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第三章:出会ってしまった二人編
第六十七話 噛みあわない目的
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「俺の名はカケル……ジュミョウ カケルって名前だ。よろしくなウェスティリア」
「ティリアで大丈夫です。親しい人は皆そう呼びますので」
「そうか、それなら俺もカケルでいい」
「分かりました、カケルさんと呼ばせて頂きますね」
きちんと椅子に座り、柔らかに微笑む姿は魔王というより女神に近い。その横に居る二人に目を向けると、それぞれ自己紹介をしてくれた。
「すまない、自己紹介が遅れてしまったな。私はリファ、ウェスティリアお嬢様の護衛を務めている『剣騎士』だ。よろしく頼む、カケル」
「ああ」
紫のロングヘアの女の子……俺と同い年くらいだろうか? が、椅子から立ち上がって俺に握手を求めて来たのでそれに応えると、もう一人の女の子も俺に近づきながら自己紹介をしてきた。
「ボクはルルカ。お嬢様に無理矢理連れてこられた『賢者』だよ。よろしくね、新しい魔王様」
「よろしく、ルルカ」
ニコッと笑うルルカも、先程のリファも凄く容姿のレベルが高い。アンリエッタやトレーネ、エリン、レムルやソシアさんといった女性ともまた違う魅力がある。というか……。
「『剣騎士』と『賢者』って何か凄そうだな……レベルの高いジョブじゃないのか?」
すると、ルルカが口に指を当てながら俺の疑問に答えてくれる。
「んーそうですね、自分で言うのも何ですけど、かなり上級職です。魔術士、魔法使い、魔導士と続いてから派生はありますけど次が賢者なので、初期職からすると4ランクくらい上です。リファの『剣騎士』もそれくらいですね」
「マジか!? 俺と同い年くらいなのに凄いな」
「い、いやあ、えへへ……」
おだてに弱いのかリファが頭を掻きながら顔を赤くして呟く。とりあえず美人二人と話すのは楽しいがここでティリアに出会ったのは渡りに船なので、ティリアに向き直り話しかける。
「俺が魔王だって知っていたのは後で聞くとして……実は俺はティリア、お前に会いに行くつもりだったんだ」
「え!? そ、そうなのですか! これは運命……!」
「いや、そんな大層なもんじゃないと思うけど……これは知っているか分からないが俺は異世界からこの世界に転生してきた。女神アウロラによってな」
「……異世界……伝説じゃ、女神アウロラが稀にこの世界に連れて来るってあるけど、まさか魔王を転生させるなんて」
ルルカが顎に手を当てながら難しい顔をしながら呟く。
「それで、異世界から来たカケルさんは私に会ってどうするつもりだったのでしょう?」
「アウロラが俺をこの世界に送り込んできた理由を知りたいと思ったんだよ。あいつ何も言わずに勝手に魔王にしたてやがったけど、目的も何もないんだ。で、カルモの町のユニオンマスターに光翼の魔王に会って『真実の水晶』でアウロラが何か俺にさせるつもりじゃなかったか見て欲しい、そう思って会いに行くつもりだったんだ」
「アウロラ様に会ったのですか……それだけでも凄いことですが……そう言うことであれば、と言いたい所ですが、私の話も聞いていただけないでしょうか?」
「ん? そういや俺を探していたみたいだったな?」
「はい。ご存じかは分かりませんが、今、この世界のマナがゆっくりではありますが、枯渇していっているのです。人々が気付かないレベルですが、確実に少なくなっているのです。そこで――」
そういえばレリクスが『セフィロト』の説明をしてくれた時に動きが鈍い、と言っていた気がする、と思っていると、ティリアが語ったのはまさにそのものズバリだった。
マナが枯渇すれば、セフィロトはおろか魔法も使えなくなり、生活に支障も出てくる。地球と違い、マナという魔力が満ちているから世界が成り立っているので、無くなればイコール世界の崩壊に繋がってしまうというものだった。
ティリアが俺を探していた理由は、その原因を探すためと、他の魔王の協力を仰ぐために同行して欲しいというものだった。確かにこの世界に来た以上、マナが消えてしまうのは困る。
だが俺の答えは……。
「事情は分かったけど、俺の答えはノーだ。ティリア達に協力するのは悪いが遠慮しておくよ」
