二人編

第七十一話 世界の病気

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 「くっ……どうしてこんな目に……」

 「それは自業自得だからだよ」

 部屋をウロウロしながらぼやくジャネイラを、珍しくイラついた感じで窘めているのは、先代国王のゼントだ。二人は辺境の別荘へと移り住んでいた。

 正確にはゼントがジャネイラとメリーヌの過去を聞いて、危険人物を国の中枢に置いておくわけにはいかないと判断したためでもあるのだが。


 「まさかメリーヌが生きていたとはね。それにあの美貌、昔のままだった。そして君が余計なことをしなければ、僕の横に居たのは彼女だったんだ」

 「……ふん、昔のことをいつまでも根に持つなんて、うっとしい。それにしてもあの姿はおかしいとおもいませぬか? ……魔女だったのでは……?」

 「それも彼女を見つけて聞けば分かるはずだ。体裁もあるから君はそのままで構わない。だが僕はメリーヌを探して傍に置くことに決めたよ」

 それを聞いてジャネイラは目を見開いて驚き、声を荒げる。

 「あなたの正妻は私じゃ! 今更探して傍に置いてどうしようというのか!」

 「それを決めるのは君ではない。離婚されないだけマシだと思ってくれないかね?」

 「メリーヌの横に居た男……あの男と懇意では? そうだとすればあなたが入り込む余地はなかろ……うぐ……」

 調子にのってペラペラと喋っていたジャネイラの首をゼントが締め上げ、言葉を発せなくなる。穏やかで通っていた国王は今、ものすごい形相でジャネイラを睨みつけていた。

 「それがどうしたっていうんだ? 彼女が若返ったなら方法はあるはず。そしたら今度こそ、彼女と一緒に居れる……!」

 「(くっ……今刺激するのはまずいか……ヘタをすれば消されてしまう……まさかこの人がここまで執着するとは……)い、言いすぎた、許して……」

 「……男が居るなら始末すればいい……そういうのは君、得意なんだろう?」

 ゾク……

 見たことも無い笑顔に背筋が凍る思いをするジャネイラ。

 「そ、そうですわね……しかし、前にも言いましたが、私もそそのかされた、というのは嘘ではありません。あの者達が居なければメリーヌを追い落とすのは難しかったでしょう」

 「素性は?」

 「行方、手がかり共に不明……」

 「まあ、60年近く経っているしな。それにしても、その者達の目的も良く分からないな。どうして君と僕が結婚するように仕向けたのか?」

 そう言われれば確かに、とジャネイラは首を傾げる。王族になった後、莫大なお金の要求があるかと思えばそんなこともなく、彼等は煙のように消えてしまっていた。メリーヌを疎ましく思っていた者がやったのか? いや、自分以外でそんなことを考える人物は当時居なかったはず……。

 「まあ、いい。さて、これからどうするかだが、僕は自分でメリーヌを探しに行こうと思う」

 「は? ……なんですって!?」

 「フフフ、この歳になってしまったから諦めていたけど実は冒険者というものに憧れていてね。仕方なく王位を継いだけど、本当は自由に生きて見たかったんだ。何、あの容姿だし、訪ね歩けばすぐに見つかるだろう」

 何を楽観的な、と、ジャネイラは心の中でぼやく。確かにもはや歳ではあるものの、ゼントが嫌いなわけではない。金は欲しかったのもあるが、ゼント自身に惹かれてというのも勿論あった。