すると、大きく目を見開いてティリアが憤慨して立ち上がる。
「ど、どうしてですか!? 今の話を聞いていましたか? 世界が崩壊するかもしれないんですよ!? それにカケルさんも魔王、力を持っているならそれを活かすのが力を持つ者の役割でしょう?」
「まあ言いたいことは分かるが、俺もなりたくて魔王になった訳じゃないし、この世界に来たのも偶然みたいなもんだ。他の魔王と協力すれば何とかなりそうなんだろ? それに今すぐ世界がどうのってわけでもないみたいだしな」
正直な所、現在までの時点でかなり魔王の力に振り回されているところが大きいと思うんだよな。まあアンリエッタを助けることができたり、ソシアさんの自作自演からの誘拐を片づけたり、メリーヌ師匠の若返りといったことができたのも事実だけど、なるべくなら『魔王としての使命』みたいなのからは逃れたいと思っているのだ。
「お、お嬢様はカケルに期待して来たのに……何とかならないか? なんなら、わ、私を好きにしてもいい……」
「いや、そういうのはちょっと……まあ、そう言う訳なんで俺は師匠を追うことにしたい」
「そう、ですか……」
少し……いや、かなりがっかり&放心したような状態で、空返事をするティリア。可哀相だけど、本家魔王に頑張ってほしいものだ。
「ボクはカケルさんの意見にも一理あると思うから強くは言わないけど。でも、いつか必ず綻びが出てくると思うよ? その師匠さんとやらにも影響があるかもしれないし、サクっと一緒に行って解決するのもアリじゃない?」
挑発するように言ってくるルルカ。賢者だけあって頭が良いのだろう、先のことを考えたら今一緒に行くのが得策だと言いたいらしい。
「あんたと一緒ならそれも面白そうだけどな、可愛いし。でも、俺にはそんな大層なことはできないよ。レベルも6だし、回復しか取り柄が無い。それにもう一つ理由がある」
「可愛い……ぶるぶる、ちぇ、頑固だねカケルさん。もう一つの理由というのは何?」
口を尖らせて言うルルカに笑いかけた後、俺はティリアへ再び話しかける。
「で、真実の水晶は使ってもらえるか? もう一つの理由はこれだ。その水晶の結果、アウロラの思惑によっては、どちらにせよ同行は難しいと思う」
するとティリアがとんでもないことを言いだした。
「……嫌です」
「え?」
「水晶は使いません! 私のお願いを聞いてくれないのに、カケルさんのお願いを聞くのは不公平じゃないですか! だから使いません」
ぷい、っとそっぽを向いてむくれるティリアさん……子供か!?
「子供みたいなことを言うなよ、魔王なんだから断られたらすっぱり諦めてくれよ」
「子供!? 子供って言いましたか今! この大人の私が子供! ……嫌です、絶対使ってあげません」
流石の俺もちょっとイラッっとしてきたので言いかえしてやることにする。
「大人? そのちんちくりんな身体でよくそんなこと言えるな? お子様だお子……痛っ!?」
俺が挑発しているとロッドで殴られた。
「き、気にしていることを! もういいです! カケルさんには頼みません!」
そこで慌ててリファが止めに入ってきた。
「お、お嬢様!? 売り言葉に買い言葉ではカケルの思うつぼですよ! 冷静に、冷静になりましょう」
リファに止められたティリアが落ち着きを取り戻し、くるりと出口へと向いた。
「もういいです……帰りましょう、リファ、ルルカ」
「あ、お嬢様!」
ガチャリとドアを開けて工房を出たティリアをリファが追いかけていく……泣いてた、か? 一部始終を見守っていたルルカがもそれを追い始め、出口の前で一旦止まり、俺の方へ振り返る。
「ボクも無理矢理連れてこられたクチだから、カケルさんの言うことは間違っていないと思うよ。異世界からきて、魔王だなんてそれこそ面倒だとおもうし。でも、だからこそ魔王同士一緒に居てもいいんじゃないかな? ……ちょっと期待してたんだけど、残念だよ。それじゃ、おやすみなさい」
バタン、とドアが閉じ俺は一人工房へ残された。
「……」
どうすればよかったのか? とは言わない。俺には俺のやりたいことがあるから、期待に応えてあげられないのは仕方がない。
俺も後を追うように、宿へと戻るのだった。
◆ ◇ ◆
翌朝――
タコ焼きの屋台営業は二日目を迎え、本日も売れに売れた。
「兄ちゃん、俺のとってきたオクトパスがこんなに売れるなんて嬉しいよ!」
と、ユーキも満足そうで、ノーラさんもご飯を食べれるようになったからか、顔色も良くなり、タコ焼きを一生懸命焼く姿はもう宗教に頼ることはないだろうことを物語っていた。
……あの三人は姿を見せることはなかった。
「明日は最終日だ、二人で屋台の設置から販売までやってみてくれ」
「……分かりました!」
ノーラさんが力強くうなずき、その日は外食をして解散。
しかし事件は三日目に起きた。
準備はしっかりできているかと、遅れて屋台へ行ってみると……。
「ど、どうしたユーキ!? ノーラさんも!」
「……兄ちゃん……鉄板が……鉄板が盗まれた……」
「何!? どこのどいつが……」
するとノーラさんが力なく首を振って答えた。
「分かりません……みな覆面をつけていました……男性だとは思いますが……」
よく見れば二人も抵抗したのだろう、傷だらけになっていた。
「すまねぇ……少しトイレに行っている間にやられた……」
おっさんが申し訳なさそうに言ってくる。俺がたまに護衛みたいに一緒に居てくれれば抑止力になると思って頼んでいたんだが、それを見越して二人でいる所を狙われたようだった。
「いや、おっさんのせいじゃない。俺も一緒にいればよかったんだ」
「どうしよう……もうすぐ時間なのに……」
すると、後ろから声がかかった。
「タコ焼きはまだでしょうか?」
「……ティリア……悪い、たこ焼きの鉄板を盗まれてな」
「な、何ですって……!? 今日の船で帰るからお土産に持って帰ろうと思ったのに……許せません……! くんくん……まだたこ焼きの匂いが残っていますね、こっちです!」
そう言って駆け出そうとするティリアを俺は引き止める。
「分かるのか!?」
「はい、盗人を懲らしめたやらねばなりません、私が取り返してきます!」
こいつは本気だ……ならばと、俺はティリアの前に立ち、背中を差し出す。
「……何ですか?」
「乗れ、俺が走った方が早い」
「……カケルさんに協力するのは癪ですが、仕方ありませんね!」
言葉は辛いがちょっと嬉しそうな顔で俺の背中に飛び乗ってくるティリア。よし、ナルレア、頼むぞ!
<お任せください。タコ焼きの鉄板を盗んだ者に死を>
いや、そこまでしなくていいけどな!?
『速』に振り分けられたことが感じられ、俺は一気に走り出した!
「行くぞぉぉぉぉ!」
「おー!」
ダブル魔王、発進!!
「ティリアで大丈夫です。親しい人は皆そう呼びますので」
「そうか、それなら俺もカケルでいい」
「分かりました、カケルさんと呼ばせて頂きますね」
きちんと椅子に座り、柔らかに微笑む姿は魔王というより女神に近い。その横に居る二人に目を向けると、それぞれ自己紹介をしてくれた。
「すまない、自己紹介が遅れてしまったな。私はリファ、ウェスティリアお嬢様の護衛を務めている『剣騎士』だ。よろしく頼む、カケル」
「ああ」
紫のロングヘアの女の子……俺と同い年くらいだろうか? が、椅子から立ち上がって俺に握手を求めて来たのでそれに応えると、もう一人の女の子も俺に近づきながら自己紹介をしてきた。
「ボクはルルカ。お嬢様に無理矢理連れてこられた『賢者』だよ。よろしくね、新しい魔王様」
「よろしく、ルルカ」
ニコッと笑うルルカも、先程のリファも凄く容姿のレベルが高い。アンリエッタやトレーネ、エリン、レムルやソシアさんといった女性ともまた違う魅力がある。というか……。
「『剣騎士』と『賢者』って何か凄そうだな……レベルの高いジョブじゃないのか?」
すると、ルルカが口に指を当てながら俺の疑問に答えてくれる。
「んーそうですね、自分で言うのも何ですけど、かなり上級職です。魔術士、魔法使い、魔導士と続いてから派生はありますけど次が賢者なので、初期職からすると4ランクくらい上です。リファの『剣騎士』もそれくらいですね」
「マジか!? 俺と同い年くらいなのに凄いな」
「い、いやあ、えへへ……」
おだてに弱いのかリファが頭を掻きながら顔を赤くして呟く。とりあえず美人二人と話すのは楽しいがここでティリアに出会ったのは渡りに船なので、ティリアに向き直り話しかける。
「俺が魔王だって知っていたのは後で聞くとして……実は俺はティリア、お前に会いに行くつもりだったんだ」
「え!? そ、そうなのですか! これは運命……!」
「いや、そんな大層なもんじゃないと思うけど……これは知っているか分からないが俺は異世界からこの世界に転生してきた。女神アウロラによってな」