 「(この期に及んでメリーヌが邪魔をするのか……! こうなれば先に見つけて若返りの秘術を聞いた後始末するしかないわ……)」

 「それじゃ、君はこの屋敷で自由に暮らすといい」

 「あ、ま、待って……」

 はっはっは、と笑いながら出て行こうとしたところで、使用人が扉をノックした。

 「歓談中恐れ入ります。お客様がお見えです」

 「客……? 誰か呼んだのかい?」

 「い、いえ……?」

 とりあえず、通せ、と指示を出してから応接間へと向かう二人。到着して中へ入ると、そこにはいかにもな二人組が座っていた。

 「これはこれは、先代国王に王妃様。お目にかかれて光栄です」

 立ち上がって恭しくお辞儀をする二人組は……白いローブを被ったままだった。

 「(怪しい)」

 お人よしの先代でも流石に怪しいと感じ、警戒しながらソファへと腰掛ける。二人組も腰掛けたところで声をかけた。

 「……で、君達は何者で、何をしにきたのかな? それと顔を見せたまえ」

 「ええ、ええ、こうしてお目通りをしていただいたのにはもちろん理由がありまして……顔はご勘弁願いたいのですが……」

 「それではこちらの不審感を拭えないと思うがね?」

 「はあ……それでは仕方ありません……」

 「うっ……!? は、早く隠せ」

 「お分かりいただけてうれしく思います……それで本日はそちらの王妃様に請求をしに参りました」

 「請求?」

 ジャネイラが眉を顰めて尋ねると、大きく頷いて口元をにっこりとさせてもう一人の人物が口を開いた。こちらは女性のようだ。

 「ええ、以前、私どもの手を使い、王妃争いに勝利させた、という件でございます。そのお礼をいただいておりませんでしたので……」

 「あ、あなた達はあの時の……!? でもまだ若い……なるほど、どこかで聞きつけてきたのか分からぬがたかる気じゃな? あなた、こやつらに渡す物などありませぬ」

 「これは手厳しい……確かの当時の者はすでに故人ですが、きちんと証文もありますゆえ……」

 「……確かに私の字じゃ……し、しかしメリーヌは生きておった。だから報酬も無しじゃ!」

 すると、笑っていた口がスッと真一文字になり、女性が言葉を続ける。

 「生きていた、と? それはただならぬ事態……しかし、それでも貴女は王妃の椅子を手にしたではありませんか? その報酬はいただきたいですね。それと今度こそキチンと始末してきます故……」

 「……分かったよ、報酬は払おう。ただ、彼女を殺すのはしなくていい。代わりに頼みがある」

 「うほほ……! ……失礼、喜びのあまり……それで頼みごととは? こんな怪しい者達に頼むとは人に言えない事情ですかな?」

 何となくうっとおしいと感じながらも、ゼントは依頼について告げた。

 「そのメリーヌだが、若返って僕達の前に現れた。僕は彼女が欲しい、そして若返ってもう一度彼女と暮らしたいと思っている。依頼は、彼女を探してくること、だ」

 「……中々興味深いお話……承知しました。探して連れて来ることにしましょう」

 「よろしく頼む」

 ゼントがそう言うと、思い出したかのようにポンと手を打つローブの男性が声をあげた。

 「若返り、で思い出しましたが私どもにも『若返りの秘薬』の研究は進んでいるのです! どうです? 試してみませんか?」

 「……うまくいくとは思えないが……」

 「アウロラ様の手にかかれば思いのまま、そういうことです」

 「女神の名……もしやそなた達……まあいいじゃろう、その秘薬とやらはあるのか?」

  「いえ、レシピのみでございます……こちらを……」

 スッと懐から紙切れを出し、それを二人が見て顔をしかめる。

 「こんな……こんなもの容認できるはずがない!? ……若返りの秘薬はいい、メリーヌを連れて来ることだけを考えてくれ」

 「お気に召しませんでしたか? アウロラ様の神託なのですがね?」

 「そう、アウロラ様のおかげ、アウロラ様は最高……」

 二人が言葉を発すると、次第に目がトロンとなっていく。

 

 ――この日を境に子供が姿を消す、という事件が起こるようになった。

   何日かすればどこかで発見されるので死亡者はゼロ……ただし、見つかった時には体の血が抜かれており、瀕死とのことらしい――



 『破壊神の復活のため攫っている』


 人々は根も葉もない噂を囁くようになった。
 
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