「……異世界……伝説じゃ、女神アウロラが稀にこの世界に連れて来るってあるけど、まさか魔王を転生させるなんて」
ルルカが顎に手を当てながら難しい顔をしながら呟く。
「それで、異世界から来たカケルさんは私に会ってどうするつもりだったのでしょう?」
「アウロラが俺をこの世界に送り込んできた理由を知りたいと思ったんだよ。あいつ何も言わずに勝手に魔王にしたてやがったけど、目的も何もないんだ。で、カルモの町のユニオンマスターに光翼の魔王に会って『真実の水晶』でアウロラが何か俺にさせるつもりじゃなかったか見て欲しい、そう思って会いに行くつもりだったんだ」
「アウロラ様に会ったのですか……それだけでも凄いことですが……そう言うことであれば、と言いたい所ですが、私の話も聞いていただけないでしょうか?」
「ん? そういや俺を探していたみたいだったな?」
「はい。ご存じかは分かりませんが、今、この世界のマナがゆっくりではありますが、枯渇していっているのです。人々が気付かないレベルですが、確実に少なくなっているのです。そこで――」
そういえばレリクスが『セフィロト』の説明をしてくれた時に動きが鈍い、と言っていた気がする、と思っていると、ティリアが語ったのはまさにそのものズバリだった。
マナが枯渇すれば、セフィロトはおろか魔法も使えなくなり、生活に支障も出てくる。地球と違い、マナという魔力が満ちているから世界が成り立っているので、無くなればイコール世界の崩壊に繋がってしまうというものだった。
ティリアが俺を探していた理由は、その原因を探すためと、他の魔王の協力を仰ぐために同行して欲しいというものだった。確かにこの世界に来た以上、マナが消えてしまうのは困る。
だが俺の答えは……。
「事情は分かったけど、俺の答えはノーだ。ティリア達に協力するのは悪いが遠慮しておくよ」
すると、大きく目を見開いてティリアが憤慨して立ち上がる。
「ど、どうしてですか!? 今の話を聞いていましたか? 世界が崩壊するかもしれないんですよ!? それにカケルさんも魔王、力を持っているならそれを活かすのが力を持つ者の役割でしょう?」
「まあ言いたいことは分かるが、俺もなりたくて魔王になった訳じゃないし、この世界に来たのも偶然みたいなもんだ。他の魔王と協力すれば何とかなりそうなんだろ? それに今すぐ世界がどうのってわけでもないみたいだしな」
正直な所、現在までの時点でかなり魔王の力に振り回されているところが大きいと思うんだよな。まあアンリエッタを助けることができたり、ソシアさんの自作自演からの誘拐を片づけたり、メリーヌ師匠の若返りといったことができたのも事実だけど、なるべくなら『魔王としての使命』みたいなのからは逃れたいと思っているのだ。
「お、お嬢様はカケルに期待して来たのに……何とかならないか? なんなら、わ、私を好きにしてもいい……」
「いや、そういうのはちょっと……まあ、そう言う訳なんで俺は師匠を追うことにしたい」
「そう、ですか……」
少し……いや、かなりがっかり&放心したような状態で、空返事をするティリア。可哀相だけど、本家魔王に頑張ってほしいものだ。
「ボクはカケルさんの意見にも一理あると思うから強くは言わないけど。でも、いつか必ず綻びが出てくると思うよ? その師匠さんとやらにも影響があるかもしれないし、サクっと一緒に行って解決するのもアリじゃない?」
挑発するように言ってくるルルカ。賢者だけあって頭が良いのだろう、先のことを考えたら今一緒に行くのが得策だと言いたいらしい。
「あんたと一緒ならそれも面白そうだけどな、可愛いし。でも、俺にはそんな大層なことはできないよ。レベルも6だし、回復しか取り柄が無い。それにもう一つ理由がある」
「可愛い……ぶるぶる、ちぇ、頑固だねカケルさん。もう一つの理由というのは何?」
口を尖らせて言うルルカに笑いかけた後、俺はティリアへ再び話しかける。
「で、真実の水晶は使ってもらえるか? もう一つの理由はこれだ。その水晶の結果、アウロラの思惑によっては、どちらにせよ同行は難しいと思う」
するとティリアがとんでもないことを言いだした。
「……嫌です」
「え?」
「水晶は使いません! 私のお願いを聞いてくれないのに、カケルさんのお願いを聞くのは不公平じゃないですか! だから使いません」
ぷい、っとそっぽを向いてむくれるティリアさん……子供か!?
「子供みたいなことを言うなよ、魔王なんだから断られたらすっぱり諦めてくれよ」
「子供!? 子供って言いましたか今! この大人の私が子供! ……嫌です、絶対使ってあげません」
流石の俺もちょっとイラッっとしてきたので言いかえしてやることにする。
「大人? そのちんちくりんな身体でよくそんなこと言えるな? お子様だお子……痛っ!?」
俺が挑発しているとロッドで殴られた。
「き、気にしていることを! もういいです! カケルさんには頼みません!」
そこで慌ててリファが止めに入ってきた。
「お、お嬢様!? 売り言葉に買い言葉ではカケルの思うつぼですよ! 冷静に、冷静になりましょう」
リファに止められたティリアが落ち着きを取り戻し、くるりと出口へと向いた。
「もういいです……帰りましょう、リファ、ルルカ」
「あ、お嬢様!」
ガチャリとドアを開けて工房を出たティリアをリファが追いかけていく……泣いてた、か? 一部始終を見守っていたルルカがもそれを追い始め、出口の前で一旦止まり、俺の方へ振り返る。
「ボクも無理矢理連れてこられたクチだから、カケルさんの言うことは間違っていないと思うよ。異世界からきて、魔王だなんてそれこそ面倒だとおもうし。でも、だからこそ魔王同士一緒に居てもいいんじゃないかな? ……ちょっと期待してたんだけど、残念だよ。それじゃ、おやすみなさい」
バタン、とドアが閉じ俺は一人工房へ残された。
「……」
どうすればよかったのか? とは言わない。俺には俺のやりたいことがあるから、期待に応えてあげられないのは仕方がない。
俺も後を追うように、宿へと戻るのだった。
◆ ◇ ◆
翌朝――
タコ焼きの屋台営業は二日目を迎え、本日も売れに売れた。
「兄ちゃん、俺のとってきたオクトパスがこんなに売れるなんて嬉しいよ!」
と、ユーキも満足そうで、ノーラさんもご飯を食べれるようになったからか、顔色も良くなり、タコ焼きを一生懸命焼く姿はもう宗教に頼ることはないだろうことを物語っていた。
……あの三人は姿を見せることはなかった。
「明日は最終日だ、二人で屋台の設置から販売までやってみてくれ」
「……分かりました!」
ノーラさんが力強くうなずき、その日は外食をして解散。
しかし事件は三日目に起きた。
準備はしっかりできているかと、遅れて屋台へ行ってみると……。
「ど、どうしたユーキ!? ノーラさんも!」
「……兄ちゃん……鉄板が……鉄板が盗まれた……」
「何!? どこのどいつが……」
するとノーラさんが力なく首を振って答えた。
「分かりません……みな覆面をつけていました……男性だとは思いますが……」
よく見れば二人も抵抗したのだろう、傷だらけになっていた。
「すまねぇ……少しトイレに行っている間にやられた……」
おっさんが申し訳なさそうに言ってくる。俺がたまに護衛みたいに一緒に居てくれれば抑止力になると思って頼んでいたんだが、それを見越して二人でいる所を狙われたようだった。
「いや、おっさんのせいじゃない。俺も一緒にいればよかったんだ」
「どうしよう……もうすぐ時間なのに……」
すると、後ろから声がかかった。
「タコ焼きはまだでしょうか?」
「……ティリア……悪い、たこ焼きの鉄板を盗まれてな」
「な、何ですって……!? 今日の船で帰るからお土産に持って帰ろうと思ったのに……許せません……! くんくん……まだたこ焼きの匂いが残っていますね、こっちです!」
そう言って駆け出そうとするティリアを俺は引き止める。
「分かるのか!?」
「はい、盗人を懲らしめたやらねばなりません、私が取り返してきます!」
こいつは本気だ……ならばと、俺はティリアの前に立ち、背中を差し出す。
「……何ですか?」
「乗れ、俺が走った方が早い」
「……カケルさんに協力するのは癪ですが、仕方ありませんね!」
言葉は辛いがちょっと嬉しそうな顔で俺の背中に飛び乗ってくるティリア。よし、ナルレア、頼むぞ!
<お任せください。タコ焼きの鉄板を盗んだ者に死を>
いや、そこまでしなくていいけどな!?
『速』に振り分けられたことが感じられ、俺は一気に走り出した!
「行くぞぉぉぉぉ!」
「おー!」
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